魔弾魔法戦士リュウジンオー   作:岸辺吉影

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密猟者

「やほー。お二人さんお元気お元気?」

 

洞窟内の壁をドンドンと叩いたヘルマンは、奥の暗闇に向かって問いかける。暫くすると、暗闇の中から足音が聞こえてきた。

 

「ヘルマンさん。また来たんですね」

「うん。ミッドチルダのお土産、持ってきた」

 

ヘルマンは片手を上げて、手に持っていた手提げ袋を見せつける。この星では見かけない上等な袋は、かなりいいものである可能性を期待させた。

 

「おっ、ヘルマン坊や。相変わらずまめだね」

「どうもリュウジンのオッさん。マメなのが僕チンのいいところ」

「言うねぇ」

「知ってます?女性は自信ある男性に心惹かれるんですよ。恋愛の初歩テクニック」

 

ヘルマンは有言実行と言うべきか、自信ありげに胸を張っている。ヘルマンのいつもの調子に、コウイチとザンリュウジンは薄ら笑いで対処しながら、もてなしの準備を進めた。

 

「相変わらず美味いですねー、ヘルマンさんのお土産」

「ミッドチルダ名物、グリーン屋のケーキ。最近俄に人気なんだよ〜」

「へぇ。そんなに美味いのかコウイチ」

「うん」

「何でも、管理外の世界の技術が転用されているとかいないとか」

「ヘルマン坊や、それはどこ情報だい?」

「週刊YUGURE」

 

エーリヒ・ヘルマン。この男、実に不思議な人物だと、コウイチ達は勘づき始めた。まず妙に金払いがいい。初めて会った日にもらった衣服は、どれも高級品で簡単に手に入るものではない。しかしヘルマン曰く不満の塊なんだとか。

次にあまり魔法の腕が宜しくない。一通りのミッドチルダ式の魔法は使えるものの、本当に使える程度だ。彼が所属する古代遺物管理部は、古代ベルカの遺産を取り扱う関係からかなりの高スキルがなくては、採用候補にすらならないエリート部隊なのだ。にもかからずヘルマンの魔法の腕は、平均スレスレである。何故エリート部隊に配属されたのか、コウイチとザンリュウジンには、さっぱり理解できなかった。

何よりヘルマンは自己評価が高いのだ。この点に関しては、とにかく凄いの一言に尽きる。

 

「いやー、コウイチ君。さっきの横ステップ、あれは無駄だったね〜。あそこ踏まずに真っ直ぐ行けば、アックスで殴れたのにな〜」

(コウイチ、あそこは踏んで正解だ。横から行かなきゃ、急所狙えないからな)

(う、うん)

 

「惜しいいい! 惜しかった本当に後数センチ、いや数ミリ右だったら、僕の魔弾でクリティカルヒットしたのにな〜」

(…着弾地点、数メートル離れてない?)

(しっ、言うなよコウイチ)

 

「ふぅううう!!!見たか、見たかコウイチ?! これが僕のスペシャルショット! 気持ちいいいい!!!」

(そりゃもう動けなくなっていたからね)

(しっ!)

 

万事この調子だ。とにかく自分の都合よく解釈するのは、天才と言わざるを得ない。人というものを知らないコウイチからしても、不気味な存在であるのだ。

では何故エリート部隊に所属するはずのヘルマンが、コウイチに不気味と思わせるほど接触するのか。理由には、初対面の時交わした取引が関係している。

 

 

「で? 後どのくらいなんだ」

「残り100ポイントぐらい、ってところか」

「どの程度です?」

「んー。大型野生動物の鎮静化を4体から5体こなせば、終了かな」

「もう少しだな。この調子だと、1ヶ月もありゃ夢の昇進だヘルマン坊や」

 

ヘルマンは初対面以後、頻繁にコウイチ達に仕事の代行を頼んでいる。現在ヘルマンの任務は、調査チームの居住区周辺の、安全確保が主な任務だといいっていた。具体的には猪や河馬などの大型野生動物達の沈静化、不審人物の確保や危険植物の調査が当たる。

管理局は所属部署によって昇進の基準が大きく違うのが、良くも悪くも特徴であるが、ヘルマンの所属する古代遺物管理部は実績第一主義を掲げていた。特にこの星を調べる第4課はヘルマン曰く、その傾向が顕著だという。

ヘルマンはコウイチ達との初対面直後、部隊長から直々に呼び出され、賞賛の言葉と共に1つのプランを提示された。それが各任務に割り当てられたポイントを一定基準集めることで、ヘルマンの推薦状を承諾するプランである。

 

「遂に!遂に!この僕チンが本局に乗り込むんだ!」

「まだ行けませんよヘルマンさん」

「いやもう行けたも同然! 何せ古代ベルカの切り札がいるからね、アッハッハっ!」

「お前さん、今わかって言っているのだとしたら、末恐ろしいぜ」

 

コウイチ達はまた不思議なのである。彼と度々共に行動しているが、どうして彼の上司は推薦状など書くというのだろうか。失礼な話だが、ヘルマンは推薦するに値する器とは、とても考えられないのだ。

コウイチは不思議なのだが、ザンリュウジンはもっと不思議がっている。彼は古代ベルカとはいえ、政治の場面にも何度も立ち会ってきた。当然昔は推薦無くして官位につけない身分制の社会だったから、殊更推薦の重みが違う。

 

「管理局はどういう基準で、推薦する人間を選んでいるんだろうな…」

 

コウイチはふとザンリュウジンが呟くのを、聞き漏らさなかった。

 

 

兎に角不思議ではあるが、友人でもあるためにコウイチ達は協力する他ない。何よりヘルマンが推薦欲しさに危険な任務をこなす方が、コウイチ達には危険に思えた。

そこで3人は正式に取引を決めている。3人で適当な獲物を探し、コウイチとザンリュウジンで対処する。戦闘データ諸々をヘルマンに譲渡し、見返りにヘルマンは衣服や食料、家具などをコウイチ達に提供する。

簡単に言えば汚職なのであるが、コウイチ達はヘルマンを危険から回避できるし、ヘルマンは危険な目に合わずに済むしバレないという内訳で、win-winの取引と双方受け取っていた。

 

「犯罪者の逮捕なんかすりゃ、1発で終わりなんだけど…」

「それはよしましょうよ」

「うむうむ。危険な橋を渡らなくても、いいんじゃないか?」

「あらそう。2人が言うならそうしますか。まぁこのエーリヒ・ヘルマンが負けるとも思えないけどね。アッハッハ!」

「「ハハ…」」

 

 

コウイチ達が暮らす洞窟は、ヘルマン達管理局が腰を下ろす地点から、10数キロ離れている。ヘルマンは毎回バイクを使って付近まで立ち寄り、コウイチ達と密会していた。その日もコウイチ達と大型野生動物の鎮静化の任務をこなそうと、洞窟へと立ち寄る。

 

「やれやれ腰が痛くなるよ」

 

バイクを止めて、緩やかな坂を登る。入り口付近にバイクを置いてもいいのだが、以前間違って洞窟内にアクセルを切ったことが原因で、ザンリュウジンから坂の下に停めるよう厳命されていた。

 

「リュウジンのオッサンも、いい加減駐車を許してほしいな全く」

 

文句を言いながらも坂を登り切ったヘルマンは、いつものように洞窟内の壁を叩く。

 

「おーい。コウイチ〜」

 

洞窟は思いの外深く、中々声が届かないようだ。しかもあの2人は拡張工事をしているらしく、ただでさえ深い洞窟が更に深くなっているとか…

 

「インターフォンぐらい、つけてくれてもいいのになぁー」

 

また愚痴を溢すヘルマンは、暗闇から近づいてきた人影に、顔を上げずに返事をした。

 

「なぁリュウジンのオッさん。いい加減インターフォンつけようよ。俺チンいい家具屋知ってるからさ」

 

 

その頃コウイチとザンリュウジンは、川辺でトレーニングを積んでいた。裸で川に浸かるコウイチは、アックスモードに変形したザンリュウジンを、丁寧に振り下ろしている。

 

「1・2・3」

「1・2・3」

 

3の呼吸で、左右上の三方向の腹下ろしを左右の脚ごとに行う。単調な動きを重ねているが、大事な訓練なのだ。

 

「コウイチ、縦の振り下ろしに力入りすぎだな」

「っし!」

「もう一回最初から」

「1・2・3」

「1・2・3」

「よし、もう一度」

「1・2・3」

 

「いい感じだコウイチ。随分と上手くなった」

「そいつはどうも。こんだけやって上手くならないなら、やる甲斐がないよ」

 

トレーニングを終えたコウイチは、タオルで身体を拭いながら、ザンリュウジンとトレーニングの振り返りをしていた。パンツと短パンを履いてから、コウイチは焚き火を片付けて帰路に着く。

 

「水中での型の練習は、脚にいい感じの負荷がかかるし、いざという時の練習にうってつけだ」

「いざと言うときね」

「水中で戦闘はないと思ったか? 例えば泥沼とか草が生い茂る中とか、脚に無駄な負荷がかかるシチュエーションは、案外起こりやすいからな。想定しておくべきだ」

「はいはいっと」

 

ザンリュウジンの型の講釈を聞きながら、道なき道を歩くコウイチ。この森に住んで3年近くになるが、ようやくマップを開かずとも全体像が浮かび上がるようになってきた。ザンリュウジンの指導の一環として、マップを頭の中で描きながら、自分の足跡を記憶する習慣をつけているのだ。

探査魔法が使えない時を想定した訓練だが、コウイチはザンリュウジンが工夫して生活に訓練を混ぜていてくれる事に、密かに感謝している。お陰で飽きることなく、様々な技能が段々と身についてきた。

 

「アックス・アーチェリーも一通り使えるようになってきたし、練習の段階あげてもいいかもしれないぜ」

「任せるよザンリュウジン」

「とは言っても、デルタシャドウとの連携技ぐらいなんだよな、練習する必要がありそうなの」

「デルタシャドウとの連携、か。練習できるの?」

「んー。正直必要ないかもしれん」

「それってどうよ」

 

ザンリュウジンは赤眼を光らせつつ、考え込んでいるようだ。

 

「必要なのは、技量というよりも精神の問題だからな」

「精神?」

「デルタシャドウと意識を合わせる必要があるんだが… お前なら大丈夫だよ」

「投げやりだな」

「意識が合わさっているから、契約出来たんだからな。ま、シャドウキーを手にした時点で練習する必要はないか」

「おいおい」

 

今後の練習についてざっくばらんに話し合っていると、洞窟前の坂に辿り着いた。

 

「いいねぇ〜。これまでの記録を見るに、1番の最短ルートを通っている。もう大丈夫そうだな」

「そういうなよ、意識するだろ」

「それも修行だぜ、修行」

 

ザンリュウジンの言葉に小さくため息を吐きかけたとき、コウイチは坂の麓に青色のバイクが泊まっているのに気がついた。スーパースポーツタイプの洗練されたデザインのバイクは、人気のない森の中には場違いに写る。

 

「もう来ているのか、ヘルマン坊や」

「この前行ったばっかりじゃんね」

「やれやれ、ここまで来ると感心しちまうぜ」

「見てよ、ヘルマンさん腰痛いんじゃないの。足跡がくっきり…」

 

コウイチは坂の砂地に付いたヘルマンの足跡を見て、頬が引き攣る。そのまま坂を登りつつ、手にしたタオルで顔やザンリュウジンを拭っていった。

 

「ヘルマンさん」

 

洞窟に着いたコウイチは、壁に背中を向けながら、奥に向かって呼びかける。聞こえていないのだろうか、コウイチは壁を叩きながら再度呼びかけた。

 

「ヘルマンさん?」

 

すると奥からヘルマンの声が聞こえてきた。

 

「こ、コウイチ?」

「ヘルマンさん、もう来たんですね。早すぎはしませんか?」

 

コウイチはヘルマンに呼びかけながら、洞窟内に脚を運ぶ。するとヘルマンの上ずった声が、奥の方から届いた。

 

「こ、コウイチ?!」

 

瞬間洞窟の暗闇から青白い弾丸が、連続して発射された。けたたましい音と共に、コウイチがいた場所に魔力弾が炸裂する!!!

 

「コウイチ!!!」

 




ヘルマンのモデルは某実況者です。
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