今日(10/5)は三船栞子ちゃんの誕生日です!
ということで、まだ出ていない栞子ちゃんの誕生日記念回を書きました!
では早速どうぞ!
「はっはっ……」
金木犀の甘い香りが、人々に秋の訪れを感じさせる今日この頃。気温も徐々に程よいものになっていき、ランニングにも適した環境になりつつある。
そんな訳でどうも。いつもの習慣となりつつある土休日のランニングをしている、高咲徹だ。
……いや、いつもの習慣とは言ったが、今日は少し違うか。実はいつものルートから外れ、閑静な住宅街の中を走っているんだよな。うちの辺りはマンションやらアパートが多く、一軒家などは一つも見当たらない、一見真新しさが感じられる地域だ。まあ、そもそもお台場が海を埋立てられたことで生まれた新しい地域であることから、こういう雰囲気になるのは自然なことだろう。
しかし、こういう静かでなんの喧騒もないところにいると心が安らぐ。わざわざイヤホン付けて音楽を聴いて周りの音を掻き消すなんてことをしなくても、ランニングも一層集中して取り組めるだろうな。まあ、音楽を聴く目的があるから、結局聴くのは辞めないだろうけど。それとこれとはまだ別問題だ。
「……〜!!」
「……ん? 今のは……」
何か声らしき音がイヤホン越しに聞こえたので、一旦再生している曲を止め、イヤホンを外して周りの音に耳を傾ける。これは……誰かの泣き声だろうか。そして声からして……幼い男の子だろうか。
声のする方向へ歩みを進めると、道の真ん中で尻餅をついてワンワン泣く一人の男の子がいた。俺はその子の側にしゃがみ、優しく声を掛けた。
「大丈夫? 君、迷子になっちゃった感じ?」
しかしその子は泣き止まず、俺の質問に答えるどころではないようであった。見た目からして、小学校低学年くらいの歳だろうか。もしかすると、親御さんとはぐれたのかもしれない。
そんな予想をしながら同時にその子の様子を見ると、彼の膝から血が流れていた。多分、躓いて転んでしまったのかな……なるべく早く対処しなきゃいけないな。
「ありゃ……怪我しちゃったんだね。それは辛かっただろうな……大丈夫。お兄さんが何とかするから、な?」
俺がそう声を掛けると、その子の泣き声が少し収まった。親御さんとはぐれる時点で精神的にキツいはずなのに、その上転んで怪我までしてしまうなんて辛いものだろう……
周りを見渡すと、少し先に公園が見えた。そこなら、水道が使えて傷口を洗うことが出来るかもしれない。
「よし、あそこの公園に行こうか? 大丈夫、ゆっくり歩こう」
こうして、俺と二人はその公園に向かう。
幸運なことにその公園には水洗い場所が存在しており、彼の踵にある傷口を洗うことが出来るほどの大きさだった。
「痛いけど、少しの我慢だぞ〜?」
そう言って、俺は少しだけ蛇口の栓をひねって水を出す。
男の子は痛さで一瞬声を上げた。
……頑張れ、あと少しだ。
すると、公園の外から誰かを呼ぶ声が聞こえた。
「────く〜ん!」
「ん? この声……」
誰か男の子の名前を呼んでいるようで、こちらに向かってくるようだ。しかも、俺はその声に聞き馴染みがあった。
水道の水を止め、その声の元に向かうと……
「居たら返事してくださ……あっ」
その声の主───同じ学校の後輩で、同じボランティアの仲間でもある、三船栞子ちゃんだった。
彼女は走ってきたのか、息が上がっていて、表情も大分あせっていた。誰かを呼んでいたようなのだが……もしかして。
「よっす、栞子ちゃん。探しているのはこの子か?」
俺がそう訊くと、どうやらその通りのようで、彼女は緊張の糸が切れて胸を撫で下ろした。
「……! そ、そうです! 良かった……」
……まさかこんな偶然があるとはな。
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「ありがとうございます。助かりました……」
「いいってことさ。こっちこそ、このタイミングで来てくれて助かったよ」
ふぅ……一件落着ってところか。
栞子ちゃんとたまたまバッタリ出会った。そしてかつ、彼女はこの子を探していたということで、俺達は公園のベンチに移動し、今は彼女がこの子の手当てをしているところだ。
栞子ちゃんはつい最近知り合った友達なのだが、ボランティアの活動の中で仲良くなった。最初はお互い苗字で呼んでいたのだが、ある日をきっかけにお互い名前で呼ぶようになった。
「それにしても、この子は栞子ちゃんの親戚だったりするのか? お姉ちゃんがいることは聞いてたが……」
姉妹とか姉弟だったら話題に上がってたりするのかなと思い、親戚なのだろうかと俺は思ったが……
「あっ、そうではなくて……私、近くの児童館でボランティアとして子供達の様子を見ておりまして」
「ほう、児童館のボランティアにも参加してるのか」
児童館か……初めて聞いたものの、確かに世の中保育士をはじめ、子供の様子を見る人が不足していて悩まされてるところはあるから、こういうボランティアは需要がかなりあるんだろうな。
この子が児童館にいたのになぜここにいるのか……ふむ。
「察するところ、この子がその児童館から逃げ出してしまったってところか」
「はい……十分に配慮していたつもりなのですが、少し目を離した隙にいなくなってしまって……」
「なるほど。そりゃ大変だったな……」
やっぱりな……周りにも館員さんは居ただろうに、その目を盗んでまで逃げ出したんだもんな。よっぽどつまらないだとか、嫌だったりとかしたんだろうと想像がつく。
「……はい、出来ましたよ。もう、あそこにいるのが嫌だからといって外に逃げ出してはいけませんよ?」
「だってー、つまんないんだもん!」
ちょうど男の子への手当てが終わったようで、栞子ちゃんはその子の肩に手を置いて諌めた。しかし、それに対してその子も抗うように駄々を捏ねる。このままだと、彼はすんなりと保育園に戻ることはないだろうな。そしたら一番困るのは栞子ちゃんだろう。
……よし、ここは少し俺なりにこの子を説得してみようか。
「……ねえ君、訊きたいことがあるんだけど、いい?」
「……なに?」
おぉ、渋々ながらも案外すんなり耳を傾けてくれたな。てっきり『嫌だ』とか言われるかと思ったが……
んー、そうだな……児童館にいるってことは、親御さんが共働きしてるってことだよな。
「君のお母さんは、いつもどれくらいに迎えに来てくれるの?」
「……夜の6時」
「なるほどね……今から2時間足らずか。でも2時間って短いようで長いよね。退屈になるのも無理はないな」
「……それがなんなの?」
少しぶっきらぼうに問いをぶつけてくる男の子。少し人によってはイラッとくるような言い草だったかもしれないが、実際俺が訊いたことは彼にとってはなんの話の脈絡もないから意味が分からないよな。
「ははっ、早まるなって……じゃあ、お母さんが迎えに来てくれた時にさ、褒めてくれたりするんじゃない?」
「……うん」
「だよね。それって、君が大人しくその児童館で待ってたからなんだよ。今の君はどう?」
「……! ……ほめられない」
ハッとした彼は、少し申し訳なさそうに下向きそう言う。
「そうだよ。君は、お母さんに褒められるのが嬉しいでしょ? だったら、大人しく良い子で待ってなきゃ!」
俺は、明るく親しみを込めて彼にそう啓発する。
「……うん。でも、児童館つまんない……」
……あー、そこはやっぱり解決しないか。
一時は説得に成功したかと思ったが、そう甘くはないよな。
保育園がつまらない……俺がこの子の年くらいの時は、侑と仲良く遊んでて、歩夢ちゃんとも大分仲良くなってきた頃だったかな。誰かと交流することで楽しさは広がると思っているから、そうだな……あっ、そうだ。一緒に遊ぶのに適した相手がすぐそばにいるじゃないか。
「うーん……じゃあさ、そっちのお姉さんに君のやりたいこと一緒にやってもらったら? 彼女優しいから付き合ってくれるはずだよ?」
そう言って、俺は栞子ちゃんの方を向いた。その瞬間彼女は少し驚いていたが、俺の意図を察したようで、微笑みながら男の子の方へと向き直った。男の子も栞子ちゃんと目が合い、その流れで彼は彼女に訊いた。
「……ほんと?」
「ふふっ、もちろんです。遊びたい時はいつでも言ってくださいね」
「……じゃあ、楽しいかも!」
すると、男の子の表情は一気に明るくなった。どうやら、彼の憂いは晴れたようだ。
「そうでしょ? じゃあ今から楽しい児童館に戻ろうぜ。ほら、転ばないように手を繋いでね」
彼の傷も収まったことも鑑みて、俺はベンチから立ち上がって彼に手を伸ばした。
「……うん!」
なんの躊躇もなく、男の子はその小さな手を俺に差し出してくれた。
ほんと、彼が笑顔になってくれてよかった。
「ふふっ、ならば私も手を繋ぎましょう」
「わーい! みんなで手を繋いで帰れる〜!」
栞子ちゃんも男の子の空いた片手を握り、3人一緒に手を繋いで児童館まで歩いていった。
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「協力していただき、ありがとうございました!」
「いえいえ、彼が無事で何よりです」
児童館の館長もとても感謝しているようで……本当に、徹さんがいなかったら私は見つけられてたかどうかが分からないので、ありがたい限りです……
あっ、こんにちは。私、三船栞子と申します。
今日は久々に児童館へボランティアで訪れたのですが、一人の男の子を迷子にしてしまうという事案が起きてしまいまして……あぁ、未だに自責の念が絶えません。
でも、徹さんが様子を見てくれているのを見て、本当に安心しました……
「せんせー、僕お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に帰ってたのしかった!」
「あら、そうだったのね〜! ちゃんと二人にお礼は言った?」
「……あっ、そうだ! ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「ははっ、どういたしまして」
徹さん、嫌な顔を一つもせずあの子に接してくれてますね。正直なところ、あの子も大分失礼な態度をとっていた部分もありましたが……
「ねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんって付き合ってるのー?」
「え……えぇっ!?」
つ、つつつつつ、付き合ってる……!? 私が……徹さんと……? そんな、私はまだ徹さんと交流を深め始めたばかりですよ……!?
徹さんはどんな反応を……? あっ、少し動揺されている……?
「ほほう、何を言うかと思ったら……どうしてそう思ったのかな?」
「だって、僕のお父さんとお母さんみたいな感じだったからー」
お父さんとお母さん……私と、徹さんが……!?
ま、待ってください、私まだ心準備が……!
「ふーん、そう見えたのか。でもね、残念ながらその予想はハズレだな〜。仲の良い友達って感じさ」
「えぇ〜……」
私が慌てふためいていると、徹さんは本当のことを話してくださいました。そうです、私と徹さんはボランティアの志を共にする仲間であり、同じ虹ヶ咲学園に通う先輩と後輩なんです。それ以上もそれ以下もありません。
でも、今残念って……?
「こらこら、二人とも困ってるじゃない。先生と一緒に行きましょう?」
「うん!」
すると、あの子は館長さんと一緒に児童館の中に入っていきました。
その時、館長さんは私に『三船さんは後からでいいから、戻ってきてくださいね』と告げられたのですが、後からでもいいとはどういうことなのでしょうか……?
「……栞子ちゃん?」
「……へっ? あっ、はい! 何でしょうか?」
いけません……徹さんから声を掛けられてたのに、気づきませんでした……今日は調子が狂ってばっかりですね。
「いや、栞子ちゃんはこの後ボランティアあるのかなーってさ」
「そうですね。この後も少しあります」
「そうか……」
こうして暫くの間無音の空間が流れたのですが……ダメですね、何か話題を私が提案しなければ……
「……それにしても、徹さんは子供の相手がお上手ですね」
「ん? あぁ、それは……妹の世話をしてたからかな。でもあの子が根はいい子で良かったよ。もう少し捻くれてたら説得できなかったかもしれないな」
確かに、徹さんには妹さんがいらっしゃるのは前から聞いてました。徹さんの妹さんにも、いつか機会があったらお目にかかりたいものです。
「ふふっ、でも説得できるだけで私としては凄いんです。私には出来なかったことですから……」
あの子とは児童館で数回くらい交流をしていましたが、あまり目立たなくて、みんなの輪の中に入ろうとしていませんでした。でも、今思えばあの子は遠慮していたのかもしれません。遠慮が重なった結果、鬱憤が溜まってしまったのでしょう。
そう考えると、徹さんはあの子に寄り添った上で説得していて……それがとても素晴らしかったんです。
「……そうか、栞子ちゃんが言うのならそうなのかもしれないな」
少し照れくさそうにしている徹さん。
しかし、徹さんは自分を謙遜し過ぎな気がします。もっと自分に自信を持ってください……
そうして談笑していると、徹さんの頭にはらりと何かが落ちてきました。確か、そこには広葉樹林が植わっていましたね……
「あっ、徹さん。頭に落ち葉が……」
「えっ、マジ? どこだ……?」
私が指摘をすると、徹さんは少し慌てた様子で頭を触ら始めました。
しかし、葉が小さいのでなかなかそこに手が届かないようです。
……徹さんは意外とお茶目なところがあるのかもしれませんね。
「ふふっ。大丈夫です、私が取って差し上げますね」
「あ、あぁ……」
私は徹さんの目の前まで近づいて、小さい落ち葉を取る。
「……はい、取れました」
「ん、ありがとう、栞子ちゃん」
少し微笑んで礼を述べて下さる徹さん。
しかし、普段から男性と接する時には少し距離を置くのですが、徹さんと接する時はあまり気にしなくなるかもしれません。徹さんの人柄が良いからですかね。
「……ん、そろそろ俺も帰らなきゃな。じゃあ栞子ちゃん、残りも頑張ってな」
あっ、大分長く話し込んでしまいました……お見送りをしましょうか。
「あ、はい! 今日はありがとうございました」
「ふふっ、お礼は必要ないからな? じゃあな」
そんなことを言われても、お礼をしない訳にはいきません。お世話になってるのですから……
そんな中、徹さんの後ろ姿が小さくなっていきました。次、徹さんと同じボランティア活動はいつでしょうか……? そんな思いを抱きながら、私は児童館の中へと向かいました。
今回はここまで!
この話は、栞子ちゃんが同好会に入る前の時系列となります。
本編がまだそこまで進んでないのでこのようにしました。
栞子ちゃんはホントいい子なんや……
今後12月にミアちゃん、2月に嵐珠ちゃんが誕生日を迎えますが……一応記念回を書くつもりではいます(書けるくらいに本編の話を進めていれば)
本編の方も近いうちに更新するつもりですので、お楽しみに。
長くなりましたが、また次回!
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