遊園地に遊びに行ったら怪しげな取引き現場目撃したったwww   作:香椎

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『月影島に旅行に行ったんだけど……』スレの裏(というより表)で起きていたストーリーです。
三人称視点ですので、どうぞ悪しからず。


『ARIGATONA、CHIISANATANTEISAN。』

「毛利探偵はここにいらっしゃいますか」

 

 

島で殺人事件が起きた翌日の午後6時頃。

朝方警察が島に到着するまで起きていた江戸川コナン、毛利蘭、浅井成実(あさいなるみ)の三人は眠気が漂う中訪問者に目をむけた。

開かれた扉から入ってきたのは20代後半から30代前半くらいに見える男で、服装はスーツの上にジャケットを着用している。帽子を深く被っているため表情は窺えず、けれど眼鏡の奥から覗く鋭い眼光はたしかに彼を射竦めていた。

 

「……あの〜、お父さんに何か御用ですか?」

 

自身の父の代理として、蘭が代わりに問いかけた。

 

「いや、大した用事じゃないんだが……不在か?」

「小五郎のおじさんならあっちの部屋で事情聴取をしてるよ」

 

その言葉に男は眉を顰めて、髭の生えた顎に手を当てる。しばらく考えるような仕草を取ると、そうか、と呟いて踵を返した。

 

「ねぇ、ちょっと待ってよ!おじさんにいったい何の用なの?」

 

あまりに不審な行動に、コナンは男を呼び止める。

わざわざ探偵に話があるということは、もしかしたら事件について知ってることがあるのかもしれない。ならば、今聞き出すのが得策だと考えていた。

 

「……だから、大したことじゃない」

「えー、なら教えてくれてもいいじゃん」

「コ、コナン君…」

 

蘭が止めようとするが、尚もコナンは引き下がらない。

彼は工藤新一として、何としても次の犠牲者が出る前に謎を解き明かしたい。だから、どんな些細な情報でも事件に関係するのなら聞き出しておきたかったのだ。

 

「本当に大したことじゃないんだ」

 

そんなコナンの様子に男は諦めたのか、ため息をついて一言言った。

 

「二人目の犠牲者が出る前に、ただ話がしたかっただけだ」

 

その言葉に目を見開く三人。

ぽつり、と静かに成実が声を漏らす。

 

「次の犠牲者……」

 

コナンの予想通り、話というのは今回の事件に関するものらしい。

たとえ本人が大したことではないと言っていようと、事件に関係する事は少しでも聞き出しておくべきだろう。

だが、コナンはそんな彼を訝しんでいた。

 

「ねぇ、なんでお兄さんは他にも誰かの命が狙われてるってわかるの?」

「え?」

 

コナンの言葉に首を傾げたのは蘭だった。

どういうことかと問う視線に、コナンはキザったらしく笑ってみせた。

 

「おかしいんだ。お兄さんはおじさんに届いた手紙も見ていないだろうし、今までこの場にもいなかった……それなのにこの事件はまだ終わっていない、次の被害者が出るって何でわかったのか謎なんだ」

 

「たしかに……」

「そういえば…」

 

言われてみればたしかにそうだ。

現時点で新たな犠牲者が出る可能性を知る方法は限られている。

一つは毛利小五郎宛に届いた手紙。

一つは今回のこの事件がベートーベンのピアノソナタ「月光」に準えたものであるということ。

 

毛利小五郎宛に届いた手紙は当然小五郎が管理しているので男が読んでいるわけがないし、事件が起きたのは法事をしている最中なので現場にいなかった男が流れていた「月光」を聴いた可能性もない。

そして次の犠牲者が出るという話が分かったのは昨日の晩のことで、知っているのはここにいる人達だけだ。人伝に聞いたという線もないだろう。

 

「なんで知ってるのか教えてくれる?……お兄さん」

 

追い詰めるような、そんな視線でコナンは男を見た。対する男はやましいことなど一切ないと、汗一つ垂らしはしていない。

そして優しく、親が子に諭すような声色で男は話を切り出した。

 

 

「……犯人の目的が復讐だからさ」

 

 

「「「え?」」」

 

三人の声が重なった。

目をパチクリとさせる三人を無視して、男は話を進める。

 

「実は君達が寝ている間に私も公民館に行ってね…そこで警察が持っていた楽譜を見たんだ。それでピンときたんだよ」

「もしかしてあの暗号の意味がわかったんですか!?」

「あぁ……4段目だろう?解き方さえわかれば簡単さ」

「ど、どういう意味だったの!?」

 

これは思わぬ収穫だ、とコナンは興奮気味に男に詰め寄る。

まさか、あの暗号を解いていたなんて。先に解かれたことが悔しくある反面、事件を解くための鍵をいち早く手に入れられるのならそれに越したことはない。

男は携帯を取り出すと、そこに写ってる譜面を見せながら解説する。

 

「ピアノの鍵盤の左端から順にアルファベットを当てはめていくんだ。フラットとシャープは黒い鍵盤だな。それで譜面を読むと「わかってるな、次はお前の番だ」となる。解き方さえわかればなんてことはない暗号だ」

 

「な、なるほど……」

 

感心する蘭とは相対的に、コナンは内心焦っていた。

手紙の内容も、一連の騒動も、それが事件が続く確証としては弱かった。だがどうだろう。現場に残されたこの譜面は、被害者が今際の際に書けるようなものではない。犯人が事前に用意していたものだ。

不確定要素が確定に変わることは、事件が進むと同時にさらに謎を生む。

 

「やっぱり、誰かが狙われていることは確かだよ蘭姉ちゃん!」

「うん、すぐにお父さんに知らせないと!」

 

蘭とコナンは別室で事情聴取をしている目暮警部と小五郎に伝えに行った。これが事件解決の糸口になればいいのだが。

 

その様子を見送って、男は椅子に腰掛けたままの浅井医師に話しかけた。

 

「そうだ、女医さん。君に見てほしいものがあるんだが……何、時間は取らせない。ちょっとついてきてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高台にある役場を出てすぐに見える浜辺を二人は歩いていた。

だが二人の間を漂うのはロマンチックな雰囲気などではなく、一歩間違えば死に踏み込む地雷原を歩くような緊張感に似ていた。

もうじき潮が満ち、ここらを歩くこともできなくなる。この場所を選んだのはそうなる前に話を終わらせる、という意味が含まれているのかもしれない。

 

「……浅井さん、単刀直入に言わせていただきます」

 

丁度役場の真下、岩陰で高台からは姿が見えない所で男は立ち止まりそう言った。

浅井医師は訝しみながらも、続きの言葉を促す。その結果、ついて来たのを後悔することになるのだが。

 

 

「自首してください」

 

 

ドクンッ──と心臓が跳ね上がったように感じたことだろう。実際にそうだったのかもしれない。

なぜ、自分に自首を勧めてくるのか。そもそもなぜ、こんな人気のない場所に呼び出したのか。

浅井医師は疑問が飛び交う頭を振り切って、動揺を表に出さないよう浅井医師を演じる。

 

「えーっと、自首ってどういうことでしょうか?まさか、今回の事件の犯人が私と疑ってるんですか?」

「えぇ、まぁ……疑っているというよりも、すでに確信しているんですが」

 

疑っている、のではなく確信している。それはきっと、確信たる情報を入手したからに他ならない。

一瞬驚きこそしたが、ここでボロを出すような浅井成実ではない。この復讐を止めさせはしない。

 

「……あなたはあの場にいなかったからわからないかもしれませんが、被害者は体格のいい男性で、海で溺死させられた後ピアノ部屋に運ばれたんですよ?そんなこと、私にできるわけが……」

「そうですね。もっとも、あなたが女であればの話ですが」

 

今度こそ、浅井成実は動揺を隠しきれなかった。

いったいいつ、どこで、なぜバレたのか。

この島ではずっと浅井成実として過ごしてきた。バレるとするなら、着替えのシーンを覗かれるくらいだろう。

しかし、殺人事件が起きてから風呂はおろか着替えすらしていない。ならばいつ知れるというのか。

 

そしてそれ以上に謎なのは、無関係の人間がどうして自分に自首を勧めるのか。単に証拠が掴めていないのか、この復讐を知って止めたいお人好しか……おそらく前者である可能性が高い。

ならば、と浅井成実は思案する。

証拠がないのならシラを切り通せばいい。もし有ったとしても彼をこの場で殺せば済むだけのこと。

どちらにせよ、この復讐が終われば自分は死ぬつもりだ。無関係な者を手に掛けたくはないが、この復讐だけは止められないのだ。

 

「……あなたの思っているように、私はあなたが犯人である証拠は一切持っていない。知ってるのはあなたの性別が男で、目的が復讐であることだけだ」

「なら……!」

「なぜ呼び出したのか。それも概ねあなたの予想通りで、それができる確証が有った」

 

男は羽織ったジャケットの中から紙の束を取り出すと、身構える浅井成実に──否、麻生成実(あそうせいじ)の前に突き出した。

 

 

「まだ引き返せる。俺はそれを伝えに来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漣の音が繰り返して聴こえる。

二人の間に流れる沈黙は深く、耳を澄ませば地球の回転する音まで聞こえそうだ。

 

麻生成実は渡された楽譜を静かに読んでいた。ひとつひとつが暗号である分、普通の手紙を読むより時間がかかる。それでも、父が自分に宛てた手紙に違いはなく、読む最中悔しそうに唇を噛んでは拳を握りしめていた。

 

次第に紙の擦れる音が聞こえなくなる。どうやら最後の一枚を読み終えたようだ。

 

「……お父さん」

 

呟かれたその声は虚しくも波の音にかき消され、されどその場にいた男にはハッキリと聞こえていた。

男は彼に目をやると懐から煙草を一本取り出して、先端を燻る。

 

 

──麻生成実は泣いていた。

 

 

彼はきっと後悔している。父の遺した言葉を、全うできなかった自分に。

 

「……ありがとうございます」

 

少し落ち着いて、成実は男に礼を告げた。

彼は憑き物が落ちたように、澄んだ顔をしている。それでも、曇りが完全に消えたわけではない。

 

「ほんの少し後悔しています。この楽譜をもっと早く見ていれば……そもそも父の死を不審に思わなければ……オレはきっとこの手を汚さないで良かったのかもしれない。……なんて、血で汚れたこの手じゃもう遅いか」

 

今見えてる星は何万年前の光だろうか。こんなに近くに見えるのに、実際はずうっと遠くにある。

成実は空に浮かぶ星に手を伸ばすが、けして届きはしない。いつか、届く日が来るのかもと。

 

 

 

「それは違うよ!!!」

 

 

 

その言葉は誰から発せられたものだろうか。少なくとも、この場にいた二人ではない。

見れば、そこには小さな探偵が息を切らして立っていた。

 

「それは違うよ、成実さん……まだ遅くはない!」

「コ、コナン君、なんでここに……それに、オレの名前……」

「成実さんがいなくなったから蘭姉ちゃんとおまわりさんとで手分けして探し回ってたんだ。そこの人と一緒にいなくなったから、もしかしたら……って考えて」

 

失礼な話だ。と男は思うが、格好とタイミングからして疑われても仕方あるまい。

一応それはわかっているのか、男は口を挟まず静観に徹している。

 

「その時一緒にいた島のおまわりさんから聞いたんだ。麻生圭二には息子がいたこと、彼が麻生圭二の遺した楽譜を持っていったことを」

 

コナンは男の行動から、楽譜に書かれているだろう内容には察しがついていた。

だからこそ男がいったい何のために動いているのか、それだけがわからなかった。

暗号は誰にでも解ける。復讐を止めようというのもわかる。だけど、そもそもなんでこの事件を調べているのかがわからない。

単なる好奇心なのか、それとも同業者(探偵)なのか。いずれにせよ彼は、不審な点が多すぎる。

ゆえに成実のあの言葉が聞こえて、砂浜の上を急いで走ってきたのだ。もしかしたら、罪がバレて自殺するつもりではないのか。それを目の前の男は止めないのではないか。そんな不安を募らせて……。

 

「だから、あのね……」

 

少年のまっすぐな目が成実を射る。

その様子が少し可笑しくて、成実は小さく笑った。

 

「え……?」

「あはは、心配してくれてありがとう……けどもう大丈夫だ。オレはしっかりと罪を償うよ」

 

成実は男のほうへ振り返った。

相変わらず表情は窺えないが、こうして自分のために尽くしてくれたことを考えると少し嬉しく思う。そう思うこと自体が、間違いだと知っていながら。

 

「じゃあまたな、探偵君」

 

成実は役場に戻るため歩き出した。

彼は一歩、一歩と砂利を踏む。これから、自身の犯した罪を告白するために。

 

「成実さん!!」

 

その背中に呼びかけたのは他ならないコナンだった。

急に声を張り上げられたため、成実は驚いて振り返る。対するコナンの態度は声を張り上げたとは思えないほど冷静だった。

 

 

「……12年前のことは任せて」

 

 

「そうか……頼んだよ」

 

今度こそ、成実は歩く。後の事は小さな探偵に任せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場に残ったのは二人だけ。

突然役場にやってきた謎の男と、そんな彼と消えた成実を心配して探しにきたコナン。

 

「……早く戻るぞ。潮が満ちれば、波に攫われてしまう」

 

とにもかくにも、早くこの場を離れなければならない。潮が満ちては、我が身が危険だ。

だがコナンは男の言葉を無視してその場に留まった。否、留まって聞きたいことがあった。

 

「ねぇ……お兄さんは何者なの?」

 

自分が事件を解決するよりも早く、この事件を終わらせようとした相手にその疑問は尤もだ。

 

麻生成実の様子を見てから胸につっかえているわだかまりのようなもの。

彼はすぐにこのモヤモヤを取り除きたかった。

きっとこの質問の答えこそが、それを取り除いてくれると信じて。

 

「何者だっていいだろう……君こそ、本当にただの子供なのかい?」

 

その切り返しに思わずギクッとなる。

自分が追い詰めようと思えば、逆に追い詰められそうになっていた。

 

 

「……江戸川コナン、探偵さ。……って言っても小五郎のおじさんの真似をしてるだけだけどね、あはは……」

 

 

誤魔化すように、コナンは乾いた笑みを浮かべながらそう名乗った。

そしてこれ以上余計なことを聞かれてボロが出ないよう、すぐに男への質問に戻る。

 

「ねぇ、本当はお兄さんも……」

 

その先の言葉は高く打ち上がった波の音によって消された。

 

「探偵なんて、そんな大それたものじゃないさ」

 

もう足元まで迫った波から逃れるように男は歩き出した。

コナンもそれを追いながら彼の言葉に耳を傾ける。

 

「謎を解くことに囚われて、それで犯人をあの世に逃したら、きっとそれ以上に悔いることはないからな……」

 

不意に吹いた風が、男の深く被っていた帽子を持ち上げた。

男はすぐさま被り直したが、その一瞬に見えた彼の目は悲しんでいたように思う。

 

 

「その十字架は俺には重過ぎる。後は任せたぞ、小さな探偵君」

 

 

男が宿に戻っていく様子を、コナンは黙って見送ることしかできなかった。呼び止めることも、追いかけることもなくただ黙って……。

それでもなぜか、胸のわだかまりはなくなっている。

ならば彼のことは後回しでいいだろう。

まだ事件は終わっていないと、コナンは小五郎と警部のいる役場に向かって走り出した。

 

今回の事件を憂うような、海が奏でる寂しい音色を聴きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、毛利探偵事務所に一通の手紙が届いた。

……もちろん、譜面に書かれた暗号で。




そういうわけで今回のタイトルに戻ります。

ミスリードではないので一応言っておくと、今回の話に登場する男は紛れもないイッチです。リアルだとこんなもんです。
どうでもいい話、思いついたら書くというスタイルでやっているので深い設定を用意しているわけではありません。ですが一応、主人公の過去を振り下げれるようにはしていきます。誰が興味あるのかはわかりませんが()

(ちなみに主人公の絵を描いたりしてた。載せるかは知らんけど)

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