魔弾魔法戦士リュウジンオー   作:岸辺吉影

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発見

〜新暦77年 8月 ミッドチルダ〜

 

ここは数ある次元世界の中でも、中心部と言える世界。その名は魔法体系にも転用され、次元を超えて定着している。その中心街の虫と少ない車のエンジン音しか聞こえない深夜。

一台の車が中心街の、更に中央部へと走っている。黒の車を運転するのは、金髪が特徴的な女性である。母性的な顔立ちの彼女は、いつになく真剣な面持ちでハンドルを握っていた。助手席に座る桃色の髪をした、凛とした印象の女性もまた、口を真一文字に結んだまま一言も発しない。やけに緊迫感のある車内だが、当然と言わんばかりに2人は無言のままだった。

 

車は巨大なビル構造群の地下駐車場に降っていく。指定された位置に駐車すると、2人とも無言のまま直ぐに下車し、建物の中に入っていった。入り口に立つ警備員に身分証を見せると、困惑した表情を2人とも返された。

 

「これは執務官殿に小隊長殿。ご苦労様です」

「其方もご苦労。用事があるから通してくれないか」

「はっ、それは構いませんが… このような時間に何を?」

「…済まんが答えることはできない」

 

凛とした女性の返答に、警備員はすぐに敬礼で返した。ロックが解除された自動ドアをくぐる時、2人は小さく警備員に会釈する。それは彼女達なりの、精一杯の感謝の意だった。

 

 

「やぁ。このような時間にお呼び立てして申し訳ないね」

「問題はないヴァロッサ。我らの仲だ。遠慮はいらない」

「ああ、いや君にも申し訳ないと思っているけど。ね?」

 

数多ある会議室の一つに入室した2人を、緑髪の男性が出迎える。エレガントな雰囲気を持つ青年は、エスコートするように2人を椅子に座らせた。桃色の髪の女性が社交辞令に苦笑すると、青年は被りを振って金髪の女性をそれとなく指す。

 

「す、済まないテスタロッサ」

「うんうん大丈夫。今日はなのはも家にいるし、ヴィヴィオにも帰れないかもって伝えておいたから」

「フェイト執務官。本来なら貴殿をこのような時間にお呼びするのは忍びないが、事情が事情で。後、聖王のご様子は…」

「気にしないでヴァロッサ。ヴィヴィオは元気だよ、友達も出来てこの前遊びに来たんだ」

「そうですか、それは何より」

 

金髪の女性、フェイトの答えに3人の表情が幾分か柔らかくなる。ここにはいない少女のことを、どうやら気にしているようだ。

だが柔らかかった表情も、コンマ数秒で消え失せる。3人とも仕事をこなす顔に切り替わった。

 

「ヴァロッサ。我らを呼んだ訳が知りたいのだが…」

『それについては、僕達が説明します』

 

暗い会議室に、大きなディスプレイが表示された。青い背景の空中投影画面には、複数の男女の顔が写し出されている。赤髪の少年と桃色の髪の少女が、一つの大きな枠に収まっており、金色の長髪を束ねた青年が、枠の中にいる。もう一つの枠内には赤髪をツインテールに結んだ少女が写っていた。

 

『おいエリオ。私らをこんな時間に呼び出したのに、ちゃんとした訳があるんだろうな』

『はい、ヴィータ隊長』

『バカ、私はもう隊長じゃねえんだ!何回言ったら分かるんだよ?!』

『あっ、すいません隊長…』

『おいエリオ!また言ってるじゃねーか?!』

『ご、ごめんなさいヴィータ… さん』

『キャロ、おまえもかよ!』

 

ツインテールの少女が時間など関係がないかのように、元気な受け答えをする。矛先が向けられた少年少女は、全て返し切れずにいるのだが、嫌がっている素振りはない。他の面々も特に止めるつもりはなさそうだったが、ヴァロッサが手を上げて静止した。

 

「皆忙しい中、集まっていただきありがとう。ヴィータとエリオ君達の掛け合いを楽しみたいのは山々だが、今回の話に入らせてほしい」

 

ヴィータと呼ばれたツインテールの少女が何やら抗議をしているが、ヴァロッサは慣れた様子で先に話を進める。彼の手が指揮者のタクトのように振れると、いくつかのデータが表示された。

 

「このデータは、ここ数ヶ月の違法犯罪者の収監リストだ」

「特におかしい点はないと思うけど」

「これだけだと、何も不審な点はない。注目してほしいのが、ここ」

 

ヴァロッサが手を振ると、リストアップされたデータから、更にデータが抽出される。データは収監された犯罪者の一覧だが、ある共通項があった。

 

『無人世界No.0? 聞いたことがあるようなないような…』

「そう。この犯罪者達が捕まった次元世界。正式名称無人世界No.0」

『通称はなくて、名無しの世界。あるのは1つの惑星、ただそれだけ』

「ユーノ、話が見えないんだけど」

『シグナムさん、フェイト、ヴィータちゃんには関係が深い場所です。通称ではありませんが、最近こう呼ばれている次元世界のことです。

古代ベルカ、特に初期古代ベルカの遺物世界』

 

ユーノと呼ばれた金髪の青年の言葉に、シグナムとヴィータの目が見開く。両者とも険しい顔つきとなり、雰囲気が険しくなった。

 

『ここか。例の発見されたって世界は』

「…正式名称、失念したな。そうかこの世界か。それで私とテスタロッサが呼ばれたのか」

 

シグナムが横に座るフェイトに視線をチラリと向ける。フェイトもまた、テーブルに置いた手を握りしめ、険しい顔つきをしていた。

 

「何か問題でも発生したの? エリオ」

『どう表現すればいいか難しいですね、フェイトさん。確かに違法犯罪者の報告数は増大していますが、これは当該地域が調査が進み、古代ベルカの遺産が数多く眠ることが判明した為だと考えられます。残念な表現ながら、他の地域に見られる傾向と一致するかと』

「続けて」

『僕達は先週からこの地域の応援に参戦しています。当該地域には既に古代遺物管理部機動4課が配属されていますが、増加する犯罪対策に人員を割くために、僕達が調査活動の補助を要請されました』

『具体的には遺跡の調査というよりも、大型野生動物の観察や植物調査が主な活動です』

 

フェイトは無言で続きを催促する。

 

『現地で調査を開始する前、過去のデータを洗い直していると、不思議な事に気がつきました』

『ここ数ヶ月、管理局以外の何者かが、活動していることが判明したのです』

『おいおいおかしいぜそれ。だって誰か居るなら、無人世界じゃねぇ』

 

次元世界において、世界の区分は何種類か存在する。そのうちの一つである無人世界は、人間の生息しない、動植物のみの世界を示す言葉だ。

 

『はい。だから気になって調べると、機動4課の面々ではない何者かが、犯罪者や大型動物の沈静化を行なっていることが判明しました』

「それは…なんと言うか、問題なのか? 私は特に問題視する必要はないと考えるが」

『普通ならそうです。機動4課の判断次第で管理局に抜擢するかどうか、これも現場判断が優先されます』

『私達がこの正体不明の人物を問題視するのは、この写真とデータが根拠です』

 

桃色髪の少女の指が小さく動く。すると新たなデータがディスプレイに展開される。そのデータを見たシグナムとヴィータの顔が一気に強張った。

 

「キャロ、これは本物か?!」

『本物なら、かなり問題だぞ!』

『はい。機動4課が計測したデータからです。シグナムさんと前話した時、無限書庫で見つけた本について教えてもらって、すぐ思い出しました』

「シグナム? この写真の何が問題なの?」

 

フェイトが疑問に思うのも無理はない。写真には捕縛された犯罪者の写真しか写っていないのだ。訳が分からないフェイトに、シグナムが写真を見据えたまま説明する。

 

「テスタロッサ。この写真の問題は捕縛された犯罪者にない」

「えっ?」

「背後の傷跡だ。何か抉られているような跡があるだろう?」

「う、うん。確かに」

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シグナムの説明に思わずフェイトは立ち上がった。

 

「本当なのシグナム?!」

『フェイト、間違いねぇ。私達闇の書の連中が断片的に覚えている、アームド・デバイスの跡そのまんまだ』

「確証は、さっきエリオが言っていた…」

『うん、そうだねフェイト。この本が、無限書庫に手掛かりとして残っていた』

 

ユーノと呼ばれた青年が、一冊の本を開いて、データを転送する。送られてきたデータはかなり古い本の絵だった。劣化が激しく進み、端々は虫食いのような跡がある。

 

「…テスタロッサ。やはり、あいつは創っていたようだ」

 

画面を見つめるフェイトの目には、驚きと共に深い哀しみが見てとれる。言葉も出ないフェイトに代わり、シグナムが話を進める事にした。

 

「だがアームド・デバイスの使い手は特に危害を加えたりはしていないんだろう?」

「うん。だから放っておいてもいいかもしれないけど、そうはいかないかもしれない」

「歯切れが悪いな、ヴァロッサ」

「何故エリオ達の疑問に僕がしゃしゃり出たのか。実は本局の人事部からある人物の調査を極秘裏に依頼された」

「調査」

「人物の名はエーリヒ・ヒルマン。現在古代遺物管理部機動4課から、管理局航空部隊への異動届を申請している。彼の機動4課での功績、もしかしたらこのアームド・デバイスの使い手が1枚噛んでいる可能性があると見ているんだ」

 

 

「ハックション!」

 

洞窟内で盛大なくしゃみをしたコウイチに、ザンリュウジンが揶揄いを始めた。

 

「モテるねぇ。誰かが君を噂しているんだろう?」

「やめてくれよ気色悪い」

「何言っているんだ。最近のコウイチの実績考えりゃ、誰かが祈ってくれていても、おかしくはないだろう?」

「やめてくれよ」

「恥ずかしがるなよ、お前のやっている事は立派なことなんだぜ」

 

コウイチはザンリュウジンの揶揄いを受け取らずに、面倒くさそうに手で払い除ける仕草をしながらベッドに横たわる。

 

「寝るのか?」

「うん。最近密猟者が増えてきたから、寝れる内に寝とこうと思って」

「それはいい心掛けだ。後この前のやつは密猟者じゃなくて、トレジャーハンターとか言うらしいぞ」

「何が違うんだよ」

「違法な遺物売買に手を染める奴をトレジャーハンターと呼ぶんだと」

「どうでもいいよそんな事」

「そうか? 中々面白いぞ、言葉の違いって」

「僕にはつまらないって事だよ、ザンリュウジン」

 

布団を被ってしまったコウイチに、ザンリュウジンも口を挟む事はしない。いよいよ眠ろうかとコウイチが思った矢先、ザンリュウジンがコウイチに質問をぶつけてみた。

 

「コウイチはどう思う?」

「…何が?」

「ヘルマン坊や。ちゃんと異動で来たんかね、彼は」

「うーん」

 

コウイチはむき出しの洞窟の天井を見上げながら、既にこの地を去った友人に思いを馳せていた。

 

「ザンリュウジンは、成功すると思ったんだろう?」

「まぁな。そりゃした方があいつの為だし、今までのことを考えたら成功はするだろうが…」

「でも何も言われなかったんだってね」

「バレるとしたら、俺様絶対あの密猟者集団の時だと思ったんだがな」

「うん。あれでバレないなら管理局って、変な場所だね」

「ああ…」

 

 

『総合的にみて、少なくとも仮定するのは妥当だと思います』

「…分かった。その線で、行こう」

『フ、フェイトさん。あの、まだ決まった訳では…』

「うん、ありがとうキャロ。大丈夫、仕事に私的な感情は入れ込ませない」

 

そうは言うものの、フェイトの顔には悲壮感がありありと浮かび上がっている。そんな彼女を気遣ってか、ヴァロッサがまとめに入った。

 

「ではいいかな、皆」

『異議なし』

『まぁ、反論はないかな』

『僕も賛成です』

『私もです』

「我々も同一意見だ。だがどう思うヴァロッサ。この人物の危険性については」

「なんとも言えないね。少なくとも報告書に記載されたデータを鵜呑みにしたら、それこそ査察官の名が廃るよ。僕は事実を確かめたい。

だから正式に要請します。シグナム航空機動隊小隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。無人世界No.0への緊急派遣、ご承認ください」

 

 

〜無人世界No.0 管理局古代遺物管理部 機動4課本部〜

 

鬱蒼と茂る大森林をバックに、巨大な港がある。直線で模られた大小の建物は、周囲の環境から逸脱していると思えるほど、特徴的であった。

建物の内、最も登頂高が高い建物の一室で、1人の男が資料作成を行なっている。男がいる部屋は気品溢れる装飾が施されているが、金目のものは見た目よりも、置かれてはいない。装飾の殆どは鮮やかな赤や大人しい茶色を巧みに組み合わせて設計されていた。

その部屋のドアが3回ノックされる。許可を下すと、制服を着た女性が一礼してから入室する。

 

「部隊長、本日の報告書になります」

「もう残ってないか」

「はい」

「出動隊員はどうした」

「夜間警備の人員以外、全て帰宅しました」

「ご苦労様。我々も帰ろうか」

「はっ!」

 

女性がもう一度敬礼すると、男が立ち上がった。女性がドアの横に待機していると、部隊長は無言で先を促す。軽く頭を下げてから、女性が外に出て、最後に部隊長がドアのロックをかけた。

誰もいない廊下を2人で歩いていると、女性が重い口を開くように、話を切り出す。

 

「あの、隊長」

「おう」

「…本局から緊急派遣が行われるようです」

「…来たか…」

「…はい。恐らく、あの件かと」

 

特に驚いた様子もない部隊長に、心配そうに女性が問いかける。

 

「部隊長、どうしてそのように平気なのですか?」

「何もないだろう」

「しかしエーリヒ隊員の件は、部隊長にも責任問題が」

「問題なら、あいつを採用した人事の方に問題がある。我々は関係ない。追求されたとて、痛手は被らないさ」

「部隊長…」

「それよりも例の人物との会話、通信チャンネルを削除し新たなものに変更しておけ。此方側の音声の加工もパターンを変えろ」

「はい、かしこまりました」

「あ、それと」

 

部隊長は一拍置くと、人差し指で何かを指し示すような仕草をしてみせた。

 

「『アンノウン』の報告は」

「未だ何も。手がかりすら掴めていません」

「まだか。例のアレは、まだ見つかっていないか」

「それもまだ」

「ならいい。とにかく『アンノウン』の始末は急がせろ」

「はい」

 

「子守りをしてほしかったら、もう少し場所を選んで欲しかったな」

 

 

〜ⅩV級次元航行艦船 艦橋〜

 

「…うん、うん。じゃあなのは暫く頼むね」

『平気だよフェイトちゃん。この前緊急出動があったから、代休が溜まっているし』

「ごめんなのは」

『もう、お互い様でしょ? ヴィヴィオもはやてちゃん達の家に遊びに行くことになっているから、元気モリモリ』

「はやてのとこに?」

『うん、学校のお友達連れてね』

「フェイトママ〜! お仕事がんばってね!』

「ヴィヴィオ? まだ起きてたの?もう寝なきゃ駄目だよ遅いから」

『はやてさんのお家に行く準備が終わらなくて… あっそうだ皆んなで行くんだよ。リオとコロナ。フェイトママ会ったことあるっけ…』

「私はまだ…今度ストライクアーツの練習付き合うから、その時紹介してね」

『えっ、本当? コロナ達喜ぶよきっと! 

そういえばフェイトママは古代ベルカの遺跡に調査行くんでしょ?』

「う、うん。遺跡調査、だよ」

『そっかー。最近古代ベルカの本をコロナとリオで探すの、流行ってるんだ〜。何かお土産あったら頂戴ね』

『ヴィヴィオ。フェイトちゃんは遊びに行くんじゃないんだから、無理言わないの』

「何かいいものあったら持って行くから」

『本当? じゃあお土産待ってまーす♪お休みフェイトママ』

『あっ、ちょっ、じゃあフェイトちゃん頑張って』

「うん。おやすみなのは、ヴィヴィオ」

 

通信が切れると、手を振っていた栗色の女性とオッドアイの少女の姿も消えた。フェイトは背筋を伸ばして深呼吸しながら、少しばかり緊張が解れた気がする。

 

「テスタロッサ、艦橋で私的通信か」

「ちょ、ちょっとシグナム、驚かさないで」

「ふっ。高町達と喋っている頃から、私はいたよ」

「えっ、ええ? 気がつかなかった…」

 

驚くフェイトに苦笑しながらも、シグナムはフェイトの真横に立ち、外界に視線を向ける。

 

「ヴィヴィオは何歳になったか?」

「今年で9歳かな」

「もうそんなになるか、早いな」

「私達も3歳歳をとったんだね」

「歳の話をするとは、どういう風の吹き回しだ?」

「特に何もないよ」

「そうか」

 

フェイトは大勢の男女が写る集合写真が背景の私的通信ゾーンを閉じて、代わりに無機質な背景に記載される、無人世界No.0のデータを再度確認していく。

 

「穏便にことが済めばいいけどね」

「ああ。報告書を読んだ限りでは、変な組織に属している可能性もないし、話が出来そうではあるが」

「やっぱ、例の子なのかな」

「テスタロッサはどう思う?」

「ん…」

 

押し黙ったフェイトに、それ以上シグナムは問おうとはしなかった。

 

「もう休めテスタロッサ」

「シグナムはどうするの?」

「私も休ませてもらうよ」

「へぇ、どういう風の吹き回し?」

「ふん。まぁなんだ」

 

「勘だよ」

 

次元航空艦は亜空間を正常に運行する。機動6課のメンバーと、コウイチ達が出会うまで、あと1日。

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