『混沌のユグドラシルに永遠の静寂を』
それがあたしたちの使命。
キラーズとバイブスを世界樹に還すという神令。
それが、どれほど業が深い行為であるかはわかっていた。……いや、わかってるつもりだった。
どんな使命を持っていたとしても、大義があったとしても、やっていることは殺人、人殺しに変わりない。
今を生きる人がいる。
明日を生きるはずだった人がいる。
その命を刈り取る。
繋がりを消していく行為。それが、神令。
割り切れたらどんなに楽だったか。
世界のマスターがみんなドラマに出てくるような『悪役』だったら、どれだけ幸せだったか。
……あたしにはわからない。
雑音のように響き渡る不快な音しか聞こえない。
正しいか、正しくないか。それは、ユグドラシルが良くなってから考えたい。正しいと言い続けないと心が壊れてしまいそうだから。
生きているのか。
鼓動は聞こえていても、生きているかわからない。
ただ、使命は果たすべきだとは思っていた。
コマンドキラーズが本格的に活動したのは、『死者の国』の騒動が終わってからだった。ひとりでも多くの奏官とマスターを還すことが大切だと言われた。
あたしたちの中で、真っ先に行動していたのはミュルっちだ。騙し、騙されというのに慣れていたからか、奏官を還すことにも抵抗はなかったみたい。で、次に動いたのはバルっち。割り切れているような飄々とした態度で活動してた。そのあとにやがて、みんなが続いていたのだけれど、動けてないものもいた。
……それが、あたしとロジェっちだった。
「その、ごめんなさいっ、とどめ……させませんっ……!」
最期の一撃を加えるとキル姫が死んでしまう、というのが直感的にわかると彼女は手を止めていた。では奏官を狙えるか、といったら致命傷までは与えることができていなかった。
その様子を見て、あたしは仕方がないと感じていた。
前までは薬を与えたりして色んな相手を助けていたロジェっちがそんなに簡単に割り切れるなんて、ありえないなんて思えたし。
結局そういう場面になると、他の誰かがトドメをさして終わりになるのだけれど、取り残されたマスターやキル姫が動揺しているのを見て、ロジェっちはいつも泣いてた。
痛々しい泣き声、慟哭の音が響いてくる。
仲間の泣いている声だけじゃない。倒したマスターのキル姫の怒りの声、悲しみの音、すべてが心に刺さっていた。
その度に、あたしも胸が締め付けられるような感覚に襲われていた。
(苦しいよね、やっぱさ)
他のみんなには悟られないように、ギャルっぽくテンションをあげてビートを鳴り響かせても、心の中では空虚さに襲われる。
……あたしも断末魔の声を正面から聞きたくなくて、マスターやキル姫に致命傷を与えてられていない。結局トドメは他のみんなに任せてしまっている。
これが責任逃れなことはわかってるし、無責任なことをしているのも知っているつもり。でも、逃げずにはいられない。怖くて、恐ろしくて。
(……世界はそんなに綺麗じゃないのかな)
ギターを教えてもらった時はどんなこともできると思っていた。
神様から力を貰った時も、なんでもできるなんて考えていた。
そんな全能感が離れていっているような気がした。
(主題歌、もう歌えないかも)
仲間には「やっぱハズくなっちゃったわ~、ゴメンっ」って言えばちょっと小馬鹿にされるくらいで終わりそうだけど、あたしからすれば深刻な問題だ。
あまりにも、使命を楽観視しすぎていた。
明るい歌詞なんて少なくとも似合わない。作曲者として、没にしたくなる。
(それでも、なにかしら音は響かせないと)
ムードメーカーになる。
音で他のみんなの気持ちを逸らせるなら、いくらだって誤魔化してもいい。
繰り返し、音を奏でながらあたしはみんなと一緒にマスターやキル姫を還していった。