第88話です!
では早速どうぞ!
「しずくスカイブルーハリケーン!!」
「うわぁぁ、これでは煙がぁ〜!」
しずくちゃんの言い放ったこの技名のような文言。それと同時に強烈な突風が巻き起こり、それにかすみちゃんが慌てている。
この技名といい、かすみちゃんの言う煙といい、このような状況になった経緯がこの二人の発言だけでは全く察しがつかないかもしれないが……実は今、俺のすぐそばでヒーローショーが行われている。
せつ菜ちゃんが観客のみんなのためにライブを行おうとするのだが、そこへ悪魔のような衣装を着たかすみちゃんが、巨大サイズのかすみんBOXの上に乗って登場し、煙を撒き散らすことでライブの進行を妨害する。これではどうしようもないといったところで、仮面とマントを纏ったしずくちゃんがステージ上段から登場し、今その煙をハリケーンで取っ払ったというのが今までの流れだ。
こうして彼女の視界を妨げるものは無くなり、あとは敵であるかすみちゃんをせつ菜ちゃんが必殺技で追い払えばハッピーエンドといったところなんだが……
「せつ菜さん、とどめです!」
「任せてください! ……えっ?」
せつ菜ちゃんの威勢の良い返事が聞こえても、何も起こる気配がない。彼女の焦るような声も聞こえた。
今俺がいるところからステージ上の様子を伺うことは出来ないが、十中八九観客達は彼女の様子を見て驚きの表情を浮かべているだろう。
「技が使えない……なぜ!?」
「クックックッ……せつ菜先輩、かすみんを甘く見過ぎですねぇ〜?」
慌てふためくせつ菜ちゃんを、ドスの効いた声色で煽るかすみちゃん。
かすみちゃん、合法的にせつ菜ちゃんを煽れるからって気合い入れまくってるなぁ……まあ、気合い入れてもらった方がショーの完成度は上がるからそれで良いっちゃ良いんだが。
「まさか、あの煙で弱体化された!?」
「そんな……!?」
「そのとーり! これで太刀打ち出来ませんねぇ〜? ここからは〜……かすみんのステージです!」
かすみちゃんが最初に放ったのは、せつ菜ちゃんの必殺技を封印するような弱体化の効果がある煙だった。つまり、しずくちゃんが煙を追い払った時の動揺は、その余裕を持った上の演技だったということだ。
「ど、どうしましょう……私には、もう打つ手がありません!」
「誰か、力になってくれる人がいれば……!」
しずくちゃんとせつ菜ちゃんは窮地に立たされた。このままでは、かすみちゃんがずっとその場に居座ることとなり、今から彼女から何かしらの手を打たれるに違いない。観客達も、これからどうなってしまうのだろうと固唾を飲んで見守っているに違いない。
こう言う時は、何かしらの救いの手が現れるものだが……
「今度こそ、終わりです────」
……さて、
「本当にそうかな?」
「なっ……! だ、誰ですか!?」
かすみちゃんがそう問いかけると、ステージ上手の舞台袖から登場する俺。謎の人物登場に、観客席からざわめきが聞こえる。
しかし、思ってた以上の観客の数だな。開演前に覗いた時よりも明らかに人が増えている。あっ、しかも奥の方に立ち止まって眺めてる人もいるな。こうなったら、その人の興味を惹くような演技をしなきゃな。
「全く、人様のライブに割り込んで盛大に邪魔するなんて……少しは場を弁えたらどうなんだ?」
「ふっ、ふん!! みんなはかすみんの可愛さを求めてるんです! そっちこそ、邪魔しないでくれますか!?」
うっ、演技とはいえ、そういうことをかすみちゃんから言われると心にくるものがあるな。俺も心を鬼にしてこのセリフを言っているが、普段だったらこんなにキツく彼女に当たらないからな。むしろ、彼女がそんなことをすることはないからな。
「はぁ……非常に自分勝手な奴だ。これは、本当に倒すしかなさそうだね」
「あの、貴方は……?」
俺がかすみちゃんの態度に呆れるような演技をしていると、せつ菜ちゃんが俺に声を掛けてきた。二人とも俺の登場には困惑しているような表情を見せている。
「ん? ……あぁ、君達がこのライブをやってるんだね。俺が何者か、か……」
顎に手を当てて考える仕草をし、俺は再び口を開けた。
「ふむ、さすらいの魔術師トールとでも名乗っておこうかな」
「「トール……!」」
そう、魔術師トール……それが今日、俺こと高咲徹がヒーローショーに出演する上で与えられた役だ。
この『トール』という名前は俺が名付けた。トールというと、北欧神話に出てくる神の名前として知られているが、俺がこのように名付けたのはそれが元ネタではない。ほら、俺の名前って『徹』と書くからたまに『とおる』って読み間違えられることがあるからさ。そこから由来してるんだ。
そんな魔術師トールの見た目なのだが、灰色単色の服に真っ黒なフード付きのマントを纏う、謎めいた印象を覚えさせる装備だ。そして何より目立つのは……
「にゃん?」
胸元に抱きかかえた白い子猫だろう。
そう、今回は急遽はんぺんにもこのショーに参加することになったのだ。俺がショー出ている間に誰かが面倒を見ることができれば良かったが……スタッフみんな忙しいし、迷惑かけたくないと思ってこの形をとった。
「なになに、新たな戦士登場!?」
「カッコいい〜! 正体誰なんだろう!?」
「しかも、可愛い猫ちゃんを抱えてるじゃん! 可愛い〜!」
新たなキャラクターの登場に、観客は興味津々のようだ。特にやっぱり、はんぺんに対する反応が多いな。これは、はんぺんを出演させて良かったかもしれないな。
ちなみに俺は、いったい誰なのかはなるべく分からないように、前が見える仮面を目につけている。フードを被っているのも、俺の髪が目立つ故にそれを隠すためだ。凄い用意周到かもしれないが、これくらいしないと身バレを喰らうからな。
……おっと、そんなこともいいが、物語を進めよう。
「それで、どうやら困っているみたいだが……もしかして、対抗する術がなくなってしまったってところか」
「は、はい! 敵に弱体化させられてしまって……!」
「なるほど、状況は理解した。ならば、俺も力添えしよう」
「本当ですか!?」
「あぁ、俺は能力回復の魔法が使えるのさ。ただ、使うためには一つ条件がある」
「条件……何でしょうか?」
「それは───ここにいる、みんなの声援だ!」
その台詞と同時に、俺は視線を観客へと向ける。
俺ことトールは、回復魔法を駆使する魔術師だ。せつ菜ちゃんは弱体化させられていることで、必殺技を発動出来ずにいる。その弱体化を、回復魔法によって元の力を取り戻すことが出来るのだ。
ただし、無から力を生み出せる訳ではないのだ。外部から何かしらの形で力を受け取る必要がある。
「そこにいるみんなが、二人を応援してくれることで、俺も回復魔法が発揮できるようになるんだ。もう既に沢山の応援をしてくれてると思うけど……今一度、みんなの気持ちが籠った大きな声援が必要なんだ! みんなだって、この二人のライブ、見たいよな!?」
俺が声を大にして観客にそう訴えかけると、一瞬の間が空いたものの、徐々に歓声が湧き上がってきた。
「……! みんな、私達にエールをください! お願いします!!」
「それでは皆さん、彼女の名前をコールしてください! せーのっ!!」
しずくちゃんの合図とともに、観客達が大きな声で『せつ菜』とコールをし始めた。
その勢いは想像以上のもので、観客達のコールの一体感に少し感動を覚えた。
「何だか……力が湧いてきました!」
「……よし、これでいけるはずだ!」
回復魔法の詠唱を終え、俺はせつ菜ちゃんにそう伝える。
「ありがとうございます、トールさん! しずくさん、今度こそ後は任せてください!」
「分かりました、お願いします!」
そこからせつ菜ちゃんは前に一歩進み、必殺技名を宣言した。
「行きますよ〜!? せつ菜スカーレットストーム!!」
こうして、敵のかすみちゃんは撃退され、無事ライブは大盛況で終わった。
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「よう、二人ともお疲れ様!」
「徹さん、ありがとうございます!」
ライブ終了後、舞台袖でライブをやり切ったしずくちゃんとせつ菜ちゃんを、飲み物を用意して迎えた。
「はぁ……やり切りました!」
「ははっ。せつ菜ちゃん、ショーやってる時も楽しそうだったな」
「はい、私のやりたかったことだったので! 徹さんも、お忙しいのに参加していただいて、ありがとうございました!」
少し息が上がりながらも、とても幸せそうな表情で俺が用意した飲み物を手に取りながらそう話すせつ菜ちゃん。
「いやいや、俺も正直とても参加したかったんだ。むしろ、俺が提案したキャラをやらせてもらえて、感謝してるよ」
そう、今回行ったヒーローショーは、せつ菜ちゃんがライブをする一環で行われているものだったのだ。彼女は特撮モノが大好きであり、彼女がそれをライブ演出に取り入れてほしいと要望した。そしてこのようにミニヒーローショーが開催されることが決まった時、それに乗じてしずくちゃんとかすみちゃん、そして俺が出演するという形になった訳だ。
「徹さんが演じてたキャラクター、とても徹さんに似合ってて良かったですよ!」
「ん、そうか? でもせつ菜ちゃんとか、仮面ライダーとかそっちの方が喜ぶんじゃないかなと思ったが……」
しずくちゃんはとても俺のことを褒めてくれるが、正直本当に魔術師で良かったのだろうかと疑問に思ってるところが少しだけある。あそこは全身仮面ライダーの装備を纏って登場しても良かったのではないかと思ったり……
「いえ、あの魔術師トールの冷静沈着で優しさも持ち合わせてるそのキャラは、まさに正義の味方でした! それに……とてもカッコ良かった、です……」
「そ、そうか……ありがとうな」
少し顔を赤くして目を逸らすせつ菜ちゃん。
なんだか、せつ菜ちゃんにそう言われると嬉しいな。具体的な感想もくれたし……
「徹せんぱぁぁい! お疲れ様ですぅ!!」
「うおっ!? びっくりした〜……」
すると、舞台袖の出口の方からかすみちゃんがこちらに走ってきて、俺にくっついてきた。
「ちょっとかすみさん、はんぺんもいるんですから気をつけてください」
「あっ、そうだった……ごめんね、許してくれるかな?」
「にゃーん!」
俺の腕の中ではんぺんは笑顔で鳴いて返事した。
「ふふっ、まさかうちの役員のはんぺんさんも一緒に出演するとは思いませんでしたね」
「確かにな。でもおかげで、観客のみんなからいい反応を貰ったし……良かったな、はんぺん?」
「にゃっ!」
ははっ、どうやら楽しかったようだな。今日は色んな人に撫でられてたし、ご機嫌なのかもしれない。
「いいなぁ……かすみんもステージの上で一緒にショーをやりたかったですぅ〜」
「かすみさんは敵役だし、それにコッペパン同好会の方々があんなに立派なものを作ってくれたんでしょ?」
「それはそうですけどぉ……やっぱり、徹先輩を敵役に引き入れられなかったのが悔しい〜……」
おや、そんなに俺と一緒に敵役を共演したかったのか。確かに出演するメンバーが決まった後、配役を決める時はかすみちゃんに結構誘われたからな。結局かすみちゃんは悪役、俺は味方役が相応しいというしずくちゃんとせつ菜ちゃんの意見でそう決まっちまったが……
「じゃあ、今度いつかかすみちゃんと二人でショーやってみるか? そうだな……仮面ライダーとか」
「!?」
「あっ、いいですねぇ〜! なら、今度──」
「それはダメですっ!!」
「せつ菜先輩ぃ!?」
俺がかすみちゃんにショーをやろうと誘ったら、何故かせつ菜ちゃんが抗議に入ってきて、そのままかすみちゃんと二人で言い合いが始まってしまったのだが……もしかして、仮面ライダーの選択が不味かったのだろうか?
そんなこんなで、この二人の言い争いをどう鎮めようと考えていると……
『至急至急、こちら本部です。第四ステージにて機材トラブル発生。巡回中の役員は直ちにそちらへ急行願います、どうぞ』
「っ……!」
ショーをやっているときも常時つけていたピンマイクから、慌ただしい口調で本部にいる若月がそう伝えてきた。
ショーをやる前に本部の方にはこっちに参加することを伝えており、そろそろ終了して巡回に戻ることを伝えようとしていたところだが……
第四ステージということは……確か、愛ちゃんのステージがあったはずだ。
機材トラブル、か……なんとかしなければ。
「悪いしずくちゃん、急用が入ったから俺はここから出る」
「あっ、分かりました! ……お仕事、頑張って下さいね」
「あぁ、ありがとな……こちら高咲。本部、感度あったら応答してください、どうぞ──」
こうして、俺は第四ステージへ向けて駆け出した。
今回はここまで!
ヒーローショーの描写は難しいですねぇ……
次回は最後の出来事がメインになるかと思われます!
ではまた次回!
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