今日はミア・テイラーちゃんの誕生日ということで、特別回を書いてみました!
話に入る前に一つ注意事項です。
この話は本編より後の時系列ではありますが、本編の展開とは関わりがありません。ifストーリーとして読んでください。
では特別回をどうぞ!
「……よし、一旦この曲のミキシングはこの辺りで一区切りか」
長時間パソコンに向き合っていたせいか、少し目がショボショボしている……こういうのってあまり良くないんだよな。視力が悪化して、度がある眼鏡をかけるかコンタクトを付ける必要性が生まれる可能性が高まるから……
ただ、好きなことに関しては時を忘れて没頭してしまう。だから、こればかりは自分で制御しようがないな、とも思ってしまうものだ。
そんな訳でどうも、眼鏡かける時が近いかもしれない高咲徹だ。
丁度作業に一区切りがつき、一旦背伸びをしたり水分を摂って休憩しているところだ。
作業というのも、既存曲のミキシング、いわゆるRemixを作ってたのだ。この作業はパソコンだけで完結するから、どうしてもパソコンをガン見する状態になってしまうのだ。
でも、このRemixも久々にするのだ。最近は別のことに注力していたからな。
「よいしょっと……そうだ、また
水分補給から戻ってきて椅子に座ると、俺はふとした思いつきでパソコンをいじり始める。
Taylorさんというのは、最近俺が定期的に聴いている曲の作曲者さんの名前だ。まあハマっているというか……いや、他にも聴く曲もあるからリピートをするほどではないな。あっ、でも初めて聴いた時は割と繰り返し聴いたかもしれない。
「うむ、やっぱり凄い洗練されてていいな」
まあこんな感じで、それくらい彼の曲が好きになったってことだ。今まで洋楽なんて全く縁がなかったのだが、この出会いのおかげで他の洋楽にも触れたりしている。
……さて、曲を聴きながら気分転換がてら情報収集するか。
パソコンのブラウザを立ち上げ、SNSアプリにログインする。すると、自分がフォローしているアカウントが呟いている情報が流れてきた。
今日も大した情報は無さそうだ……と思ったのだが───
「……えっ? なんだこの情報は」
あるアカウントの呟きに目を釘付けにされた。
そこに書いてあったのは『Taylor家の次女、明日来日するって本当?』といった趣旨の文だった。
それを見て、俺はすぐさま『Taylor家 来日』というワードを叩き込み、検索をかけた。すると、複数のアカウントが似たような呟きを投稿していたのだ。
「ほう……もうデビューしてたのか。しかも、曲もリリースしてたんだな。後で聴いてみるとするか」
どうやら、そのTaylor家の次女さんは既に作曲家としてデビューを果たしていたようだ。俺が以前に彼女の情報を得た時はデビュー寸前かといった情報だったが、そこまで進展してたんだな。
しかし、来日するって本当か? しかも明日という……急すぎる気がするが。
……とりあえず一旦落ち着こう。今仕入れた情報はデマかもしれない。あるアカウントが嘘の情報を流し、それを悪意のないアカウントが拡散し『本当の情報』として一人歩きしてる可能性も十分ある。
「……まあ、明日空港に行くが、俺には関係ない話だ。大体、そういう有名人は俺たちがいるようなスペースにはいないだろうし」
明日は両親が海外旅行から帰ってくる。俺はそれを迎えようと空港へ行くから、同じ国際線のターミナルでワンチャン彼女に会えるかもしれないと一瞬淡い期待を寄せた。しかし、それは夢物語でしかない。そんな都合いいことありゃしない……といった現実的な思考に戻るため、態々口に出して俺に言い聞かせた。
……でも、会えるチャンスがあるのなら是非会ってみたい。俺が作曲を始めた歳の子がどんな子なのか、何故日本にやってきたのかとか……聞いてみたいことはいっぱいある。まあ、それも叶わない夢だろうけどな。
「……さて、風呂入るか」
これ以上考えることをやめ、リフレッシュのために風呂へと向かったのであった。
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「ここが到着ロビーか。さて、二人が来るまで暇潰すか」
翌日、俺は東京のとある空港の到着ロビーに来ていた。両親が乗っている便の到着予定時刻まで、あと10分くらいだ。それで二人と合流した後、俺と侑が住んでいるアパートに向かう予定だ。
さて、ゆっくり待つか。
そう思い、ロビーのベンチに腰掛けて持ってきたエッセイを黙々と読み進めていたのだが、大分時間が経っても両親は現れない。
おかしいと思った俺は、ロビーの上にある電光掲示板を見る。
「二人が乗ってくる便の状態は───あぁ、15分くらい遅れてるじゃんか……」
時間は丁度親が到着する予定の時間だったが、天候が悪いせいか、どうやら着陸が遅れているみたいだ。
今から15分か……まだ時間があるな。二人が来ら直前にトイレ行くのも不味いし、今のうちに行っておくか。
そう思い、俺はロビーから分かれる通路の奥に位置するトイレに向かう。
すると……
「……」
ん? あれは……
通路への入り口の横から、チラッとこちらを覗く一人の子がいた。
一体ここで何をしているのだろうか? もしや、親とはぐれたりとかしたのか……? それなら、一緒に探してあげなきゃいけない。
色々分からないことがあったが、とりあえず俺はその子に声を掛けることにした。
「なぁ、そこの君。大丈夫か?」
「!?」
俺が声を掛けると、その少女はいきなり声を掛けられて酷く動揺しているようだ。
彼女の容姿を見ると、アイボリーのショートヘアに右目を隠すほどの長い前髪が特徴、シルバー色をした左目を覗かせていて、とてもクールな印象を受ける子だ。
この髪色と目の色……この子、外国人か。そりゃあ、急に日本語で話しかけられたらびっくりするし、何言ってるか分からないだろうな。
じゃあ……
「んん……
「
少し困惑した後、俺の質問を否定した。ていうか、聞いた感じかなり流暢な日本語を話せるようだ。これはありがたい。
迷子ではないということは……まさか、親から逃げてきたとかか? いや、それとも本当は迷子なのに隠しているとかか? 俺と関わってる人の中で、そんなことをする子が一人当てはまるもんな。
……うーむ、ますます分からない。
「あっ、そうなのか……じゃあ、こんなところで何をしてるんだ? 親御さんもいるんだろうし、心配してるんじゃないか?」
とりあえず、このような切り口でその子に問いかけたが……
「っ〜……!! だからボクは親に連れて来られた訳じゃないんだ! 子供扱いしないでくれよ!」
どうやら、子供扱いしたことが彼女の気に障ってしまったようだ。
「あっ……そうか、気を悪くさせてしまったならすまん」
「全く……ボクを誰だと思ってるんだ。テイラー家の次女──ミア・テイラーだぞ!!」
「……えっ?」
「……! Oops……」
この子が……あのTaylor家の次女さん……なのか?
唐突なカミングアウトに、俺は動揺を隠せなかった。
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うぅ……なんだか失礼な奴に絡まれてるし、アイデンティティまでバレちゃったよ……
あっ──Hi, I’m Mia Taylor. デビューして間もない、将来世界中に最高の曲を届けるミュージシャンさ。
ボクはあることから、わざわざこの日本という国にやって来たんだけど……色々あって、こうなってる。あまり説明はしたくない。
それでこいつ……ボクのことを子供扱いするなんてな。ボクはもうステイツで飛び級して、日本の学校で言ったらもう高校三年生だぞ!? もう子供じゃない!!
「……これは大変失礼しました。まさかそんな方がこちらにいるとは思わなかったので」
……さっきの態度から変わって、丁寧に話しかけてくれる男の人。もしかして、ボクのファンだったりする? そうじゃなきゃ、こんな態度の変わり方はないよね?
「あ、あぁ……分かってくれたなら別にいいよ。というかキミ、ボクのことを知ってるんだ?」
「はい。お父さんの曲を聴いていたら、貴方がデビューされたということを知ったんです。曲も聴いてみましたが、とても耳にスッとくるような感じで、とても心地良かったです」
Wow……そんな具体的な感想、ファンの人から初めて貰ったかもしれない。ていうか、ファンと交流することなんてなかったし、当然だね。
「へぇ……なかなか分かってるじゃん。そうだな、今ならサイン書いてあげなくもないよ?」
……ふふん、今ボクは気分上々だ。おかげで今まで練習してきたサインを披露したいと思えたよ。
「ホントですか!? ……といっても、書けるようなものも持ってないですね……握手とかでも大丈夫ですか?」
Oh, my gosh……せっかくサインが書けると思ったのに……まあ、無いなら仕方ないし、ここはエンターテイナーとしてカッコよく応じるか。
「Oh、それならお安い御用さ。ほら、
「ありがとうございます!」
「ハハッ、まさか日本でボクのファンが見つかるとはね〜」
こんなに喜んでくれるなんて……さっきまでとてもブルーだったのに、こっちもハッピーになってしまったよ。
さっきはヤバい奴に絡まれたと思ったけど、それはボクのミステイクだ。とても良いファンに出会えたな。
「……あの、一つ質問いいですか?」
「ん、なんだい? 何でも聞いてくれ」
ふふっ、どんな質問が飛んでくるかな? どうやって作曲してるかとか? それともどうやったらボクみたいになれるか、とか!?
「テイラーさんって、今日来日されたんですよね。私、偶然ネットで情報を見つけてしまいまして……」
「……あぁ、そうだよ。なんだ、もう情報が回ってたのか」
ボクの思ってた質問とは全く異なることを訊かれた。でも、そんな前情報どこから漏れてるんだ……? もしかして、身内が漏らしたりとかしてないよな?
「それで気になったのですが……何故日本に来られたのかなぁと思いまして……」
「……どういうこと?」
何故──その質問は良くも悪くもとれる。一体どういう意味なのか?
「いや、別に変な意味はないんですが……テイラーさんみたいな、欧米で曲を出したらすぐにブレイクできそうな人が、何故こんな辺鄙な場所に来られたのかなって……もしかして、何か理由があるのかなと思いまして」
……なんだ、ボクが態々日本に来た理由を見透かされているじゃないか。
……でも、彼の表情は嘲笑っているようには見えない。凄く真っ直ぐな目で、ボクを心配してくれているようだった。
「……はぁ、ある奴に連れて来られたんだよ」
こうしてボクは、まだ名前も知らない彼に、ボクが日本に来た成り行きを話すことにした。
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「連れて来られた?」
テイラーさんの言葉に、俺は疑問符が浮かんだ。
「Right. 本当はキミが言った通り、ステイツで世界的に有名になってやろうと思ったんだけど、一つ依頼が飛んできたんだ。それがまあ、むちゃくちゃなものでさ……」
テイラーさんは、呆れたような表情で話を続ける。
「だから断ろうと思ったんだけどさ、報酬がなかなか良かったから、仕方なく受けたんだ……でも正直、海外には全く興味がない。日本語が話せるのも親に言われて習っただけで、この日本という国も……本当は行きたくなかった」
本当は日本に来たくなかった……か。
「……それで、連れの人から離れてここに来た、といったところでしょうか」
「Exactly……Sh*t, こんなことになるなら、ランジュの話断れば良かった……」
イラついた様子で、愚痴を吐くテイラーさん。
正直、テイラーさんからその言葉を聞いたのは少しショックだ。しかし、彼女の表情にはやる気のなさだけではなく、不安が少しちらついたように見えた。
もしかしたら、本当に日本で世界的な作曲家としてその名を轟かすことが出来るかという不安もあるかもしれない。それが、彼女をここに来させたのかもしれない。
しゃがみ込んで頭を抱えるテイラーさんに、俺も横でしゃがみ込んで話しかけた。
「……確かに、興味もない異国の地に降り立つのって、とても抵抗があるのは分かります。そういう新しい環境に馴染もうとするのは、それなりの覚悟が要りますから」
「……」
未だ暗い表情のままのテイラーさん。俺は更に話を続ける。
「……でも、そんな環境にこそ、新たな発見があると思うんです。自分が今まで見て来なかった物の見方とか、気づいてなかったこととか……作曲家としてより大成できるアイデアが見つかるんじゃないかって」
音楽を作る上で、発想はとても大事なものだ。その発想の豊富さは、様々な価値観や考え方に触れる必要がある。新しい環境の中に入れば、それらが見つかる可能性が高いのだ。
実際、テイラーさんが作る曲のジャンルである洋楽は今まで一切触れて来なかったが、聴いたおかげで色々発想を得ることが出来た。あと、スクールアイドルに関わっていることも同じだな。同好会のみんなには感謝している。
そうだ……
「それに、テイラーさんにとって日本は良い環境だと思います」
「……何故キミにそんなことが分かるんだい?」
「うーん……まあ、私の勘ですね。テイラーさんは多分学生だと思いますが、学校で優しい友達に出会えると思います。あと、そうですね……私が、テイラーさんの友達になりましょうか?」
「……What?」
「……アッハハ。すみません、変なこと言っちゃいましたね──兎も角、そんな友達とも出会えるので、きっと楽しい時間を過ごせると思います。勿論、作曲の方にもいい影響を与えてくれるはずです」
とても不躾なことを言ってしまったな……でもテイラーさんにも、同好会のみんなみたいな優しい友達に出会えて、色々変われるかもしれない。俺がその一人になりたいのも、偽りのない本当の気持ちだ。
こう思ったのも、彼女が作曲家としてデビューしたのと、俺が作曲を始めたのが同じ歳だという、親近感があったからかもしれない。
「……アッハハ。全く、君は面白いことを言うね」
すると、ミアちゃんは笑顔を取り戻し、その場を立ち上がってこう言った。
「Thanks. お陰で少し前向きに日本で音楽活動が出来そうだよ」
「そうでしたか! 大したことは言ってませんが、お役に立てたなら良かったです」
良かった……彼女の表情も、腫れ物が取れたかのように晴れやかな微笑みだ。
「もう、そんな丁寧にならなくて良いから。それに、ボクのことは『ミア』って呼んでくれて良いよ。その、ボクたち……と、友達なんだろ?」
「……! ……確かに、友達に態々敬語で話すのはおかしいな。じゃあ、これからよろしくな、ミアちゃん」
世界的な音楽家の卵、ミアちゃんと友達か……まさかこんなことになるとは思わなかったが、嬉しいな。
「あぁ……! ……ボクももう戻らなきゃ。じゃあ君、またどこかで会えることを願うよ!」
「おう! ミアちゃんのこと、応援してるからな!」
「Thank you! じゃあ、Bye!」
ミアちゃんは元気に手を振って、その場から走り去っていった。
「……行っちゃったか」
そういえば、連れの人を待たせてたんだったな。もう少し話したかったが……また会えるかな。
今度会ったら色々曲について語りたいなぁ……まあ、暫くの間日本にいるようだし、また会う機会はあるかもな。
「よし、トイレ行って、二人を迎えにいくか」
そんな確信めいた期待を寄せながら、俺は男子トイレへと入っていった。
今回はここまで!
多分誕生日回で初対面を描くのは初めてじゃないかと思います。
ミアちゃんの見た目はクールに振る舞ってて、実は可愛らしい思考をしているだろうという感じで描きました!
ちなみに本編は重大な局面を迎えてますので……早めに出したいと思います。
ではまた次回!
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