どうも!
第89話です。
では早速どうぞ。
「っ……!!」
せつ菜ちゃん達のライブ会場を後にした俺は、愛ちゃんがいるであろうライブ会場へと駆け出していた。生徒会役員内の無線から、機材トラブルが発生したという一報を受けたからだ。まだ本部に巡回の任務に戻るという報告をしていなかったが、俺はその一大事を見過ごしてはいられなかった。
「にゃっ?」
はんぺんが俺に抱きかかえられながら、心配そうにこちらを覗いてくる。
そうなるのも仕方ないだろう。今の俺は、いつもの落ち着きを失っているからな。呼吸が明らかに乱れ、大した距離も走っていないのに息が上がろうとしてる。はんぺんを抱きかかえている故の体力疲労もあるかもしれないが、それだけではない。
機材トラブルという言葉を聞くと……過去のあの出来事を思い出してしまうからな。
中三の頃、初めて作った曲が披露される時に機材トラブルが起きた。俺はあの出来事が再び起こってしまうかもしれないことに危機感を感じているのだ。
あの時予選落ちしたのは、俺の曲の出来が悪かったのが主な要因だと思っている。だが、機材トラブルによって観客達の熱気が冷めてしまったことも一つの原因だと考えている。
愛ちゃんのライブは開始時刻までまた余裕はあるものの、トラブルの解決が時間を要してしまい、間に合わない可能性だってある。そんなことになってほしくない……その気持ち一つで、俺はただ無我夢中にお台場の街並みを駆け抜けている。
「はぁっ……ここだ!」
ステージのある場所に辿り着き、俺はステージの音響室に入ろうとした。
すると、向かい側からこちらに接近する人影が二つ見えた。
「えっ、お兄ちゃん!?」
「あっ、てっつー! 来てくれたんだね!?」
ライブ衣装を纏った愛ちゃんと、俺と同じライブTシャツを着た侑と会った。二人とも珍しく目に見えて焦った様子で
「あぁ、機材トラブルなんだってな!?」
「そうだよ……っててっつー、顔色悪いじゃん!? 大丈夫?」
「ホントだ! お兄ちゃん、何かあったの!?」
俺の顔を見た侑と愛ちゃんが、不安そうな表情で見つめてくる。マズい、そんなに顔に出てたのか……。
「だ、大丈夫だ……それより、機材トラブルはどうなった?」
「それなら、今りなりーが不具合の原因を見てくれてるところ! 一緒に行こ!」
「おう……!」
愛ちゃんとともに音響室の中に入ると、複数のスタッフが深刻そうな面持ちを浮かべていた。そして奥へ進むと、一人パソコンに向き合ってカタカタとキーを叩く者がいた。
「りなりー! 調子はどう!?」
「不具合の原因は分かった。あとはプログラムを正しいものに書き直すだけ」
周りの人達が慌てている中、璃奈ちゃんだけが冷静さを保って問題を解決しようとしていた。彼女の声色からして、あともう少しでライブを出来るような状態に持ち込めそうだった。
「これなら、俺が何か手を貸す必要はなさそうだな」
「うん……そうかも」
先ほどまでの危機感はなくなったものの、俺はトラブルが解決する最後の瞬間まで息を呑み、侑と二人で見守った。
「よし、これで……」
そう言って璃奈ちゃんがパソコンのエンターキーを押すと、パソコンの画面が正常通りになった。どうやら、トラブルを解決出来たようだ。
「……! りなり〜! ありがと〜!!」
それを見た愛ちゃんは、嬉しさのあまりか璃奈ちゃんを抱き締めて感謝の意を伝えた。
ふぅ、これで一安心だ。あぁもう、こんなに焦るなんて俺らしくないんだけどな……
「……」
「りなりー?」
抱き締められた璃奈ちゃんが何も反応をしないので、もう一度彼女の名を呼びかける愛ちゃん。
すると、少し間を置いてから璃奈ちゃんは口を開いた。
「私、初めて愛さんの力になれたかも」
「……! もー、りなりーったら!」
璃奈ちゃんの言葉を聞くと、愛ちゃんは暖かい微笑みを浮かべながら彼女の頭を撫でた。
『初めて』か……つまり、璃奈ちゃんは今まで愛ちゃんに何もしてあげられていないと思っているということだよな。
そんなことはないと思うけれども……でも、今のでそう思えるほどの達成感を感じているんだろうな。
そう考えていると、璃奈ちゃんの視線がこちらへ向いた。
「あっ、侑さんと徹さん……それにはんぺんまで」
「よっ。無事トラブルは解決したんだな? これで愛ちゃんも安心してライブが出来るな」
「うん! ……っていうかはんぺんじゃん!! あはは、アタシ全く気づかなかったよ〜」
愛ちゃんもこちらの存在に気づくが、はんぺんに関しては今気づいたようだ。まあ、外で会った時はお互い慌ててたもんな。気付かないのも無理はないだろう。
「ははっ、とある事情で一緒に行動してるのさ。ほら、はんぺんも愛ちゃんのこと応援しているみたいだぞ?」
「にゃーん!」
俺がはんぺんの手を持ち上げて、手を挙げるような仕草を見せると、はんぺんも愛ちゃんに笑顔を見せて鳴いてみせた。
「ありがとー、はんぺん! ……よっしゃー! りなりーが頑張ってくれたし、愛さんもより一層頑張るぞー!」
はんぺんから受け取った応援によって、愛ちゃんの気合いとテンションも高まったようだ。
「愛ちゃん! そろそろ準備した方がいいよ!」
「おっと、そうだったね! ありがとう、ゆうゆ! ……それじゃあ、あたしはそろそろ行くね」
「OK。俺もしばらくここで愛ちゃんのライブを見させてもらうぞ。楽しんで来い」
「ホント!? てっつーが見てくれるなら、愛さんてっつーを思いっきり笑わせに行くよー! 絶対楽しませるんだから!!」
「おいおい、ダジャレで笑わせるのは程々にしろよな?」
愛ちゃんのダジャレに対する耐久はついてきたとはいえ、たまに飛んでくる天才級のダジャレに俺は屈されてしまうので、もはやライブどころではなくなってしまう。まあ、きっとそういう笑いではない……よな?
まあそんな風に釘を刺すと、愛ちゃんは無邪気な笑顔を見せてからその場を後にした。
しかし、この音響室からライブを見るとは思わないな。しかもステージの丁度真後ろにあるから、愛ちゃんの後ろ姿が見えるってことか。どんな風に見えるか楽しみだ。
「さて……璃奈ちゃん、お疲れ様」
「あっ、ありがと……」
パソコンの前で佇む璃奈ちゃんに声を掛けると、少し緊張しているのか、目を逸らしてそう答えた。
「あの、徹さん」
「ん、どうした?」
「その……ごめんなさい」
すると、突然璃奈ちゃんは立ち上がり、お辞儀をした。この行動には、俺も侑も驚きを隠せなかった。
「えっ、どうしたの璃奈ちゃん!?」
「……何故謝るんだ?」
本来、ここは俺達が璃奈ちゃんに感謝を伝えるべきだ。それなのに何故……?
疑問を浮かべていると、璃奈ちゃんが口を開いた。
「ホントは、徹さんのようなスタッフの人がこのトラブルに対処すべきだったんだよね? 知識があっても、今はただのスクールアイドル。だから、私がここで出しゃばるのは良くなかったんじゃないかと思った……」
……なるほどな。
璃奈ちゃんは、自分が俺のような役員の立場の人間が処理をするようなことを、それらに関係のない者が勝手に手を加えてしまった事を反省しているのだろう。
でも───
「……ははっ、そんなことを気にしていたのか」
俺は璃奈ちゃんの前に立ち、彼女と向き合った。
「物事を解決するのに、誰がとかは関係ないよ。仮に俺がここに来るまで待ってて、もしライブが始まるまでにトラブルが解決しなかったら、それこそあってはならないことだ」
「……」
璃奈ちゃんには、プログラミングができるという長所がある。その長所を本人も理解しているから、今回のように素早い判断の上、行動が出来たのだ。
ステージに立つ人間が、裏方のジョブに干渉することを宜しくないこととするのは、その人が裏方に関する技量を持っていないことが一般的だからであると考えている。その技量を持っていなければ、いくらトラブルに対処したって解決しない。むしろ悪化する可能性だってある。ならば、裏方はそれを避けようとするのは自然なことだ。
しかし、今回は違う。璃奈ちゃんが自分の技量を理解し、正当な判断の上で行動してくれたのだ。ならば、俺はどうして璃奈ちゃんを責めることが出来ようか。
「だから、璃奈ちゃんが謝ることは全くないのさ。それより……」
俺は璃奈ちゃんの頭の上に手を置き、ゆっくり摩る。
「より良い結果を得ようと行動したその勇気……それこそ素晴らしいことで、時には誰かを助けることも出来るんだ。だから、その勇気を大事にして欲しいな」
「徹さん……ありがとう、そうする」
璃奈ちゃんはとても安心しているような声色でそう言った。
それにしても、璃奈ちゃんの成長は目まぐるしいな。これからもその勇気を持って、物事に相対して欲しいものだ。
「じーっ……」
「ん? どうした侑。そんな物申したいような表情して」
すると、何故か後ろで侑がジト目をしてこちらを見ていた。
「別にー……それより、璃奈ちゃんはもっと自信持って! 今日は愛ちゃんの役に立てた訳だし、その調子!」
「侑さん、ありがとう。もっと頑張る。璃奈ちゃんボード『むん!』」
拗ねた上に話題をすり替えたか……一体どんな不満があったのか?
「それじゃ、璃奈ちゃんは楽屋に戻ってて良いよ! 私も宣伝活動に戻るから!」
「……いや、私はここで愛さんのライブが見たい」
「おっ、そうか! じゃあここではんぺんと一緒に見るか?」
「うん、見る……!」
ふふっ、はんぺんも心なしか嬉しそうだ。猫と一緒にライブを見るなんてなかなかないだろうから、ライブが終わるまでははんぺんを璃奈ちゃんに預けておこうかな。
「そっか、じゃあ私も少し覗いて行こうかな! 愛ちゃんのライブ気になるし!」
「なら、三人で見るか!」
まあそんなわけで、侑も加わって三人+はんぺんで一緒に愛ちゃんのライブを見ることになった。
────────────────────
「ふぅ……気がつけば、割と良い時間だな」
おやつを食べる時間は過ぎ、良い子ならばもう家に帰るくらいの時間だろうか。
冬の季節ならばそろそろ日が沈むがどうかの時間だが、今は夏なのでまだそれほどではない。
そんな時、俺こと高咲徹ははんぺんを抱え、学校近くの公園を歩いていた。
「どうだはんぺん、今日は楽しかったか?」
「にゃっ!」
「ははっ、そうかそうか。でも、まだフェスは終わらないぞ? もっと楽しもうな」
あとどれくらいライブがあっただろうか……あれか、虹ヶ咲と東雲、藤黄のコラボライブなんていうのがあったな。他校のスクールアイドルを交えてライブをすることなんてなかなかないだろうから、俺としても是非見てみたいと思うものだ。
あとは……まあ、あれだな。
「実はな、最後のステージには俺が作った曲を同好会のみんなに歌ってもらえるんだ。それも楽しみなんだよな〜」
てか、そのステージもあと少しでお披露目するんだよな。あと1時間ちょっとくらいか……うわっ、そう思うと急に鼓動が早くなってきやがった。
「正直、観客のみんなが聴くんだなって思うと少し緊張しちゃうけど……でも、侑が新たな一歩を力強く踏み出せるため、侑のような境遇にある人達にエールを送れるためなら、しっかり見守りたいと思ってるよ」
……ははっ、俺は何故はんぺんにこんなことを話しているのだろうか? はんぺんも困っちゃうだろうと思ってはんぺんを見ると……
「……」
今まで鳴き声で返事してくれていたはんぺんからの反応がなくなっていた。
「……はんぺん? どうした、そんな上を眺めて……空か?」
どうやら、空の様子が気になっているようだ。確かに少し前までとは違って、雲が湧いてきて少し暗くなっている。
この雲は雨雲ではないだろうか……? そんな不安が過った。杞憂であって欲しいが。
「あっ! てっちゃ〜ん!」
すると、誰かの声が聞こえた。その渾名で呼ぶ女の子というと、ただ一人しか思い浮かばなかった。
「おぉ、歩夢ちゃんじゃないか! お疲れ!」
「えへへ、ありがとう!」
満面の笑みでこちらに走ってきた歩夢ちゃんだった。
「そういえば、今日子ちゃん達はどこ行ったんだ? ……っていうか、そのシャツってことは、もうステージは終わったんだな」
歩夢ちゃんの服装はフェスのために作られたオリジナルTシャツで、ステージの衣装ではなかった。
「うん、今はフリーなんだ! ……でも、てっちゃんに会えて良かったよ!」
「あぁ、俺が歩夢ちゃんのステージに行った時は取り込み中だったみたいだから話しかけられなかったんだよな。ホント、歩夢ちゃんも人気になっちまったな!」
「も〜、何それ〜! ……それより、その子猫ちゃんはてっちゃんが拾ったの?」
すると、歩夢ちゃんの目線ははんぺんへと向いた。歩夢ちゃんも多分、はんぺんと実際に会うのは初めてだろう。
「あぁ、この子はおさんぽ役員のはんぺんだ。今日は俺と一緒に行動してたって感じだ」
「へぇ、可愛い〜!」
ははっ、歩夢ちゃんは可愛いものに目がないからテンションが上がってるな。それにしても、今日だけではんぺんは何人の人に撫でられたか? 行く場所で色んな人に愛でられてたから、これは最早生徒会のマスコットだな。
そんなことを考えていると────
「ん? ……今、ポツってならなかったか?」
「えっ?」
突然俺の頭を冷たい感覚が襲った。気になり頭を触ると、冷たいと感じた部分な濡れていた。
もしかしてこれって……そう思った時だった。
「これは……嘘だろ?」
地面がピシャピシャと音を立て始めた。辺りはみるみると暗くなり、空が泣いている。
───この時、最大の壁が俺達の前に立ちはだかったのだ。
理に逆らえない情
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