第87話です。
では早速どうぞ!
「こんにちはー!! こちら、スクールアイドルフェスティバルのチラシと各ステージのマップでーす! 開演時間に合わせて是非見にきてくださーい!!」
「この奥には屋台もございまーす! 腹ごしらえに是非!!」
『School Idol Festival』とカラフルな文字が綴られたTシャツを着た子達は、懸命な声掛けで来る人達にフェスの概要が書かれたチラシと開催場所を記した地図を配ったり、屋台へと案内をしたりしている。
スクールアイドルフェスティバルを成功させたいと思った者達が一堂に集まり、各々の役割を全力でこなしてくれている。このようにして、世の中の行事やサービスはこうやって成り立っているのだなと、度々感じさせられるものだ……
あっ、どうも。久々にイベントで仕事を任せられた高咲徹だ。
このようにスクールアイドルフェスティバルが開幕し、多くの来客が虹ヶ咲学園の校門をくぐり抜けてやって来ている。
ここまで虹ヶ咲が人で溢れ返っているのは、俺も今まで見たことがない。一昨年と昨年の文化祭だって、ここまでの人は来なかった気がするが……あっ、でもその時俺は生徒会で本部にずっと居たから、こうやって眺めたことはなかったか。
まあいいか。実際のとこどうなのかは分からないが、文化祭に匹敵するほどの賑わいであることは間違いない。
……あっ、こんな風に物思いに更けてしまっているが、俺はただフェスを楽しんでいるだけではない。今は生徒会の役員としてフェス全体の巡回をしているのだ。
『山本から本部』
『山本さん、どうぞ』
『第三ステージ、十三時半の回開演致しました。どうぞ』
『本部了解。何かトラブルありましたら、本部に一報してください。どうぞ』
『了解しました』
このように、俺のポケットに掛かったトランシーバーから無線で他の生徒会役員達の交信が聞こえてくる。
生徒会役員の役割としては、今回用意されたステージの現場常駐する者、その者達を統括する本部に常駐する者、フェス全体を巡回する者に分かれる。
本部には、今回生徒会の中でリーダーの位置にいる副会長の若月がいる。それで、本来その位置にいる筈の生徒会長・菜々ちゃんの代わりに、俺がフェスを巡回する役割として配置された。
俺の役割についてもう少し具体的に述べるとすれば、現場で働いているボランティアのスタッフ達の様子を伺うこと、お客さんの中に困っている人が居ないかどうかを確認すること、ステージにおいて万が一トラブルがあった場合に補助をすることなどだな。結構脇役的なポジションかもしれないが、割と重要なポジションだ。
さて、本当はここで立ち止まっている場合ではない。ライブステージはお台場の各所に点在しているから、そこに向かわなければ……
『本部から、学園内に滞在中の役員……高咲さん、応答してください』
すると、本部にいるであろう人から俺を呼ぶ声が聞こえた。声的に左月ちゃんか右月ちゃんの声だと思うが、どちらなのかは声だけでは判別できない。
「高咲です。どうぞ」
『高咲さん。たった今スタッフの情報によれば、学園内に猫がおり、現在その場で保護している模様。そちらに出向いて預かることはできますか? 場所は中庭、部室棟前です。どうぞ』
校内に猫か……なんだか思い当たる節はあるものの、ボランティアのスタッフは他の仕事がある訳で、このまま猫を保護していてはどうしようもないだろう。
「部室棟前でスタッフが猫を保護、出向いて預かる、了解しました。直ちに現場へ向かいます」
場所は中庭に面する部室棟の前か……ここからだとそう遠くないが、急ごうか。
そうして、俺はその場から走り出した。
「役員の高咲です。保護された猫を預かり来ました」
「あっ、高咲さん! すぐに来てくださってありがとうございます! こちらの猫さんなんですが……」
屋台が特に集まるこの中庭へと抜けると、部室棟の前には本部の言う通り、スタッフの腕章をした女性が例の猫を抱きかかえていた。
そばに近寄ると、その猫の正体がはっきりとしたのだが……
「にゃーん」
「……あら、やっぱり君だったか」
何の模様一つもない真っ白な毛にエメラルドグリーンの瞳をした可愛いらしい子猫。そう、この子はつい最近生徒会のお散歩役員になったと言われるはんぺんだった。
「えっ、この子のことを知ってるんですか?」
「あぁ、ここ最近この虹ヶ咲に棲みついている猫なんだ」
「にゃ!」
「そうだったんですか……」
はんぺんは俺を見つめて嬉しそうに鳴く。ふふっ、久しぶりに会ったな。
スタッフの子も、この学校に棲みついているなんて聞いて驚いているみたいだ。まあそりゃそうだ、学校に動物がウロウロしているなんて普通のことではないのだから。
しかし、前はんぺんに会った時には菜々ちゃんに許してもらえるかを思慮していたものの、結局菜々ちゃんは菜々ちゃんなりに配慮を効かせてこのような形に落ち着かせてくれて良かったものだ。
「まあともかく、保護してくれてありがとな。こちらで預かるから、その調子で屋台の運営、頑張って」
「はい!」
そうしてスタッフの子からはんぺんを抱き取り、彼女はそのまませかせかと仕事現場へ戻って行った。
「さてと、本部に一報しないとな……高咲から本部」
『高咲さん、どうぞ』
本部から指示された任務を最後まで遂行させたことを報告するため、俺はトランシーバーを口元に近づけて話しかける。
「こちら、スタッフから例の猫を預かりました。なお目で確認した結果、本校のお散歩役員のはんぺん君であることが判明しました。どうぞ」
それに加えて、保護されていた猫の正体も本部に報告する。これを伝えるか伝えないかで今後の処理が変わってくるだろうからな。
『本部了解。では、高咲さんははんぺんさんと共に行動して頂けないでしょうか? どうぞ』
共に行動か……本部に置いておくという手段もあると思ったが、そうすると他のみんなが忙しい故にはんぺんがまたどこかに行ってしまう可能性がある。そう考えると、俺とずっと行動していた方が安心か。俺もただ巡回という名の散歩をしているようなもんだし、はんぺんもお散歩役員の名に相応しい仕事が出来るだろう。
「了解。共にお散歩……訂正、巡回しまーす。どうぞ」
『ふふっ、よろしくお願いします。以上本部』
くっ、なんちゅう言い間違いをしてるんだ俺は……散歩なんて呑気なことをしている訳じゃないんだぞ? 誰だ散歩とか言った奴は……いや、俺か。
「にゃ?」
「んん……よし、二人でイベントの巡回をするぞ。準備はいいか?」
「にゃ〜!」
俺の様子に首を傾げるはんぺんであったが、こうして俺達はスクールアイドルフェスティバルを見て回ることにした。
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「ふあぁ……良い寝心地……」
「彼方ちゃんと一緒に寝られるなんて、幸せ……すやぁ」
「……おぉ、この光景はなかなか」
まず一番最初にやってきたのは、オシャレな内装をしたショッピングモールだ。ここは、前に彼方ちゃんがソロでライブを行った会場でもある。
そんな場所で、今回も彼方ちゃんはソロでライブをしているのだが……ただのライブではない。なんとライブステージ前の観客席に当たるところには無数のベッドが置かれており、そこで観客達が横たわって眠ったりしているのだ。
ライブをしているのか、ベッドで眠っているのか分からなくなってしまうかもしれないが、これは彼方ちゃんの提案によって実現した
このようにライブらしくないライブではあるが、観客は各々気持ち良さそうにベッドに身を任せ、ライブを楽しんでいるようだ。そんな様子を見て、俺は一安心する。前代未聞のライブであるが故に、どうなるか少し不安だったからな。
そう考えていると、目線の先に見知った姿が見えた。
「おっ、遥ちゃん。よっす」
「あっ、徹先輩! 徹先輩も、お姉ちゃんのライブを見に来たんですね!」
姉である彼方ちゃんに似た茶髪をツインテールにしている東雲学院の後輩・近江遥ちゃんも、このライブに訪れていた。
「まあな。あんまり長くは居られないが」
「あっ……なるほど、本部の見回りで来られたのですね。お疲れ様です。あと、その子は……?」
俺に向かって小さく一礼すると、遥ちゃんの視線は俺の胸元に抱きかかえられたはんぺんに向いた。
「あぁ、それはな……あっ」
遥ちゃんの疑問に答えようとすると、視線の隅で俺に向かって主張するような何かが見えたのでそちらに向いた。そしてその正体は、前方のステージ上に一つ置かれたベッドに座ってこちらに手を振る彼方ちゃんだと気づいた。
それに遥ちゃんも気づいたようで、二人で彼方ちゃんの元へと駆け寄った。
「おぉ〜、遥ちゃんに徹くんじゃないか〜。彼方ちゃんのスペシャルステージへようこそ〜」
「よっす、彼方ちゃん。順調にライブが出来てるようだな」
「えへへ〜。こんなにいっぱい人が来てくれて、一緒にすやぴしてくれて……彼方ちゃんご満悦だよ〜」
普段あまり見ないほどの満面の笑みを見せてくれる彼方ちゃん。紫を基調として、所々に金色の装飾が施されたまるでお姫様のような衣装を彼女は纏っていた。
そうか……ライブに来てくれた観客達も満足、ライブをする本人も満足……素晴らしいライブこの上ない。彼方ちゃんをサポートしてくれた面々に感謝しなきゃな。
「むむっ……徹くんが抱えているその可愛らしい猫ちゃんは?」
すると、彼方ちゃんは顎に指を当ててそう訊いてきた。そういや、遥ちゃんにもはんぺんのことを言おうとしたんだったな。
「あぁ、この子ははんぺんだ。虹ヶ咲で放し飼いしてる猫ちゃんだ。彼方ちゃんは、璃奈ちゃんか愛ちゃんから話を聞いたことはないか?」
「んー……あぁ〜、聞いたことあるよ〜。君がそうだったんだね〜」
「にゃ〜ん……」
優しい眼差しで彼方ちゃんがはんぺんの頭を撫でると、はんぺんは気持ちよさそうに鳴き声を上げる。
「そうでしたか……でも、学校で放し飼いって大丈夫なんですか?」
「それがな、形而上生徒会のお散歩役員に任命する形を取ってるのさ。だから問題ない」
「なるほど……でも、可愛いですね!」
遥ちゃんも、はんぺんの可愛さに目を釘付けにされたようだ。
「ねぇ、遥ちゃんと徹くんもここで寝て行ったら〜? きっとスッキリさんになると思うよ〜!」
すると、彼方ちゃんははんぺんを撫でながら俺達にそう誘ってきた。
「あはは、お姉ちゃんの気持ちは嬉しいけど……私もこの後ステージ控えてるから、難しいかな……」
「俺も一応仕事中だからな……非常に魅力的な提案なんだが、すまん」
「そっか……やっぱりそうだよね」
俺達の返答に少し寂しげな反応を見せる彼方ちゃん。
うーむ、彼方ちゃんがお願い事してくるのもなかなか貴重だからな……このまま断ってしまうのは如何なものか。
そう思い策を巡らすと、一つの案が思い浮かんだ。
「……そうだな、ベットに少しの時間だけ横たわるくらいなら良いかと思ったんだが、遥ちゃんはどうだ? それに、万が一遥ちゃんが寝てしまっても俺が起こすからさ」
本格的に寝てしまうのがダメならば、寝ない程度に横たわればいいのだ。俺としては、あくまでここのベッドの寝心地がどうかを確認するために少し横たわるだけだ。
「えっと……徹さんは大丈夫ですか?」
「俺が寝る心配か? なら大丈夫だ。俺が寝てしまったら職務怠慢になる故に寝れないしな!」
「あっはは! 確かに……なら、お願いしますね」
「二人とも……!」
彼方ちゃんの表情がパァっと明るくなった。それだけ嬉しかったのかな。
「そんな訳で、そこのベッドにお邪魔するか……あっ、はんぺんを抱いたままだと横たわれないか……」
「それなら、彼方ちゃんが預かってるよ〜。なんなら、特別に彼方ちゃんのベットで寝てもいいんだよ〜?」
「ははっ、そこは彼方ちゃんの特等席だろ? それはやめとくよ」
「えぇ〜? もう……」
彼方ちゃんが不満そうにブツブツ何かを言ってたような気がしたが、俺は無事にベッドの寝心地を確認することができ、数分経ってから遥ちゃんを起こしてその場を去ることが出来たのであった。
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『本番三十秒前です!』
『了解ですぅ!』
『了解しました!』
『了解です!!』
サポーターの予告と、三人の声が力強い返答が耳に届いてくる。
ここはとあるライブステージ。これからあるライブが始まる。三人が既にスタンバイが完了して待機している状況だ。
観客スペースには既に多くの観客が集まっている。ただ、その観客の大半は、小学生や幼稚園児くらいの子供達である。
「了解」
そんな中で、これからどんなライブが始まるのか、はたまたそもそもライブなのか……? それはこの後明らかになる───
『本番五秒前! 四、三、二、一……スタート!』
今回はここまで!
最後は面白い感じで終わりましたが、果たしてこの後どんな展開があるのか……? お楽しみに!
そしてこの話を以て、本小説通して通算百話目となりました! これからも変わらず物語を紡いでまいりますので、よろしくお願いします。
ではまた次回!
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