高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

117 / 122

どうも!
第103話です。


第103話 身を引く運命

 

 

「……よし、これで良い感じだ」

 

 

 はいどうも。今日も平常運転、高咲徹だ。

 

 今日は一体何をしてるかというと、こちら! スクールアイドルのMVに出演するメンバーの衣装を着付けてみた! 果たして彼女は、どのように変身したのか!?

 

 

 ……とまあ、唐突な配信者的なノリはここら辺にしておいて。

 

 前述した通り、今日は虹ヶ咲学園の学校説明会にて放映するMVを撮影し始める日だ。ドラマや映画撮影における言葉を使うなら、クランクインだ。

 

 先日、MVの内容の方向性を決めたところで、衣装をどうするかという話になった。その時、以前スクールアイドルフェスティバルの時にお世話になった服飾同好会に訪れて、衣装を決めれば良いのではないかということになった。

 

 そして後日、そこに訪れて色々と衣装用の服を見て回ったのだが、最初はなかなか決まらなかった。しかし、あるきっかけでその衣装が決まったのだ。

 

 それが何かというと……『スーツ』だ。それで、今は部室であるメンバーのスーツのネクタイを結び終えたところだ。

 

『スクールアイドルがスーツを着るなんて、意外すぎる!』と驚いただろう。しかし、驚くことはこれだけではない。今俺が目の前でスーツを着ているのは────

 

 

「ねぇ、ホントに私もPVに出るの?」

 

「あぁ、そうだぞ? 大丈夫だ、みんなみたいに堂々としてればいいんだ。それに、侑が出演するのはほんの少しみたいだから、いけるぞ」

 

「そ、そうかな……なら良いんだけど、あはは……」

 

 

 なんと、今回のMVに我が妹の侑も共演することになったのだ。

 

 

 そもそも、このスーツをMVの衣装として最初に目をつけたのが侑なのだ。侑の提案に最初はみんなが渋々としていたのだが、何故かせつ菜ちゃんが急に『徹さんならスーツ似合いそうですね!』と言ったのがきっかけで途端にみんなが盛り上がり始め、俺にスーツを試着して欲しいと言い始めたのだ。

 

 しかし俺が着たところで、衣装の参考にはならない。基本大体の男がスーツを着て、似合わないという感想はなかなか出ない。この試着で気にすべきところは、みんなのような女の子が似合うのかというところである。故に俺は、試着するのは俺よりも侑が最適だとみんなに訴えた。

 

 結局、俺と侑の二人でスーツを試着することになった。「俺要るか?」って感じだったがな。

 

 そして着てみたところ、侑のスーツ姿にみんなが目をキラキラさせていたのだ。そこで出てきた提案が『侑と俺の十一人でMVに映ろう』というものだ。

 

 これには侑も俺も仰天した。俺がスーツを着せられる時点で疑問符が浮かびまくりだったのに、これに関しては「どうしてそうなった!?」って感じだ。

 

 まあ、侑が出るのならまだ分かる。侑は見た目も綺麗だし、みんなに負けないくらい端正な顔立ちだからな。

 

 そんな訳で、俺はMVに出ないでおこ───

 

 

「───ていうか!! お兄ちゃんが出ないのズルくない!?」

 

 

 ……そう簡単にはいかないようだ。

 

 

「いやいや、言っただろ? 俺が出たらMV的にマズいんだって」

 

「そ、それはそうかもしれないけど〜!」

 

 

 真面目な話、俺はMVに映るのが苦手な故に出たくない訳ではない。MVの出来を考えて、俺が出てしまうと問題なのだ。

 

 まずこのMVは、第二回スクールアイドルフェスティバルを告知するMVである。全体的にスクールアイドルを感じさせないMV内容であるとしても、その前提を忘れてはいけない。

 

 スクールアイドルに限らずアイドルは恋愛をタブーとしているのは、一般論としてあるだろう。故に、そんなスクールアイドルのMVに男である俺が出てしまっては、見る者に違和感を与えたしまうのだ。例え俺とみんながそういう関係ではないという事実があるとしてもな。

 

 故に俺は、みんなにそのような理由で説明し、MVに出ることを辞退した。侑は自分だけがMVに出る納得していないようだが、俺みたいな問題もないし、みんなが侑とMVに出ることを望んでいる。ならば、俺はただ後押しするだけってことだ。

 

 まあつまり、俺はただMV撮影の裏方で只管みんなのサポートに徹するってことだ。徹だけに。

 

 

 そんなダジャレをかましていると、突然侑が声を上げた。

 

 

「……あっ、でもほら! 一応お兄ちゃんの分もあそこにあるよ!」

 

「えっ?」

 

 

 侑が指差した先を見ると……あら不思議、なんと見覚えのないスーツがハンガーに掛かっているではありませんか。みんなは部室の隣にある空き教室で着替えているから、この場にスーツはないはずなんだけどな〜あはは〜。

 

 

 ……なんであるの?

 

 

「は!? いつの間に!? ていうか、ネクタイの色が……茶色?」

 

 

 よく見てみると、そのスーツのネクタイの色が茶色だった。茶色というか……ちょっと赤っぽい茶色?

 

 

「ふふっ、気づいた?」

 

 

 背後から声が聞こえたので後ろを向くと、和やかに微笑むスーツ姿の歩夢ちゃんがいた。

 

 

「歩夢ちゃん! なぁ、もしかしてこのスーツ、歩夢ちゃんが……?」

 

「うん! 今回は厳しいかもしれないけど……てっちゃんとお揃いにしたいから、せつ菜ちゃんと相談して服飾同好会に追加でお願いしたの! てっちゃん、昔からチョコとかあんこが大好きだし、色も似合いそうだなーって思って! どうかな……?」

 

「歩夢ちゃん……」

 

 

 そういうことだったのか……確かに、チョコとか小豆に近い茶色、言うなれば『マルーン色』って感じか。歩夢ちゃんがそこまで考えて色を決めてくれたなんて……

 

 

「ありがとう。とても嬉しいし、今すぐにでも着てみたいよ」

 

「そ、そっか……えへへ」

 

 

 こんな素晴らしいネクタイのスーツなのに、この撮影のために着ることはないというのが残念で仕方ない。

 

 

「それなら、今からでもMVに……」

 

「その誘いには引っかからないぞ?」

 

「そんな〜!」

 

 

 俺が余韻に浸っている隙に罠を仕掛けてくる侑。全く、どれだけ一人でMVに出たくないんだ……まあ、気持ちは分からなくもないが。

 

 

 そんな感じで幼馴染三人共に部室にいると、入り口の方から声がした。

 

 

「もう、侑はまだそんなことを言ってるの?」

 

「ん、果林ちゃんにエマちゃんか。結構早かったってことは、ネクタイとか手間取らなかったってことか」

 

 

 侑と歩夢ちゃんの次に早く着替え終わった二人だが、この二人に関しては既にネクタイを結び終えていた。ネクタイの結びは慣れていないとすぐに終わらないのだが……

 

 

「えぇ、ライフデザイン学科だもの。甘く見ないでちょうだい」

 

「果林ちゃん、ネクタイ結ぶの上手いんだよ〜!」

 

 

 ほう、ライフデザイン学科ではネクタイの結び方を教わるのだろうか。そりゃ、手慣れている訳だ。

 

 ……てかそういえば、歩夢ちゃんはまだネクタイ結んでなかったな。

 

 

「そういや歩夢ちゃん、まだネクタイ結んでないようだが、結び方分からないか?」

 

「あっ……! えっと、それは……」

 

 

 目を逸らしてモジモジする歩夢ちゃん。もしかすると、恥ずかしくてネクタイを結べないことを言えない状況かな?

 

 

「……OK、ならこっちに来てくれ。俺が結ぶから」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 すると、歩夢ちゃんは恥ずかしそうにしながらも俺の前にやってきて、ネクタイを渡してきた。

 

 彼女のネクタイはピンク色だ。ネクタイの色は、それぞれのメンバーのパーソナルカラーになっている。ちなみに、侑のネクタイは黒だ。

 

 さて、ちゃちゃっと結んじゃうか。まずはこんな感じで……

 

 

「おぉ〜、やっぱりてっちゃんも上手いんだね!」

 

「あぁ、毎日結んでるからな。社会人になっても役に立つし、自分で出来るようにしているのさ」

 

 

 虹ヶ咲の男子制服はネクタイ付きで、入学したての頃はネクタイ結びに苦労した。でも、コツを掴んで毎日継続してれば、なんてこともない。

 

 

「なるほどね、確かに一理あるわ。徹が社会人になったら……っ!」

 

「ん? どうした果林ちゃん、急に顔を赤くして……」

 

「な、なんでもないわよ! もう話しかけないでちょうだい!!」

 

「えぇ!?」

 

 

 なんか急に突き放されたんだが……俺何か彼女に悪いことでもしたか?

 

 

「……お兄ちゃんの鈍感」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもない!」

 

 

 何故か侑まで不機嫌になって……どういうことだってばよ……

 

 

「みんな、お待たせー! 愛さん達も終わったよ!」

 

 

 すると、部室の入り口から大勢のメンバーが入ってきた。空き教室で着替えていた残りのメンバーが全員戻ってきたんだな。

 

「おう、お疲れ! これで全員揃ったか?」

 

「うん。だけど、三人がまだネクタイ結んでない」

 

 

 璃奈ちゃんにそう言われて見てみると、かすみちゃんにしずくちゃん、せつ菜ちゃんがまだネクタイを結んでいなかった。他のメンバーは自分で結んだか、誰か結べるメンバーに結んでもらったのかな。

 

 そう考えていると……

 

 

「あぁぁ!? 歩夢先輩フライングなんてズルいですよぉ〜!」

 

「いや、かすみさんが遅かっただけでしょ……」

 

「あははは……」

 

 

 かすみちゃんが急に飛び出してきて、歩夢ちゃんを羨ましそうに見ている。その当の本人は苦笑いしている。

 

 

「まあまあ、歩夢ちゃんのが終わったら三人ともやるから、待っててくれ」

 

「良いんですか? なら、私から先にお願いできないでしょうか。私、徹先輩に結んで欲しくて……」

 

「ちょっと! かすみんが先に徹先輩に結んでもらうんだから、しず子は邪魔しないでよ!」

 

「かすみさんが先にしてもらうだなんて決まってないでしょ。むしろ、それはこっちのセリフだよ?」

 

「ぐぬぬ……でも! 先に動き出したのはかすみんだよ!? だから、かすみんが先ぃ!」

 

 

「あの、お二人とも落ち着いて下さい!!」

 

「ちょっとちょっと、あまり言い()()は良くないよー! ()だけに!」

 

「ぷっ……あはは!! やっぱりそれ好きー! あっははは!!」

 

 

 俺が歩夢ちゃんのネクタイを結んでは間に、かすみちゃんとしずくちゃんは論争になるは、愛ちゃんがダジャレを言って侑を笑わせるは……状況一変しすぎだろ。

 

 そんなこんなで頭抱えたいところで、俺は歩夢ちゃんのネクタイを結び終えた。

 

 

「おし、これでいいと思うぞ」

 

「ありがとう! ……なんか、騒がしくなっちゃったね」

 

 

 歩夢ちゃんは感謝の言葉を述べた後、周りの状況を見て苦笑いでそう呟いた。

 

 この言い合いを止めるのは……すぐにしなくてもいいか。周りが何とかしてくれるかもしれないし。

 

 

「んー……ここであまり時間を食いたくないし、ネクタイ結びを優先させるか。せつ菜ちゃん! 先に結ぶからこっちに来い!」

 

「えっ、私ですか!? わ、分かりました!」

 

「「えっ!?」」

 

 

 俺がせつ菜ちゃんを呼び寄せると、言い合っていた二人が驚きの声を上げてその場で固まった。

 

 まあ、漁夫の利ってやつになるだろうか。これで二人とも残念がるのなら、今後は反省してそのような言い争いはしないようにして欲しいものだ。

 

 

「じゃあ、そのネクタイをくれ」

 

「は、はい……その、よろしくお願いします……!」

 

 

 何故かせつ菜ちゃんは、普段の溌剌とした様子がなく、ぎこちない感じで目を逸らしていた。歩夢ちゃんもそんな感じだったが、せつ菜ちゃんにそんな表情をされるとやりにくいな……

 

「お、おう……じゃあ、いくぞ」

 

 

 そう言って俺は、ネクタイを正面から彼女の首に掛けた。

 

 結んでいく時に彼女の表情を窺ったが、やはり俯いたままだ。

 

 

「……大丈夫か? 苦しかったりするか?」

 

「い、いえ! そんなことはない、です……」

 

 

 何だか妙に気を遣ってしまうし、緊張してしまう。他人のネクタイを結ぶなんてなかなかないもんな。あったとしても、同じ学校の男の制服のネクタイだろうし。

 

 そんなことを考えていると……

 

 

「「「……」」」

 

 

 周りの空気が何故がシーンとしていることに気づいた。先程まで言い争っていたしずくちゃんとかすみちゃんも黙ってしまっている。もしかしてこれ、気不味い空気になってるか?

 

 

「あー……その、どうだみんな! スーツを着た感想は?」

 

 

 俺はこの空気を打開するために、周りに話題を振った。

 

 

「感想? そうだねー、愛さんが今まで着たことないタイプの服だから、ちょっとまだ慣れないかな! なんだかそわそわしてる感じ!」

 

「その気持ち、彼方ちゃんも分かるよ〜。彼方ちゃんも普段はおねむなのに、このスーツを着たら、お目目シャッキリさんになっちゃったんだよね〜」

 

「私もです。なんだか身が引き締まる感じで、普段とは違う演技や表現が出来そうな気がします!」

 

 

 みんなそれぞれ、多種多様な回答が返ってきた。まあ、最初はそうなるだろうな。俺はスーツ自体を着慣れるまで気を張っちまいそうだ。

 

 

「なるほどな。まあ、みんなまだ自分の身に馴染んでないかもしれないが、いずれ慣れるだろうから大丈夫だ」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

「気にしてくれてありがと! てっつー!」

 

 

 そう言ってくれる璃奈ちゃんと愛ちゃん。俺の言葉が人の助けになれたのなら、良かった。

 

 

「まあ、本当は徹くんにもスーツを着て欲しかったけどね〜」

 

「あぁ……それは、な……」

 

 

 彼方ちゃんの言葉に、俺は言葉が詰まった。

 

 

「確か先日徹さんが言っていたのが、男性が一人MVに混ざるのが良くないという話でしたよね」

 

「あぁ、そうだ。あの中に侑と一緒に混じるというのは、見る人が違和感を感じるだろうと思ってな」

 

「そうですね……私も徹先輩と共にMVに出たい気持ちで一杯なのですが、先輩の言うことにも納得してしまう自分もいます」

 

「やっぱりそうだよな……」

 

 

 服飾同好会にお邪魔した後に話し合った時は『徹くんなら出ても大丈夫』『誰も何も言わないよ』といった声を聞いた。俺はそれを聞いて、お世辞だとしてもとても嬉しかった。

 

 しかし、MVは不特定多数の人が見る物だ。私情を抜きにして考えなければ、その不特定多数の人を惹かせるような良い物は作れないだろうと思う。だから俺は、自ら身を引くのだ。

 

 

「まあ、今回は仕方ないわよ。徹は徹で裏方の仕事忙しくなるのもあるし、無理はさせられないもの」

 

 

 中でも唯一、果林ちゃんが最初から俺の賛同している。客観的に物事を見て判断しているのだろう。それに彼女の言う通り、俺みたいに常時裏方で動けるような人物は必要だ。

 

 

「た、確かに! なら私も裏方に……」

 

「おい待て、侑はMV出ることが決まってるんだ。知ってるか? 侑はスクールアイドルの可愛いマネージャーとして、校内では割と人気が高いんだぞ?」

 

「えぇ〜……」

 

 

 侑がMV出演を免れようとしているので、釘を刺した。侑のスーツ姿、似合ってるのになぁ……

 

 

 そう色々と話したり考えたりしてる内に、せつ菜ちゃんのネクタイを結び終えた。

 

 

「ほら、せつ菜ちゃんのネクタイ結びも完了! どんどん行くから、次はかすみちゃん行くぞ! ……かすみちゃん?」

 

 

 順序を考える間もなく適当にかすみちゃんを呼んだのだが、彼女からの反応が無かったのでもう一度呼び掛けた。

 

 

「……はっ! な、なんでもないですよぉ〜! 先輩、ネクタイ可愛くお願いしますね♡」

 

「ん、了解!」

 

 

 可愛いネクタイの結び方か……そんなことができる技術など持っていないが、やってみるか!

 

 そうして俺はかすみちゃんに続けてしずくちゃんのネクタイも結び、MVの撮影に向かった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「さて、一日目の撮影は終了っと……」

 

 

 時は過ぎ、夕方。俺は一人部室棟の廊下を歩いていた。

 

 一日目のMV撮影が終了し、みんなが先に部室へと戻って着替えをしている中、俺は撮影現地で色々と後片付けをしており、ここに戻ってきたのも大分遅くなってしまった。今頃みんな先に帰宅の途についてるだろう。

 

「みんなはもう先に帰ったかな。ならば、少し活動ノートを書いて帰るか……ん?」

 

 部室のドアが少し開いており、そこから誰かしらの人影が見えたのだ。まさか幽霊じゃあるまいし、誰か残っているのか?

 

 俺は更に部室の近くまで寄り、ドアの隙間から中を覗くと……

 

 

「あれは……かすみちゃん?」

 

 





今回はここまで!
徹くんはMVに出ないみたいですが、果たしてどうなるのか!?
ではまた次回!
評価・感想・お気に入り登録よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。