魔弾魔法戦士リュウジンオー   作:岸辺吉影

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第7話

無数の魔力弾が炸裂した壁は、ガラガラと音を立てて崩れ去る。洞窟内に僅かな振動が伝わると、天井から砂埃が落ちてきた。

 

「どうだ、やったか?」

 

低い声だ。ヘルマンのものではなく、全くの別人の声である。

 

「へぇ。俺らの魔力弾、全弾叩き込みました」

「あれなら避けても何発か喰らっています。軽傷では済まねぇ」

「だろうよ」

 

口元をバンダナで隠した男達が、低い声の男に返答する。どうやら魔力弾を放った男達のボスが、低い声の男のようだ。低い声の男もまたバンダナで口元を覆い隠し、サングラスに黒のニット帽と完全に顔を見せないように思慮している。手に持つのは銃型のデバイスのようだ。

ボスの男は背後を振り返ると、手下に連絡をとる。

 

「どうだ中の様子は」

『いやさっぱりでさ。あらかたベッドやらなんやらひっくり返しましたがね。高級な衣服を使っているのは確かですが、金目のものは他にないでっせ』

「そうか。拠点にはどうだ」

『最高でさ。いい感じに湿り気もあるし、ひんやりとはしていますが、焚き火を炊けばすぐあったかくなりそうだ』

 

手下からの通信に満足したのか、ボスの表情が緩んだように受け取れた。

 

「なら一旦全員表に出ろ。周辺で物資を調達する」

『何も皆でやらなくてもいいんでないか、ボス?』

「この辺りの地形を覚える必要がある。皆で辺りを捜索し、その後じっくりじっくり、総動員で洞窟内を拠点に変えるんだ」

『なるほど、分かりました。片してすぐ戻ります』

「おう」

 

通信を切ったボスは、足元に転がる人間を蹴り飛ばす。うめき声を上げた男性を脚で無理やり起こすと、もう一度顔に蹴りを喰らわした。

 

「おい兄ちゃん。お仲間は死んじまったよ」

「…」

「ふん。さっきまでの威勢はどうしたんだよ。なぁ兄ちゃん?」

「…」

「何だっけな。えっと、あいつらは俺チンよりも強い? ってか?」

「…」

 

黙り込むヘルマンに、男達は笑い声をあげる。まさに醜い声であり、底意地の悪さが声質に如実に現れていた。

 

「笑わせるな。お前なんかの仲間が、強いわけないからな」

「…るさい」

「古代遺物管理部といや、世にも聞こえたエリート部隊だが。お前さんのようなもやしが配属できるなら」

「程度が知れてまさぁボス!」

「きっとお荷物野郎でさ!」

「部隊全部がお荷物だろうさ!」

「「「「ちげえねぇ、ちげえねぇ!!!!」」」」

 

密猟者達がリズム良く歌いだす。洞窟内に木霊する野太く下品な歌声を聞かされるヘルマンは、怒りに満ちた表情で彼らを睨んでいた。その視線に気がつかないものなどいないが、まるで子供を相手にしているかのように無視している。

歌を歌う彼らの背後から、不揃いな足音が聞こえてきた。

 

「ボス。どうもお待たせしました」

「来たか。遅くはなかったか?」

「そいつはどうも、あいすいやせん」

 

何人かの密猟者の中ボスとも言うべきだろう人間が、軽く頭をバスに対して下げる。声からして連絡していた相手だろうか。中ボスはボスの背後に放り投げ出されなヘルマンに気がつくと、意外な顔をした。

 

「ボス、まだ殺ってなかったんですかい?」

「お前らを待っていたんだよ」

「ああ、そいつはどうもどうも」

 

わざとらしく頭を下げる中ボスの頭を叩いてから、ボスが声をあげる。

 

「お前ら外に出ろ! 狩の時間だ!!」

「「「「「おう! おう!」」」」」

「まだ管理部の連中はここまで来てねえ、片っ端から借り尽くして、一山あげるぞ!」

「「「「「おう!おう!」」」」」

「んじゃ、景気づけに…」

 

ボスは全体を鼓舞してから、ヘルマンを入り口付近に投げ飛ばす。バインドで縛られて身動きが取れないヘルマンは、そのまま芋虫のように這いつくばるしかない。

 

「さよならだ。無能な管理部さん」

 

手下の1人が、銃型デバイスのトリガーに手をかけ、寝転ぶヘルマンの頭に照準を合わせた時だ。

 

 

「させないよ。無能な犯罪者さん」

 

『ショット』

 

ヒュンと音がした。やけに甲高い、風のような音だ。ボスが何事かと横を見れば、銃型デバイスを構えた手下が、ゆっくりと背中から崩れ落ちていくのがはっきり分かった。

 

「何…?」

 

驚く暇はない。甲高い音と共に、ドサドサと何かが崩れ落ちていくのが、振り返らなくても伝わってくる。

 

「何だ…?!」

 

音がした方向に視線を向ければ、手下が放った魔力弾で砕けた壁が、石材となって床に固まっている。その石材の奥側に、不自然なスペースがあるように見える。普通に壁から砕けたものが床に落ちたなら、あのようにスペースはできない筈だー

 

「ボ、ボス!」

 

手下の1人が声を上げた。信じられない気持ちで背後を振り返れば、誰もいない筈の洞窟の奥に、1人の人間が立っている。

 

「人様の家に忍び込むとは、行儀がなってねぇなぁ?」

「全くだザンリュウジン」

「見せてやるぜ、リュウジンオー」

「ああ」

 

「リュウジンオー、来刃!!」

 

リュウジンオーが、ザンリュウジンを構えてそこに立っていた。

 

 

「な、舐めるなこいつうう!!」

 

手下の1人が銃型デバイスをリュウジンオーに向けて、魔力弾を発射する。しかし魔力弾は虚しく暗闇に消え、遠くで何かに当たってしまった。

 

「な…」

 

言葉を発しようとしたときにはもう遅い。リュウジンオーがザンリュウジン・アックス・モードで魔力弾を放った男に、打撃を加えていた。音もなく崩れ落ちる手下を見て、他の面々も事態を把握する。

 

「うてうて、うてうてうて!!!!!」

「ま、待てお前ら…」

 

ボスが静止する間も無く、手下達が魔力弾の雨を降り注ごうとした。しかし次の瞬間、信じられない光景がボス達に写し出される。

 

「んな馬鹿な…」

 

10人近くの手下が、一瞬で宙に浮かび上がったのだ。魔法ではない、純粋な打撃で大の大男達が空中に弾け飛んでいる。皆腹や頬に何かしらの打撲痕があり、額からは流血している者もいる程だ。

 

「ぼ、ボスどうするんですかボス?!、」

「…逃げるぞ…」

「えっ?」

「逃げるんだよ、早く洞窟から出ろ!!」

「は、はいいいい!!!」

 

慌てて密猟者達は、洞窟の外へと這い出ていった。リュウジンオーは彼らを追うことなく、地面に這いつくばるヘルマンを抱き起こす。

 

「ヘルマンさん、大丈夫ですか?!」

「…おおう。大丈夫だ」

「今、バインド壊しますよ」

「…頼むよ、コウイチ君」

 

アックスでヘルマンのバインドを器用に壊すと、リュウジンオーは洞窟の地面をまさぐる。地面に置かれていた箱から取り出したのは、赤い表皮の果実だ。

 

「これ、食べてください。怪我の回復が速くなります」

「ありがとう…」

「食べ終えたら、伸びている人たちをバインドで縛り上げてください」

「うん、わかった… 酸っぱいなこれぇ」

「文句言わないでください。怪我治りませんよ」

「これ種多すぎだよ。僕チン種ありの果物、苦手なのよね。ママに頼んで種無しの葡萄を送ってもらうぐらいに」

「種に回復効果が詰まっているんです。食べ切ってください」

「もうヤダァん〜」

「変な口調やめてください…」

 

先ほどまで地べたに寝そべっていた男とは思えない。果実の回復効果があるにしろ、ここまで早く軽口を叩けるヘルマンが、リュウジンオーは眩しく見える気がした。

 

「でもコウイチ君、よくぞ犯罪者がいると気がついたね。僕チン気が付かずにやられたと思ったよ」

「すぐ誰かわかりました」

「どうして」

「足跡」

 

リュウジンオーは洞窟に入る前、何気なく坂についた足跡を見た。そこには同じ靴を何足もローテーションで履く、特徴的なヘルマンの靴跡がはっきり残されていたが、問題はヘルマンの靴跡にある。

はっきり残されていたのは一歩、それも部分だけで坂を登るルートには足跡1つない。ヘルマンは足跡を消して歩く癖など無いし、雨も風も今日はなかった。

つまり第三者が意図的に足跡を消したとしか言いようがない。地面と角度がつく最初の地点だけ、消しづらかったのか残っていたのが幸いした。リュウジンオーは坂を登りながら、タオルでザンリュウジンを磨くふりをしながら、何気なく探査魔法を限定的にかけてみたのだ。すると生命反応が複数検出され、招からざる客を確信したのである。

 

「流石はコウイチ君だ〜。僕チンとの問答によって得た考察力、感服するね」

「あっ、ヘルマンさん。早くバインドかけてください。起きちゃいますよ彼ら」

「ええ?!」

 

ちょっとしたリュウジンオーの催促に縮み上がったヘルマンが、密猟者達を次々縛り上げる中、リュウジンオーは洞窟の外へと出た。

 

「サーチキー、発動」

 

『エリア・サーチ』

 

広範囲の探査魔法をかけて調べると、どうやら敵は複数隊に分かれ、散り散りとなって森の中に隠れる計画らしい。

 

「ザンリュウジン、いくよ」

「おうさコウイチ」

「いい機会だし、試してみようか?」

「任せる」

「ならやってみようか」

 

リュウジンオーは力強くザンリュウジンを握りしめると、キーホルダーに手を置いた。

 

 

「くそ、くそくそくそ!」

 

密猟者のボスは、隠し持っていたロードトラックに乗りながら、助手席で悪態をついていた。既に半数近くの部下を、あの訳もわからぬ奴にやられてしまっている。

 

「やっとここまで逃げてきたっていうのに!!」

 

彼等は別の次元世界で密猟を繰り返し、広域捜査対象に指定された密猟者グループである。この次元世界の惑星は、調査が殆ど進んでいない無人世界ということで、うってつけの逃げ場だと踏んだのであった。

やっとの思いで惑星の入港口から森に逃げ込み、住みやすそうな洞窟を発見できたというのに。

古代ベルカの遺跡と新種の生物が跋扈するこの惑星は、宝の山だというのに。

 

「ボス、今は逃げましょうや」

「ちっくしょう!」

「あいつはただもんじゃねえ。速いのは確かですが、あの正確な打撃、素人じゃありやせん」

「…わってる」

「しかし何だってあんな手練れが、あんなヘボと組んでいたんすかね。もっといいコンビがいただろうに…」

「知りたくもねえな」

 

助手席の窓から痰を吐き捨てたボスに、背後から声が掛かる。

 

「ボス、探査魔法を感知しました!」

「場所は?」

「はっきりしやせんが、あの洞窟が候補の範囲です。まず間違いなく、あそこでしょう」

「やったのはどっちだと思う?」

「聞く方が野暮ってもんでしょう?」

 

苛立ちからクルマのフロントを蹴り上げるボスに、運転する手下が励ましの言葉を送る。

 

「心配しなくても大丈夫でさ。何せ俺らは車とバイク、2つの乗り物使っているんです。追いつける筈がありません」

「まぁなぁ」

「外に置いてあったバイク、ありゃオンロードバイクでしょう。オフロード仕様の俺らを追うなんざ100年早いでっせ」

 

手下の言葉を受けて、多少はボスも気持ちが和らいだのか、シートに深く寄りかかった。彼等が乗るロードトラックは、リュウジンオーがどこで何をしているのか、全く把握していなかった。もしも把握していたら、すぐにでも対策を練っただろう。だが天は許さなかった。

 

 

生い茂る木々の隙間を縫うように、オフロードバイクが駆け巡る。蛇行運転をしながら、運転手はしきりに背後を気にしてながらの危険な走行をし続けていた。運転手は危険を承知で背後を振り返りたくなる、危機的な状況に追い込まれているのだ。

 

『ぬぁぁぁ…』

「おいどうした、どうした?! 返事をしろ」

 

オープンにしている仲間との通信が、また一つ接続が切れてしまう。背後で何かが爆発する音が聞こえてくると、背筋が凍る思いをしなくてはならないのは、逃げている密猟者のグループの一員だ。

ボスの命令で複数のグループに分かれて行動する内の一班であり、この班は西側に湾曲しながら入港口付近に逃げ帰るルートでここまできた。だが道半ばで、あの恐ろしい化け物の餌食になってしまう。1人、また1人と脱落者が出てきてしまうのだ。

 

『おいどうするボスへの連絡、して方がいいぜ!』

 

まだ健在の手下が、通信を通して訴えてくるが聞く耳など持たない。同じ問いを何度されたとて、返すつもりはないのだ。

 

「今ボスに繋いだら」

『うわぁァァァァァ』

「っ!」

 

自分は早く逃げ切って、ボスの元に帰る。そしてまた仲間を集めて、一儲けするんだ。

その一心でバイクを駆る手下の背後で、エンジン音が聞こえてきた。どうやら仲間の1人が追いついてきてくれたようだ、奴から逃げ出せたのだ。

 

「心配したぜ、どうだやつ」

 

「烈風刃!」

 

 

もう一つ東側から歪曲して迂回ルートを走るバイク集団は余裕綽々である。複数に分かれて逃げている以上、追ってとて簡単に自分達を捕まえるなど無理だ。三分の一の確率を引くか引かないか、それに尽きる。

東側の集団は悪手を引くなど考えない、楽観的な連中の集まりだった。

 

「しかし運がねぇな」

「やっとこさここまで来たっていうのにな」

「また逃亡生活だぜ」

 

彼等は西側と違い、集団で固まって運行している。蛇行などせず、2レツ縦隊で行進しながら、各々隣の面々と愚痴をこぼしあっていた。

戦闘を走るのは、洞窟の奥を調べていた中ボスだ。

 

「あの洞窟、結構住み易いと思うんだがな〜」

「あともう少し来るのが早かったら、俺たちのものだったんだが」

「いや無理だろう。管理局の連中でもここ一年ちょっと、調査し始めているぐらいだ。俺達は早かったほうだよ」

「そうか?」

 

愚痴を言いつつ今後の話もしようかと考えた、正にその瞬間だ。

 

「おい、最後尾の奴が離されたっぽいぞ」

「何してるんだ、どうして離れる?」

「いや分からん、何故だろう…」

 

中ボスはバックミラーで背後を確認する。確かに何組か少なくなっているように見える。現状の最後尾も隣のバイクが遅れている…

 

「て、敵ダァ!!」

 

『ショット』

 

中ボスが叫んだ時、また一台最後尾のバイクが横倒しになって列から離れた。手下連中が騒ぎ出すが、次々と敵の餌食になってしまうのだろう、うめき声や悲鳴と共にバックミラーに写る仲間の数が減っていっている。

 

「先行ってくれ!俺たちで食い止める!」

「おい!」

「行けっ!」

 

まだ餌食になっていない仲間2人が威勢よくハンドルを切り、来襲者を食い止めようとするが無駄であった。彼等もまた敵の一撃で地面に葬り去られていくのが分かる。

バイクによる逃走の際、仲間同士の接触事故を防ぐために、車両の間隔は気持ち広めにして動いていた。遠くから見れば集団ではあるが、近寄ればそれなりの距離を保って行動していたのだ。それでもバックミラー越しに写る仲間は、もう1人も居なくなった。隣を走る戦友も反撃するチャンスすらなく地面に転がり込む。

 

「な、何で俺たちに…」

 

追いつけるのか。答えは真横に、肉眼ではっきりと視認できた。

洞窟内であった奴は、バイクに乗って襲い掛かってきた。それも今まで見たことがないような、黒色のオフロードバイクに乗って。

 

 

『ボス、敵はバイ』

「おい、何だ! なんて言ったんだ! おい!」

 

手にしたデバイスに怒鳴りつけるも、ディスプレイには『ERROR』

の文字が虚しく表示されるのみだ。ボスは怒りでデバイスを叩きつけるも、まだ興奮は治らない。

 

「くっそおおお!!」

 

仲間が次々と消えていく現状に我慢できないボスに、仲間達は声をかけることすらできない。だが運転手役の手下が、苛立つボスを少しでも落ち着かせるために、勇気を振り絞って口を開いた。

 

「ぼ、ボス! あと少しで入港口が見えます!」

「…よし!」

 

まだまだ道はあるが、マップに目的地が写し出される距離には、ここまで走ってきたのだ。後は入港口に潜り込み、隠し持つ裏金で資源船か何かに乗って脱出するだけである。

犠牲は少なくなかったが、まだトラックには10数人以上が乗っているのだ。再起するには多すぎると言っても、ボスにとっては過言ではなかった。

 

「あと少し、あと少しだ皆んな!」

「おお!」

「見えたぞ、港の火だ!」

「「「「「港だ!港の火だ!!」」」」」

 

遠くに入港口と、付近を鮮やかに彩る港の灯りが見えてきた。発掘調査で俄に活気付く惑星唯一の玄関口は、密猟者までも向かい入れるように思えてくる。

トラックの後部では前祝いと言わんばかりの歓喜の歌が歌われ始めた。普段は前祝いなどという浮かれた真似にいい顔をしないボスも、今は口角を上げてシートに腰掛け、ゆったりと残りの時間を過ごそうとしている。

 

「ボス、休んでいてください。もう安心でっせ」

「そうさせて貰おうかな」

「着いたら、起こしますんで」

「置いていかないでくれよ」

「そいつは任せてくださいや」

 

気前よく胸を叩いた手下に笑みを返して、ボスはゆっくりと息を吐いた。今日の苦悩と苦労を全て吐き出すような、深い息を吐く。

そして瞼を閉じようかとした時だった。

歌を歌い始めていた後部から、悲鳴のような叫びが聞こえる。

 

「ぼ、ボス!! 奴が、奴が!」

「な、何?!」

 

身体を跳ね起こし、慌てて車のバックミラーを覗き込む。バックミラーには、遙か後方に黒い点のようなものが、猛スピードで突っ込んで来るのが分かった。

黒い車体のオフロードバイクに乗った、あの覆面の男だ。バックミラーからはよく分からないが、あの手持ち武器のようなものを構えているようだ。何か車めがけて武器を合わせているのだろうか、もしやー

 

「ハンドルを切れ!」

「はっ?! 突然無茶な」

「きれぇ!!」

 

しかしボスの叫びは届かなかった。

 

「アーチェリー・ファイナルキー。発動!」

 

『ザンリュウジン・シャドウ・ショット』

 

リュウジンオーは、デルタシャドウの変形したシャドウバイクの座席部分に片膝立ちで座ると、引き絞った弓矢を放つ。

シャドウバイクの先端に集められた雷撃をレールとして放たれる弓矢は、真っ直ぐ密猟者達が乗るトラックを直撃した。

 

 

ドンンン…

 

トラックの爆発音は、遠く洞窟内のヘルマンの耳にも届いた。ヘルマンは拘束し終えた最後の密猟者を洞窟の外へ放り投げると、洞窟の入り口から戦況を確認した。

 

「コウイチ君、やってくれたな。流石は僕ちんの友人なだけある」

 

胸を張るヘルマンに、地面に転がされた密猟者の1人が毒を吐く。

 

「けっ、あれは俺たちのボスが、手前の仲間をやっつけたに違いねぇ」

「ん? まだ抵抗するのか実に愚かだね。ここで媚を売っておけば、どうにかできたんだが」

「誰がするか」

 

ヘルマンの足元に唾を吐き捨てた手下だが、汚撃はヘルマンの靴には届かず、何もない地面に着地してしまう。ただ悪戯に水分を消耗しただけの手下に、ヘルマンは態々目線を下げて話をする。

 

「君のボス。どうなったと思う?」

「手前、どういうつもり」

 

 

整備された車道まで、あと数キロと言った所か。道なき道を走ってきたトラックは跡形もない。残った残骸は、何も語らないのだから。

そして方々に吹き飛んだ密猟者の面々は、皆何処かを骨折するか枝やら何やらが突き刺さるかの、重傷を負っている。助手席に乗っていたボスは瞬間的にシールドを出して衝撃を防ぎはしたが、地面に叩きつけられたショックまでは防げず、這いつくばりながら尚ももがいていた。

そんな密猟者のボスの寝転んだままの視界に、黒のブーツが入ってきた。

 

「よう。犯罪者」

「…手前、何もんだ…」

 

思わず出た疑問に、しかし襲撃者は答えない。

 

「殺しはしない。後は管理局がやってくれるさ」

「…何者だ、お前…」

「うーむ。犯罪者らしくしつこいねぇ。俺様やになっちゃう」

「…答えやがれ…」

「犯罪者が何を知りたい?」

「‥決まっている…」

 

ボスは力の入らない手で黒のブーツに手を伸ばす。死にはしないだろうが、今の彼には目の前のブーツを掴むことすらできないほどダメージを負っているのだ。

 

「…俺を倒した奴を、知りてぇ…!」

「ほう…犯罪者らしい疑問だが。どうする?」

「答えは簡単だ」

 

黒ブーツの男は、手を伸ばしてくる男を足で払い除けると、手にしたアックスを振りかざす。

 

「犯罪でイキる奴に、教える義務はない」

 

「闇に抱かれて、沈め」

 

そして真っ直ぐ、躊躇いなくアックスを振り下ろした。

 

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