第92話です!
では早速どうぞ!
「……うむ、問題ないな。じゃあ、今回もよろしく頼むよ」
「はい! 任せてください!」
音響室で生徒会役員と確認作業を行なった後、俺は彼女にそう伝えてその場を後にする。
にわか雨のせいで一時寂しい結末を迎えようとしたスクールアイドルフェスティバルであったが……まあ、主に生徒会副会長の若月のおかげでラストステージを開くことが許され、今に至っている。
俺はあの後、ステージの整備を手伝い、それらが終わった後に同好会のみんなが集まる予定の場所に来たのだが、そこには彼女達だけではなく、遥ちゃんを始めとした東雲学院スクールアイドル部のみんな、そして綾小路さんを始めとした藤黄学園スクールアイドル部のみんなも居たのだ。あまりの大人数が一堂に集結し、俺はそれに圧倒されてしまったが、それだけみんながこのステージに期待してくれているのだろう。
そして、歩夢ちゃんに連れてこられた侑に、ライブを見て欲しいという想いをみんなで伝えた。それから、俺が観客スペースに連れていって、ここに戻ってきたというところだ。今頃、侑は一人で何が何だか分からず困惑してるかもしれない。そこに申し訳なさもあるが……それも一時的なことだ。少し我慢してくれ。
そんなことを考えながら、同好会のみんなの様子を見にステージ袖に入った瞬間……
「「「えっ!?」」」
大人数の驚く声が聞こえた。
声からして、同好会のみんななのだろうが……もしや、何かまたアクシデントでもあったのか?
「どうしたんだみんな。何かあったのか?」
一抹の不安を覚えながらも、俺は平常を装ってみんなに話し掛ける。
しかし、返ってきたのは意外な反応だった。
「あっ、徹せんぱぁい! 徹先輩がラストステージをするために頑張ってくれたって本当ですかぁ!?」
「えっ?」
開口一番かすみちゃんが興奮した様子で俺にそう問いかけてくる。まさか、そのことでみんなが驚いているとは思わなかったが……
しかし何故みんながそれを知っているのかと思ったが、よく考えればそのことを歩夢ちゃんが知っているし、多分彼女がみんなに話したんだろうな。
そう思って歩夢ちゃんの方を向くと、彼女は可愛げにウィンクして返してくれた。歩夢ちゃんには大事な役目を任せちゃったから、あとでお礼をしなきゃな。
「ま、まあな。みんな、ラストステージに強い想いがあっただろうから……このまま終わるのは嫌だって、俺も思ったから」
「……! てっつ〜!!」
「おわっ、どうした愛ちゃん!?」
すると、愛ちゃんが俺へ勢いよく飛び付いてきた。あまりに突然の行動に、俺は驚きを隠せない。
「どうしたって、ありがとうのハグ! てっつーが愛さん達の知らないところで頑張ってくれてて、嬉しかったの!」
無邪気な笑顔でそう言ってくれる愛ちゃん。そう言われて悪い気は全くしないが、急にハグをするのはやめてくれ……というか、この後ライブだというのに、衣装の着崩れとか大丈夫なのか?
「私も感謝してます。ただでさえ大変なことを、徹先輩は私達の代わりに交渉してくださっていたのですから……本当に、尊敬します」
「私も、言葉じゃ足りないくらい感謝してる! ……あっ! だったら愛ちゃんみたいに私もハグしようかな〜!」
「えっ!? いやエマちゃんまで便乗しなくていいから! お前らそろそろステージが始まるよな!?」
しずくちゃんは神妙な面持ちでそう言って来るし……尊敬って、そんなことを言われるほどの何かをした訳じゃないんだが。
「はいはい。愛、徹が困ってるでしょ? 離れなさい」
「えへへ、ごめん果林〜」
すると、果林ちゃんが横から愛ちゃんにそう諭してくれて、それを聞いた愛ちゃんは素直に俺から離れる。ふぅ、結構絞めが強くて苦しかったぜ……
「でも、私の気持ちは愛やエマ達と一緒よ。その……か、感謝してるわ」
「お、おう……別にそんな大したことはしてないんだけどな」
果林ちゃんまで……彼女は滅多にそう素直に礼を述べてくれることはないから、少しこっちまで照れてしまうな。
でも俺は正味、大したことが出来ていない。こうしてラストステージを設けることが出来たのは、生徒会副会長である若月のおかげだ。
「またそうやって謙遜してる。徹さんは凄い人。私達の為に行動してくれたから」
「そうだよ! 徹さんが動いてなかったら、きっとこうなってなかったよ!」
「みんな……」
ここにいるみんなの満面の笑みが目に映る。
──ははっ。みんなが喜んでくれたのなら、勇気を出して行動した甲斐があったな。
『開演まであと五分です!』
「おっ、そろそろ時間か〜! よーし! ラストステージ、頑張るぞ〜!」
「凄い観客ですねぇ……ぐふふ、この後かすみんのエールを受けたみんなはぁ、かすみんの虜になること間違いなしですね〜!」
「はいはいそうね、かすかすちゃん」
「かすみんです! あと適当に返事しないでください!!」
「……? どうしたの彼方ちゃん、少し元気ないけど……」
「あっ、何でもないよ〜。ただ、もっと遥ちゃんと歌いたかったな〜って思って……」
「なら、みんなで歌い終わった後、東雲と藤黄の皆さんもステージに上がってもらいましょう!」
「おー、せつ菜ちゃんナイスアイデア〜! 彼方ちゃん、それがあるだけで今元気百万倍だよ〜!」
もう開演五分前か……ついに始まるんだな。
彼方ちゃんの気持ちも分かる。雨が降ったから仕方ないとはいえ、俺も東雲と藤黄の子達が同好会のみんなとコラボする姿を見たかった。だから、このステージで少しだけでもそれを実現させるのも良いな。誰かが悔いを残して終わるなんてことがあってはならない。
ただ、俺の中で少し悔いがある。それは、
勿論前日に誘ったのだが、用事がある上にライブとかそういうのは苦手だと言って断られたんだ。彼のおかげで曲を作れるようになったと言っても過言ではないから、是非見に来て欲しかったが……まあ、こればっかりはどうしようもないな。また今度、音源だけでも聴かせてみるか。
「ねぇみんな! せっかくだし、円陣組まない?」
「おっ、歩夢いいね〜! やろうやろう!」
「でしたら、声出しは徹さんにやってもらうというのはどうでしょう?」
「おぉ、円陣良いな……って、えっ?」
待て、今とんでもないことを聞いたぞ。誰が声出しだって……?
分かってはいるものの、それが俄かに信じ難いと頭を真っ白にする俺がいた。
「お、俺が声出し!? いやいやそこは言い出しっぺの歩夢ちゃんとか、他の子の方が適任じゃないか!?」
「ううん、徹さんしか適任はいないよ」
「そうですね! これから歌う曲は、徹先輩が作ったのですから!」
「だね〜。それに、その曲は侑ちゃんにエールを送る曲でしょ? だから、侑ちゃんのお兄ちゃんが声出しやって欲しいな〜?」
えぇ……マジか。
まあ確かに、今回みんなが披露するのは、俺が妹の侑を後押しするために作曲した曲だからな。この背景を基に代表者を一人選ぶとすれば、俺しかいないのか。
「わ、わかったよ。そこまで言うなら……」
しかし、声出しで俺は何を話せばいいのか? ただ単純に『行くぞ!』とかだと味気ないし、どうでもいいことをタラタラと話すのも良くない気がするな……
でもそうだな、一つだけみんなに伝えたいことがある。
意を決した俺は、みんなと肩を組み、一つの輪になって集まった。そして間を少し空けて、俺は口を開いた。
「まずは改めて、みんなに感謝の気持ちを伝えたい」
あぁ、この一言でさらに緊張感が増してきたが……ここまで言ったのなら、最後まで俺の気持ちを伝えるぞ。
「合宿の時、昔背負ったトラウマを明かして、それを暖かく受け入れてくれたこと。俺が侑のために曲を作ることを、思いっきり後押ししてくれたこと……そして、俺を同好会の仲間として受け入れてくれていること───本当に感謝してる」
俺が心の中でずっと思ってきて、なかなか面と向かってみんなに言えなかったことだ。でも、こういう時になら伝えられる。
「だからその……ありがとな」
そう言って俺は、その場で一礼する。みんなの反応は見えないが、どんな言葉が返ってくるかな。
……そう思っていたが、帰ってきたのは静寂だった。ふと顔を上げると、ポカンと口を開けて固まるみんながいた。
「……? どうしたみんな、そんなに固まっちゃって……」
「あっ、いえ……なんか、ジーンときてしまって」
「うんうん、徹くんの気持ちを聞くことが出来て、彼方ちゃんとても感動してるよ〜!」
「そ、そうか……」
なんだろう、少し変な空気というか……みんな盛り上がっていたのに、少し落ち着いてしまっているような気がする。
「もー、てっつーそういうのズルイよ〜!」
「ふふっ。徹ったら、これからライブなのにしんみりさせちゃって、どうする気かしら?」
愛ちゃんと果林ちゃんがいたずら気に俺の顔を覗き込んでくる。
「た、確かに……すまん、みんな! 仕切り直させてもいいか?」
「勿論です! 徹さんの情熱、聞かせてください!」
「ありがとな、せつ菜ちゃん」
よし……しくじってしまった分、みんなを鼓舞するような声を掛けるぞ。
俺は大きく息を吸い、みんなの顔をしっかり見ながら声を発した。
「まずは今日のスクールアイドルフェスティバル、みんなのステージを一通り見回らせてもらったが……どのステージも最高で、素晴らしかったぞ! それぞれが自分らしさを最大限発揮出来てて、観る者を虜にする、そんなライブだった!」
スクールアイドルフェスティバルを巡回役員としてはんぺんと巡ったことを通して、思ったことをみんなに伝える。
俺が準備に携わったフラワーロードの他に、もんじゃ焼き屋さん、ベッドが沢山置かれた空間、ゲームのテーマパークなど、多種多様なステージが俺を楽しませてくれた。途中でヒーローショーに出演させてもらうこともあったが、あれも観客のみんながショーに夢中になっている様子を見ることが出来て良かったな。
今回のフェスで、侑の言っていたような『スクールアイドルとファンの垣根を越えた、お祭りみたいなライブをやりたい』という夢を、みんなで叶えられたと思う。
「そんな最高なフェスの最後を飾るのが、このステージだ。ここまで来るのに色々困難があったかと思う。でも……それでも! 俺達はその大きな壁を乗り越えられた。それは、みんなが想いは一つにして願ったからだと、俺は思う」
きっと俺が働きかけている間だって、みんなは雨が止むことを願っていただろう。せめて、ラストステージだけはやりたいと切に願っていただろう。歩夢ちゃんがその一人だったからな。俺はただ、その想いに応えただけだ。
「そんなみんななら、きっと最高のライブをすることが出来ると思う。だから、何の心配も要らない!」
「……!」
せつ菜ちゃんが少し目を見開いた気がした。
元々同好会に居た五人、特にせつ菜ちゃんは、まだ全員で歌うことに不安を持っているだろう。それは、お互い自分を出すことで、全体が不協和になってしまうのではないかということだ。
でも、みんなが同じ想いを強く持っているのなら、それは重なって大きくなり、観ている者の心を動かすはずだ。それに、ソロアイドルとしてあれだけの強烈な印象を残すようなパフォーマンスを魅せてくれるみんななら尚更、その想いの重なりは計り知れない。
だから安心して欲しい──それを伝えたかった。
さて、喋り過ぎたかもしれないが、締めなきゃな。
「少し長くなったかもしれないが……最後にこれだけ伝えたい。俺が作曲したこの曲を通じて──普通科から音楽科に転科して、音楽に打ち込もうとしている俺の妹を、彼女のように夢への一歩を踏み出せないような人達を応援したいという想いを、精一杯届けてきてくれ!」
「「「「うん!(はい!)(えぇ!)」」」」
みんなの心の籠った、元気な返事が返ってくる。
……これなら、大丈夫そうだな。
「よし、円の中心に手を置いてくれ!」
俺が最初に手を翳すと、続いて9人の手が上に乗せられる。
そして俺の掛け声とともに、その手は宙へ高く飛んだ。
「じゃあ、行くぞ……せーのっ!」
「「「「届けよう!
────────────────────
「すまん侑、待たせたな」
ステージ袖で同好会九人のみんなと円陣を組んだ後、俺は観客席で待っている侑の元へ向かい、なんとか開演する数十秒前に合流することが出来た。
しかし、観客が沢山いて大変だったな……人混みをかき分ける形になってしまったから、なんだか申し訳ない気分になった。
「あっ、お兄ちゃん! ねぇ、これって……」
侑の隣に立つと、侑は俺の袖を掴んで不思議そうな表情で問い掛けてきた。
やっぱりそういう反応になるよな。侑には『伝えたいことがある』と言っただけで、これから何が起こるかは明らかにしてないからな。
しかし、その真相もすぐに明らかになる。
「あぁ、大丈夫大丈夫。取り敢えず見てみろ……ほら、始まったぞ」
「う、うん」
ステージ上に九つの人影が現れると同時に、周りの歓声は一気にボリュームを上げた。それは、ラストステージが開幕したことを表している。
まずはMC。かすみちゃんから始まり、スポットライトを浴びる中、一人一人が言葉を紡いでゆく。
スクールアイドルの存在は、周りからの声援とサポートを受けるからこそ成り立つ。そして、スクールアイドル同士はライバルではあり、仲間である。
同好会のみんなは、ソロアイドルとして日々鍛錬を積みながらライブのために頑張ってきた。時には想いのすれ違いがあったり、自信を失ったり、大きな壁にぶち当たることもあった。それでも誰かが誰かを助けて、再び立ち上がってきた。
きっとここの観客の中には、そういう経験を持っていたり、もしくは現在進行形で乗り越え難い試練に直面している人が、少なくとも二人以上はいるだろう。
ならば……
「あなたが私を支えてくれたように、あなたには──私達がいる!」
「……!」
曲のイントロが流れた瞬間、侑は思わず声を漏らした。
……そうだ。その侑こそ、同好会のみんなをこの上なく支えてくれたんだ。それが、お前はこれから彼女達のように、目標を定めて、夢に向かって羽ばたこうとしている。そんな侑を後押しするなら、言葉だけじゃ足りない。
だから……
「この想いは一つ……だから、全員で歌います!」
「「「「あなたの為の歌を!!」」」」
「っ……!!」
みんなが手を差し伸べた瞬間、ステージの音響が腹にドンと響いて、俺は思わず息を呑んだ。自分で作った曲とはいえ、やっぱりこのようにライブの観客として聴いてみると、感じ方が違うな。どこか胸に沁みるものがある。
イントロ部分は、侑の切なくも暖かい繊細なピアノのメロディー。そこから、クラシック音楽の楽器を主とした、優しくてかつ希望に満ち溢れるような旋律だ。
そして、自分を変えるきっかけを大事にして前に進もうと後押しするような、そんな歌詞だった。全く……心の響くような言葉を選べるなんて、同好会のみんなは凄いな。やはりあの九人が想いを一つにしてパフォーマンスをすると、ここまで素晴らしいモノになるのか。
それを観て、侑だって黙っていられないだろうな。
「……あれ? 侑?」
俺の横にいたはずの侑が居なかった。
辺りを見渡すと、気がつけば侑は俺より前にいて、ほぼ前のめりになりながらみんなのライブを全力で楽しんでいた。
……ははっ、俺が思ってた以上に楽しんでたとはな。
こうやって侑みたくライブを思いっきり楽しんで、勇気を貰って、夢を此処で見つけて……始めの一歩を踏み出す人がいると良いな。
そう微笑みながら、侑の側に寄ろうとすると……
「……!」
俺の存在に気づいたのか、侑は俺の方へ振り向いた。そして──
「───っ!」
周りの音で侑の声は全く聞こえなかったが、口の動きで『ありがとう、お兄ちゃん』と言ってくれているのではないかと分かった。
表情はこの上ない満面の笑みで……本当に太陽のようだった。
「ははっ。もしかしたらこれが、侑がよく言ってた『ときめき』……かもしれないな」
虹架かり、輝き灯す
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