魔弾魔法戦士リュウジンオー   作:岸辺吉影

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第12話

烈火の騎士は上から襲い掛かる長斧を見てはいなかった。瞳はただ髑髏の鎧、一点のみを見定めている。

 

『Explosion!』

 

レヴァンティンの鍔上部のスライドが展開され、一個のカートリッジがリロードされる。白煙がスライド横の穴から噴出すると、レヴァンティンの刀身に桃色の魔力が渦状に纏わりついた。

シグナムはレヴァンティンを斜め後方に引きつつ、詠唱をする。

彼女が騎士たる証を。

 

「紫電…一閃!!」

 

後方に引かれたレヴァンティンは、リュウジンオーの腹部から胸元を切り上げるように、迷いなく振り上げられた。リュウジンオーに向けて放たれた刀身の魔力は瞬く間に火炎と化し、さながら飛翔する火龍の如く、リュウジンオーに襲い掛かる。

 

「うわ?!」

「紫電…」

『Explosion!』

「一閃!」

 

攻撃を止めバックしようとするリュウジンオーを、見逃すシグナムではない。カートリッジをリロードし、返す刀で斜めにリュウジンオーを切り裂いた。

烈火の剣は真芯で戦士を捉える。リュウジンオーの鎧から火花が散り、身体は宙に弾け飛んだ。

 

「うわぁぁぁ?!」

「ぬぁ?!」

 

経験のない熱さと痛みに、リュウジンオーは数歩後退り、膝をつきそうになる。会心の一撃を喰らわせたシグナムは尚追撃の手を緩めない。振り下ろしたレヴァンティンで、今度は水平切りをせんとしている。

脚を入れ替えつつ身体を捩り、右の脇腹から真っ二つにするイメージでレヴァンティンを放った時だ。

 

「烈風刃!」

「ッ!」

 

シグナムの水平切りを飛んで避けたリュウジンオーが、高速の突きをお見舞いしてきた。彼が使う未知の高速移動からの、斧による刺突攻撃をシグナムは土手っ腹に喰らう。連続して横払いの打撃を太腿付近に受けたシグナムは、一旦距離をとって間合いを切った。

 

「…感触はよし」

「ああ、だが…」

 

膝をつくかと思われたシグナムに警戒を怠らなかったリュウジンオーは、言葉を喉元に飲み込んだ。シグナムは決して膝をつくことなく、平然と剣を構えているのだから。

 

「いい突きだ。面喰らったよ」

「おいおい、防御魔法か? かー、バリアブレイクできてもいねーのかよ?」

「…」

 

ザンリュウジンが悔しげに感想をぶちまけるなか、シグナムはレヴァンティンを斜め上に構える。

 

『Schlange, beißen』

 

カートリッジがリロードされると、レヴァンティンの形態が大きく変化した。

 

「な、なにあれ」

「おいおいおい」

 

リュウジンオーの何処か抜けたような声は、未知の武器に対する疑問と衝撃から生まれる。ザンリュウジンはレヴァンティンの特異な形状を認識した途端、解決策を即座に伝えた。

 

「飛べ、コウイチ!」

「っ!!」

 

有効かどうかを思慮する時間はない。リュウジンオーは膝のクッションを最大限に用いて、真上に急上昇する。

 

『Angriff』

 

鞭のようにしなる剣が、蛇のようにリュウジンオーを包み込んだ。剣は鳥栖を巻くかのように円周を狭め、挟み切りにせんとする。

砂埃が巻き上がり、シグナムは柄を手元に手繰り寄せて、変形した剣を元の形態に戻した。

 

「…」

「! 陣風!」

 

突如飛来する白色の攻撃を、剣の払いで封殺する。斬撃に合わせて飛ぶ衝撃波が、数発の射撃と相殺しあうものの、シグナムは剣を鞘に収めたまま微動だりもしなかった。

 

『ショット』

 

「陣風!」

 

『ショット』

 

「っ、ハァァ!!」

 

キリのない攻撃を撃ち合う両者。次の一手を掴めたのはシグナムだ。

 

『30 Grad voraus, 5 Meter vom Fuß des grünen Sonnenbaums entfernt(前方30度 緑陽樹下から5メートル地点)』

「飛行魔法は」

『Nicht gespürt. Aus der verbleibenden Zauberkraft wird geschlossen, dass es sich nur um Schießmagie handelt

(感知せず。残量魔力から射的魔法のみと推察)』

「よし!」

 

大上段に鞘ごと剣を構えたシグナムは、目を閉じて精神を集中させる。彼女の足元に三角形の魔力陣が出現し、桃色の魔力が渦を巻いて彼女を囲んだ。

 

「一振…決撃!!」

 

「火龍…一閃!!!」

 

カートリッジをリロードしたレヴァンティンが、また形態を変える。迷いなく振るわれた剣はやや斜めに飛びつつ、無数にある樹木の一つを的確に捉える。シグナムの右手が、指揮者のタクトのように動くと名前の通り、火龍が火を包まんとするが如く、レヴァンティンが樹木を包囲し焼き切った。

火柱が天に向かって伸びたと同時に、3本の魔法矢が彼女に降り注いだ。首を傾けて顔への一矢を避けたものの、シグナムは残り2本の矢をまともに喰らってしまう。

 

「むううう?!」

 

数歩後ろにたじろいだシグナムは、依然として両脚を踏ん張り正面を見据えていた。

彼女の眼前、火柱が瞬く間にかき消され、中からリュウジンオーが現れる。リュウジンオーは首を左右に傾け、ポキポキと音を鳴らしながらシグナムに近寄ってきた。

 

「つぁ〜、いてぇ…」

「きっついぜこりゃまた。顔に似合わずえげつねぇ」

「…ほう。防御は出来たか」

「そういう貴女は、防御しなかった。出来なかったのどちらかは分かりませんが」

「…ふっ。気づいていたか」

「その程度は」

 

正眼にレヴァンティンを構え直したシグナムは、不敵な笑みを浮かべた。剣士として抑えきれぬ興奮を、何とか収めんと心を穏やかにしようとする。

何度も出逢えない好敵手ー この胸の高まりを覚えたのは10数年も昔の話だ。今は立派になった彼女達の、まだ幼かった頃。あの感動にも似た鼓動を、再び感じられるとは。

 

「リュウジンオー、と言ったか」

「ええ」

「中々いい腕をしている。久しぶりに腕が鳴るぞ」

「そいつはどーも。教えるのが一流なんでね」

「ザンリュウジンに言ったんじゃないと思うけど?」

「お前をここまでにしたのは俺様だ。俺様が答えたって、何も問題なんかありゃしねえ」

「はいはい」

 

軽口を叩くザンリュウジンに、軽く遇らうリュウジンオー。シグナムはこの名コンビとの闘いを長く愉しみたいと思うが、情勢は剣士の我儘を許してくれない。

2人が睨み合う空に、場違いな音が聞こえてきた。空を切り裂くような機械音と駆動音に、女剣士の表情が一変する。

 

「…ゲーリング!!」

 

シグナムが後方を振り返りながら吠えると、強制的に通信ウインドが展開された。映し出されたのは、機動4課を統べる長である。

 

『戦闘中止だ、シグナム小隊長』

「何?!」

『以後の戦闘は我々が引き継ぐ。アンノウンの確保は我々が実行する』

「何の権限がある。私に対して命令権を下さるのは、テスタロッサだけだ」

『これは我々の管理地域で行われた。よって案件対処の第一責任者である私が、この案件の人事権を確保する』

「Meister. Ihr aktueller Standort entspricht der Gerichtsbarkeit der anderen Partei

(マスター。現在位置は先方の管轄地域に該当しています)』

「チ! 迂闊に展開しすぎたか?!」

 

シグナムのリュウジンオーが敵対した最初の場所、本殿跡は機動4課の管轄地域である。しかし以後の戦闘はまだ機動4課が捜索していない未探索地域の為、基本的に行動権は担当地域にいる最高責任者・つまりはシグナムになるのだ。

シグナムの目論みとして職員達を戦闘被害から守ると同時に、万が一の干渉を避けるために敢えて場所を移す必要があった。幸いリュウジンオーが意図を汲んでー恐らく前者の考えのみだがー 戦闘場所を変更してくれたお陰で、自由にやれたのだが。

つい戦闘に集中しすぎて、機動4課の捜索が行われた端に来てしまったらしい。後悔する暇もなく、ヘリコプターは続々と集結し始めていた。

 

『さぁ退け。アンノウンの対処は我々で行う』

「おいおいさっきから黙ってりゃ随分な言い方だなおい?!」

 

高圧的に命令するゲーリング部隊長は、通信の背後に映るザンリュウジンが、突然物言いをしてきたことに目を見開いた。

 

『ほう。そこまで喋られるとは、遺物とはいえ中々だ』

「けっ。見りゃなんてことはねーな。顔は口ほどにものを言うってか?」

『君たちは管理局への反逆の意思がある。大人しく投降しろ』

「すると思うか? どうだ?」

 

リュウジンオーはザンリュウジンを構え直すと、右手をバックルに当てる。

 

「ないね。理由がない」

『ならば実力行使だ。神妙にしてさえいれば怪我せずに済んだものの』

「ふっ。そうやって祭儀場の人達も見捨てたって訳か?」

(祭儀場? 何のことだ、祭儀場なんて見つかっていなかったのでは?)

 

シグナムはリュウジンオーの言ったフレーズが気になり、彼の方に目を向ける。片目で彼を見つつもう片方の目で通信ウインドを注視すれば、ゲーリング部隊長の顔がみるみる青くなっていった。

 

(Meister. Im bestätigten archäologischen Untersuchungsbericht wurden keine Spuren von Ritualstätten entdeckt.

[マスター。確認される遺跡調査報告書に祭儀場跡は検出されず。])

 

(類似の遺跡はないか。逮捕者リストも照合しろ)

 

(Gilt für ähnliche Einrichtungen. Der Ort ist jedoch nicht auf der Verhaftungsliste aufgeführt. Keine Warnung

[類似施設の該当あり。しかし逮捕者リストに場所は銘記されず。警告者もなし])

 

途端きな臭さが増してきたが、それどころではない。ヘリコプターの距離はかなり近づいてきているようで、シグナムのポニーテールやスカートも、爆風で舞い上がりはじめた。

口の中で舌打ちをしたシグナムが非常手段をとるか思案し始める、まさにその時だ。

 

「シャドウキー」

召喚(サモン)デルタシャドウ」

 

リュウジンオーがザンリュウジンに何かを差し込んだ。初めて見る光景にシグナムが言葉を失うなか、通信先は更に混乱しているようだ。

 

『部隊長、空中に魔力反応!』

『見えている、なんの魔力陣だ?!』

『これは…これは召喚魔法、それも大型獣の召喚陣が前方に形成されています!』

『召喚魔法? そんな馬鹿な、なんで検知出来なかった』

『そ、それが突然でして…魔力の事前分泌が極端に少ない、特殊な魔法陣形成かと…』

『馬鹿者! そんな言い訳が通用するか? 日頃感知装置の管理を任せているのに、非常時に役立たんとは力量不足だ!』

『そんな…感知装置のアップデートを保留したのは部隊長じゃないですか!』

 

通信先で言い争い、つまりは責任の所在が論議されることなど魔法が考慮するはずもない。空中に突如出現した黄色の三角魔法陣から、まず黄色の嘴が見えた。魔法陣から首を覗くように出現してのは、巨大な怪鳥である。

聖獣・デルタシャドウは巨大な翼を広がると、けたたましいまでの鳴き声を上げた。周囲にいる人間が耳を塞ぐなか、デルタシャドウは緑の目を光らせ、広げた翼に備わる車輪のような部分を高速で回転させる。

動物から奏でられる音色にしては機械的な音と一緒に、大鴉が羽を羽ばたくと風の流れが変わった。

 

『突風だ、危ない!!』

『各員避難態勢、避難態勢!!』

『風速上昇、10.20…30が見えてきた!』

『退避、退避!!』

 

車輪から巻き起こる竜巻のような風が、文字通りヘリコプターの軍団を奥へ奥へと押し返していくのだ。ぶつかりそうになる機体同士のコントロールに回線が入り乱れ、シグナムが開かされた通信ウインドも用済みとばかりに閉じられた。

あっという間の出来事にシグナムは驚く暇も無かったが、頭の中は様々な情報が渦巻いている。

 

(ゲーリングが何かを隠しているのは明白だ… 問題は何を隠したかだが)

 

チラリとリュウジンオーを見ると、彼はザンリュウジンを構えたまま此方の情勢を窺っているようだ。彼に詳細を尋ねるのも手だが、恐らくは教えてはくれないだろう。

 

(ヴァロッサが気を利かせて調べてくれているといいが)

 

所在を知ることのできない仲間に、無言の願いをかけるものの、期待するのは酷だ。理解しているつもりでも、やらずにはいられない。

シグナムの額に嫌な汗が滲み、目に入った。思わず片目を瞑ったその瞬間である。

彼女の頭上に雷鳴が轟き、辺りが白くなるような光が瞬いた。髪に感じる張り付くような感覚に、シグナムは仲間の存在を思い出すと同時に最悪の想定をしてしまう。

 

「油断したか…?!」

 

防御魔法を放とうとしたが間に合わない。覚悟を決めた時であった。

 

「姉御!!」

 

自分の足元に光と亀裂が同時に訪れた。鼻につく焦げ臭い匂いが、落雷の後味を嫌と言うほど味わせてくれる。シグナムが思わず顔を上げると、小人のような人間がシールドを展開していた。赤髪をツインテール状に纏めた少女は、シグナムの無事を確認すると八重歯が覗く口をニヤリとさせる。

 

「あぶねーぜ姉御! らしくない!」

「すまないアギト助かった」

「どうやら状況はよくねーみてーだな、姉御?」

「ああ。だがどうしてここに来たのかは」

「話すと長くなるけど、いいかい?」

「いや、いい」

 

シグナムの肩辺りに浮遊するアギトは、前方にいるリュウジンオー達を睨みつける。丁度彼らの背後にデルタシャドウが舞い降り、咆哮を始めていた。

 

「ヒュー。あれはもしかして聖獣ってやつじゃないか?」

「知っているかアギト」

「見たことはねーけど。ベルカの伝説に残っていた筈。魔力がよく含まれた鉱山とか、そんな場所にいるとか居ないとか」

「ああ、それなら聞いたことがあるな。自然が創り出した魔の守護者…だったか」

「確かそんなん」

 

大鴉の正体を把握したシグナム達を待っていたかのように、リュウジンオーが高く跳躍し両手を広げた。するとデルタシャドウが連なって空に飛ぶと、2人が想像もしなかったことが起こる。

デルタシャドウの首が延長したかと思えば、背部にあるレール状の部分が首の後部に取り付いたのである。首と胴体をレール状の部分が繋ぐような状態となり、巨大な脚の爪は折り畳まれたのだ。

するとデルタシャドウの延長された首が、リュウジンオーの頭から被さり頭部がリュウジンオーの胸装甲へと変貌したのである。デルタシャドウとリュウジンオーが一体化した姿に、アギトが驚きの声を上げた。

 

「姉御、あれユニゾンだ!」

「何? ユニゾンだと。しかしあれは…」

「してねーよーに見える。けど上昇している魔力値とかは、ユニゾンと同じだよ!」

 

シグナムはレヴァンティンを握る手が湿ってきていた。彼女の焦りを嘲るかのようにリュウジンオーは天高く飛翔していき、翼を広げる。

シグナムはこれまでの戦闘から、リュウジンオーが飛行魔法を用いない事に気がついていた。理由までは解らないが、彼が上空からの攻撃をしつこいまでに拒んでいたのだ。

敵の弱点を突くのが先頭の鉄則、知らない訳がないシグナムであったが実行することができていない。彼は飛行魔法を用いない代わりに、樹木の枝に猿のように飛び乗り、射角を変更してシグナムと相対してきた。

だが長引く戦闘で周囲の樹木が倒木し、リュウジンオーが活用できる背高の樹木は数を減らしており、あと少しで優位に戦闘を展開できると踏んでいたシグナムである。

 

「…油断していたか? この私が」

 

リュウジンオーの戦闘技量を低く見積り過ぎた。らしくない失敗に唇を噛み締めるが、両腕を広げるアギトが彼女を嗜める。

 

「姉御、ウチらもユニゾンしよう!」

「だが、ユニゾンは使用申請が必要だぞ。あの様子じゃ直ぐには許可が」

「平気だ、フェイトが申請してくれていた。すぐにいけるぜ!」

「テスタロッサがか」

 

ここにいない戦友に感謝しつつ、レヴァンティンを最上段に構えた。目を瞑り精神を統一すると、アギトも手を胸の前でクロスさせつつ、目を閉じて心を穏やかにする。

2人の精神が一つになる時、同一の言葉が口から紡ぎ出された。

 

「「ユニゾン・イン!!」」

 

アギトの身体が赤く光ると、シグナムの身体に同化する。シグナムの桃色の髪が薄くなり、目も薄紫に変わる。鎧がパージされ肩が露出するノースリーブの鎧へと変化し、金色の手甲が現れる。背中に天使を思わせるX字状の焔の翼が出現した。

膨大な桃色の魔力が焔に変換し、噴火のような火柱が天に向かって伸びていき、リュウジンオーの前に熱を生み出す。

 

「…」

 

リュウジンオーと同じ地点まで上昇したシグナムは、レヴァンティンで火柱を切り裂いて彼と対峙した。

 

「流石に、洒落にならない火ですね」

「君なら熱くもなかろう」

「熱いものは熱いですよ。ここまでの火は見たこともないですから」

 

リュウジンオーはザンリュウジンをシグナムに向けると、右手を腰の魔弾キーホルダーに添える。シグナムも応えるかのように、レヴァンティンを横に構えた。

 

「…一撃で行きます」

「私も、全力でやらせてもらう」

「手加減は」

「笑止」

 

シグナムの言葉を最後に、彼等は口を閉ざす。今持てる最大の火力を放つ為に、最大級の魔法に全てをかけようとしているのだ。

 

「レヴァンティン」

『Schlange, beißen』

「ザンリュウジン」

「アーチェリー・ファイナルキー」

 

レヴァンティンを蛇腹剣に変形させ、天を昇る龍のように展開させるシグナム。ザンリュウジンの口に魔弾キーを差し込み、アーチェリーモードに変形させるリュウジンオー。

 

 

「炎閃…」

「リュウジンオー、ザンリュウジン、デルタシャドウ」

 

レヴァンティンの分裂した無数の刃に炎がエンチャントされる。ザンリュウジンの口、射撃口に雷撃魔法が満たされる。

 

「烈火!」

「3体の力を1つに」

 

レヴァンティンを背中側に大きく引き、上半身を捻りに捻る。ザンリュウジンの後部に置いた手を、耳元まで引き絞る。

 

「「火龍」」

「三位一体」

「「一閃❗️❗️」」

「三位一体・ザンリュウジン・乱撃‼️」

 

払い切りをするかのように、レヴァンティンを振り払うシグナム。ザンリュウジンから雷撃の弓矢を放つリュウジンオー。

両者が放った魔法攻撃は、正しく最大級である。焔の竜巻と化した蛇腹剣と、雷鳴と電撃を撒き散らしながら直進する弓矢。2つが正面からぶつかるまでの凡そ1秒にも満たない時間は、遠目から眺めるだけしかなかった管理局の面々をして言葉を失わせる。

 

比類なき魔法の衝突は、神話上の唄が如き一種の神々しさがあった。空を塗り替えるような波動が、衝突点のたった一点から解き放たれる。

焔と雷が入り混じり一つの光球と化して、緑豊かな森林を焼き尽くしていった。元凶たるリュウジンオーとシグナムも呑み込んだ火球は、両者の肌を鎧と魔壁の上から容赦なく焼滅させる。

 

「うおおおおお!?、」

「ぐうううう!?!?」

 

火球はだが1分も維持されなかった。線香花火のように燃え尽きた火球が遺したのは、無惨な戦士の姿のみである。

シグナムは頬や肩に火傷痕がくっきりと見え、スカートや髪留め挙句は右半身の鎧が焼け爛れたように破損していた。数分前までの背筋が伸びた姿を魅せていた彼女は、上半身を支えきれない生まれたばかりの子羊のように、膝を崩してしまう。

 

「っ…」

 

自由落下する肉体が地面に叩きつけられると、彼女の口から血が滲み出ていた。ユニゾンが強制解除され、全身血だらけのアギトが彼女の肩に寄りかかる。相棒を片目で見遣りながら、それでもシグナムはリュウジンオーを睨みつけていた。

リュウジンオーは一見すると傷は一つもついていないように見える。

 

「…」

 

リュウジンオーの身体からデルタシャドウが離れ、何処かへと飛び去って戦場から去っていった。リュウジンオーは地に脚を下ろすと、脚を一歩前へ踏み出す。

シグナムの手にあるレヴァンティンは、通常の片手剣の状態に戻っていた。彼女がレヴァンティンを支えにして、何とか上体を起こそうとする中、リュウジンオーは焦らすように近づいてくる。

 

 

(…ここまでダメージが残るとは、な)

 

頭が揺れ、腰に力が入らない。解けた髪が視界に入り、目障りだと思うけれど退けるのも面倒である。脚元の石や草がぼやけて見え、ハッとすると鮮明に映るなんてことを、何度も繰り返していた。

シグナムはレヴァンティンの剣先を地面に擦りつけたまま、自嘲気味に笑みを漏らしている。週刊誌に勝手な特集を組まれるほど可憐な彼女が、穴の空いた服を最低限といった具合に服として着ているような、目を塞ぎたくなるほどの格好をしているのだ。当然であろう。

 

だが自嘲なのだろうか。彼女は確かに笑っているが、負の感情が本当にあるのだろうか。彼女の本心は彼女しか知り得ないが、彼女を知るものからすれば被りを振るだろう。

シグナムは困難になればなるほど、自分が追い詰められるほどに己が心を激らせる、生粋の戦士である。

 

(あと、一回)

 

火龍一閃にカートリッジを使い込み、残る残弾は僅かに一つ。身体のことを考慮すれば、技を一つ放てるかどうか。

 

(…全く。また主に怒られるな)

 

肉を切らせて骨を断つ。生粋の戦士であるシグナムがしばしば選択してしまう戦法。危険を顧みない、いや顧みないからこそ得られる決死の一撃。戦士が夢見る、夢想の一手。

 

(本当に、怒られる)

 

脳裏に浮かぶ、我が主。命を賭して守ると誓った人に心で詫びて、女剣士はいざ行かん。

 

 

リュウジンオーは何も言わず、ただ走り出した。傷がないように見えても、不器用な走り方を見れば満身創痍であることは必然である。彼の渾身の一撃。避けるが最良だが厳しい、ならば。

 

(我が心。不変にして流転する)

 

正眼に構えんとしていたレヴァンティンを、鞘に納める。腕に力は無く、手もただ添えるのみであった。

 

想うは水。水平線の広がる、自然の源。

 

あらゆる音が、水面の上を過ぎゆく。

 

聞かんとするは、ただの一音。

 

「アックス… ファイナルキー!」

 

空が疼く。一点に集まる空が、女剣士を見定めた。

 

「ザンリュウジン…乱舞!」

 

そして、水面に雫が垂れん。

 

 

『煌牙 』

 

天を裂く、焔の斬撃だ。空間を焔が無理矢理開こうとするかのような、洗練された一刀である。リュウジンオーの身体にくっきりと残る斬撃痕は、黒く焦げた跡すら残っているのだ。シグナムの一閃は、覆面の騎士を葬るに十分過ぎる烈撃である。

 

膝を突き倒れ込むリュウジンオー。

 

彼が動かなくなると、黒いラバーのような装いの後頭部に、シグナムは言葉を遺す。

 

「最後の一撃、届いていたぞ」

 

彼女が一言言うと、左肩から鮮血が迸った。滝のように流れ出る血は、焼き焦げた地面を赤く染めていく。両膝を突き力尽きるシグナムは、薄れゆく意識の中で、リュウジンオーの身体が光り、子供のようになっていくのを、ぼんやりと認識していた。

 

 

 

 

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