魔弾魔法戦士リュウジンオー   作:岸辺吉影

9 / 12
第9話

〜無人世界No.0 管理局古代遺物管理部 機動4課 本部〜

 

トランクやアタッシュケースが、次々と運ばれてくる。運ぶのは茶色の制服を身に纏った職員らしき人々だ。高層ビルである本部は手狭という言葉と元来無縁であったが、今はその言葉がよく似合う。行き交う人々ー ある者はメールなどの資料を見ながら、ある者は隣にいる人に尋ねながら、ある者は近くのドアを開いて中の人間に指示を出しながらー

の活気は、市場などの晴れやかさはなく慌ただしさと緊迫感が漂っていた。

 

職員達の慌ただしさとは関係のないように、広い会議室では2人の男女が人を待っている。赤髪の少年と桃色髪の少女は、並んで直立したまま、ドアの方を向いたままだ。

彼等はまだ成人しているとは言い難く、すぐ後ろの会議テーブルを囲む大人達よりも歳下なのは明らかである。テーブルに座る職員の1人が、2人の背後に立って話しかけてきた。

 

「エリオ2等陸士、キャロ2等陸士。どうか先におかけ下さい」

「あっ、大丈夫です」

「気になさらないで」

 

2人はすぐに被りを振るが、職員は辺りを憚るように声のトーンを落とした。

 

「できれば座っていただきたい。でなくては我々が落ち着いて腰を落としていられません」

「あっ、そういう事ですか…」

 

組織における上下関係が齎す、小さな弊害に2人は困ってしまう。

 

「でも大丈夫だと思います。フェイトさん達もうすぐくるかと」

「あっ、来たみたいです」

 

それまで立つべきか座るべきか迷っていたような職員全員が、一斉に立ち上がった。会議室のドアが開くと、中年の男性と若い女性に続いて、フェイトとシグナムが入ってきて、更に背後には数名の職員がいた。

男性が会議テーブルの正面の椅子に立ち、フェイトとシグナムがその両隣に移動する。次々と職員達が空いている席の前に立つと、全員が一斉に敬礼した。

男性が全体を見渡してから手を下ろすと、階級が上の物から順に座っていく。全員が座りきると、男性が重々しく口を開いた。

 

「皆この忙しい中お集まりいただき、感謝する。古代遺物管理部機動4課部隊長、ゲーリングである。以後お見知り置きを」

「ではゲーリング部隊長、説明を」

「エリオ2等陸士、頼む」

 

エリオは部隊長の許可を得ると、椅子から立ち上がって説明を始める。

 

「今ここに集まっているのは、機動4課、自然保護隊、執務官付きの専属部隊です。シグナム小隊長は単独行動での参加となっています」

「シグナムだ。宜しく」

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です。皆宜しくね」

「自然保護隊キャロ2等陸士です。宜しくお願いします!」

 

シグナムは立ち上がらず簡潔に、フェイトは立ち上がって軽く一礼してから挨拶をする。キャロは勢いよく立ち上がって、地面と水平に頭を下げた。

 

「僕達が集まったのは、2つの目的があります。1つは増加する違法犯罪者の撲滅。フェイト執務官の意向で、特に潜入経路の解明を第一目標とします」

「ゲーリング部隊長」

「どうぞ」

「私から補足させてもらいます。犯罪者の撲滅が目的ですが、皆様ご承知の通り、ここ数ヶ月確認された犯罪行為の増加は由々しき事態です。

私は入港口に何らかの警備の穴があり、犯罪者達の自由な行き来が可能となっていると考えています」

「それは遺憾です! 私達は日々警備を強化している、何処に穴があるというのですか!」

「警備の穴、皆様の不備を責めるつもりはありません。この世界は未開の範囲があまりに広く、把握しきれていないのが現状です。犯罪者グループが我々の知らないルートを発見・開拓している可能性も十分考えられます」

 

職員の1人、ー肩の勲章の数からして隊長レベルの人間だろうーが不服そうに抗議するが、フェイトは軽くあしらう。まだ言い足りないと言った具合の職員としっかり目を合わせながら、フェイトは説明を続けていった。

 

「今回私達は独自の捜査をさせてもらいます。機動4課の捜査班には干渉しない事を約束し、捜査範囲外の地域に焦点を絞るつもりです」

「いいかい、小隊長」

「部隊長、しかしですな」

「不服か」

 

部隊長が強い口調で、小隊長に矛先を向けた。鋭い矛先を鼻先に向けられ気落ちしたのか、小隊長は視線を机に落としたまま、口を閉ざしてしまう。

 

「…もう一つの目的については私から。目的は正体不明の人間との接触。これだけだ」

「待て。正体不明の人間、とは?」

「惚けないでいただきたい。貴方達以外に、この星で活動する人間のことだ」

「それは把握している。件の人物を、どうするのかと聞いている」

「どうするつもりはない。接触するだけだ」

 

会議室が一気に騒がしくなる。皆顔を見合わせて、シグナムの発言を繰り返しているようであり、部隊長もシグナムの目的を想定していなかったような反応をしていた。

 

「ま、まて。捕縛や逮捕はしないのか?」

「するつもりはない」

「説明を要求する、納得できない」

「説明をとは… 私は説明など要らないと考えるが」

「いや、してもらう。我々は君達が『アンノウン』討伐に来たと考えていたのだが」

 

今度はフェイトとシグナムら機動6課の面々が表情を固くした。特にフェイトとシグナムは、露骨に眉を顰めている。

 

「何故かと言えば、危険性はまだ確認できていないからとしか」

「だから排除するのだろう?」

「何を勘違いされているのか分からないが… 我々は君達のいう『アンノウン』を、危険視している訳ではない」

「理解できない。あれほどの力を持つ者を、どうして放置するのだ」

「放置するつもりはない。言った通り、接触はする」

 

シグナムは部隊長との討論の中で、『アンノウン』に対する温度差を感じた。どうやら『アンノウン』はこの地域において、想像以上に存在感を増しているようである。

機動4課がここまで警戒する理由を脳裏に上げながら、シグナムは努めて冷静に話し合う方向に舵を切った。

 

「我々も報告書を拝見させてもらった。確かに『アンノウン』は管理局のデータベースにない魔法攻撃を使用する可能性は、極めて高い。警戒をする必要性は認めるが、しかし現状『アンノウン』が管理局職員含め、一般人に危害を加えた痕跡は確認できていないのでは?」

「それは机上の空論だ。現場で活動する我々からしたら、『アンノウン』なる不確定な存在など、あっては困るのだから」

「机上の空論とは… では質問させてもらう。『アンノウン』が貴殿達にどのような損害を与えたのか、御教えいただきたい」

「損害? 見て分からないのか?我々のテリトリーが侵されているんだよ!」

(っチ! こいつは…)

 

シグナムは心の中で舌打ちをしながら、目の前の人物に対する評価が著しく下がっていくのが感じ取れた。

要は『アンノウン』に手柄を横取りされていると考えているのだろう。確かに機動4課の功績と『アンノウン』の功績では前者に比がある。だが前者は少なくない人材と損害を対価としているのに対し、『アンノウン』側には恐らく匹敵するほどのコストはかかっていない。活動規模から換算して恐らくターゲットは単独犯だろうことは、明らかであるからだ。

シグナムの想定よりも、ゲーリングなる男は出世欲が強いようだ。議場には出すつもりは無かった、最後の目的についても、大凡の検討は尽きそうである。

 

「兎に角。我々としては、まず『アンノウン』の正体を突き止めるつもりだ。当然敵対行動をとるつもりがあれば、それ相応の対処はする。

しかし最初からするつもりは今後もない。以上だ」

「…何か質問がある者は」

 

納得していないようなゲーリング部隊長は、予定通りの言葉を口にした。すると奥の方に座る1人の女性が、右手を上げている。

 

「どうぞ」

「はい! 私自然保護隊所属の、レナ3等陸士であります!フェイト執務官とシグナム小隊長にご質問であります!」

「何でしょうか?」

「は、はい! 何故お二人が今回の作戦に参加されるのか、教えていただきたいです!」

「それは聞きたい話か」

「はい!執務官殿は理解できますが、シグナム小隊長が単独で参加なさる理由が、推測できないからであります!」

「そうですね。確かに私達の説明不足だったかもしれません」

 

フェイトは和やかに女性に微笑むと、スッと席から立ち上がった。隣でシグナムが目線を向けるが、フェイトは目だけで頷く。シグナムが視線を切り、目を瞑って腕組みをするとフェイトはデバイスを操作して全員の目前にデータを送信する。

 

「皆様御承知かと思いますが、この次元世界は存在自体は古くから認知されては来ました。しかし管理局の慢性的な人員不足と不測の事態の連続で、調査自体がままならない状況が継続されていたのです。

今から新暦76年、私達はとある次元犯罪者を追ってこの世界に管理局としては初めて、介入しました」

「えっ! じゃあ研究所の…」

「その話を理解されているとしたら、ここからは早いですね。結論から言えば、次元犯罪者ジェイル・バーンズはこの閉ざされた世界で違法な研究を行なっていました。残念ながら被疑者は逮捕直前で自害、研究データの多くも同時にデリートされ、目ぼしい成果はありませんでした」

「しかしながら研究所に残された施設や使用された器具から、被疑者がデザイン・ベイビーの作成と古代ベルカ式デバイスの復元を行なっている可能性は、極めて高いと推察されました」

 

会議場後方の声がまた騒がしくなる。フェイトは想像以上に管理局の縦割り構造の弊害を感じ取っていた。機動4課の人々が驚く様子もないことから、彼等は情報を把握していたはずだ。エリオとキャロとて詳細を知ったのは深夜の会議だったから、自然保護隊が把握していないのは当然である。

機動4課の人々は、自然保護隊に情報を渡していなかったのか。耳に入る断片的な会話から推察するに、自然保護隊の情報は噂程度の質であるから、そもそも情報自体公式に伝達されていないようだ。

 

「2つの写真をご覧下さい。右は無限書庫で発見された古代ベルカ時代の戦史に添えられた絵です。左は以前報告された『アンノウン』による戦闘現場のすぐ側にある崖の写真です」

「特徴的な痕が見受けられます。柄が長い斧を二つ繋げた、双斧とも言うべき武具による打撃痕であると、専門家の分析がとれました。右の絵は再現性があるかは完全とは言い切れませんが、出典の戦史の実証度と打撃痕に確認される共通項の多さから、ほぼ確実だと考えています」

「残念ながら、デザイン・ベイビーもデバイスも発見はできませんでした。確証はありませんが、もしも人格型のデバイスであるとするならば、デザイン・ベイビー単独での生存は、不可能ではありません」

「でも子供でしょう? いくらデバイスがあると言っても…」

「ここではベイビーと呼称していますが、年齢は定まっていません。デザイン・ベイビーはその存在目的として戦闘能力と生存能力を意図的に高めている例が多く、デバイスにも補助的機能が搭載されていることは、過去の事例でも報告されています」

「じゃあ…」

「ええ。私達は『アンノウン』の正体を、このデザイン・ベイビーと判断しました。よって以前捜査を行った我々が、今回の作戦に参加する必要があると考慮し、ここにいる訳です」

 

 

「フェイト執務官、シグナム小隊長。遠方からようこそ。先程は会議があるからといって、挨拶もそこそこでしたので」

「お気遣いなく」

「私も、結構」

 

ゲーリング部隊長が会議室を後にしようとするフェイト達を呼び止めた。フェイトは兎も角シグナムは彼への認識を変えつつあるため、必要最低限のことしか口にしない。ゲーリング部隊長はシグナムの態度から読み取ったかどうかは分からないものの、咎めるような真似はしなかった。

 

「確認したいのですが、あくまでも接触が第一と」

「危険性の判断には、まだ時間が必要かと思います」

「私達としては、憂いの元を早く片付けたいのだ。そう悠長にことを薦められては、困りますな」

「勿論敵対行動をとるとしたら、我々も相応の対処をするつもりです」

「ふっ。対処するのは、我々ですか、貴方方ですか?」

「状況次第、としか」

「はっ、状況次第ですか」

 

フェイトは言いたいことをグッと堪え、口角を上げながら部隊長と会話を続ける。

 

「私から質問を宜しいでしょうか?」

「何だね」

「2ヶ月前から派遣されている自然保護隊の方々との、情報交換について。どの程度先方に情報をお渡ししているのでしょうか?」

「規定に反しない程度には、渡しているつもりだよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 

フェイトは踵を返して会議室を後にした。シグナムが追従し、エリオとキャロも慌てて追う。2人が素早く頭を下げて退室した後、部隊長は手の関節を鳴らし始めた。

 

「どう思う、あの連中」

「捜査するのは『アンノウン』だけとは、とても考えられません」

「執務官は要注意だ、目を離させさせるな」

「はい」

「最悪ボンボンのことは漏れても構わない。各員の判断に合わせて、情報を流通させろ。核の部分は触れさせるな」

「ではそのように」

 

 

機動6課メンバーは本部横に隣接するビルの一室で、身繕いをしていた。ドアの前に次々置かれるトランク等を室内で開けて、部屋の中に機具を設置していく。コンパクトな見た目をしているが、持ち合わす能力は見た目以上である。

例えばグリーン色の背景にマス目状のラインが記された画面には、周囲の地形や生体反応がリアルタイムで反映されるレーダー装置や、指定した建物内にいる特定人物の声の波紋や声質、トーンの変化等を自動分析する音声傍受装置も備えた、最新式の捜査機能を有した機器である。

 

「どうだキャロ。装置の方に問題はないか」

「はい、シグナムさん! 全部バッチシです!」

「そうか」

「あっ、でもやっぱ機動4課の方々の部屋は、傍受が難しそうですよ」

「気にするな。正直向こうに関しては期待していない、次元犯罪者を割り出すことに専念してくれ」

「はい!」

 

元気よく返事をするキャロに頬を若干緩めたシグナムは、窓の外を見つめるフェイトの横に立った。

 

「シグナムったら、少し褒めるのが上達したんじゃない?」

「これでも、背負うべきものが増えてしまったのでな。主人はやてからの命令通り、日々精進しているよ」

「ふふ、すっかり板についたね」

「まだまだだ、アギトには結構手酷くやられっぱなしだからな。だが」

 

シグナムは背後で装置の数値や入力を調整するエリオとキャロを暗にさしながら、育ての親であるフェイトの様子を伺う。

 

「2人とも随分と成長したな。正直、あそこまで調査装置を使いこなしているとは、私も初耳だった」

「うん。自然保護隊ではああいう装置を任されることが増えてきて、一通りはできるようになったみたい」

「どんな感じだ」

「ん?」

「寂しいか」

「んー」

 

フェイトは熱心に装置に取り組む2人の姿を、窓にうっすら写る絵で捉えていた。

 

「でももう大人になってきたしね」

「そうか、もう子離れしたか」

「今はヴィヴィオがいるし」

「ふっ。2人が聞いたら悲しむぞ?」

「もう。そういう意味じゃないよ」

 

「何も、無いといいけれど」

「そこは神のみぞ知る、としか言えんな」

「うん。じゃあシグナム。明日からよろしく」

「ああ。最善を尽くそう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。