「ふーん。最初期の自立型アームド・デバイス。聞いた事ないな」
「そうか。俺様達の家や、この星のことは何も知らなそうだな。兄ちゃんよー」
「知らないな〜。僕チンこっちに来て日が浅いし、星の歴史なんて興味湧かないもんね」
洞窟内で焚き火にあたりながら、コウイチと青年、ザンリュウジンはお互いの身の上話をしている。当初ザンリュウジンは自分達の出自を話すことに抵抗があったようだが、コウイチの一言で渋々了承した。
「思うに話した方がいいんじゃないかな。ここまで手の内を見られていて、これ以上隠すのは無理だと思うよ」
だがザンリュウジンとて全ては喋らなかった。特にコウイチに関しては、戦争孤児として話を進めている。コウイチ自身は気にしてはいなかったが、何故ザンリュウジンが話を隠したか、青年が勝手に教えてくれた。
「なるほど、ジェイル・スカリエッティね。そいつは大事だったろうな」
「いや凄かった。まだ俺ちん学生だったから実家にいたけど、ミッドチルダから避難してくる人が多くてね。空港がパンクしていたのを今でも覚えているよ。普段あんだけ観光客を簡単に捌くあの空港が、てんやわんやだったんだ」
「そんなに、混乱したんですね」
「でも序の口だよ。1番やばかったのは、なんと言ってもスカリエッティの背後の組織だろうね。管理局の裏が暴かれたもんだからマスコミが大騒ぎして。パパが1年近く家に帰らなかったのは、初めてだった」
「それは、凄いですね」
「無人攻撃機に始まり、遺伝子操作によるデザイナーベイビーとクローンの不法研究。クローンなんか聖堂教会が騒ぐ大物をコピーしたって噂だから」
「デザイナーベイビーは、そこまで問題ですか」
思わずコウイチが青年に尋ねると、彼は曖昧な返事をした。
「うーん、デザイナーベイビー自体はそこまで…俺チン何とも思わないよ。でも問題だったのは、研究成果が何に使われていたのか。管理局を牛耳る連中の延命に使用されたとか、週刊誌並みの胡散臭い情報が公式から伝えられたらしいから、もう凄くて凄くて」
「そりゃ、驚くだろうよ。自分達が死にたくないからって、勝手に人間拵えるだから」
「まさにそれがね。管理局の上層部は上と下がひっくり返ったって、パパが言ってた。ま、管理局にはデザイナーベイビーの人が何人かいるらしいから、今回の事件で生まれた被験者達も保護されたって噂」
「噂、ですか」
「そりゃそうだ、コウイチ。例え管理局内に本当にデザイナーベイビーが居たとしても、公に発表するのは控えるだろうね」
「俺ちんが聞いたのも噂の範囲だから。まぁでも、いても不思議じゃないけど。だってなのはさんとかはやてさんとかいるから」
青年は懐からデバイスを取り出すと、ディスプレイを展開した。どうやら彼は個人ファイルを開いているらしく、コウイチとザンリュウジンにデータを見せてくれる。
「見て。こっちがエースオブエース、高町なのは。こっちが黒い雷、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。んでもってこっちが歩く遺物、八神はやて」
「へえ…これまた随分と別嬪さんだこと」
「あの、この3人もデザイナーベイビーなんですか?」
「いやいや違う違う。この3人、管理局の管理外出身なのに凄い魔導師なんだよ。普通は管理外の世界から魔導師が生まれる確率なんて、メチャクチャ低いんだ。
それでもってこのヒップにバスト! 天は二物を与えずって言うけど、いや十分なものを2つも与えてくれたんだなぁ〜。しかも顔もバッチシ、三者三様の個性があるんだな〜
僕チンやっぱなのはさん…いやフェイトさん派かな? 根強いのがはやてさん党で」
「へ、へぇ」
思わずコウイチはドン引きしてしまうが、無理は無い。何せ彼が見せてくれたデータには確かに女性が写っているのだが、どう考えてもアングルに意図を感じざるを得ない。
どう考えても隠し撮りの格好で、何故か尻だの胸などがドアップで保存されている。
「あ、あのーこれらの写真は…」
「色々。週刊誌の切り抜きや管理局の広報とか」
「写真の、加工なんてのは…」
「僕チン」
「あっ、そうですか」
凄い。悪びれもなく言い切った青年に、コウイチは何だか尊敬の念すら持ってしまいそうだ。だがザンリュウジンは、もっと別のことを聞きたいらしい。
「俺達のことは伝えた。そこで聞きたいのは、お前さんについてな」
「ああいいよ。おほん、おはん。
僕はエーリヒ・ヒルマン。古代遺物管理部機動4課所属のエリート魔導師。そして聞いて驚くなよ、あの古代ベルカから脈々と受け継がれた、エーリヒ家の嫡男だ!」
「あっ、はぁ。よろしくヘルマンさん」
気の抜けた返事をしたコウイチに、ヘルマンは思わずずっこける。
「君いいい!! エーリヒ家と聞いてその反応は、ちょっと勉強不足は過ぎやしないか?!」
「そんなに有名ですか」
「有名も有名、名家中の名家だよ! 古代ベルカから続く直系なんて、片手に数えるぐらいしか残っていないんだ、凄くない訳ないだろう?!」
ピンと来ていないコウイチの為に、ザンリュウジンが代わりに教えてくれる。
「俺様がいた頃からだから、かなり年数は経っているな」
「それはまた古いな」
「ほうほうほう。なら僕チンのご先祖様と会ったことがあると言う訳で?」
「あるよ。なんなら一緒に戦った仲だ」
「へぇー、そいつは奇遇だなぁ。ご先祖様は僕チンぐらい、強かったんでしょうねぇ。何せ僕の先祖様だからね〜弱い訳がない」
「??」
「あ、ああ。俺様の時のエーリヒなら泣く子も黙る名将だったが」
「いやー、やはりそうか。僕はやっぱり名将に生まれるべくして生まれたんだなー」
「???」
この時、コウイチはヘルマンの性格をよく理解していなかった。少し自己評価が高い、ませた青年としか見ていない。後々コウイチは、この頃の自分に苦笑する羽目になるが、それはまた別の機会に。
「…ならこの星は随分と放置されていたんですね」
「うん、ブリーフィングだとそう言っていた」
「管理局が来て何年になるんです?」
「半年も経ってない。施設が出来たのが1年前かなぁ〜」
「中々来るのが遅かったんじゃないか? 俺様が言うのもなんだが、眠っているお宝は中々高価なものだと思うんだが」
ヘルマンは持参していた手鏡で、髪を整えていたがふと天井を見上げた。
「確か…2年ぐらい前かな。この近くでジェイル・スカリエッティ絡みの事件があったんだよね。その事件の後始末が済んで、やっと古代遺物管理部の施設建築が開始した筈だから、まだ活動始まったばかり」
「事件っていうと、もしかして研究所とか、ですか?」
「うんそう。結構大きなヤマだったみたい。航空隊に加えて執務官も出張ったらしいし。ほら、さっき見せたフェイトさん。あの人が執務官で、もう1人シグナムって航空隊の小隊長さんがコンビ組んだんだって」
「航空隊と執務官、うーん。素人目には、コンビ組みそうにない階級だが…」
コウイチは生唾を飲み込んだ。もしかしたら、管理局とニアミスしていたかもしれない。今は兎も角、あの時捕まっていたら自分はどうなっていただろうか。考えるだけで頭が痛くなってくるが、ヘルマンは全く意に介していない。
コウイチの心境を知っているのかいないのかわからないが、ザンリュウジンがヘルマンに疑問をぶつけると、彼は整髪料を手に塗りたくりながら訳もなく答えた。
「そりゃ、普通はあり得ないんじゃない。コンビというか合同捜査は聞いたことあるけど、この2人は何回も組んでいるし」
「特別なのか、じゃあ奴さん」
「ほら、ジェイル・スカリエッティ。あいつ捕まえたのが、さっき見せた3人の美女。管理外世界から来た平和の戦士」
「つまりシグナムって小隊長もその3人の何処かに関わっているって訳だな?」
「関わってるも何も、皆機動6課って言う特別部隊に所属していた。1番下でAAA級だとか言う、ドリームチーム。僕チン詳しく知らないけど、事件後解散した後も仲いいみたいで、出身者が手を組んで活動するのはしょっちゅうみたい」
「ふーん。お前さん、それはどこで知ったんだ?」
「週刊wensday」
「おいおい…」
ザンリュウジンが呆れ気味に赤眼を光らせるが、ヘルマンは気がついていないのだろう。何せ岩に置いた手鏡を覗き込んでは、入念にヘアスタイルをセットしているのだから。
「じゃあ、着替えとタオル。置いていくよ」
「すみません、ヘルマンさん」
「助かるぜ、ヘルマン」
「僕チン着替えは多めに持っていく主義だから。それに余り質が良くない奴だから、捨てようと思っていたところでさ」
「ヘルマン、まさか俺様達と会わなかったら何処かに捨てるつもりだったのか?」
「ま、まさか。この僕チンがそんなこと、する筈ないだろ」
「ま、そう言うことにしておくか」
ヘルマンの視線があちらこちらに飛んでいるのが、何とも面白くコウイチとザンリュウジンはヘルマンに話を合わせてやることにした。ヘルマンはバックパックを担ぐと、コウイチ達に振り返る。
「それでさっきのあいつはなんだったんだい? 本当に僕チンが昔読んだ絵本に出てくる怪鳥?」
「半分正解」
「ほ、本当かよザンリュウジン?!」
「ああママ!」
「落ち着けコウイチ。まだ話してないだろう? 話を聞いてから判断してくれ」
ザンリュウジンは2人を落ち着かせてから、コウイチに手に入れた魔弾キー、シャドウキーを取り出させた。
「あいつは獣王・デルタシャドウ。この星に住む、聖なる鳥獣だ」
「デルタシャドウ」
「星に存在する魔力がどうやって生み出されるか。俺達ベルカの人々は、水脈のように魔力の脈が、星の隅々に巡らされていると考えた。
その考えで星を調べると、所々で魔力が急激に高まる地点が存在したんだ。水脈でいう源泉とか、水流の合流地点が近いかも知れない。
地点は魔力スポットと呼ばれ、この魔力の源と言える場所を守る獣が、各スポット毎に存在していたんだ。それが獣王」
「デルタシャドウが獣王ってことは、ここら辺にスポットがあるんだ」
「俺様は知らなかった。俺様が知っているあいつのいたスポットは、もう少し南に降った場所だったんだが… 戦争とか自然災害でスポット自体が動いたのかもしれないな」
ヘルマンは出口に向かって歩き出していた。コウイチとザンリュウジンも見送りに出口に歩きつつ、話を続ける。
「僕チン疑問なのは。あのデルタなんちゃら、鳥らしくなかったけど。なんか機械的じゃなかった?」
「それは僕も思った。特に翼には車輪みたいなのがあったよ?」
「…まぁ話すか。俺様達は使えるものは何だって使ったんだ。普段スポットの近くにいて外敵を退ける獣王は、それだけで戦力になる。そしてあの当時のベルカの人々はこう考えた。
じゃあ獣王を改造すれば、もっと強い力を得て、戦争に勝てると」
「えっ…」
思わずコウイチとヘルマンは脚を止めてしまう。ザンリュウジンも何だかバツが悪そうに話を続けた。
「お前さんらの反応は正しい。だが、あの頃は戦争が激化し始めていたんだ。皆勝つ為に非道な手段を使うことに、躊躇う暇がなかった。俺様の主人もいい顔していなかったが、周りの声に押されてな。デルタシャドウは無理矢理改造したんだ。いや、された。か」
「そんな…」
コウイチは何故デルタシャドウがコウイチを狙っていたか、理解できた気がした。ザンリュウジンは沈んだ顔をするコウイチに慰めの言葉を送る。
「コウイチ。お前が持つシャドウキーは、デルタシャドウがお前を認めた証だ。気にする必要はないぜ」
「そう、かな」
「獣王の中でも特にあいつはプライドが高い。勝つ為に手段を選ばない、それがあいつのポリシーの1つみたいでな。お前さんの撃退方法に思うところ、あったのかもしれねぇ」
「騙し討ち、だったけどね」
「何にせよ、お前さんは認められた。俺様の主人すら、強引に使っていた奴と契約したんだ。胸張っていいと思うぞ」
「そうだコウイチ君。このヘルマン・エーリヒの堂々たる囮作戦によって、君はお溢れで力を手にしたのだ。手段はどうであれ、誇りに思いたまえ」
「は、はぁ…」
ヘルマンの脳内で、あの時の事はどのような展開になっているのだろう。コウイチはヘルマンに聞こうかと思ったが、辞めておいた。何故かは分からないが、聞かない方がいい気がしたのだ。
一夜明けた外は明るく、晴天に恵まれている。心地よい風が、穏やかに吹いていた。
「では、お世話になったね。ありがとうね」
「いえ。こちらも衣服ありがとうございました」
「ヘルマン。お前さんは今回の事件、どう報告する気だ?」
「うん… 君達が巨鳥を討伐した。こうなるだろうな」
「そこなんだがなヘルマン。俺様達もう少し管理局に厄介にならずに過ごしていきたいんだ。どうだい、今回お前さんの手柄にしてくれていいから、俺たちのこと、伏せてくれないか?」
ヘルマンはザンリュウジンからの突然の申し出に、目を見開いた。
「いやそれはな〜。虚偽の報告をするのは、ちょっと…」
「いや、虚偽とは言いきれねぇ。お前さんが言った通り、あの囮が無かったらコウイチが勝てたかは、疑問符がつく。立派にお前さんが倒した、と言っても過言ではないぜ」
「でも、僕チンがあの巨鳥を討伐したとは信じてくれないだろうな…」
「いや、討伐ではなく、退却させたでいい。コウイチと契約を結んだデルタシャドウは、もう天候を操作したりしないし、コウイチが管理局を襲わせたりもさせない」
「それは約束します。デルタシャドウには、スポットの警護を任せますから」
「でも証拠が…」
「データなら必要分、俺様がお前さんのデバイスに転送しよう。結果報告はそうだな、デルタシャドウがチャージしているところを、拘束魔法で攻撃し、偶然拘束魔法とチャージされた魔力が衝突、魔力爆発が発生。こんなんでどうだい?」
「うーん、うーん」
目を瞑って考え込んでいたヘルマンだが、ポンと手を打ってコウイチ達に向き合う。
「その案、乗った!」
「ありがとうございます」
「助かるぜ、ヘルマン坊や」
「2人とも、管理局のお世話にはなりたくないんだろう?」
「まぁ、そこら辺は察してくれや」
「うん… 僕チンでも、そこは分かった。言わないよ」
ヘルマンは力強く頷くと、デバイスを差し出した。コウイチがザンリュウジンを向けると、ザンリュウジンの口から光の粒が、ヘルマンのデバイスに向けて放射された。
ヘルマンはデバイスを展開し、データを一通り確認してから、デバイスを閉じる。
「これなら大丈夫。部隊長も納得してくれるよ」
「そいつは良かった」
「うーん、空を見上げながら歩いていたら部隊とはぐれちゃったけど、事件は解決したし手柄もできたし、いいことづくめだ!!」
「空を見て、はぐれたんですか…」
ヘルマンの残念な発言にコウイチは引き攣った笑いをするしかない。ヘルマンはしかし和やかにコウイチの肩を叩くと、洞窟の外に一歩出る。
「では2人とも! また会う日があったら、その時に!」
「お元気で、ヘルマンさん!」
「達者でな、ヘルマン坊や!」
「さらば!」
ヘルマンは手を高く上げてから、颯爽と森の中へと消えていった。その後ろ姿をコウイチはいつまでも眺めている。
「ねぇザンリュウジン」
「ん?」
「もしかしたら、友達出来たかもね」
「かもな」
「君だけだと思っていたよ」
「寂しいこと言うなよ」
「ふふ、そうだね」
コウイチは、実にいい笑顔を浮かべていた。彼の腕で小さくなりながら、ザンリュウジンは嬉しげに赤眼を光らせる。
これが彼等3人の、腐れ縁が始まった時の、一部始終であった。
「あっ、ヘルマンさん転んでるよ」
「あーあー…折角セットしたヘアスタイルが台無しじゃねえか…」