どうも! お久しぶりです。
第94話です。
では早速どうぞ!
「うーん、分からないなぁ……」
誰も居なかった昼間の同好会の部室。
そんな中、スマホを眺めて頭を抱える者がいた。
その名も、高咲徹───
そう、俺は今一人なのだ。俺がここにいるのも、この後同好会の活動があるからではない。じゃあ何故こんな真っ昼間から部室にいるのか、という疑問が湧くだろう。
それは昨日の出来事が関係している。
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「少しリズムがズレてるぞ。しっかり立て直して」
「う、うん!」
日が暮れ、侑と共に同好会の活動から帰ってきた後、俺は侑の音楽科への転科試験に向けたピアノの練習を見ていた。
前日、侑と俺の二人でお母さんにビデオ通話をした時、侑が音楽科に転科することを打ち明けた。案の定最初は困惑した表情をされたが、侑の覚悟を持った説得をした結果、予想よりもあっさりと受け入れられたのだ。
俺はお母さんに『徹はどう思ってるの?』と訊かれ、一言兄として意見を述べた後に侑を音楽科へ転科することを許してほしいと言っただけだった。まあ、お母さんも侑の表情を見て、今までと異なる何かを感じ取ったのだろう。ともかく、これで侑は心置きなく転科試験を受けることが出来そうだって訳だ。
そしてそのついでではあったのだが、お母さんから俺の進路についても訊かれた。俺は情報処理学科でプログラミングや情報技術を学んでいるが、このままいけば大学に進学して、将来は公務員やらそこら辺の職に就職しようかなと話した。まあ、どんな職に就くかに関してはまだ大雑把にしか決まってないけどな。
作曲が好きなのなら、プロの音楽家になるということも、作曲を始めたあの頃は考えたりした。でも、プロの作曲家は修羅の道だと聞く。芸術で稼いで食べていくのは、そう簡単じゃない。
それにどちらかと言えば、侑がその道に進みそうな気がするんだよな。それでもし仮に、侑がプロの音楽家になったとして、俺まで同じ道に進んではかなりリスキーだろう。彼女だって、音楽家として上手くいかないことがあるはずだ。そんな時に俺が支えられるように、安定した収入を得ておく必要がある。今のところ公務員とかそういう職に就こうと考えているのも、そういうことだ。
まあ要は、侑に好きにやって欲しいってことさ。
「少し弾きが雑になってないか? しっかり一つ一つ鍵盤を叩いて」
「わ、分かった……!」
そんな訳で、今ピアノの練習で厳しめに指摘を飛ばしているところだ。
やはりなんだかんだで試験までの時間に余裕があるとは言えないし、実技試験で課題曲を最初から最後まで上手く弾けるようになるためには、これくらい詰めてやらなければ間に合わないだろう。侑もそれが出来るように色々飲み込むことで必死だ。
「……よし、少し休憩を入れよう。丁度区切りが良いしな」
「はぁ、難しいよ〜!」
侑が区切りの良いところまで弾き通したところで休むように声を掛けると、侑はその場で背伸びをしながらそう声を漏らした。
「はい、水分だ。まあ、そう思うのも無理はないな」
「ありがとう……」
事前にコップに注いであったお茶を侑に手渡す。すると、侑は一気にそのお茶を飲み干した。それだけ水分を欲してたってことだが、まあそれだけエネルギーを使うもんな、ピアノを弾くのって。
さて、ここでブレイクタイムには……
「じゃあ、ここで問題だ!」
「は、はい!」
持っていたお茶のコップを即座に置き、背筋をピンと伸ばして俺と向き合う侑。
「発想記号についてだ。
「えーっと……あっ、『歌うように』!?」
「あー……残念! それは
「うわぁぁ! そうだったー!!」
そう、これも転科試験のための対策だ。筆記試験ではこのような楽譜を読む上での基礎知識も問われる。今侑に出題した発想記号というのは、楽譜の音符だけでは読み取れない、えんそう方法を指示する記号で、これがあるのとないのとでは聴こえ方が全く違ってくる大事な記号だ。
「あっはは、私このままじゃダメだなぁ」
侑はそう言いながら、頭を掻いて苦笑する。
「まあ、そう落ち込むこともない。何かしら答えを導き出せるようになったんだから、着実に知識が頭の中に入ってる訳だ。あとはその知識を整理すれば、ちゃんと覚えられると思うぞ」
「そうかな……」
一瞬不安そうな表情を浮かべた侑。
まあ、そうなるのも仕方ない。実質、高校受験や大学受験を受けようとしているようなものだからな。ただ、落ちたとしても普通科という受け皿がある点ではその二つとは異なる感じだ。それでも、不安になるものだ。
それだけ、どうしても音楽科に入りたいという気持ちが、侑にはあるってことだ。侑は間違いなく、スクールアイドルフェスティバルを経て、新たなステージに立っている。だから、俺が今出来ることは……
「あぁ。それになんだかんだ、まだまだ時間はある。焦らずに、できる事を惜しみなくやっていこう。俺も付き合うからさ」
変わらず侑を励まし、サポートに徹することだ。ポジティブな言葉を掛けて、侑が前を向けるようにすることだ。
「……うん、そうだね。ここで焦ってちゃダメだよね」
「そういうことだ!」
きっと侑は、近い将来俺に並ぶような作曲者になっているんだろうな。いや、もしかしたら超えられているかもしれない。
嬉しさがある反面、俺も頑張らなきゃいけないな。
……っと、もうこんな時間だ。そろそろお腹が空いてきたな。そういえば、今日の夕飯は俺も楽しみにしてたやつだ。
「よし。いい時間だし、ここで夕飯にしようぜ。歩夢ちゃんから貰ったカレーを食べるぞ」
「あっ、そうだった! うわー、楽しみだな〜!!」
そう、今朝歩夢ちゃんがうちまで来てくれて、自分でつくった作ったというカレーをお裾分けしてくれたのだ。どうやらフェスが終わったおかげで、趣味の料理にも時間を割くことが出来るようになったようで、食べた感想を教えて欲しいと言っていた。それに『侑ちゃんに、転科試験の勉強頑張って欲しいから』とも言っていた。
ホント、ありがたいな……今度はこっちから何かお裾分けしたいな。あっちは親御さんがいるから、大したものを作っちゃうと逆に困られそうだな。そうなると、ちょっとしたものを送ってみるか。
さて、リビングに移動してきたが、明るい雰囲気にしたいし、何かしらテレビ点けるか。
「リモコンを……ポチっとな」
テレビ台に置いてあったリモコンを手に取り、電源ボタンを押すと、丁度CMが流れていた。
『コノproteinを飲んで……キミモォ! Perfect Body』
とても筋肉ムキムキな男性が俺達を指差し、力瘤を作りながら発音良く英語で決め台詞らしい言葉を言っていた。プロテインを宣伝しているCMだ。
「このCM面白いよね〜!」
「だよな。この少し片言なのが少しツボで……ふふっ」
侑もすっかり笑顔になってそう俺に話し掛けていた。そして俺は笑いを少し堪えながらキッチンで支度を始める。
このCM、出演している男の人のクセが強くてインパクトがあるんだよな。それに何より、BGMもなかなか耳に残るフレーズで、プロテインがスーパーとかで売っているのを見ると、そのフレーズが脳内再生されるくらい中毒性もある。
なんか、中毒性のある曲って結構周りの人に受け入れられやすいよな……あっ、そうだ。試しにそのフレーズを弄ってみて、自分の作ろうとしている曲に合うようにしてみるか! そうなると、夕飯食べたら────あっ。
「ふんふ〜ん♪ 楽しみだな〜!」
夕飯食べた後は、俺の部屋のピアノを使って侑の練習を見るんだった……
そういえば、侑が転科したら確実に侑がピアノを使う頻度は上がるよな。それで、今この家には元々俺が使ってた電子ピアノ一台しかない。このままだと、二人で譲り合ってピアノを使っていく必要がある。それではお互い気まずくなってしまう。
つまり、侑のためのピアノを用意する必要があるということだ。
しかし、電子ピアノでも安くて一万ぐらいの値段はするだろう。親には転科の受験料と学費を払って貰う訳だし、それ以外で親に頼るのは躊躇う。
じゃあどうするか……その時、一つ案が思い浮かんだ。
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「んー……微妙すぎるんだよなぁ」
そんなこんなの経緯があって今スマホで開いているのは、バイトの求人を掲載しているアプリだ。
そう、俺は自らバイトで金を稼ぎ、侑のピアノを自腹で買おうということだ。
虹ヶ咲においては学生のバイトは禁止にはなっていない。自由な校風で有名なだけあるからな。それに、社会の一員として働く経験を積める点でも、バイトは今からでもやっておくべきだと思った。
しかし、昨年度までは生徒会長で忙しくしていた俺は、今まで一度もバイトをしたことがない。バイト求人のアプリは今日初めて開いた。よって、どれが良いバイトかが全く判別がつかないのだ。そんな俺からすれば、どのバイトも微妙な条件なんじゃないかとしか思えず、こうして頭を抱えている訳だ。
はぁ……ここで経験の無さが露わになってしまうとはな……
それにしても、もう夏休み半ばか……お盆もまだだし、そもそもバイトの求人もあまりないのかもしれない。お盆の時期が、みんな休む上に需要があるだろうからな。
もしそうなら、お盆まで待つのも策かもしれないが、なるべく早くバイトを始めて稼いでおきたい。夏休みが終わるまでに電子ピアノを買えるくらいにはな。
でも……
「そんな上手い話は流石にないか……」
「ウマい話? もしかして、お腹空いてるのかなー?」
「いや、お腹は空いてな……What!?」
スッと横を向くと、そこには愛ちゃんがいた。いつの間にそこに居たのか!? 全く物音しなかったと思うのだが!?
「アッハハハ! てっつーったら急に外国人になってウケる〜!」
「いやいやびっくりしたわ! いつからそこに居たんだ?」
「ついさっきだよ? 部室のドア開けたらてっつーが頭抱えててさ。後ろから驚かしたらどんな反応するかなーって思って!」
「そうだったのか……」
全く、それだったら少し普通に声を掛けてくれよ……心臓が飛び出すかと思ったぞ。
ここのところ、愛ちゃんには驚かされてばっかりだな。それなら、今度はこっちが驚かせる機会でも伺ってみるか? やられっぱなしは黙っていられないからな。
「それでてっつー、また何か抱えてるワケ? ほら、愛さんが聞いてあげるから、話してみて!」
俺の独り言を聞いて察したのか、俺の隣に座ってそう話し掛けてくる愛ちゃん。
流石にこのまま黙り通すのは無茶だし、愛ちゃんに話してみるか。
「良いのか? なら、大した事じゃないけど……」
そうして、俺は昨日のことを全て話した。
「へぇー、ゆうゆ専用のピアノを買いたいからバイトするってこと?」
「そんな感じだ。俺も作曲活動をするにはピアノが必要だし、親に頼らずに自分で稼いで手に入れようと思ってな」
「なるほどねー。それで良いバイトが見つからなくてヤ
「まあそういうこと……って、今ナチュラルにダジャレぶっこんできたな?」
「あっ、バレた?」
こんな感じで、愛ちゃんは事情を理解してくれたようだ。ダジャレを取り込んでくるのはいつものことだ。なんだかんだで彼女との付き合いは長いからな。ダジャレの耐性は大分付いたかもしれない。
「ねぇ、てっつー。一つ提案していい?」
「おぉ、いいぞ。何だ?」
珍しく考える仕草を見せた後、俺にそう訊いてきた。
「うちで働いてみるのはどう?」
「えっ……? それって、愛ちゃんのところのもんじゃ焼き屋か?」
そういえば、愛ちゃんの家はもんじゃ焼き屋さんを営んでいたな。前にもお世話になったが……
「そうそう! 今丁度バイトの人が辞めちゃって人が足りてなくてさー……てっつー、料理も出来るみたいだし、結構良いバイト代を払えるかもよー?」
「マジか……愛ちゃんのところなら、俺も行った事あるし、働きやすそうだ」
そんな都合の良いことがあるなんて……でも、出来るならあそこで働いてみたさがあるな。確か店主である愛ちゃんのおばあちゃんともコンタクトしていて、とても良い人だったもんな。そこで俺の料理スキルが役立つかは分からないが、それはやってみないと分からないだろう。
「そうなれば、俺もそっちに連絡して……」
そう言いかけた瞬間、愛ちゃんがそれを遮る。
「あっ、ちょっと待って! そこはさ、愛さんがおばーちゃんに話しておくから!」
「えっ!? いや、流石にそこまでしてもらうのはこちらも申し訳にないのだが……」
「いーの! てっつーのことはよくおばーちゃんに話しててね、アタシから話持ちかけたら多分快く受け入れてくれると思うからさ。もしかしたら、軽い面談くらいでイケちゃうんじゃない?」
「マジか!?」
軽い面談……それはつまり、履歴書は不要ということだよな。それで大丈夫なのか? そんなに俺って信頼性あるのか?
「うん! てっつーとゆうゆはアタシ達のために作曲しようとしているから、それくらいは協力したいんだ!」
「愛ちゃん……」
ホント、愛ちゃんってやつは……
「分かった。ならその厚意に甘えて、よろしく頼む」
「よしっ、決まりっ! てっつーと一緒に働けるなんて楽しみだな〜!」
そんな感じで、俺が高三の夏休み中にバイトデビューすることが決まりそうなのであった。
今回はここまで!
なんと愛さんのもんじゃ焼き屋さんでバイトすることになりそうな徹くん! 一体どうなるか!?
ではまた次回!
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