めっちゃモテます。
体質だそうです。
あ、いつもはもっと砕けた口調です。
TPOです。トッポです。
ということで、仲間全員の脳天にチョップ入れてくる。
男女混合パーティーというのはいざこざが絶えないらしい。
理由は分かる。よく分かる。三角関係の構築なんて容易だろう。三角どころかペンタゴンくらいは出来てもおかしくない。
とはいえ、その人間に性格にも影響するとも思う。
うちのパーティーで言うなら、男1女3という男にとっては夢みたいな構成だが、うちでただれた夜の夏の大三角形が構成されているかというと、そうではない。
「ねえ、アレク。このあと私と買い物に――」
「いえ、アレクさん、私と――」
一仕事終えて、帰路に着く途中。
美少女二人に寄ってたかられているのが、我がパーティーのリーダーであるアレク君だ。爽やかハンサムボーイで、いつか採掘機の先端に取り付けてやりたいくらいにモテる。
「ちょっと待ってくれ。二人とも正気に戻ってくれ。頼む!」
そんなアレク君の必死の訴えも叶わず、我がパーティーの美少女二人はどんどん詰め寄っていた。俊敏で器用に立ち回るスラっとした体形の美少女レイヤに、守ってあげたくなるオーラが天上世界に達している回復術師ミィルである。かわいい。
「リズぅぅぅー、助けてくれーー早くーー」
呼ばれてしまった。
もう少しこのまま堪能してても良かったのだけれど、アレク君がギブアップだそうだ。巷では勇者なんて呼ばれることも増えてきたのに、実際のところはとんだ根性無しだ。男ならしっかり美少女侍らせるくらいのことはしてほしい。
「リズ、早くっ、早くっ」
「えー」
「頼む、頼むよ! そろそろ理性が――」
美少女二人に胸を押し付けられ詰め寄られてるせいか、視線を少し下げるとアレク君の下半身部分に膨らみが見られた。
「そいや聞いたことがあるんだが、英雄は花を好むという言葉があって」
「い・い・か・ら!」
「はいはい」
そろそろ本当に限界みたいなので、"魅了"にかかってしまった仲間を助けに行くことにする。別にむつかしいことではない。
二人のそばまで近づき、
「せいっ!」
斜め四十五度! チョップを打ち込む!
「せぇい!」
二人が頭を押さえる。
「あいたー」
「あうっ」
その隙にアレクくんは勢いよく距離を取った。
「二人とも正気に戻った?」
頭痛がするのか頭を抑えつつ、しかめ面をしている。原因はチョップじゃなくて魅了解除のせいだって、いつも思うことにしてる。
「あ、ありがとう。またかかってたわ」
「リズちゃん、いつもごめんね……」
どうやらちゃんと解けたみたいで、いつもの笑みに戻った。良かった良かった。美少女に何度もチョップ入れるのは心が引ける。連続となるとこっちの心が持たない。
とかやってると、距離を取ったアレクが二人を避けるようにぐるっと回って、"私"に、近づいてきた。
「その、本当にすまない……」
「いいって。誰が悪いって話じゃないし」
「しかし……」
アレク君はすっかり落ち込みモードになっている。
まあ無理もないだろう。何度も何度も繰り返したことだ。
それもこのアレク君の『近づくだけで異性に惚れられる』というとんでも体質が原因だ。別にアレク君が悪いわけではない。同じ"男"として、あの状況で我慢し続けられるというのは正直尊敬に値する。夜に夜這いをかけられ呼ばれたことも少なくない。美少女のあられもない姿を見れて、役得だったがアレク君は信じられないくらいの渋顔だった。きっと色々堪えてたんだろう。ちなみに宿屋の人には多めに払っておいた。
アレク君は真面目なので、気にしすぎるところがある。そんな時、励ますのはいつも私だ。別にこれは私が特別優しいとかそういうのではなく、単純な理由がある。
「大丈夫。魅了してしまう体質があるなら、その反対の効果を持つ道具もあるって」
「リズ……。君には本当に助けられる」
「よせよ。仲間だろ?」
「そう、だな。仲間だよな。――絶対に、絶対に手は出さない」
アレク君の顔が魔王城にでも乗り込もうかという決意めいた表情になった。個人的には手を出してもいいと思うんだけどな。見たいし。
「でも不思議だよな。俺のこの体質がリズには効かないなんて」
「うーん、まあ、そうだな。そういうこともあるよ。うん」
「こんなにも可愛らしい女の子なのにな」
そう、"私"は女の子なのだ。か弱い魔法使いである。しかしアレク君の異性を魅了する体質の効果は受けない。その理由は分かってるけど、内緒にしている。というか言えるわけがない。私リズという人間が女の子の肉体に魂が男が入っているだなんてこと。こんなことがバレてしまえば、一緒にお風呂入れなくなってしまう。女湯に入るとき厳しい視線を受けること間違いなしである。そして、もちろん男湯にも入れない。十八禁展開の前に、普通につまみだされる。
よって美少女が絡み合っている光景は実に素晴らしいし、それに耐えているアレク君も男として好感が持てる。そんな状況を維持したい。
しいて愚痴るなら、「可愛い」と褒められても嬉しくないのでそのへんだろうか。
「可愛い女の子って言われてもなぁ」
「嘘じゃない。本当だ」
「何、口説いてる?」
「いや、違う。そういうんじゃないんだ」
ハンサムがクソ真面目顔で否定するとそれだけで絵になる。
今まで死ぬほどモテてきたわけだし、半分男みたいなやつをわざわざ口説かないだろう。口調とかあまり取り繕ってないし。
「――君のおかげなんだ」
手をぎゅっと握られる。おい、プロポーズみたいになってんぞ。
「君に出会うまで、僕はずっとひたすらモテまくるやつだと思っていたけれど、それがただの体質だと分かったのは君のおかげなんだ」
「……全世界の男に謝ろうな? 多分すっごい怒ってる」
「ごめんなさい。――ってそういうのじゃないんだ。もう僕は君なしでは生きていけないということが言いたいんだ」
「やっぱり口説いてるじゃんか」
「あ、そうじゃない。そう聞こえてもおかしくはないけれど、そうじゃないんだ」
なんか長くなりそうだし、距離をとっていた二人に手招きをする。会話がちゃんと聞こえる位置に来てもらうことにする。
「正直に言うと、レイヤとミィルのアプローチはかなりぐっと来る。後でこっそり処理するのが大変なくらいだ」
「「「うわぁ」」」
聞きたくなかったなぁ。
呼び寄せたことを一瞬で後悔することになるとは思わなかった。
「ぶっちゃけ女の子すっごい好きだし、夜這いとかされると、かなり理性がやばいんだ」
「う、うん」
「俺はめっちゃモテるし、好きなタイプをえり好みしようと思ってたんだ」
「まあそれは分かる」
「でもモテるのは体質のせいだと分かって、俺は恥ずかしくなったんだ。なんて愚かで傲慢だったんだろうかって。俺はゴミみたいなやつだって」
「そこまで?」
真面目をこじらせるとこうなるらしい。神様もびっくりだと思う。
握ってきていた手が離れたかと思うと、両肩にがっしりと置かれた。顔の距離がすごく近い。そして宝石のような純粋な瞳で見つめてきて――。
「偽物の愛じゃあ駄目なんだ」
「偽物の愛」
愛、つまりアガペー。
「きっとこれは真実の愛を見出せという神の試練なんだ」
「真実の愛」
神様神様、ハンサムこじらせると真実の愛を見つけだすそうです。早く試練を与えてあげてください。あがぺー。
ていうか、ただの仲間に至近距離で言うセリフじゃないよね。一応この体は女の子なんだけど。どっからどうみても魔女っ子なんだけど。ロリ枠の境界線上をがに股でまたいでるというどっちつかずな存在なんだが。無自覚ホモか? だったらパーティーのメンツ変えないといけない。
「いっそパーティー再編して、男だけにしてみるのは?」
「駄目だ! ここまで一緒に冒険してきた仲間と離れ離れになるなんて出来ない! しかも皆めっちゃ可愛い!」
「おい」
ホモなのかそうじゃないかハッキリしてくれ。
「俺はこの旅でこの体質を改善する。――そして真実の愛を見つける!」
「「「きっつ」」」
ホモを拗らせるとこうなるらしい。「いやーモテすぎて困るわー」って、一度言ってみたい男性諸君に是非見てもらいたい光景だ。一人の男が真実の愛について語りながら、本気で探しに行こうとしてる。筋トレでもしていてくれ。
まあ可哀そうだし、協力してやらんではないけどさ。
二人もそうだろうかと確認すると、レイヤとミィルの二人も同じようで、頷きながら近寄ってきた。
「アレク、私は協力するよ。真実の……、その、愛とかはちょっと恥ずかしいけど」
「レイヤ……」
「もちろん私も手助けします。その、真実の、そのアレは、そのアレですけど……」
「ミィル……」
いやー良い仲間を持ったなアレク君。心なしか、魅了にかかってる時より二人の顔が赤いけどそこは突っ込まないことにしよう。
「で、その、リズは……?」
「そりゃ行くって。ていうか私が行かないと、二人とも魅了かかったら解けないままだし」
「――ありがとう! 本当に!」
「ぁぐあ」
がっつり抱きしめられた。痛い。
近距離戦士は後衛魔術師のひ弱さを知らないらしい。電撃でも流してやってもいいが、馬鹿だし憎めないから心が引ける。あと多分潜在的ホモなんだと思う。可哀そうに。
だいたいこのパーティーにいると、恋する美少女が見続けられるから役得なんだよね。この状況も、いい感じに嫉妬とかしてくれたらバッチリなんだけ、ど――。
あれ?
「……そいや二人とも平気みたいだけど、なんで?」
「え?」
「あれ?」
互いで見合う二人。
「なんていうか、そのちょっとアレなところあるんだなって思ったくらいで」
「私もそうです。思ってもみなかったアレがアレだったので」
なるほど?
なるほど???
あ、何か分かったぞ。
「これは仮説だけれど、アレク君の魅了は好感度を上げるようにして作用するんじゃないかな?」
「というと?」
「先に好感度下げておけば、魅了にかかってももある程度の範囲で止まってくれるんじゃないかと思って」
「なるほど。……いや、それだと何で俺の好感度が下がってるのかが説明つかない」
「二人ともさっきのぶっちゃけトークで結構引いてたから、それだと思うぞ。ちなみに私も引いてる」
ここまではっきり言ったが、当のアレク君はよく分からないといったように首を傾げた。
「さっきの? うーん、女の子はよく分からないな」
何でだよ。鈍感系主人公でもそのタイプのはいなかったよ。だってただの馬鹿だもの。難聴でも勘違いでもない、ただの馬鹿なんだもの。
「しかしそれが本当だとすれば、皆嫌われればちょうどよくなるということになる。――っそうか! そうすればいいのか!」
「止めなさいよ。私、別にアレクのこと嫌いたくないわ。それも私だけじゃない」
確かにその通りだ。ミィルと一緒にアレク君に向かって頷く。
「でもこのままだと皆の心を無理矢理……」
それでも無駄に真面目なアレク君は整理がつかないらしい。好感は持てるけど、そろそろ切り替えてほしい。
……多分私だけじゃなくて、他もそう思い始めてるはず。
「何言ってるんですか。今までだって私たちは魅了にかかっていましたよ。でもアレクさんは軽率な行動はしませんでした。ですからこれからだって大丈夫ですよ」
そら見たことか。
「ほらミィルだってそう言ってるわ。何なら魅了されて手を出されたからって、別にあなたを恨まないわ。アレク、あなたはあなたが思ってるより良い人よ。とても誠実で、思いやりがあって――」
「ぬわっ」
アレクにがっしり掴まれた。
「うわぁぁぁ! 言ってるそばから!!」
揺れる、揺れる。世界が揺れる。
「リズぅ! リズぅ! 早く、早く二人にチョップしてくれ!!」
「失礼ね! ちゃんと正気よ! 何? あんた、ちょっと褒めたら魅了されてる扱いになっちゃうわけ?」
本当に失礼だと思う。そして揺れで吐きそう。
「――っは! す、すまない。つい……。ああ、やっぱり俺なんか駄目駄目なんだ……。仲間の真意すら疑ってしまうだなんて。こんなんで真実の愛なんて見つかるわけがない」
「そんなことないですよ! 真実の、その、愛だって! その、きっと見つかりますよ!」
ミィルの励ましを聞いたアレクの顔が安心した表情になった思いきや、すぐに怯えた表情に変わり、そのまま私のお腹のあたりに顔をうずめてきた。
「うわわわ。リズぅー、リズぅー。早くー」
名前呼びながら顔を擦り付けてくる。
その、なんていうか、位置が。その、めちゃめちゃセクハラなんだけど。
「いい加減にしろ」
とりあえずアホ頭に拳骨を落とし、
「言ったそばから疑うなよ」
引き離す。
重い。非力な魔法使い舐めんな。
真面目で良いやつだがこじらせるとこうなるらしい。クソ野郎だったら遠慮なく暴言の一つも言えるのだけれど、いつもは良いやつのせいでどうにも憎めない。だからといってセクハラされ続けるのも許容は出来ない。
「ほら、よく見ろよ。皆、普通だろ?」
顔を上げたアレクは私たちを見ていた二人を見ると、はっと気づいた顔をした。
「――何てことだ。俺はまた仲間を疑ってしまった。これじゃ嫌われて当然だ……」
嫌われては無いと思う。ちょっと引いてるだけで。どちらかというと多分お前の好感度が一番下がったのは、セクハラ被害にあった私だと思う。それでも普段のこいつを知ってるから、嫌いにまではならない。
「まぁ、とにかく落ち着けよ。皆嫌ってないって。少なくとも私は嫌ってないぞ」
「そ、そんな――。リズまで魅了に……」
斜め四十五度!!
「あいたぁ!」
会心の一撃!!
「っ何で叩くんだ……って、そうか、やっぱりリズは大丈夫だったのか。――すまない。俺はまた仲間を疑ってしまった……」
顔を手で覆い、目に見えて落ち込みだした。馬鹿だこいつ。もうすごい馬鹿だ。いきなりステータスオープンとか言い出したら、Lvの横に馬鹿って書いてるに違いない。
「もうこんな俺なんか皆嫌ってくれ。どうせ人の心を惑わすクズのような存在なんだ。生きていたって害しかない。ささくれみたいなやつなんだ」
さすがに言い過ぎだと思う。ブルーになるの通り越して深海まで潜っちゃった。
「ちょ、ちょっとアレク。気を取り直してよ。さすがに言い過ぎよ」
「いいんだ。俺なんかクソ虫みたいな存在なんだ。クソ無視してくれていい」
「うわ、おやじギャグ」
「こんなアレクさん見たくなかったです……」
だんだんフォローが出来なくなってきた。
「ぁぁ。皆が俺のことを蔑みの目線で見ている」
そりゃ、これまで積み重ねた好感度という積み木を蹴り飛ばしてるからな。
「――そうだ、これが当たり前なんだ。俺はこうなるべきなんだ」
急に立ち上がったかと思うと、輝きだした。
「皆! もっと俺のことを嫌ってくれ!!」
目が恍惚としてて怖い。
「俺は、嫌われたい! 罵倒されたい!」
「き、気持ち悪いです……」
ミィルが思わず素直な感想という名の罵倒飛ばすと、
「はぁぁん」
変態が体をクネクネさせた。
ミィルが瞳から光が消え倒れそうになったところを、レイヤが支える。
「……さすがにきついわね」
「うぉぉぉん」
またクネった。
まだ、まだ嫌ってはいない。ただただ引いてるだけだ。
人間に戻って正気になった時、アレク君は今回のことを振り返って何を思うのだろうか。
根はクソ真面目だからな。そうだな……。
「お前は人間だ。それは忘れるな」
「うほぉぉ」
「何でだよ」
ま、まあ性癖は人それぞれだし? うん。出来れば温かく見守ってやりたいなぁとは思う。でも人であることを思い出したあとどうなるかまでは保証出来ないけど……。
「もっと、もっと俺を罵倒してくれぇー!!!」
ああ、輝いてる。とても汚く輝いてる。どうしよう、泣きそうになってきた。
「その、……自分だけは嫌わないでくれな?」
「っう!」
やれやれ、私は泣いた。