どうも!
第102話です。
「思ってた以上に話が膨らんでるじゃないか……」
「うん……私もびっくりしちゃった」
二学期に入って初日、同好会の部室にやってきた俺と歩夢ちゃんが目の当たりにしたのは、一見企画書かと思うほど具体的なことが事細かに書き込まれたメモだった。しかもそれが今日中で、かつ俺達が来る前のわずかな時間で出された、第二回スクールアイドルフェスティバルを宣伝するPVに関するアイデアを書き込んだだけだという。
普段から同好会のメンバーのアイデア力は凄まじく、こういう話し合いの場はアイデアで乱れることは想像の範囲内ではあるものの……まさかここまでとは思わなかった。
それに、そのアイデアの乱立を璃奈ちゃんがなるべくスッキリと纏めてくれていたことも驚きの一つだ。きっと頭をフル回転させながら、みんなの話し合いを聞くことに集中していたのだろう。
「これ、璃奈ちゃんもメモするの相当大変じゃなかったか?」
「えっと……うん、流石にちょっと大変だったかも」
「だよな。お疲れ様だ」
「あっ……うん、ありがとう……」
俺は、隣にいた璃奈ちゃんの手を握りながら、感謝の意を示した。こういう時に頼れる璃奈ちゃんが同好会にいるのがホントにありがたい。ただ、彼女もスクールアイドルだし、そう易々と頼ってられないな……
「あの、私達何かやっちゃった感じですか?」
せつ菜ちゃんの声を聞いて振り返ると、パソコンを囲い込むように同好会のメンバーみんなが集まっていた。
「いやいや、そういう訳じゃないぞ! せつ菜ちゃん達が気にすることじゃないからな!」
「そ、そうですか……でしたら、どうでしょうか!? 皆さんと知恵を絞ってみました!」
自信満々な様子でそう言い放つせつ菜ちゃん。
……まあ、このままこのアイデア達を判断するのは時期尚早だな。
「とりあえず、みんながどういう流れでPVについて話し合ったかだけ、確認させてくれないか?」
「分かりました! なんでも訊いてください!」
「彼方ちゃんも、答えられる範囲なら答えるよ〜」
しずくちゃんも、俺の質問に準備は出来ているようだ。
「ありがとうな。それじゃあまずコンセプトなのだが……」
そして俺は再びパソコンと向き合い、まずはメモの最初に書かれていたPVのコンセプトについて訊くことにした。
「なるほど……つまり、前回のフェスよりも多くの人に参加して欲しいから、説明会に参加する人々が目を引くようなPVにしたいって話になったってことか」
主にせつ菜ちゃんの話によれば、第二回スクールアイドルフェスティバルでより多くのスクールアイドルとそのファンに参加してもらえるようにするために、PVを工夫したいということだった。これに関しては全会一致で決まり、ここまでは順調に話し合いが進んでいたようだ。
「はい! その解釈で遜色ありません」
「うむ、俺としては、とても良い方針だと思う。しかし……」
問題はその後だった。
「そこからの具体的なところがな……ほら、この『恋して駆け落ち』って部分は多分しずくちゃんが発案してるんだろ? あとここら辺からは『戦闘』とか『特殊能力』『必殺技』ってワードがあって間違いなくせつ菜ちゃんの発案だし……」
「流石徹さん! 大当たりです!」
「そ、それを気づかれるなんて……徹先輩はエスパーですか!?」
「やっぱりな……いやいや、エスパーじゃなくても分かると思うが」
アイデアの嗜好がほぼしずくちゃんとせつ菜ちゃんの好みに一致していて、他の子のアイデアがなかなか見受けられない状態になっていた。まあ、議論が加速しすぎて周りが付いていくのに必死になってたんだろうな……その議論を止める余地もなかったのだろう。
「あはは……二人らしいね」
歩夢ちゃんは苦笑いをしながらそう言った。まあ、分かりやすいのはこの二人だけではなく、なんなら細かく見ていくと二人以外が発案したらしきものもあって、これらも誰が発案したかが分かりやすい。なんだか、誰が発案したか当てるのが面白くなってきたな。
……いや、そんなことをしている場合ではないな。
「それで、みんなはこれについてはどう感じたんだ?」
俺は後ろを振り向き、みんなの表情を見た。すると、せつ菜ちゃんとしずくちゃんを除く同好会のメンバーは微妙な表情を見せた。
まあ、急に自分がよく分からないことを乱立されたら混乱するだろうし、判断し難いだろうな。
一瞬静寂が続いたが、一人が喉を鳴らしてから声を発した。
「んん……かすみんは、二人がぱぱーっと話を進めてしまうので、止めようとしたのですが、話を聞いてくれなかったんですよ! なのでぇ、早く徹先輩か侑先輩にどうにかしてほしいと思ってたところでしたよぉ……!」
「そうだったのか……ずっとその場の収拾をつけようとしてたんだな。ありがとう、かすみちゃん」
「せんぱぁい……!」
しずくちゃんとせつ菜ちゃんの白熱した議論を抑えようと必死になってくれたかすみちゃんを労う。
「う〜ん……彼方ちゃんとしては、ここからどんなPVになるのか想像しにくいな〜」
「あぁ、なるほど……確かにな」
このままでは、沢山のアイデアを抱えたまま何も生み出せないことになってしまいそうだよな……なんとかしなければ。
──そういえば、彼方ちゃんに一つ確認したいことがあったんだった。
「なあ彼方ちゃん、一応訊くんだが、この『みんなで寝る』ってワードは彼方ちゃんの発言だよな?」
「えっ? どれどれ……」
明らかに異質な発案で、話の流れからも外れていたのでこれこそ『どういうこと!?』とツッコミを入れようかと思ったのだが……
「!?」
彼方ちゃんが真後ろから屈んでいるのか、俺のすぐ横に彼女の顔があったのだ。しかも俺の肩辺りには柔らかい感覚があり……俺は酷く動揺した。
「あ〜、彼方ちゃんが冗談で言ったことも残ってたんだね〜……って、どうしたの、徹くん?」
「な、何でもない! ……っていうかそれ冗談だったんかい!」
「えへへ〜。スクールアイドルとは関係ないけど、つい〜」
彼方ちゃんはそう言うと、俺から離れた。
───とりあえず落ち着こう。今はそんなことでアタフタしている場合ではないだろう。
しかし、今彼方ちゃんが自分の冗談のことを『スクールアイドルとは関係ない』と言ったが、今一度このメモを見てみると、全くスクールアイドルに関するワードが出てきてないんだよな。これはスクールアイドルフェスティバルのPVだというのに。まあ、二人の議論が白熱してなかったらそれらしい意見も出てたかもしれないが……
「やっぱり、少し議論が白熱してしまいましたよね……すみません!」
「私も……もう少し冷静に話し合うべきでした。申し訳ないです……」
周りの空気を察したのか、話を進めた本人であるせつ菜ちゃんとしずくちゃんが暗い表情になってしまった。
……いや、やはりスクールアイドルフェスティバルのPVの話において、普通ならばまずライブ映像をどうとか、歌を歌わないかといったスクールアイドルに関係することが、まずアイデアとして挙がるはずだ。それが二人から出てきていないのなら、この議論には二人の何かしらの意図があるに違いない。ただそれが周りにちゃんと伝わっていなくて、このような事態になってしまっただけなのではないだろうか。ならば……
俺は椅子から立ち上がり、声を掛けた。
「……なあ、しずくちゃんとせつ菜ちゃんに確認したいことがあるんだが、いいか?」
「は、はい! 何でしょうか!? このせつ菜、覚悟は出来てます!!」
「不十分なところの指摘なら、遠慮なくお願いします!」
この気まずい空気にしてしまった責任感を感じているのか、二人とも神経質になってしまってるな……
「えっとな……別にダメ出しとかじゃないんだ。二人ともとても個性的で具体的な案を出してくれてて、俺はとても良いなと思ったぞ。ただ、これには何か考えがあったりしたのか? PVにその要素を入れると良いと思ったってことだよな?」
「は、はい。私はPVにそういう物語性を加えることで、見てくださる方々を夢中に出来るのではないかと思いまして……」
「私も似たような感じです。PVの中に戦闘シーンが入ったら、見ている人達も釘づけになると思うんです。その、スクールアイドルとはあまり関係がなくなってしまうかもしれませんが……」
「なるほど……やっぱりそうか」
俺の頭の中で、離れていた点と点が繋がった気がした。なるほど……確かに、こういうPVはそんな感じだよな。
「おっ、何か分かったのかな〜?」
「あぁ、分かったぞ。二人がやりたいことが」
「そーなの!? 教えて、てっつー!」
その場にいる同好会のメンバー全員がこちらに注目している。
「あぁ。まず先に言っておくが……フェスの告知は、PVのオチになるんだ」
「「……!」」
俺がそう話すと、しずくちゃんとせつ菜ちゃんが目を大きく見開いた。
「そうなんだ! 私、フェスの告知はどうするんだろうって心配だったんだ〜!」
「そういうことなら早く言ってくださいよぉ……かすみん、要らない心配をしてしまったじゃないですか〜」
「す、すみません! てっきり、皆さんも分かっていると思い込んでいました……」
やっぱり、そもそもそういう前提をみんなに伝えられてなかったんだな……アニメのPVや物語で、最も伝えたいことを一番最後に満を辞してドン! と出してくることはよくあることで、オーソドックスなストーリー構成だろう。作曲をしている俺にとっても、タイトルのフレーズをサビの最後に持ってくる曲構成はお馴染みだからな。
でも、そういう当たり前は他の人にとってはそうではないから、気をつけなければいけない。まあとは言っても、そうやって客観視するのも難しいけどな。
「でも、それと戦闘にどんな関係があるのかしら?」
すると、今まで黙っていた果林ちゃんから鋭い指摘が飛んできた。
「それはな、オチの付け方に関わってくるのさ」
「オチの付け方?」
「ほら、オチっていきなりくるものじゃないか? 今回俺達が伝えたいことは、二回目のフェス開催が決定したということだ。それを最後に伝えるものだとしたら、その前座には、それを見ている人に全く予想させないようなPVが必要だ」
「あぁ、なるほどね! 確かに、もしあたし達のライブ映像とか衣装姿を流しちゃったら、そういうお知らせをするんだって分かっちゃうもんね!」
俺が慎重に説明していると、察しの良い愛ちゃんが理解を示してくれた。まあ、スクールアイドルに関するワードがあのメモにはなかったのも、それが理由だろう。
「ん〜……まだかすみんにはイマイチ分からないですぅ……!」
その一方、かすみちゃんはピンと来ていないようだった。ちょっと説明が難しかったか……と思っていると───
「えー!? んー、分かりやすく説明すると、例えばこんな感じで……こちょっとな!」
「ふぉぁ!?」
急に愛ちゃんが俺の背後に移動し、俺の脇腹をくすぐってきたのだ。俺は唐突な出来事に、その場で尻餅をついてしまった。
「ちょっ、愛ちゃん急に何するんだよ!」
「ほら! こんな感じで急にくすぐるとびっくりするでしょ? それと同じ!」
「なるほど……何となく分かった気がします!」
「いや今の例えで分かったんかい!?」
いやそれ俺の言葉を言い換えるためだったのか……相変わらず悪びれてなさそうだし、そろそろ愛ちゃんには本格的に仕返しを考える必要がありそうだな……
「ちょっと徹、少し落ち着きなさい。話が進まないじゃない」
「いやいや俺のせいか!? ……まあ、話を本筋に戻すか」
果林ちゃんに諌められてもう訳分からなくなったが、まだ大事な話は終わってないので、気を取り直す。
「ここから具体的なことになるんだが、しずくちゃんの言う『駆け落ち』みたいな物語性とか、せつ菜ちゃんの言う『戦闘』のシーンを取り入れることでPVの見応えはあるし、オチとして来るフェスの告知も予想できない。だから、それを採用するのはアリなんじゃないかと俺は思う。どうだ、みんな?」
自分の意見を述べ終え、俺はみんなの反応を待った。すると……
「なるほど〜……それは良いかもしれないね〜」
「良いじゃん良いじゃん! それなら愛さんも大賛成!」
「PVのビジョンが見えた気がする……璃奈ちゃんのボード『ワクワク!』」
「ふふっ、みんなの心の中のモヤが晴れた感じね」
場の空気が一気に明るくなり、賑やかな部室が戻ってきた。
良かった……とりあえず、一段落か。
「あの……徹さん」
すると、横からモジモジとした様子でしずくちゃんとせつ菜ちゃんがやってきた。その表情から、二人が今から何をしようとしているかがすぐに分かった。
「さっきはその……」
「いや、気にするな。それより、これからは二人が主体で進んでいくはずだ。二人とも、頑張れよ」
「「……! はい!」」
二人にも、いつもの明るく眩しい笑顔が戻ってきた。二人とも責任感が特に強いから、あまり気を負わないように俺からもちゃんとケアしないとな。
「あの、もし私達が戦闘するってことになったら、相手は誰になるの?」
「そういえば確かに……みんなとはあまり戦う気にはなれないな〜」
歩夢ちゃんの疑問に対して、同意を示すエマちゃん。やっぱり、二人は優しいからこそ、それに抵抗を感じるんだろうな。
「それならば問題ありません! 私は、皆さんが何かしらのキャラに対して立ち向かっていくつもりで考えていました!」
なるほど、第三者の敵に対して、みんなが立ち向かうということか。ただ、キャラとはいっても適当なキャラは著作権関係で使えないだろうから……
「キャラか……そうなると、お台場に所縁のあるキャラとかどうだ? それなら、お台場についてみんなに知ってもらえると思うぞ」
「所縁がある……あっ、あそこにある自由の女神とか使えるんじゃない!? 何なら、その
「いやそれキャラじゃなくないですか!? 流石にこれはダメだよね、しず子?」
「良いかもしれません!」
「良いんだ!?」
「愛さん、ナイスアイデアです! それならば、他にも色々登場させられそうなキャラが居そうですね!」
お台場にあるモニュメントもアリか。そうなると、他にも確か近くを走る電車にも、確かマスコットキャラクターが居たはずだからそれも登場させられるな。
そんな感じで、みんなの話し合いが澱みなく進んでいると……
「ごめん、遅れた!」
「あら、侑じゃない。お疲れ」
「みんな侑さんが来るのを待ってた。璃奈ボード『にっこりん』」
部室の入り口の方から声が聞こえ、見ると侑が息を荒くしてそこに立っていた。
「おっ、侑じゃないか。もしや、廊下を走ってきたな?」
「あっ、お兄ちゃん! い、いやいや、そんなことないじゃん! あはは……」
俺が少し低い声音でそう問うと、侑は愛想笑いで取り繕った。まあ、活動に遅れて焦る気持ちは分かるし、これ以上この場で追及はしないが、廊下を走るのは元生徒会長として見逃せないよな……
「それより、お兄ちゃん達は何をしてるの?」
「ん、ちょっとスクールアイドルフェスティバルについてな。説明すると……」
「へぇ、PVでみんなが戦うってこと? いいね! 何だかギャップ萌えしちゃいそう!」
「ギャップ萌え?」
侑の放ったワードに、エマちゃんが疑問符を浮かべる。そうか、海外の人にとってはそういう言葉に馴染みがないのか。
「あれか、みんなの意外性に魅力を感じるってことだな?」
「そうそう! きっとみんなカッコいいんだろうなぁ……」
カッコいいか……全くそこに気づかなかったが、確かにそうかもしれない。
「カッコいい、ね……そうなると、衣装もカッコよさを引き立たせるものが良いかしら?」
ふと果林ちゃんがそう呟いた。
「そうか、衣装の問題もあるよな……うーむ、なるべくスクールアイドルを意識させないような衣装である必要もあるな」
可愛いスカート系とかだとスクールアイドルっぽさが出てしまうし……ダメだ、俺の衣装に関する引き出しが少ない。
……そういえば、前にも衣装で悩んだことがあったよな。
「なあ果林ちゃん。またあの服飾同好会に掛け合うことって出来るか?」
「そう来ると思ってたわ。まあ、出来ないことはないわ」
よし、今度も服飾同好会に頼らせていただくか。みんなの納得のゆく衣装を決めよう。
こうして、後日服飾同好会にお邪魔することなった。
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