第95話です。
では早速どうぞ!
「ドアが閉まります。ご注意ください」
その一声に続き、電車のドアがチャイムを鳴らしながら閉まる。そして間が空いた後、電車がゆっくりと動き出し、モーターを唸らせながら線路を走り出した。そんな中、俺は席の端に座って一息吐いていた。
そんな訳でどうも。朝早くから電車へ乗り込む高咲徹だ。
夏休み真っ只中とはいえ、七時をまだ回らないくらいの時間は電車も空席が目立つほど空いている。そんな時間から何故俺はここにいるかというと、フェスの前に申し込みをしたボランティアがあるからだ。
そのボランティアは午前中に行われるもので、集合時間が八時というなかなかの早さだ。更に場所もそれなりに遠いので、この時間に電車で移動している訳だ。
今回は、一緒に申し込みを手伝ってくれた三船も参加する。彼女にはあの時お世話になったからな……今度は俺が役に立てるように頑張らなければ。
……さて、目的地まではまだまだ時間がかかるが、何をしようか? 今日はつい最近買ったばかりのエッセイがあるから、それを読むつもりではあるが……いや、まだ今日になってからスマホを一度も覗いていないから、一応覗いてからにするか。
そう思ってズボンのポケットからスマホを取り出し、電源をつける。すると、いくつかのチャットが届いているのに気づいた。
L◯NEを立ち上げ、チャット欄の上から確認していく。
『おはよう! 今日はボランティアに行くんだったよね?』
一番上にあったのは、歩夢ちゃんからのチャットだった。タイムスタンプが三分前になっていたため、ついさっき送ってきたのだろう。
てか、あの子わざわざこの時間に起きてこのチャットを送ってきてくれてるのか!? 確かに彼女には事前に今日行くとは話していたが……
そうなると、待たせるのも悪いな。『そうだよ』と打って送信っと……
送信ボタンを押して数十秒後、彼女からの返信がきた。
『だよね! 昨日も言ったけど、侑ちゃんの試験勉強なら私が見てるから安心して! ボランティア頑張ってね』
このような文面の後に、可愛らしい『ファイト!』と応援してくれるうさぎのキャラのスタンプが送られてきた。
あぁ……久々の早起きに苦労したこのしんどさを癒してくれる、幼馴染のメッセージ。こんなことを言われたら、俺はもう元気100億倍で今日は頑張っちまうぞ。侑の勉強も見てくれるみたいだし、あとで歩夢ちゃんに直接感謝の言葉を伝えないなきゃな。
歩夢ちゃんの優しさにホッコリしながら、俺はチャットを読み進めていく。夏休みのためか、よく絡むクラスメイトから夏期課題について訊かれていたので、それらについて返信をしていくと……
『てっちゃん、今度どこかで古文を教えて欲しい! そうしないと僕は踊り狂って死ぬ♤』
こんなふざけたメッセージを送ってきている奴がいた。呼び方から分かる通り、これは
いやいや、またかいな!? 君フェスの前にあった夏期講習でも教えたじゃないか! あいつ、また古文の課題に詰まっているんだな……てか『踊り狂って死ぬ』ってやつ、相手がそうなるってやつじゃなかったか? 自分がそうなってどうするんだよ……
まあ、ツッコミどころが多いとはいえ、断ることはないけどな。そのついでに、フェスで披露したあの曲を聴かせてみたいし、なんなら俺も課題を進めるというのもアリだし。
……そういえば、夏休みの課題もまだ半分くらいやってないし、そろそろ処理しといた方が良いよな……まあ、侑の試験勉強を見がてら少しずつこなしていけば問題ないだろうけど。
問題はその侑か。試験勉強だけでなく、全学科共通の課題っていうのがあるからな。試験勉強も大事だが、そっちにも時間を割かなければならない。同好会に出る時間もあるし、出来ればまとまった時間で終わらせられれば良いな。
……そうだ、同好会の誰かが勉強会を開こうと提案してくるかもしれないな。その時にみんなで手分けして課題が残っている組の手伝いをすれば良いのか。多分、彼方ちゃんは数学で苦戦してそうだし、多分かすみちゃんか果林ちゃんあたりは相当課題を残してそうだもんな……後者は偏見だけども。
まあそんなこんなで瑞翔に『いいよ。死ぬまでやろう』と冗談っぽく返信しといてまたチャットを読み進めると、意外な相手からチャットが来ていることに気づいた。
『徹先輩、突然すみません。今度私が好きな劇団が新たな演劇を披露するのですが、徹先輩も一緒に観られませんか? 無理ならば断っても構いません』
その相手はしずくちゃんだった。
そういえば、彼女と一緒に演劇を観に行きたいって話をして、結局まだ行けてないな。合宿とかフェスとかあったりして忙しかったし、彼女もこのタイミングを見計ってたのだろう。
まあ、彼女のお誘いを断る理由なんてものはなく、しっかり『いいよ』と返信しておいた。しずくちゃんの好きな劇団だから、きっと素晴らしい劇を見せてくれるに違いない。今から楽しみだな。
……よし、未読のチャットは無くなったし、本を読むか。
そんな訳で、乗換時間を除く俺の移動時間の残りは全て読書に充てられたのであった。
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「……ふう、こんなところで一段落か」
日は大分昇り、随分と真上に近づいてきた頃のこと。
俺はとある河原にいた。両手に手袋をつけた手のうち、左手に大きなビニール袋、右手に金属で出来たトングを持ち、汗滴る中とある作業をしていた。
「高咲さん! そちらの進捗はいかがですか?」
「おぉ三船、こっちはある程度良いところまで行った。ほら、こんなに集めたぞ」
俺に話しかけてきたのは、同じボランティアに参加している三船だ。そして俺が今見せたのは、ゴミ達がたっぷり詰め込まれたビニール袋だ。
そう、今回俺が参加したボランティアは河原のゴミ拾いだ。
河原には川の上流から流れて漂着する人工物や、この河原で実際に人が置いていったゴミなどが沢山ある。この状態は一言で表してしまえば、汚いといった言葉になるだろう。そこで、俺達がそれらのゴミを拾って正しい手順で処分することで、川と河原を綺麗にしようということだ。
「なるほど、随分集めましたね。集め始めてから時間も経ちましたし、一旦休憩しませんか?」
「えっ、そんなに時間が……ってこんなに時間が経ってたのか」
三船に言われるまで時間を細かく把握していなかったが、俺が思ってた以上に時間は過ぎててびっくりしちまった。
「大分夢中になってましたね」
「あぁ、こういう作業も捗ると結構没頭してしまうな。集まっていく感じがとても楽しかったぞ」
「えぇ、その気持ちは私も分かります。それに、こうしてゴミが回収されていくことで、この川が綺麗になって生き物が棲みやすくなったり、この川を見た住民が笑顔になることを想像すると、楽しくなっちゃいます」
「確かに、それもあるな。この川も昔は綺麗だったのだろうし……もしかすると、俺達がこうして掃除をすることで、この川も喜んでいるかもしれないな」
「ふふっ、そうだと嬉しいですね」
心なしか、いつもより会話が弾み、楽しそうに話してくれる三船。それくらいボランティアが好きなんだろうな。
そんなことを考えながら、近くの岩場に腰を掛け、水分補給を取る。周りにも同じグループのボランティアメンバーがいて、各々がそれぞれのペースでゴミを拾い集めていた。
しかし、その光景に一つ驚きがあった。
「それにしても、まさか俺達以外に同世代の人がいないとはな」
「……そうなんです」
ボランティアに参加している人達のうち、俺達のような未成年の人は愚か、20代らしき人すらも見当たらず、ほとんどが所謂お年寄りの方々だったのだ。まさか俺達以外に未成年の人がいないとはな……
これには、三船も少々深刻な表情だ。
「私はこのボランティアに参加するのは初めてなんですが、まさかこんなに若い人がいないとは思いませんでした……」
「うむ……てか、ここは三船も初めてだったんだな。もしかして、いつもは違うところでやってるのか?」
「はい。いつもは保育園で子供達の様子を見ています」
「へぇ、保育園か……確かに、三船は面倒見が良さそうだよな」
「そ、そうですか……?」
「ああ。俺がボランティアセンターで困ってた時も、親切に色々教えてくれただろ? 面倒見が良くなかったら、そんなことは出来ないと思うし、凄いなと思うぞ?」
「そうなんですか……でも、それならば高咲さんだって、面倒見の良い人ではないのですか?」
「えっ? ……まあ俺もよく言われる方ではあるが、今まで三船に面倒見の良いようなことをしてあげたことってあったか?」
「はい、高咲さんには色々真摯なアドバイスを頂いてとても助かったんです。改めてになりますが、その節は本当にありがとうございました」
「あぁいやいや、俺の言葉が三船の役に立ったなら良かったよ」
そうか、普段三船は保育園でボランティア活動をしてるんだな。子供の面倒を見るのって、結構手が焼けるイメージがあるから、それを処理できるのは凄いなと思う。俺なんて子供の面倒見ろって言われたら、一対一ならともかく、複数人だったらまともに相手出来なくなっちまうからな。
……おっと、大分話の筋を折ってしまったな。
「にしても、もっと学生がボランティアに参加してくれたらいいのにな。こういう経験は大事だし、進路を決める上で役に立つのに」
「そうなんです。それに加えて、自分の適性を見つけることが出来ますし、何より人の役に立つことが出来ます」
三船の表情と声色から、少し悔しさを滲ませているように感じる。俺もそれには同意だ。ボランティア活動に参加して、悪いことなど一切ない。少々面倒ではあるかもしれないが、それ以上に経験という対価が手に入るからな。
そう考えていると、三船が俺に向き直って声を掛けた。
「……あの、少し私の挑戦について話してもよろしいでしょうか?」
「おう、いいぞ」
三船の挑戦……非常に気になるな。
「ありがとうございます……私、虹ヶ咲学園の廊下にボランティア募集のポスターを貼ろうと思っているんです」
自分の挑戦について、淡々と説明する三船。
「学生の方は、ボランティアの情報に触れる機会がそもそも少ないのだと思うんです。だから、私が普段通っている保育園のボランティアを校内で募集すればいいのではと考えました」
「なるほど……とても良いアイデアだと思うぞ!」
若者がボランティアに来ない原因の分析、そしてそれに対する解決策も妥当性あり……流石、将来の生徒会長といったところだ。
「ありがとうございます。ただ、あとは人が集まるかどうかですね……」
「あぁ……なるほどな。まあそこは、やってみないと分からないところだが……」
三船が心配するその問題は、今の時点では何とも言えないことだ。どちらに転がるかも分からない。まあだからこそ最善を尽くすべきで、そうすれば成功する確率も上がる。
ただ、これは三船自身の問題で、俺がその問題の根本的解決に関わることは出来ない。じゃあ俺はどうすればいいか──
「なあ、俺もそのボランティアに参加してみたいんだが」
「本当ですか!?」
「ああ。ただあまり多くは通えないし、子供相手は多数が苦手なのだが……それでも大丈夫か?」
「はい! そこは、一対一で対応してもらうようにするので、問題ありません!」
三船は珍しく目をパァっと輝かせて、嬉しそうにそう話してくる。
「そうか。なら余裕があったら参加を申し込んでみるよ。あと、俺のクラスメイトにも声を掛けてみたりするよ。社会貢献に興味がある感じがあったし、きっと話を持ちかけたら興味を持ってくれると思うぞ」
「あ、ありがとうございます……! しかし、高咲さんもお忙しいのに関わらず、そこまでしてもらうのは申し訳ないです……」
「いやいや、別に俺が無茶をしている訳ではないぞ? ただ、その三船の想いに共感しただけさ。人の役に立てることの素晴らしさは、俺にも分かるからな」
それに三船とボランティアについて話してる時、なんだか同好会のみんなを思い出してしまってな。なんだか彼女達と通ずるところがあったから、自然と応援したくなったのかもな。
「……! ふふっ。なら、私達は志を共にした同志ということですね」
同志───彼女がその言葉を口にした時、今までで一番の満面の笑みを見せた。
「……あっ、す、すみません! 私、生意気なことを言ってしまって……!」
「いやいや、そんなことはないぞ? それにしても、同志か……良い響きだな」
「そうですか……? なら、良かったです!」
三船と同志か……やっぱり、彼女とは気が合うところがあるのかもしれない。
「そういえば、高咲さんが参加したスクールアイドルフェスティバルについて、まだ聞いていませんでした。高咲さんが作った曲など、色々訊きたいです!」
「あぁ、そういえばそうだったな。うーむ、どこから話したらいいものか……あっ」
そんなこと周りのボランティアメンバーの姿が遠くなっている。そろそろ行かなきゃな。
「大分喋り込んじまってるみたいだから、掃除しながら話さないか?」
俺は腰掛けていた岩から立ち上がり、三船にそう声をかける。
「本当ですね……分かりました! ……きゃっ!?」
「うぉっ!? ……っと、大丈夫か?」
すると、側で立ち上がった三船が歩き出そうとした時、足元が不安定だったのかその場で転びそうになり、俺はそれを下から支えた。
「あっ……えっと、大丈夫、です……ごめんなさい、こんな醜態を晒してしまって……」
「大丈夫だ! そんなこともあるさ。ただ、足元は石ころだから足を取られないように気をつけてな」
「はい……」
この後しばらく三船の顔が紅潮していたが、大丈夫だったのだろうか……?
まあそんなこんなで、掃除していく内にフェスについて彼女と語り、帰りは同じ方向だったので途中まで一緒に帰り、その際にL◯NEを交換してから彼女と別れた。
今回はここまで!
栞子ちゃんとボランティア活動したら楽しそうですよね……みんな社会貢献しちゃいそう←
ではまた次回!
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