呪術って噛まずに言える?   作:定道

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愛ってなんだ?

 

『闇より出でて闇より黒くその汚れを禊ぎ祓え……ねえ硝子、これって何の実験なの? まさかと思うけど悠一が……』

 

 ボイスレコーダーから天使の声が響く、その美しい声に呼応して僕が手に持った呪具の杭から“帳“が拡がる、都内の郊外にある廃工場が夜に包まれて行く。

 

 今日は新一年生二人を連れての任務だ。場所は都内の廃工場、従業員が次々と変死体で見つかって閉鎖された曰く付きのスポットだ。

 

 うん、天使の声で発生した結界の中だと思うと身が引き締まるな、歌姫ちゃんの愛に包まれているような幸福感すら感じる。

 喋れない僕には詠唱による“帳“の構築が出来ない。だからこそ歌姫ちゃんの声を使い、呪力自体は僕の物を使って“帳“を下ろす、僕と歌姫ちゃんの共同作業だ、ふふふ。

 

 もちろん詠唱以外にも“帳“を下ろす方法は存在する、それが出来なくては後輩の引率など出来ないし、1級術師になれるはずもない。

 だが、この方法だと僕のモチベーションが段違いだ。体感で呪力出力が5%ぐらい上がっているような気がする。

 

 家入ちゃんからはいい買い物が出来た、こんな素晴らしい物が10万円というリーズナブルな価格、更に学割りが効いて5万円と言うのだから驚きだ。安すぎて申し訳無い気持ちになる。

 

「虎杖先輩! なんでわざわざボイスレコーダーを使って“帳“を下ろすんですか!? 何か意味があるんでしょうか!?」

 

 元気の良い声で疑問が飛んで来る、良い質問ですねぇ、灰原君。

 

「余計な質問をするな灰原。夏油さんが言っていただろう、この人の奇行は無視した方がいいと」

 

 七海君? 聞き捨てならないなあ……後でネチネチ問い詰めてやるけど取り敢えず灰原君の質問に答えてあげよう。

 

『愛のためさ灰原君。呪術師にとって、とても重要な要素である愛に包まれるためにボイスレコーダーを使うんだ。分かったかな?』

 

「はい! わかりません!」

 

 んんー、元気なお返事だ。

 

 けどしょうがない、一年坊主共が直ぐに理解するのは難しいだろう。1から丁寧に説明してやるか……

 

『しょうがないね、順を追って説明してあげるよ。愛について話をしようか』

 

「いえ、結構です虎杖先輩、手早く指示をお願いします。この廃工場には複数の呪霊が確認されているんですよね、悠長な事をしている暇はないでしょう」

 

 はいはい、聞こえない、聞こえない。僕は日本語ワカリマセーン。

 

 リュックからスケッチブックを取り出す、筆談ノートだと流石に小さすぎるのでこれで愛について教えてあげよう。

 

『明けない夜はない、朝は必ず朝はやって来る。だが、二年生となり、五条が入学して来てからの僕の学園生活は夜の闇と冷たさに耐える様な日々だった。薔薇色だった一年生期間と比べると悲劇的ですらあった』

 

「先輩凄え! 字を書くの早いっすね!」

「呪力の流れが自然過ぎて読めないだと……」

 

『正しい呪術師であろうとする故に、任務によって愛する歌姫ちゃんと引き裂かれる悲しみ』

 

 まさに悲劇、愛故に人は悲しむ……

 

『生意気が服を着て歩いているような五条に、先輩として礼節と常識を教える苦しみ』

 

 屈辱と苦労、常識人の僕にはとても辛かった……

 

『入学当初は素直な後輩だった夏油君と家入ちゃんが、時を重ねるに連れてぞんざいな対応をして来る切なさ』

 

 暴言と無視、僕が優しすぎたのかもしれない……

 

『悪魔の靴を僕に押し付け、京都の学長に媚を売るパンダ大好きムキムキ体罰教師に抱く憎しみ』

 

 権力の腐敗、ムキムキのコビコビ……

 

『貧困にあえぐ可愛そうな僕に、ジュースすら奢ってくれない冥さんやその他先達に感じる失望』

 

 愛なき拝金主義者達、むしろ僕が奢らされた……

 

『実に苦しい一年間だった、歌姫ちゃんと過ごせる蜜月の時だけが僕の冷え切った心を温めてくれた』

 

 歌姫ちゃんと僕が楽しくデートしてる光景を描く、思い出すまでもなく、常に僕の心にある光景をスケッチブック一杯に描く。

 

「うお!? 虎杖先輩絵も上手ですね!」

「はぁ……技術の無駄遣いですね」

 

『だがしかし! 寒さに凍え苦しみに耐える1年間にも意味はあった! 地中で芽吹きの時を待つ種は、困難を乗り越えた分だけ美しい花を咲かせるのだ!』

 

『分かるかい? 困難を乗り越えたからこそ愛は強くなったんだ。共に運命に翻弄され、手を取り合って立ち向かい、僕と歌姫ちゃんの絆はより強い物になったのさ』

 

『灰原君と七海君、人を強くするのは愛だ、人は想い想われる事で成長する。呪術師だって同じなんだ、愛する事と呪う事は紙一重で表裏一体、想いをプラスにするかマイナスにするかの違いでしかない。つまり愛は呪術師にとって力に変換出来る感情なんだよ、人を愛して慈しみなさい、それを理解出来ない呪術師は容易に道を踏み外してしまう』

 

 高専に入学してからの任務の最中、それなりの数の呪詛師を見て来た。

 彼等は歪んでいるが、熱を失っていない者が多い。独りよがりな想いを拗らせた人物が多かった。

 

 そしてとても悲しい事に、僕は現二年生達の育成に失敗してしまった。僕の愛に対する理解が浅かったせいで、三人を間違った方向にへと成長させ、スカルグレイモンへと進化させてしまった。

 だからこそ、新一年生の二人は僕が立派なメタルグレイモンへと育ててみせる。

 

『愛だよ、愛があれば呪術師はメタルグレイモンになれる。君達も愛を育てなさい、今の二年生達は愛を知らないから参考にしちゃダメだよ?』

 

「なるほど! わかりました虎杖先輩! 自分も愛を育てます!」

 

 元気良く挙手して返事をしてくれる灰原君、なんて純粋で良い子なんだろう。愛を知らない後輩共に傷付けられた僕の心を癒やしてくれる素直さだ。

 

「いえ、やっぱり呪術師に愛は関係ないでしょう、それにメタルグレイモンに必要なのは勇気です。愛情だとガルダモンでしょう」

 

 おぉーと!? 七海君はちょっと生意気だなあ!? 理屈っぽい所が夏油君を彷彿とさせる、これは良くないぞ? そのうち夏油君みたく僕にジュースをパシらせる様になってしまう、このイケメンクォーターの後輩を正しく導いてあげなくてはいけない。

 

『だめだなぁ七海君、細かい事を言ってたらモテないよ? 細かい事をグチグチ言うのは女の子にウケが悪い、それじゃあ愛を知ることが出来なくなってしまう』

 

「……なるほど、夏油さんが言っていたのはこういう事か」

 

 なんかため息つかれた……くそっ、少しイケメンだからって調子に乗ってるな? 黙ってても女が寄ってくるから関係ねえよって考えだな?

 

『七海君、君には現在お付き合いしている女性はいるかい? もしくは女性と交際した経験があるかな? 男性でもいいよ?』

 

「いえ、どちらもありませんね」

 

 ふふっ、そうかそうか、それじゃあしょうがないなあ。彼女がいない人には分からないだろうなあ、仕方ないねえ。

 

『そうか、なら愛の大切さが分からなくても仕方ないね。やっぱり、経験の有無ってのは重要だよ、体験した者とそうでない者とでは呪力の核心に対する理解に大きな差があるからね』

 

 可哀想な七海君、本当に憐れだ……知らない感情を怖がっているんだね? 本当は愛を求めているのに……

 

「あっ! そう言うって事は虎杖先輩は彼女居るんですか!?」

 

 ……!! よくぞ聞いてくれたね灰原君、これがねぇ、居るんですよ。世界で一番キュートでプリティなマイスイートハニーが。

 

『もちろんさ、僕には歌姫ちゃんという世界で一番可愛い彼女が居るんだ。僕と歌姫ちゃんは高専で運命的な出逢いをしてね、二人きりの同級生だった僕らはそれはそれは仲睦まじく交流を重ねて行ったんだ。僕は一目惚れだった、歌姫ちゃんも多分そうだね、お互い初めてあった瞬間に運命を感じたんだ。ああ、この人と自分は生涯を共に歩む事になるだろうってね。歌姫ちゃんはね、声の出せない僕の事を優しく気遣ってくれる天使みたいな女の子さ。僕の為にわざわざ手話を覚えてくてね、高速で手記ができる僕には本来不必要なんだけど、今ではそれが二人の愛のハンドサインさ。体罰教師や後輩達の目を盗んでこっそり意思疎通するのはまるで秘密の逢瀬だ、幸せすぎておかしくなりそうだね。それと歌姫ちゃんは僕をデートでカラオケにも誘ってくれるんだ、歌えない僕に変に気を遣ったりしない所が僕と歌姫ちゃんの愛の深さを示しているよね、僕は全力のタンバリンで歌姫ちゃんの歌を盛り上げているよ。僕だけが天使の歌声を聴ける至福の時間さ、世界で一番素晴らしいステージなんだよ。残念だけど君達には聴かせられない、あれは僕だけに許された指定席なんだ、チケットは一枚しか存在しないから諦めてくれ。ああ、そういえば一年の時にはよくスポーツ観戦に行ったな。歌姫ちゃんは野球が好きでね、僕は正直に言うとプロ野球の事については無知だったけど、歌姫ちゃんがそれはそれは丁寧に巨人の素晴らしさをレクチャーしてくれてね、今では僕も立派なジャイアンツファンさ。やっぱり好きな人の好きな物は好きになってしまうよね、同じ物を1つでも多く共有したいと思ってしまうこの気持ちはまさしく愛と呼べるよね、乙女座じゃない僕でもセンチメンタリズムを感じるんだ、愛ってやっぱり躊躇わない事だからね、振り向かない事も重要だけどね。うんうん、一年の時は本当に楽しかったなあ……あっ、僕の誕生日って一応7月7日って事になってるんだけどね、一年の時は歌姫ちゃんが僕にモンブランのボールペンを贈ってくれたんだ、いやあ本当歌姫ちゃんは天使だよねえ、今使ってるこのボールペンがそうさ、これは僕の一生の宝物だよ。毎日少しずつ呪力を込めて強化しているんだ、一生使える様にするためにね、天使から授かった贈り物なんだから当然だよね。あの日からだったなあ、僕が天使に捧げるエンゲージリングを買い始めたのは……本当は一年生の時、歌姫ちゃんの誕生日に渡そうと思ったんだけね。少し怖くなってしまったんだ、代わりに帽子を贈ったよ。気に入ってくれたみたいでスポーツ観戦に行く時は必ず使ってくれている、いやー、感無量だよね。うんうん、やっぱり一年生の時は素晴らしい青春を謳歌できていた。ところがさ、2年生になってからは苦難の日々さ、さっきも伝えたけど任務で一緒になる事がなくなったからね、僕はもっぱらバカ五条のお守りとか単独任務ばっかりになったんだよ、本当に酷い話だ、愛する二人は呪術界に引き裂かれたんだよ。現代のロミオとジュリエット、地上の織姫と彦星、日本のボニーとクライド、呪術界のトムとジェリーだね。だけど会えない時間が二人の愛を育てたのさ、数少ない休日が重なる日には濃密な時を過ごした。時が止まってくれるように願ってもあっという間に過ぎて行く貴重な時間、狂しい程に甘美だった。そうだ、2年生の時の誕生日の話も聞きたいよね、悪魔の靴が僕を惑わしたんだけどさ、歌姫ちゃんはちゃーんと僕の事を考えてプレゼントを贈ってくれたんだ。忙しくてだから誕生日当日に間に合わなかったらしいけど、愛があるなら些細な問題だよね。ほらこれ腕時計さ、僕が任務で拳を振るうとよく手首まで壊しちゃうからさ、直ぐに治すけどね。コレを付けてれば加減するって考えの凄い優しい贈り物なんだよ、歌姫ちゃんの優しさが具現して僕の腕で時を刻むんだ、ゾクゾクするよね。もちろん歌姫ちゃんの気持ちを汲んで左の拳は封印さ、コレも当然呪力で強化してるけど僕の本気には耐えられないからね。戦闘の時には外そうとも考えたけど、やっぱり駄目だったよ、歌姫ちゃんを常に感じていたいから外すことなんて無理だった。でも、それが縛りになって僕の右の拳は更に強くなったよ、コレも愛の力の一端だね。こうして僕の戦闘スタイルが出来上がったんだ、僕を惑わせた悪魔の靴で呪霊を弱らせた所を、天使が教えてくれた愛の拳で打ち抜くって寸法さ。歌姫ちゃんの愛がボクを強くしたんだ、うんうん、感動的な話だよねえ。それでさぁ、歌姫ちゃんの誕生日プレゼントは凄く迷ったんだよ、指輪は5代目に到達していたけど、渡すにはちょっとタイミングが悪いと思ったからさ。歌姫ちゃんの誕生日はもちろん特別で、祝福すべき日で、国民の祝日にした方がいい日なんだけどさ、あの日は歌姫ちゃんが午前中しか時間が作れなかったんだ、実家の用事ならしょうがないよね。僕は婚約指輪はドラマチックでロマンチックな演出の元、一生の素晴らしい思い出になるような渡し方をしたいんだよね。シチュエーションは十通り考えているんだけど、一番安い演出でも六十万は掛るからさ、僕の懐事情も考えて見送ったんだよね。だってさ、歌姫ちゃんとの将来を考えるなら十二分な貯金は必要不可欠だろ? 歌姫ちゃんに金銭面で苦労させるなんて許されないからね、もちろん子供ができた時には十分な教育環境を整えるのも想定しての貯金だよ。僕は子供は3人欲しいと思っているんだけどね、歌姫ちゃんの意見も重要だから、確認するまでは目標金額がはっきりしないんだ。家入ちゃんに3万円で気取られずに聞き出す様に依頼したんだけど、音沙汰が無いんだよね、歌姫ちゃんは恥ずかしがり屋だから聞き出すのに苦労してるのかなあ? 君達はどう思う?』

 

「え、えーと……」

「灰原、虎杖先輩の言う事は3割ぐらいしか真実が混じっていないから、真剣に考えない方がいいらしい」

 

 クソっ、夏油君め……なんで僕の育成の邪魔をするんだ? 嫉妬か?

 

 ……あっ、寄ってきたか、丁度いいな。二人に愛の力を見せてやろう。

 

『灰原君、七海君、呪霊共が寄ってきた。僕が愛の力を実践するからそこで見学していなさい』

 

「うえっ!? 気付かなかった……」

「……囲まれてますね、恐らく準1級相当の呪霊も混じっている……本当に一人でやるつもりですか?」

 

『君達のために少しだけ残すよ、よく見ててね』

 

 灰原君はともかく、七海君には完全に侮られているなあ……でも任せてくれるのは1級術師って所は信用してくれているのかな?

 

 えーと、全部で六体か……二体だけ彼等の練習用に残して始末しよう。

 

 ――僕は人を愛する、決して呪う事はしない。

 

 誓いの言葉を飲み込み、呪力を全身に巡らせる。止まること無く循環させた呪力が僕の身体を活性化させて強化する。

 誓いによって僕の呪いは愛へと昇華する、僕が人を害する呪霊を祓う時の感情は、憎しみではなく愛だ。

 呪力の根源が負の感情なのは間違い無い、だから僕は憎しみを反転させる、憎しみの裏側には必ず愛が存在する、僕の術式、僕が捉える世界ではそうなっている。

 

 ――愛を持って祓う、愛を持って振り抜く。

 

 大地を蹴る、強化された脚は僕の身体を刹那で呪霊の元へと届ける。まずは危険な準1級の呪霊、強化された感覚で捉えた呪霊の表情は嫌らしい笑みを浮かべたままだ、僕の速さを知覚出来ていない。

 

 ――愛よ、黒い火花を散らせ。

 

 高速移動の勢いを乗せ、呪霊の身体の中心に右手を振り抜く。僕の身体を巡る愛による呪力を愛が導くままに乗せて、百万分の一が愛によって必然へと変化する。

 

 ――黒閃。

 

 一体目の呪霊が爆ぜる、養父に仕込まれた重心移動で身体を制御し、二体目の呪霊の頭に蹴撃を放つ。

 

 ――黒閃。

 

 軸足を回転させて反転、強化された肉体で飛び上がり、3体目の呪霊の頭上に拳を落とす。

 

 ――黒閃。

 

 呪霊達が異変に気付く、だが奴らは音がした一体目の方向に意識をむけている。低い体勢のままに地を這うように移動し、4体目に地面からの蹴撃を放つ。

 

 ――黒閃。

 

 残りは二体、今頃迎撃の体制を取る5体目の背後を取る、振り向き様に右の裏拳を……てっ、危ねえ!?

 

 何とか裏拳を寸止めにする、ギリギリで拳を止めて灰原君と七海君の元へと急いで移動する。

 

 いやー、全滅させる所だった、危ない危ない。

 

 せっかく任務に来たのに一匹も呪霊を殴れないなんて可哀想だもんね、愛と優しさを兼ね備えた僕はちゃんと獲物を残しますよ。

 

『どう? 愛の力は参考になったかな? 残りの二体は恐らく準二級相当だ、君達も出来る範囲で愛を意識して戦ってみようか』

 

 ん? 返事ぐらいしてくれよ、悲しいだろ……

 

「……凄え! 虎杖先輩本当に1級術師なんですね!」

 

 えっ、信じてなかったの!?

 

「今のは……黒閃ですか? まさか狙って起こしたんですか?」

 

 おいおい、勘違いしてるぞ七海君。

 

『何を言ってるの七海君、黒閃は狙って出せる現象じゃないよ』

 

「はっ? じゃあ今の黒閃4発は偶然ですか?」

 

『違うよ、偶然じゃなくて必然だよ』

 

 七海君は分からず屋だなあ。

 

「……すみません、おっしゃる意味が分からないのですが」

 

『だからさ、今の黒閃は歌姫ちゃんの愛が僕にもたらしてくれた必然なんだよ。愛の導くままに身体を動かすんだ、狙っちゃ駄目だよ、愛は気付いたらそこにあるものさ。考えるな、感じろ』

 

「愛ですか! 分かりました! 俺も地元の彼女を想って戦ってみます!」

 

 はあ!? 一年生の癖に彼女持ちだと!? 僕は去年のクリスマスにようやく歌姫ちゃんと正式に交際出来るようになったのに………

 

 あまりの悔しさに片膝を突く、僕も一年生の時点で歌姫ちゃんと付き合えていたら……うぅ……会いたいよぅ……

 

「……なんで悔しがっているんですか虎杖先輩、もしかして庵先輩が彼女って言うの貴方の妄想なんですか?」

 

『なんて酷い事を言うんだ! それじゃあ僕が頭のおかしい勘違い野郎じゃないか!』

 

「いえ、庵先輩とはまだ挨拶程度しか交流がありませんし、一方の証言を鵜呑みするのは危険かと思いまして」

 

 おかしいなあ……なんでこんなに疑い深いんだろう? このままじゃ灰原君はともかく、七海君は愛を知らないスカルグレイモンになってしまう……

 

「ですが先程の動きは参考にさせて貰います、ためになる物を見せて貰いました……灰原、行くぞ」

 

「おう! 七海、俺達も格好良く愛を決めてやろう」

 

 呪霊へと向かって行く二人、拙い所もあるけど呪力の流れの思い切りがいい。一応手本にはなれたようだ、可愛げのある後輩で嬉しい。

 家入ちゃんはともかく、五条と夏油君は可愛げが皆無だ。元々が強すぎるから教えがいがない、僕が愛について語っても煩いと文句を言う始末だ。

 

 そして、二人は怪我する事無く呪霊を祓えた、だけど一度では流石に愛を理解するのは難しかったようだ、黒い火花は散らなかった。

 

 灰原君はカラッとしていたが、七海君は結構悔しがっていた、可哀想なので帰りに飯でも奢ってあげよう。

 

 そうだな……最近出来た都内のおにぎり専門店でも連れて行ってやろう。

 

「いえ、自分はパン派なので結構です」

 

 か、可愛くねえ……西洋被れのクォーターめ、米を食え米を。

 

 

 

 

 

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