エネルギーを集約し終えた獣王は、2人の獲物目掛けて光線を放つ。今度は完全に直撃したのだろう、確かな手応えがあった。満足げに喉を鳴らす獣王だが、すぐに視線を元に戻す。
確かに光線は直撃した。しかし本来ならターゲットを中心として半円状に形成されるクレーターの位置がずれている。見れば爆炎が雷雨にかき消されて露わになった地面には、まだ獲物があるではないか。
[キイエエエエ!!!]
片膝を突いてはいるが、未だ獲物は健在である。一度ならずとも二度も最大攻撃を放たせた獲物に、獣王の怒りはピークに達していた。
「コウイチ、コウイチしっかりしろ!」
ザンリュウジンが赤眼を光らせて必死に呼びかける。片膝をつき、ザンリュウジンを盾のように構えるリュウジンオーは、ピクリとも動かなかった。
「お、おおおおい、まさ、まさかしん、しんしん、」
「五月蝿ぇ、何処の馬の骨かしらねぇがコウイチが死ぬわけねぇ!! しっかりしろコウイチ!」
青年は青ざめた顔をサッと白くして、恐れ慄くがザンリュウジンは彼を一蹴し、尚も呼びかけを続ける。するとザンリュウジンの呼びかけに答えるように、リュウジンオーの身体が微かに震えた。
ザンリュウジンが見逃す筈がない。呼びかけを更に強くする。
「コウイチ、コウイチ!!!」
「…聞こえてるよ…」
「ヒイイイイイ!!、い、いきてええあ?!」
「…失礼だな全く…」
ゾンビを見るような反応をする青年に、思わず毒づくリュウジンオーだが、余裕などあってないようなものだ。視線を上げてみれば獣王が再び攻撃を放つため、エネルギーの収束を行なっている。
「は、早く逃げよう!」
「んひいいいい、こわいいよぉおお!」
「何だこいつは」
リュウジンオーが青年に逃げるよう促すと、恐怖から動けない彼は空中の獣王を指差して、また泣き出した。ザンリュウジンも呆れるしかないのだが、そうは言ってられない。青年を抱き抱えて烈風をしようとした瞬間、ザンリュウジンがストップをかける。
「待てコウイチ、烈風は使えないぜ!」
「ど、どうして」
「馬鹿、あんな加速に一般人巻き込んでみろ、獣王に黒焦げにされる前に肉メンチになっちまう」
「何とかなんないの魔法で?!」
「今お前の魔力は半分程度しかない、無駄に使えねんだ!」
「ええ、半分?」
リュウジンオーはザンリュウジンと特訓する上で、課題が何個も設定されていた。そのうちの一つに、魔力の管理がある。魔力は元々個々に備わっている貯蔵量が存在し、普通はそれ以上増えることはない。魔力を備えている以上に使うためには、カートリッジシステムか収束の2種類の方法は存在するには存在する。
リュウジンオーの場合、魔弾キーがカートリッジに当たるわけだが、あくまでも補助的な存在の為、無駄遣いはできない。収束は先天的才能が必須のため、リュウジンオーは使用不可である。
そこで魔力量のマネジメントが必要不可欠なわけであり、リュウジンオー自身、研究所からの脱出の際、魔力不足に陥った過去がある為、習得に疑問はなかった。リュウジンオーはこれまでの戦闘のマネジメントから、まだ6割は残っていると考えていたのだが。
「さっきのザンリュウジン・乱舞の強制キャンセルで充填していた魔力が解けちまった。それに緊急のシールド展開で、追加で使っちまったのが原因だな」
「シールドって使用量多くないだろ」
「ああ、だがそれは平常時の時だ。さっきみたいな緊急時、それもかなり大掛かりなシールド展開は魔力をありったけ使っちまうんだ。無意識にだろうな、生存本能が活発になるから過剰に注ぎ込んじまう」
「知らなかった…」
「うーん。獣王の来襲がこんなに早いと思わなかったんだ、俺様のミスっちゃミスだな」
ザンリュウジンが申し訳なさそうに赤眼を光らせるが、リュウジンオーは気にしない。
「しょうがない、言ってもしょうがないよ」
「いやそう言ってくれてありがてえ」
「ななな何ででで君たちはそんなに余裕があるんだ、もう攻撃がががが」
リュウジンオーに抱えられて移動する青年が、震えながら空中を見るよう促す。チャージが終わった獣王の一撃が、また放たれようとしていた。
リュウジンオーは腰を落とすと、烈風の出力をかなり控えめにしながら、一直線に走り抜ける。
「いやあああああああ!!!!」
「いやあああああああ!!!」
青年が悲鳴をあげると、背後で爆発と衝撃が巻き起こる。脚をジタバタさせながら、子供のように騒ぐ青年は、自分を抱き抱える覆面の男に思わずと言った具合で叫んでいた。
「君さぁ、これいつまで続くのぉ?!」
「もう少しですよ、もう少し」
「僕ちゃん死にたくないいい!」
情けない声を出す彼の顔は、涎と涙と汗に塗れてビショビショである。しかも髪には整髪料でもつけていたのだろうが、雷雨と縦横無尽の移動で髪型は崩れ、首や額に雨と混じって整髪料が溶けているようだ。
リュウジンオーは抱える青年の格好が、気になってしょうがない。というのも付近に住む住人なのかと考えましたが、彼の着る茶色の制服は、世間に疎いリュウジンオーから見ても立派なものである。普通の人が着るような格好には、とても見えないのだ。
「コウイチ、今は獣王をどうするか先決だぜ。こいつのことは後回しでいいだろうよ」
「それなら大丈夫」
「何か案でも?」
「うん、成功するか分からないけど、やってみよう」
「ここまで来たら一か八か、賭けるしかねぇ。よっしゃ乗ったぜコウイチ!」
ザンリュウジンの頼もしい返事に、リュウジンオーも強く頷く。颯爽と駆けていた脚で急ブレーキをかけると、青年を地面に下ろした。突然泥の上に置かれた青年は、何事かとリュウジンオーを見上げる。
「ど、どうしたんだよおい」
「いいですか、名も知らない人。今から僕のいうことをよく聞いてください」
「へっ?」
「いいですか。よく聞いて、僕のいうことに従ってください。そうしたら、チャンスが生まれます」
リュウジンオーの言葉を飲み込めないのか、青年は口をあんぐり開けたままだ。リュウジンオーはザンリュウジンをアーチェリーモードに変形させると、青年の肩を叩く。
「簡単です。彼方に走ってください」
「へっ? へっへっ??」
「いいですか、走ればいいんです」
「で、でもでもでもでも」
「死にますよ。このままだと」
「し、しゆ?」
「ええ。死にます。だから逃げて」
リュウジンオーは青年に顔をずっと近づけて、作戦を説明した。リュウジンオーのオレンジのバイザーが一瞬光ると、青年は何度も首を縦に振った。
「ひいいい、死にたくない死にたくない死にたくない!!!、」
もたつく手足を振り乱しながら走る青年を見届けると、リュウジンオーはまだ残っている樹木の影に隠れる。
「流石に死ぬとなると、聞いてくれたね」
「そうだな、あの青年も可哀想に、あんなに怯えちまってなぁ」
「もうちょっと聞いてくれないかと思ったよ」
「そりゃ今のコウイチは、オバケよりも怖いもんな」
「だね」
「分かってるのかよー、コウイチ?」
ザンリュウジンは勘づいていた。あの青年がああも必死に走るのは、獣王の恐怖だけではない。リュウジンオーに対しての恐怖からだ。
コウイチは気がついていないが、リュウジンオーの姿形は初見の人は恐れ慄くだろう。フルフェイスの鎧、しかも全体は髑髏を模したデザインはさることながら、顔に至っては口元がただでさえ牙状になっているのに、目や鼻はオレンジのバイザーで全く見えないのだ。
悪の手先と言われてもおかしくないデザインなのだが、コウイチからしたら普通なのである。恐怖心を抱いた青年の心を理解するのに、もう少し時間はかかるのだった。
獣王は逃げ惑う青年の後ろ姿を捉えていた。何度も放った光線では、獲物を仕留め損なってきた。時間がかかり過ぎた狩も、これでお仕舞いだ。これまでの中でも、最大級のエネルギーを溜め込まんとする獣王の頭上では、一際大きな積乱雲が発生し、大量の電流が生み出されつつあった。
「いやァァァァァ!!!! 結局逃げてもしう!!!!!!」
獲物は何と、クレーターの真ん中目掛けて走っている。既に遮るものもない地面を走るなぞ、愚の骨頂であった。獣王は愚かな獲物に感謝して、充填を開始する。
頭上の積乱雲から、雷が迸った。最大級の雷は、それ単体でも雷撃といえる質量を要している。
「死にたくない死にたくない死にたい死にたい死にたくない死にたい死にたくない… あれ????」
恐怖のピークに達した青年は、最早言葉すら理解できないようだ。混乱する獲物の脚が次第に減速し、余計に狙いやすくなった。獣王は嘴の先端に降り注いだ雷撃をエネルギーとし、これまでで最大の光線を放とうとする。
[ピギャェェェェェ!!!!!]
光線を放とうと緑眼で獲物に照準を合わせた、正にその時だ。
視界の端に、エネルギーを感じる。獣王は無視しようとしたが、エネルギーに既視感を感じていた。僅かに首と眼を動かして視界をずらすと、樹木の影に隠れて、もう1人の獲物がいた。
「アーチェリー・ファイナルキー、発動!」
『ファイナル・クラッシュ』
リュウジンオーがザンリュウジンの口に魔弾キーを差し込む。
銀色の下地に龍が模られた魔弾キーは、ザンリュウジンの口に魔力を発生させる。ザンリュウジンの斧が展開され、アーチェリーモードの準備が整った。
リュウジンオーは弓を引き絞るように右手を耳の辺りまで持っていく。だが照準は獣王本体ではない。
「くらえ!! ザンリュウジン・乱舞!」
『シュート』
リュウジンオーが右手を離すと、ザンリュウジンから魔法の矢が放たれた。アーチェリーモードから放つ通常の矢よりも巨大な一手は、獣王が今正に放とうとしていた光線の、嘴の先で溜め込まれている場所に突き刺さる。
ドオオオオオオオオンンンンン!!!!!
獣王の最大火力とリュウジンオーの最大火力がぶつかり合い、空中で大爆発を起こした。後に青年は、爆発を『太陽が生まれた』と称したというが、もしも目にした者なら過言と言う人は1人もいないだろう。
放射状に広がる衝撃波は、曇天を一気に払い除け、遙か上空に広がる晴天を覗かせるほどだ。草木が揺れ、水分を含んだ土が巻き起こり、石が飛び交う。
リュウジンオーがザンリュウジンを盾に伏せると、身体全体に衝撃がビリビリと伝わってきた。
「ううううう!」
地面に膝をついているというのに、受け止められずに数センチずつ後ろに押しのけられてしまう。それでも渾身の力で踏ん張っていると、衝撃は次第に通り過ぎていった。
「…終わったか?…」
ザンリュウジン越しに辺りを見渡すリュウジンオーは、ゆっくりと起き上がる。膝についた泥やザンリュウジンを汚している埃を手で払い除けていると、向こう側から青年が走り寄ってきた。
「オオオオオオオオいいいいいいいい!!!! 生きてるぞオオオオオオオオ!!!」
「大袈裟だな、あいつ」
ザンリュウジンがポツリと感想をこぼしたとはつゆ知らぬ青年は、リュウジンオーの手をとって上下に振る。
「ありがとうありがてえ、ありがとう! お陰で命が助かったよ!」
「い、いえ怪我は?」
「お陰様でこの通り、元気ぴんぴんだ!」
「む、無傷、ですか」
青年はリュウジンオーよりも爆心地に近かったと思われるが、傷は負っていないようだ。地面に伏せていたのだろう、全身泥だらけではあるが、裂傷や火傷の類は見受けられない。
運が良いのか、天才の防衛本能か。誰も知り得ることができない、だが確実に必要な能力の一端をリュウジンオーは垣間見た気がした。
「いや本当にありがとう、いやはや部隊と逸れてどうなることかと思ったら、ヘンテコな君がいてさぁ。いや殺されると思ったんだ、あいや違うや、最初は鳥だ、あーそうだそうだ。
前に小さい頃、ママが読み聞かせてくれた絵本に出てくるような怪鳥だったな。エーリヒ家に伝わる絵本だとか言って読んでくれてさ、あの頃はこんなのいるわけないと思っていたんだけど、いや不思議なこともあるもんだ〜 そう思うだろう君。
なぁ変なお面とってさ、早く帰らないか? 君どこ所属なんだ? 海? 陸?
あっ、それとも土着の人かな?そうだな、管理局で君みたいな変人いたら困るもんな〜」
「エーリヒ…管理局…?…」
立板に水といった具合に捲し立てる青年にドン引きするコウイチだが、ザンリュウジンは何か引っかかったようだ。
「やぁ、兄ちゃん。ちょっと良いかい?」
「へーインテリジェント・デバイス! しかもここまで流暢に話せるとは驚きだ! あっ、でもさっきの弓を見た感じ、アームド・デバイスの人格型か?」
「そこいらは置いといて」
「今日は面白いな〜。アームド・デバイスなんて実家で見て以来だもん、懐かしいなー。それにほら、あの鳥のように珍しいものも見れたし…」
青年はウキウキしながら喋っていたのだが、いきなり言葉を切ってしまう。コウイチが首を傾げていると、青年が手を震わせながら指差しをしていた。コウイチが振り返ると、何と獣王がすぐ目の前にいるではないか。
「お、おいザンリュウジンサーチしていてくれ!」
「いやすまん、だが敵対反応はなかったもんだからついうっかりしていた!」
「すまんで済むかよ馬鹿!」
慌ててコウイチはザンリュウジンを構える。しかし獣王は先ほどまでの敵対心がないのか、ただただ空中に漂っているだけだ。リュウジンオーは構えていたザンリュウジンをゆっくり下ろすと、獣王もまた静かに地面に舞い降りてきた。
翼を畳み、無言で首を下げる獣王の意図を察したリュウジンオーは、目の前の獣王の頭をゆっくり撫でてみる。すると抵抗することなく獣王はリュウジンオーを受け入れ、寧ろ擦り寄ってきた。
「コウイチ、お前は天才かも知れねぇ」
ザンリュウジンがポツリと呟くと、満足げに1鳴きしてから獣王は飛び去っていった。リュウジンオーが大きな後ろ姿を見送っていると、彼の目の前に光の粒が何処からともなく溢れてきた。
思わずコウイチが雫を受け止めるように手の平を上にすると、コウイチの手の中に魔弾キーが出現した。
「おめでとうさん、コウイチ。お前は獣王と契約を結べたみたいだな」
ザンリュウジンが嬉しそうにコウイチに告げる。コウイチは晴れ渡る日光に魔弾キーを翳してみた。金色の下地に彫られた龍の顔が、一瞬吠えたような気がした。
リュウケンドー見返したらザンリュウジンの台詞が思いのほか、記憶よりもチャラくてビックリ→台詞を修正→出来ず。
技名とか変身口上とか締めの言葉とか、色々指摘したい点もあるかと思いますが、多めに見てやってください…