高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも!
第99話です。
では早速どうぞ!


第99話 夏色の時間

 

 

『お祭り』という言葉を聞いて、人はどんなものを想像するだろうか。

 

 俺達のような日本人ならば、大抵の人が夏祭りのような屋台が立ち並んでいる風景を想像するだろう。

 

 しかし、世界に夏祭りという風習を持つのはこの日本くらいだ。

 

 

「わぁ……! これが、屋台っていうものなの!?」

 

「あぁ、そうだな。日本のお祭りのほとんどにあって、様々な食べ物とか商品を売ったり、ちょっとしたゲームなんかも出来たりするぞ」

 

 

 俺の横で目を輝かせながら、物珍しそうに夏祭りの風景を見るエマちゃんを見て分かるように、このような祭りは他の国には存在せず、ユニークなのだ。俺にとっては当たり前でいつも通りの行事ではあるが、こうやって興味津々な反応を見てると、なんだかこっちも楽しくなってくるよな。

 

 

「そうそう〜。ちなみに彼方ちゃんは、射的が好きだよ〜」

 

「ほう、彼方ちゃんのそれは意外だな。てっきり食べ物の何かだと思ってたぞ」

 

「えへへ〜、実は小さい頃に遥ちゃんが欲しかったおもちゃを当ててプレゼント出来た思い出があるから〜……って、徹くん今彼方ちゃんのこと、食べ物しか頭にないとか思ったな〜?」

 

「えっ!? いやいや、そんなこと一言も言ってないし、思ってもないんですが!?」

 

「そんな、徹くんがそんなこと思ってたなんて……彼方ちゃん悲しいよ〜……えーん」

 

「いや話を聞かんかい!? そして嘘泣き止めろ!!」

 

 

 今日は妙にテンションが高そうな彼方ちゃん。まだ一度も眠いといった言葉は出ていないところを見ると、大分夏祭りを楽しみにしていたのだろうという予想がつく。

 

 

「はいはい、二人ともあまりふざけないの。それと、徹はもう少し言葉の選び方を考えなさい」

 

「いや果林ちゃんまで!?」

 

 

 後ろから冷静に注意をしながらも、俺に理不尽な指摘を飛ばしてくる果林ちゃん。

 

 そう、今はこの三人と一緒に、沢山の人で賑わう夏祭りを回っているのだ。

 

 

 そんな訳でどうも。人生初浴衣で夏祭りに参戦する高咲徹だ。

 

 

 同好会の活動や、愛ちゃんの家のもんじゃ焼き屋さんのバイトをしながら夏を過ごしてきたが、ついに同好会のみんなと行きたいと話していた夏祭りの日がやってきた。侑に浴衣を着るように強制されてきて、浴衣選びにそこそこ時間を食わされるなどのこともあったが……まあ、みんなが浴衣を着てきていたから、俺だけ私服なんてことにならなくて良かった。

 

 しかし、この場には俺と俺の同級生三人しかいない。何故なら、他のメンバーとは別行動だからだ。これにはちゃんとした訳がある。

 

 

 祭りの三日前くらいだろうか。同好会のみんなと夏祭りの具体的な予定を組もうとした時に、全員が一緒に行動することはできないということに気づいたのだ。

 

 勿論みんなと一緒に屋台を回れたらそれがベストなのは間違いないのだが、うちの同好会は合計十一人の大所帯だ。そんな大人数が一斉に固まって行動してしまっては、周りの迷惑になる。ならば、いくつかのグループに分かれて行動するのが良いということになった。これにはみんなも残念そうであったものの、仕方ないといった感じだった。

 

 そこでグループ分けをどうするかという話になったのだが、ここで論争が始まった。かすみちゃんや愛ちゃんを筆頭に、俺と同じグループにして欲しいという主張が出て、それに感化するかのようにしずくちゃんや歩夢ちゃん、せつ菜ちゃん辺りが便乗するという事態が起き、議論は混沌を極めた。結局議論は膠着状態を抜け出せず、祭りまで猶予もないため、無難に学年別で行動しようという結論に決着した。それで俺は、同じ三年生のエマちゃん、彼方ちゃん、果林ちゃんと一緒に行動している訳だ。三人ともそれぞれのイメージに合った浴衣を着てきていたが……やっぱり映えるな。

 

 

「エマちゃんは、どこか回りたいところとかあるの〜?」

 

 

 彼方ちゃんは、キョロキョロとするエマちゃんに要望を訊いた。ただでさえ断続的に軒を連ねる屋台だ。種類が豊富で、どこに行くか悩むだろう。

 

 

「えっとね……あっ! あれってもしかして綿飴───」

 

「ちょっとエマ!? 立ち止まると人混みに呑まれるわよ!」

 

「わっ!?」

 

「!? ……よっと!」

 

「あっ……!」

 

 

 すると、俺達のすぐ横にあった綿飴屋さんに目が留まったエマちゃんが急に足を止めてしまい、その隙に人の流れに呑み込まれようとしていた。俺は咄嗟の反応でエマちゃんへと手を伸ばし、彼女の手を取って引っ張り出した。そして、安全を確保するために人の流れから外れた場所に移動する。

 

 

「ふう、間に合った……危うく開始早々逸れるところだったな」

 

「えっと……ごめんなさいてっちゃん。はしゃぎすぎちゃって……」

 

「ははっ、初めて見るものに夢中になっちまうのは仕方ないよ。そうだな……ここからは、なるべくみんなで手を繋いで回ろうな。そうすれば、逸れることはない。そしたら、エマちゃんも思いっきりはしゃげるだろうしな!」

 

「! ……ありがとう、てっちゃん」

 

「おう、良いってことだ」

 

 

 申し訳なさそうに下を向いていたエマちゃんだったが、俺がそう言うと、優しい微笑みを見せた。

 

 普段からみんなのお姉さんとして、主に後輩から頼られる存在になっているのだから、こういう同級生と一緒にいる時くらいは遠慮することなく、ありのままで楽しんで欲しいんだよな。

 

 

「ねぇねぇ徹くん、手を繋ぐ以外にも例えば……こういうのはどう?」

 

「えっ? ……って、ちょっ!?」

 

 

 彼方ちゃんに声を掛けられたと思うと、急に彼女は俺の右腕をホールドしてきたのだ。これには俺も驚きの声を上げてしまった。

 

 

「ふふっ、これで彼方ちゃんがみんなと逸れることはないでしょ?」

 

「ま、まあ確かにそれはそうなんだが……」

 

「あっ、じゃあ私も彼方ちゃんみたいにしたら良いのかな?」

 

「いやいや、エマちゃんまでそうしなくていいからな!?」

 

 

 彼方ちゃんの大胆な行為に困惑するのも束の間、今度はエマちゃんまで便乗しようとしてきた。いやいや……二人とも無意識なのか?

 

 

「というか彼方ちゃん、そういうことは男に軽率にするもんじゃないぞ。スキンシップもほどほどに……」

 

「はぁ……そんなの、徹くんにしかやらないもん

 

「ん? すまん、ちょっと聞こえなかったのだが」

 

「な〜んでもない! ほら、エマちゃんの気になってた綿飴屋さんに行こうよ〜!」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

 

 結局、彼方ちゃんの言葉は周りの喧騒のせいで聞き取ることが出来ず終いなのだが、俺達は綿飴屋さんの列に並ぶことにした。

 

 

 ────────────────────

 

 

「ん〜! レインボー綿飴も良かったけど、このチョコバナナもボ〜ノ!」

 

 

 エマちゃんが綿飴を買ってから、俺達も各々が食べ物や飲み物を買おうということになり、今はそれを終えてみんなで道の端に立ち止まって食べている最中だ。エマちゃんはそのレインボー綿飴とチョコバナナを買ってきて、チョコバナナを美味しそうに頬張っている。

 

 

「ははっ、とても幸せそうな顔してるな」

 

「うん! 今私、とっても幸せだよ〜! あっ、そうだ! こっちのチョコバナナ、てっちゃんにあげるよ!」

 

 

 すると、エマちゃんは両手に一本ずつ持っているチョコバナナのうち、まだ食べていない方を俺に差し出してきた。俺はてっきり彼女が両方とも食うつもりだと思ってたのだが……

 

 

「えっ、いいのか? だったら、その分の金払うが……」

 

「それは要らないよ! てっちゃんにも、このチョコバナナの美味しさを共有したいから! ダメ……?」

 

「そ、そこまで言うなら……ありがとうな」

 

「うん!」

 

 

 全く、それなら俺が一本チョコバナナを買ってくればいいだけなのに、優しいなぁ……

 

 そうして俺は、自分で買ってきた焼きそばを片手に持ちながら、空いた手でチョコバナナを受け取ろうとしたが……

 

 

「……あっ」

 

 

 片手が塞がれては、焼きそばを食べれないことに気づいた。

 

 

「すまん、この焼きそばを食べ終わってからでも良いか?」

 

「あっ、うん! いいよ〜。ゆっくり食べてね」

 

 

 エマちゃんは優しく俺にそう言ってくれた。

 

 しかし自分で言うのもアレだが、俺は甘いものには目がない。この焼きそばを食べ終わってからチョコバナナをじっくり味わいたい。だから、早くこの焼きそばを消化しなければ……

 

 そう思って気持ち多めに焼きそばを口の中にかき込んでいると、彼方ちゃんと果林ちゃんの会話が耳に入ってきた。

 

 

「う〜ん、やっぱり夏祭りのラムネは至高ですなぁ……」

 

「ちょっと彼方、その発言は少しおじさん臭いわよ?」

 

「えぇ〜? だって本当のことなんだも〜ん」

 

「もう……そんなこと言ってると、徹みたいになっちゃうわよ?」

 

「!? うぉいよっおあえ(おいちょっと待て)

 

 

 俺は果林ちゃんの一言にいてもたってもいられず、最後の一口を頬張っているの中、口元を覆いながらも喋ろうとしてしまった。

 

 

「ちょっと徹、口の中の食べ物を飲み込んでから喋りなさいよ」

 

 

 俺が喋り出すとは思っていなかったのか、果林ちゃんは驚いた表情でそう言う。

 

 

「あっはは、徹くん落ち着いて〜。彼方ちゃんのラムネ、いるかな〜?」

 

 

 彼方ちゃんは大笑いしながらも、俺が焼きそばをすぐに飲み込めるようにそう提案してくれた。

 

 俺はそんな中冷静さを取り戻し、口の中の物を全部飲み込んだ。

 

 

「ん……ありがとう彼方ちゃん、大丈夫だ。そして果林ちゃんのそれはどういう意味なんだ?」

 

「どういう意味って、そのままの意味よ。徹はおじさんみたいに妙に達観してるし」

 

「達観って……いやいや、それだけでおじさん呼ばわりかよ」

 

 

 おじさん云々は未だ同意できないが、達観していると言われたら……なんだか、そんな気がしてきた。

 

 

「でも、今日は割とはしゃいでるわね? 口の中一杯にものを入れながら喋るくらいには」

 

「なんだよ、揶揄ってるのか?」

 

「そんなことはないわよ? むしろ、私としては徹のそういうところが見れて嬉しいってことよ」

 

「嬉しい、か……」

 

 

 果林ちゃんがどう言う意図でそう言っているのかは分からないが、なんだか素直にそう言われると何だか妙に恥ずかしいな……

 

 

「ふふっ。少し顔、赤くなってるわね?」

 

「えっ!? いやいや、そんなことないから! っていうか、やっぱり揶揄ってるじゃねぇかよ!!」

 

 

 はぁ……まさか俺がこんなに彼女の思いのまま弄られるとはな。まあ、つまり彼女が仕返しを望んでいるという解釈をしておこうか。

 

 そんな風にわちゃわちゃしていると────

 

 

「あっ、てっつー達じゃん!」

 

「てっちゃん!! 会えて良かった〜!」

 

「ようやく会えましたね!」

 

 

 声が聞こえてきたと思い、人の流れの上流を見ると、愛ちゃんや歩夢ちゃん、せつ菜ちゃん、侑の四人がこっちに向かいながら手を振っていた。

 

 

「おぉ、二年生組じゃないか! 調子はどうだ?」

 

「大丈夫だよ! お兄ちゃんの方はどう?」

 

「こっちも順調だ。今四人で食べ物の屋台を回ってきたところだな」

 

「お〜、いいね! じゃあ愛さん達もあれが終わったらそっちに行かない?」

 

「「「いいね!(いいと思います!)」」」

 

 

 どうやら、二年生組は二年生組でちゃんと楽しめているようだ。以前は二年生同士の関わり合いが薄くて交流会を開いたが、それが良かったのかもしれないな。

 

 

「愛ちゃん達はこれから何をするのかな?」

 

「おっ、エマっち気になる? これからアタシ達はあそこで金魚掬いをするつもりだよ! ほら見て、あんな感じで掬う金魚の数を競うんだ。せっかくだし、エマっち達もやってみない?」

 

「やりたい! ねぇ、今度は果林ちゃんも一緒にやってみようよ! 私、果林ちゃんと一緒にやりたい!」

 

「えっ!? わ、分かったわ。エマがそこまで言うなら……」

 

 

 どうやら愛ちゃん達は金魚掬いにチャレンジするようで、エマちゃんは果林ちゃんを誘って一緒に行ってくるようだ。

 

 

「てっちゃんも行く?」

 

「あー……俺はいいや。チョコバナナ食いたいし」

 

「あっ、そうだったね! じゃあ……はい! 後で感想聞かせて!」

 

「分かった! 楽しんでこい」

 

 

 そう言って俺はエマちゃんからチョコバナナを受け取り、彼女は金魚掬いの屋台に向かった。

 

 

「あれ、お兄ちゃんは行かないの?」

 

「ん? まあ、これ食おうかなって」

 

 

 侑と歩夢ちゃんは俺が屋台に向かわないのに気づき、声を掛けてきた。

 

 

「それって、チョコバナナ? もー、お兄ちゃんやっぱり甘いもの好きだね〜」

 

「ははっ、事実を言われてしまったなぁ〜」

 

 

 うむ……これこそ花より団子、金魚掬いよりチョコバナナってやつか。

 

 

 ……いや、なんだその和洋が混ざった悪魔合体的な(ことわざ)は。

 

 

「ふふっ、でも甘いものはほどほどにね?」

 

「あぁ、そうだな……って、歩夢ちゃん!?」

 

 

 すると、急に横から歩夢ちゃんが左腕を優しくホールドしてきたのだ。

 

 さっき彼方ちゃんにもそれをやられたが、まさか歩夢ちゃんまでそうしてくるとは……

 

 

「おぉ〜、歩夢ちゃんもやりますなぁ〜……なら、彼方ちゃんも負けてられないぞ〜! それ〜!」

 

「ちょっ、彼方ちゃんまで!?」

 

 

 彼方ちゃんは謎の闘争心を燃やして再び俺の右腕をホールドするし……もう、どうなってるんだよ……

 

 

 この後少しして、歩夢ちゃんは侑と金魚掬いをしに行き、それと同時くらいにエマちゃんとせつ菜ちゃんが戻ってきた。二人は一回で満足したのか、今度はせつ菜ちゃんおすすめの仮面の屋台に行こうとしていた。

 

 俺はまだチョコバナナを食べ終えていなかったので、後でそっちに向かうことを伝え、彼方ちゃんと一緒にその場に留まった。彼方ちゃんは果林ちゃんを待つために残るらしい。

 

 そこから暫くして、侑と歩夢ちゃんが帰ってきた。しかし、その二人より前から金魚掬いをしているはずの愛ちゃんと果林ちゃんが戻ってこなかった。どうしたのかと思った俺が金魚掬いの屋台に向かうと、なんとその二人が金魚掬いでガチの勝負を繰り広げていたのだ。あの感じだと、相当な回数並んでは金魚を掬うことを繰り返していたに違いない。

 

 こうして果林ちゃんが勝負に熱中していることにほっこりしたあと、俺は侑と歩夢ちゃん、彼方ちゃんに二人を待つようお願いした後に仮面の屋台に向かった。

 

 

 その途中、見覚えのある子と正面で目が合った。

 

 

「あっ!?」

 

 

 その瞬間パァっと笑顔になったと思いきや、勢いよく走ってきて正面からハグしてきた。

 

 

「て〜つ〜せ〜ん〜ぱぁ〜い!! 会いたかったですぅ!」

 

「おぉっと……かすみちゃんじゃないか。俺も会えて嬉しいぞ」

 

 

 かすみちゃんを上手く受け止めながら、俺は彼女にそう答えた。

 

 彼女がいるということは、残りのメンバーも……

 

 

「ちょっとかすみさん! 急に走って何が……って、徹先輩!? あぁ……やっと会えました!」

 

「やっぱりしずくちゃん、それに璃菜ちゃんもいるじゃないか。これで一年生組とも会えたな」

 

「徹さん、こんばんは。一年生組ともって、二年生の人達とも会ったの?」

 

「あぁ、二年生の子達とはさっき会ってな。それで今は割と別行動してて、エマちゃんとせつ菜ちゃんは仮面の屋台、愛ちゃんと果林ちゃんは金魚掬いをしてて、侑と歩夢ちゃん、彼方ちゃんはその二人を待ってるって感じだ」

 

 

 こんな感じで、予想通り一年生の子達と合流した。割と早いうちにみんなと会うことが出来たな。やはり大きいお祭りとはいえ、全然会えないほどでないってことか。

 

 

「へぇ〜、愛先輩はともかく、果林先輩が金魚掬いとは意外ですねぇ……」

 

「確かに……璃奈ちゃんボード『金魚』」

 

「ちょっ、璃奈ちゃんそのボードは何だ?」

 

 

 俺はここでかすみちゃんの発言に同意したかったのだが、それ以上に璃奈ちゃんのボードの絵が気になってしまった。

 

 

「今日のお祭りの為に、特製璃奈ちゃんボード - 夏祭りver. - を作ってきた。他にもいっぱいある」

 

「夏まつりver.……なるほど、それで金魚とかセミが描かれてるんだね!」

 

「夏祭りに関連してるのはかすみんもわかるんですけど……りな子ったら、今日はいつもの表情じゃなくて違和感しかないですぅ……」

 

「あっ、一応いつもの表情も出せる」

 

「出せるんだ!?」

 

「それは知らなかった……」

 

 

 なるほど……夏祭りに関連するものを描いてボードにしたってことか。多分、璃奈ちゃんなりにみんなを盛り上げたくて作ったんだろうな。そして、現にかすみちゃんとしずくちゃんも興味津々だしな。

 

 

「ははっ、面白いじゃないか。しかし、璃奈ちゃんは絵心があって羨ましいな」

 

「そうかな……? でも、徹さんがそう言うのなら、そうなのかも」

 

 

 俺が璃奈ちゃんに素直な感想を述べると、彼女は少しもじもじしながらもそう答えた。

 

 俺も絵心があればなぁ……実はあまり俺絵を描くの得意ではなくて、特に人を描くのが苦手だ。そうすると、今度璃奈ちゃんにコツを教えてもらうか。

 

 

 そんなことを考えていると────

 

 

「せ、せせせ、せつ菜ちゃん!?」

 

「ん?」

 

 

 少し遠くから誰かの叫び声が聞こえてきた。その先を見てみると、仮面の屋台の前で……あれは、生徒会副会長の若月だろうか。彼女がせつ菜ちゃんに向かって驚いた表情を浮かべているところみたいだ。

 

 

「……すまん、ちょっと見てくるな」

 

 

 知っている人とはいえ、同好会のファンがメンバーと接触しているので一応彼女の側に向かうことにした。

 

 というか、エマちゃんも一緒にいたはずだが、どこに行ったのだろうか?

 

 

「ま、まさかプライベートとお会いできるとは思ってなくて……か、陰ながらいつも応援させて頂いてます! スクールアイドルフェスティバル最高でした!!」

 

「あ、ありがとうございます……そう言ってもらえると、とても嬉しいです」

 

 

 若月は今まで見た事ないほどに興奮しており、目をキラキラさせていた。それに対してせつ菜ちゃんは困惑しながらも、笑顔で彼女に接していた。

 

 そんな彼女の隣に立ち、声を掛けた。

 

 

「よう、せつ菜ちゃん」

 

「徹さん! チョコバナナ食べ終わったんですね!」

 

「あぁ、まあな。ところで、エマちゃんはどこ行った?」

 

「エマさんなら、彼方さん達のところに戻っていきましたよ」

 

「なんだ、入れ違いだったか……まあそれはいいや。それで若月、まさか本当にお祭りで会うとはな」

 

 

 せつ菜ちゃんと情報確認を終えた後、視線を若月に向けた。

 

 

「あっ、高咲さん……って、今の見られてましたか!?」

 

「んー……まあ、少しだけ」

 

「あぁ……私としたことが、大先輩になんたる醜態を……す、すみません。少し取り乱してしまいました」

 

「ははっ、そんな気にすることはないぞ? むしろ俺としては、若月がせつ菜ちゃんへ熱意を持っていることが分かって嬉しいんだがな」

 

「えっ? そ、そうなんですか……」

 

 

 他の人に自分の大好きを表す姿を見られるのに慣れていない感じ……ははっ、やっぱり一昔前のせつ菜ちゃんみたいだな。

 

 

「あっ、綾音ちゃん見つけた!」

 

「山本さん! すみません、突然走り出してしまって……」

 

 

 すると、彼女の後ろから走ってくる子が見えた。山本さんって……あれか、スクールアイドルフェスティバルの運営にもいたあの人か。若月を夏祭りに誘ったクラスメイトって、その人だったんだな。

 

 

「別に大丈夫! あれ? そちらの方々って、もしかして優木せつ菜ちゃんと、元生徒会長の高咲さん?」

 

「そうです。たまたま見かけたもので、挨拶をしに行ってました」

 

「そういうことだったんだ〜! ……あの、私もスクールアイドルフェスティバルの動画見ました! それで、最後のライブステージにとても感動しちゃって……私、同好会のみんなが好きになりました! 今度またフェスがあるなら、私是非参加したいです!」

 

「……!」

 

 

 若月のクラスメイトの山本も同好会に興味を持ったようで、なんと第二回スクールアイドルフェスティバルの開催を要望している。

 

 しかも、あのラストステージがきっかけとは……

 

 

「どうやら同好会の知名度と人気は大分上がってるみたいだな?」

 

「そうですね! これも、徹さんが素晴らしい曲を作ってくださったおかげです!」

 

「いやいや、それはせつ菜ちゃんのおかげじゃないか? せつ菜ちゃんがいなかったら、俺はあの曲作れてないからな」

 

「そうですかね……じゃあ、お互い様ですね!」

 

「んー……まあ、そういうことにしておこうか」

 

 

 なんだか、こんな話を前にもした気がするな。まあ、でもそれくらい俺はせつ菜ちゃんに感謝しているって訳だ

 

 

「ねぇねぇ綾音ちゃん、元生徒会長さんとせつ菜ちゃんってもしかして……」

 

「えぇ、私もそのことは気になってました」

 

 

 すると、若月と山本がこそこそと会話をし始めた。一体何を話しているのだろうかと訝しんでいると────

 

 

「あの、せつ菜さん!」

 

「な、なんでしょうか……!?」

 

「せつ菜さんって、もしかして……」

 

 

 若月がそう切り出した瞬間、せつ菜ちゃんの表情は青ざめ、そして……

 

「っ……! し、失礼します!!」

 

「うわっ!? ちょっ、せつ菜ちゃん!?」

 

 

 俺の手を掴んでその場から駆け出した───

 

 

 ────────────────────

 

 

「こ、ここまで来れば大丈夫ですよね……?」

 

 

 ただただ引っ張られるがままに走っていき、気がつけば人気のない運河の河岸まで来ていた。祭りの会場の喧騒が微かに聞こえてくるので、そう遠くまでは来ていないはずだ。

 

 

「ま、まあ良いと思うが……足、大丈夫か? 下駄だから怪我しやすいと思うのだが」

 

「それは大丈夫です……それよりも徹さんもサンダルですが、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、俺も全然大丈夫だ」

 

「それは良かったです……」

 

 

 お互い安否を確認し、一旦息を吐く。

 

 俺は、せつ菜ちゃんが何故若月の発言が終わるのを待たずにしてその場から走り出したのかが気になっていた。

 

 

「……なあ、何故急に俺を掴んで走り出したんだ? もしかして、本性がバレると思ったのか?」

 

 

 俺がそう問いかけると、彼女は落ち着いた口調で語り始めた。

 

 

「はい……副会長は、中川菜々と優木せつ菜両方に深い接点がある人なので、あのような口振りで訊かれて危機感を感じたのか、その場から逃げてしまいました……徹さんも道連れにするつもりはなかったのですが、咄嗟に手を掴んでしまいました」

 

「なるほどな……まあ、その気持ちは分かる。勘付かれてバレたくないもんな」

 

「そうですよね……はぁ、せっかくのファンと話せるいい機会だったのに、ダメですね、私は……」

 

 

 せつ菜ちゃんは視線を下に落とし、今にも泣きそうな声色で心情を吐露した。ファンを大事にする彼女だからこそ、今回の出来事はかなりショックだったのだろう。俺は彼女をどう励ますか考えていた。そして──

 

 

「……大丈夫だ」

 

「えっ?」

 

 

 せつ菜ちゃんの頭に手を置き、そう話しかけた。

 

 

「『失敗は成功のもと』って言うだろう? 今回で若月と山本が離れていくことは無いと思うから、この失敗を生かして次こそ上手く会話すればいいんだ。それっぽい質問が来た時の躱し方を考えたりしてさ。それに、俺や同好会のみんななら、バレないようになんとかするさ。きっと、みんなだってそうしてくれるはずだ」

 

「徹さん……ふふっ、そうですよね。失敗したら、今度成功すればいいんですよね」

 

 

 せつ菜ちゃんの表情に笑みが戻り、目蓋には涙が溜まっていた。

 

 

「ありがとうございます、徹さん。励ましてくださって……」

 

「良いってことさ。というか、俺は今までせつ菜ちゃんに沢山励まされてきたんだ。これからは、俺がせつ菜ちゃんを励ましていきたいってことだ」

 

「徹さん……」

 

 

 海から吹いてくる夜風が、俺達の間をすり抜ける。夏の星空は、一つ一つの星が燦々と瞬いている。

 

 

「しかし、大分人気のないところまで来たな」

 

「はい。その……二人っきり、ですね」

 

「……あぁ、だな」

 

 

 この空間は、まるで合宿二日目の時みたいだ。

 

 

「あの、徹さん」

 

「ん、どうした?」

 

「その、改めてになるんですが……私のこの着物、似合ってますか?」

 

「あぁ、とても似合ってるぞ。せつ菜ちゃんらしい赤色で、白い模様とのコントラストが映えるし、その花の髪飾りも可愛いな」

 

「かわっ……!?」

 

「川……?」

 

「な、なんでもないです!」

 

 

 せつ菜ちゃんの言いかけた言葉に反応するが、有耶無耶にされてしまう。俺はただ正直な感想を述べただけなのだが……

 

 

 妙に緊張した空気が流れていると────

 

「あっ……花火だ」

 

 

 運河の先に大きな打ち上げ花火が見えた。このお祭りの中でも大きなイベントである、花火大会が始まったのだろう。合宿の時にもプールから眺めたが、今回はそれ以上に近く、とても華やかで壮大だった。

 

 

「綺麗ですね……!」

 

「ホントだな」

 

 

 いつの間にか花火を眺めるのに夢中になってるせつ菜ちゃん。彼女の浴衣が花火の鮮やかさに映えて、とても綺麗だった。

 

 そう考えていると、ズボンのポケットで俺のスマホが震えた。

 

 

「って、そろそろみんなと合流しないといけないな。せつ菜ちゃん、行くぞ……!?」

 

 

 俺が歩き出そうとすると、せつ菜ちゃんが俺の浴衣を引っ張ってきた。

 

 

「せつ菜ちゃん……?」

 

 

 彼女の頬は赤く染まっていた。

 

 

「えっと、徹さん……もう少しここで一緒にいたいのですが……ダメ、でしょうか……?」

 

「! ……わ、分かった」

 

 

 それから、俺達はもう少しだけここで花火を眺めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 





 今回はここまで!

 長編でお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
 次回かそれくらいで原作1期から2期に繋がるストーリーは完結する予定です!

 ではまた次回!
 評価・感想・お気に入り登録・読了報告よろしくお願いします!
 
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