高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも。
第90話です。
では早速どうぞ。


第90話 悔やしさ

 

 

 

 ───これは、悪夢だろうか。

 

 

 スクールアイドル各々が持ち味を発揮したライブをしたり、設営された屋台でボランティアが料理を振る舞ったりして、やってきたお客さん達を笑顔にした。それは、俺達が望んだスクールアイドルフェスティバルに限りなく近いものだった。

 

 

 しかし、今はどうだろうか。冷たい空気の中、雨水が絶え間なく滴り、我々の行動を制限させてくる。俺達が求めていた理想とは程遠い状況と化しているのだ。

 

 

「もしかして、もう雨が止んでいたり……する訳がないよな。はっ、俺は何を言ってるのやら」

 

 

 俺の意思に反し、驚くほど状況は変わっていないことに気づき、落胆する。

 

 

 俺がこんなに落胆するのも無理はない。この夕立のせいで、全てのステージが一時中断、再開の見込みはたっていないことを無線で聞いたのだからな。それぞれのステージに配置しているスタッフは、近くに設置されたテントに避難してその場で待機、俺を含めた巡回役員は本部に戻って待機するようにとの指示も出た。

 

 そして俺は今本部に戻り、本部長もとい生徒会副会長の若月に報告をしてきたところだ。まあそれで、本部のテントの入口まで辿り着き、外の景色を見て落胆してたという訳だ。

 

 

 さて、入口まで戻って来たが、ここはテントが横一列に連なっていて、そこを端まで歩いた先に歩夢ちゃんが……あっ、いるな。

 

 

「待たせてすまん、歩夢ちゃん。濡れてないか? もし濡れてたらタオル取り寄せてくるが……」

 

「ううん、大丈夫だよ! でも、てっちゃんの方こそ大丈夫? 私、てっちゃんがちゃんと傘の中に入れてたか心配で……」

 

 

 俺の肩辺りを見ながら不安そうな表情を浮かべる歩夢ちゃん。

 

 そう、雨が降ってきた当初俺は歩夢ちゃんと一緒にいた訳だが、彼女が傘を持っていなかったので俺の傘を差してその中に入ってもらったのだ。ただ移動している間、歩夢ちゃんが常時顔を赤くして俯いており……まあ、ちょっと気不味い雰囲気になっていた。

 

 

「ははっ、大丈夫さ。ほら、俺の肩を触ってみて。濡れてないだろ?」

 

「確かに……なら、良かった」

 

 

 左肩を差し出し、歩夢ちゃんが確認するように軽く触ると、彼女は納得してくれた。

 

 

 まあ、歩夢ちゃんが濡れていなければそれでいいんだ。正直、傘の大きさが足りなくて俺の左肩がはみ出て若干濡れてしまったのだが……それも、本部に着いてから新たなTシャツを貰ったので着替えられたって感じだ。

 

 あっ、ちなみに一緒にいたはんぺんは本部にいた若月に預けておいた。はんぺんを見た瞬間に顔が綻んで笑顔になってたから、もしかすると猫が好きなのかもしれないな。彼女も、フェスが中断してほぼやる事がないから、良い遊び相手になるな……なんてな、あははは……

 

 

 なんて、自分の気分を無理矢理上げようにも、どうしようもないよな。

 

 

「どうする? 雨が降ってきたけど……」

 

「雨じゃライブやらなさそうだよね〜……寂しいけど、帰る?」

 

「うーん……」

 

 

 辺りの軒下にいるフェスに来てくれた人達の会話が耳に入ってくる。

 

 帰らないで……と言いたいところだが、そうだよな。肝心なライブは出来ない訳だし、それを求めてここに来た人達にとって、ここに滞在する意味がないだろう。

 

 

「ニジガクと東雲のコラボ、見たかったなぁ……」

 

「それな……こんな雨、俺が今から晴らしてやる!!」

 

「いや◯気の子かい! まあ、気持ちは分かるけど」

 

 

 中には、こんな風に前を向こうとしている人もいた。まあ、本当に晴らせたらそれこそ願ったり叶ったりなんだがな……

 

 

 このように様々な人がいるが、全員の表情には、笑顔がなかった。

 

 

「雨、いつ止むかな……」

 

 

 そんな中、空を見上げながら歩夢ちゃんはそう俺に訊く。

 

 

 ……一応、天気予報アプリの雨雲レーダーを見てみるか。

 

 今時の天気予報アプリに含まれる雨雲レーダーは、ある地点にある気象レーダーからマイクロ波を発射し、雨粒によって反射してくることで雨が降っている位置と量を特定出来ることによって成り立つサービスだ。この雨雲レーダーは、未来の雨雲の位置を予測することも出来る。

 

 

 その予想を見る限り……

 

 

「これを見た感じ、七時頃には止むと書いてあるな」

 

「そっか……でも、フェスはその時間までだったよね」

 

「……だな」

 

 

 そう、このフェスの終了時刻は午後七時。その頃に雨が止むと言われても、意味がない。

 

 ただし、この予想はあくまで予想である。雨雲予想は正味、当たらないことが多い。夕立なら尚更だ。だから、雨が止むのが早まる可能性がある。だがかえって遅くなる可能性も、無論ある。

 

 

 はぁ……こんなことを論じてても、何の意味もない。今こんなことしか出来ない俺が非常に腹立たしい。

 

 

 何より、侑のためにみんなが届けようとしているあの曲を、このまま披露できずにフェスが終わるということが、何よりも許しがたいことなのだ。あの曲は単なる俺の曲ではない。みんなの想いが込められている曲だ。

 

 今頃みんなはどうしているだろうか? 愛ちゃんとかはみんなの気が沈まないように振る舞ってそうなのだが……他の子達は流石に落ち込んでたりするのだろうか。

 

 特に、侑は結構落ち込んでそうなんだよな。あいつはこのフェスを成功させたいと人一倍に願ってたからな。本当はあいつの側に行って励ましてやりたいが……

 

 

 はぁ……何もかも上手く行かないな。

 

 

 本当に、ここで終わってしまうのか……?

 

 

 

「───私達、てっちゃんが作ってくれた曲も歌えないのかな」

 

「歩夢ちゃん……?」

 

 

 すると、隣で俯いてた歩夢ちゃんがふとそう呟いた。

 

 

「あっ……ご、ごめん! 変なこと言っちゃった」

 

 

 俺の視線に気づいたのか、苦笑いを取り繕ってそう言った。

 

 

 俯いていた歩夢ちゃんは、今にも泣きそうな表情だった。手元を見ると、握り拳を作っていて、少し力が入っているように見えた。

 

 

 

「……悔しいよな」

 

「えっ?」

 

 

 突然の開口に驚きを見せる歩夢ちゃん。俺は続けて彼女に話しかける。

 

 

「侑のために曲を作ろうって、最初に提案してきたのは歩夢ちゃんだったよな。それに、練習でも一際張り切ってたし……それだけ、侑の後押しをしたかったんだよな?」

 

「……! ……うん」

 

 

 歩夢ちゃんは、震えるような声でそう肯定した。

 

 

 そうだよな……侑を応援したいという気持ちは、同好会のみんなが持っているが、中でも歩夢ちゃんは彼女と長い付き合いだ。だからこそ、あの曲を披露することには人一倍強い想いを持っている。

 

 

 俺は、何かに対して『悔しい』という態度を見せる歩夢ちゃんを滅多に見ない。なんなら、悲しみを滲ませ、握り拳を作るほどの強い態度を見せる彼女を見るのは初めてだ。そして、その表情からは『諦めたくない』という強い意志も感じ取れた。

 

 

 この時、俺は何としても諦めてはならないという決意を固めた。

 

 

 雨という自然がもたらす大きな壁は、そう簡単にどうこうなるものではない。でも、そんな俺達はその壁を乗り越えようと足掻くしかないだろう。

 

 

 ……よし、ならばまずはどうするかを今一度考えよう。

 

 

 そうして暫く考えていると、一つの方法に辿り着いた────

 

 

「分かった。ちょっと待ってろ、俺がなんとかする!」

 

「えっ!? てっちゃん、どこ行くの!?」

 

 

 俺が六時の方向へ走り出すと、歩夢ちゃんが驚きながらそう言い止める。

 

 

「校長先生の所だ! せめてラストステージだけ、雨が止んだ後でも出来ないか交渉してくる!」

 

「ま、待って! そこまでしなくても……!」

 

「いや、そこまでする! 侑と、侑のような境遇に立つみんなにエールを送るんだろ? それは、今しか出来ないことだ! こんなところで……諦めてたまるか!!」

 

 

 声を張ってそう言い、俺は再び歩夢ちゃんの元に駆け寄り、歩夢ちゃんの肩に手を置く。

 

 

「だから……もし雨が止んだら、侑の所に行ってくれ。このフェスはまだ終わっちゃいない、ってな」

 

「っ……! もう、なんでそんなにかっこいいこと言えるの……?」

 

「か、かっこいい……?」

 

「う、ううん! 何でもないよ! じゃあてっちゃん、お願いするね」

 

「おう!」

 

 

 顔を赤く染めたり、嬉しそうにしたり……なかなか表情が忙しい歩夢ちゃんだったが、俺は歩夢ちゃんから離れ、その場を後にした。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「あっ、高咲さん! どうされたんですか、そんなに急いで……」

 

 

 再び連なったテントの前を駆け抜け、本部のテント前に辿り着いて中に入ろうとすると、同時に若月が外に出てきた。

 

 俺がこの本部にやってきたのは、校長先生に直訴することを伝えるためだ。一時的でありながら、今俺は生徒会の役員だ。リーダーである若月の耳に入れずに実行しては角が立ってしまう。

 

 まあ、今俺がやろうとしていることはそう簡単に認められないだろうと思うが。

 

 

「あぁ若月、丁度良いところに来た……これから校長室に行くんだ! フェスの終了時間を延ばして貰えるように頼もうと思う!」

 

「ちょっと待ってください! それって、中断したところから全ての演目をやるということではないですよね……?」

 

 

 予想通り、若月は困惑した様子で俺にそう問い掛けてきた。

 

 

「あぁ、そんなことは頼まない。ただラストステージだけをやって欲しいって話だ。今、午後七時前後に雨が止むとの予報だ。このままだとライブが終了する時刻に間に合わないから、延ばしてもらおうと思っている」

 

 

 まだ出来ていないステージが全て出来ればこの上ないのだが、そうではないということと、俺が考えていることを全て伝える。

 

 

「ラストステージ……でも終了時間が決まってる以上、どうしようもありません。申し訳ありませんが、無謀かと……」

 

 

 やっぱりな……

 

 普通に考えれば、これだけでもなかなか実現性が低いことであることは否めない。なぜなら既に学校の関係者が、予定の終了時間に向けて動いているからだ。そこで俺がいきなり終了時間を延ばしてくれと言ってしまえば、それは全ての予定を一旦白紙にすることに等しい。

 

 

 このフェスをするために様々な予定を調整するその関係者のトップである校長先生がそれを了承してくれる可能性は低く、それを鑑みて、若月もこのように反対するのだろうと思う。

 

 実際、若月の方が聡明で、至極真っ当な考え方をしているのだ。生徒会長時代の俺も、もしこのような状況下ならば、若月と同じような考え方をしていただろう。

 

 

 ───ただ、今は違う。

 

 

「あぁ、分かっている……それが妥当な考えではある。でもな若月、その無謀を乗り越えたいと思うことはないか?」

 

「……!?」

 

 

 俺の言葉に、若月は不意を打たれたように目を大きく見開いた。

 

 

「ラストステージはな……何か新しいことにチャレンジしたいと思ってても、なかなかあと一歩を踏み出せない人を後押しするためにあるんだ。きっと世の中には、そんな人達が沢山いるんじゃないかと思う。だから、その人達にエールを送りたい。若月も……後押しされたいと思ったことはないか?」

 

「……」

 

 

 俺の問い掛けに、変わらず困惑した表情を見せる若月。

 

 

「俺は、何としてもこの逆境を乗り越えたいんだ。本当は若月にも、その手伝いをして欲しいところだが……失礼するぞ」

 

 

 時間の猶予もなく、俺は若月の横を走り抜けた。

 

 

 結局、若月からの了承は得ることができなかった。了承なしに行動することが良くないことは、俺も分かっている。

 

 

 でも……俺は同好会のみんなが願うことを叶える手助けをしたい。

 

 

 雨だろうがトラブルだろうが、どんな逆境を乗り越えたいのだ。

 

 

 

 逆境を()()()()()……か。

 

 

『例えどんなトラブルがあったとしても、私達は乗り越えられると思っています!』

 

 

 ふと、せつ菜ちゃんが言っていた言葉が脳裏に過ぎった。

 

 

 ……ははっ、その通りだな。全く、せつ菜ちゃんは凄いな。

 

 

 

 






 願うなら掴み取れ。


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