高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも、大変長らくお待たせしました。
第106話です。
では早速どうぞ。


第106話 シンキングタイム

 

 

「さて……午前は終わりっと」

 

 

 汗ばむほど暑い真夏は過ぎ、教室の空調が少々肌寒く感じるほど暑さが落ち着いた今日この頃。いつも通り昼前までに一限から四限まで机で座学をこなし、待望の昼休みを迎える。

 

 このタイミングって本当に嬉しいよな。大して授業に対して苦に感じない俺も、四限が終わる鐘が鳴った瞬間はホッとするものだ。

 

 

 そんなわけで、どうも。昼休みという自由を手に入れた高咲徹だ。

 

 

 ただの昼休みというだけで妙にイキイキとしているなと思われてしまうかもしれない今の俺なのだが、これには訳がある。実は先日、せつ菜ちゃんから学校説明会でお披露目するMVに使用するBGMの編曲を依頼されたからだ。

 

 MV撮影は全て終了し、しずくちゃんとせつ菜ちゃん達の熱心なMV作りのおかげである程度形になりつつあった。しかしMVは映像だけでなく、それに伴う音楽があることで完成する。ふとその音楽をどうするのか気になりせつ菜ちゃんに訊いてみると、なんともう既に作曲をしていたというのだ。それでしばらくしてから、彼女が鼻歌で歌ったと思われる音声データを貰い、これを編曲してBGMにしてほしいとのことだった。せつ菜ちゃんが曲を作っていたことには目から鱗だったな。もしかすると某猫とネズミが出てくるアニメの猫並みに目が飛び出たかもしれない。

 

 まあ、俺としては一から作曲するのはやはり難しいが、編曲ならば得意分野だ。せつ菜ちゃんから貰ったのは主旋律だけの鼻歌であるために色々やるべきことは多いが、アレンジを考える時間とそれを実行する時間があれば問題ないだろう。ただ、授業中に編曲について考える訳にもいかない。そんな訳で、俺は十分に考える時間が与えられる昼休みを迎えたことに嬉々としているのだ。

 

 

 さて、一人教室から出て校舎の外に出てきたのだが、やはり何かを考えるのにも場所は選びたいよな。それで最初にやってきたのは校内で最も居心地の良い憩いの場・中庭なのだが……

 

 

「中庭は少し人気が多いな……」

 

 

 やはり居心地が良いというのだけあって、一人で考え込むには少々人気が多くて、ザワザワしていた。流石中庭といったところだな。彼方ちゃんもお昼寝をするために足繁くここに通うだけのことがある。

 

 でもやはり集中できる環境でなければ意味はないと思い、俺はもう一つとっておきの場所へと行き着いた。

 

 

「おぉ、今日は誰もいないな」

 

 

 それは、部室棟の屋上である。放課後に俺達同好会はそこでストレッチを含めたトレーニングを行っている場所だ。このお昼の時間帯は人気があまりなく、座れる場所はないものの、何か考え事をするのには絶好の場所だ。

 

 こうして俺は屋上の柵に腕を掛け、屋上から見える景色を視界に入れながらせつ菜ちゃんの曲について考えをまとめはじめた。

 

 途中でブラックコーヒーを自販機で買ってからでも良かったなと余計なことも考えたりもした。まあ、あいつがあれば思考がよりフル回転するしな……とはいっても、なくてもなんとかなるから問題ないだろうと最終的には割り切った。

 

 そしてしばらくして、俺は良い構想を思いついた。

 

 

「やっぱりそうした方が良さげだよな。それで編曲して、出来上がったものをせつ菜ちゃんに見てもらうのもアリか……」

 

 

 そこから続けて次のことを考えていた最中のことだった……

 

 

「せつ菜がどうしたんですか?」

 

「ん? ……うおっ!? せつ菜ちゃん!?」

 

 

 なんの予兆もなしに聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟に振り向くと、そこにはせつ菜ちゃん……ではなく──

 

 

「せつ菜じゃありませんよ。今の私は中川菜々です」

 

「あっ、間違えた……」

 

 

 そう、髪型をおさげにして眼鏡を掛けた菜々ちゃんだ。あまりに唐突な出来事だったために気が動転してしまい、普段ではあり得ない呼び間違えをしてしまったようだ。

 

 

「すまん、俺としたことがそれを間違えるとは……」

 

「ふふっ、気にしないで下さい。今私達の周りには誰もいませんので」

 

 

 申し訳なさに頭を下げると、菜々ちゃんは柔らかに微笑んでそう言ってくれた。確かに、周りに人がいて聞かれてたら本当に不味かったし、マジで俺が戦犯になるところだった。今後呼び方の間違いをしないよう気をつけるのは勿論のことだが、万が一間違えた時周りにどう取り繕うかもちゃんと考えないとな……

 

 そう反省をしながらも、俺は菜々ちゃんに話しかける。

 

 

「そう言ってくれると助かる。ところで、菜々ちゃんはいつもの見回りか?」

 

「はい、そうです。徹さんは、何か考え事ですか? その……私の事を言っていたような気がするのですが……」

 

 

 俺の独り言、聞こえてたのか……というか、菜々ちゃんはなぜそんなにもじもじしているんだ?

 

 

「あー、それはほら、前に頼まれたアレのことだよ」

 

「アレ……? あぁ、アレのことですか。なるほど……」

 

「どうした? そんなに残念そうにして」

 

「何でもありません」

 

 

 なんか正直に話したら何故か妙に素っ気なくなったんだが……分からないな……

 

 そう困惑していると、菜々ちゃんは一度咳払いをした後、横で俺と同じように柵に腕を掛け、少し心配そうな表情で問いかけてきた。

 

 

「それより、その事で何か悩んでいることはありませんか……?」

 

 

 悩みがないか、か……ははっ、相変わらず菜々ちゃんは本当に気遣いが出来る良い子だな。

 

 

「いや、悩むことはないよ。熟考してただけだ。さっきはせつ菜ちゃんがどんな意図で曲を作ったかを想像して、それに合わせてどうやってアレンジしようかって考えてたんだ」

 

 

 考えていたこと全てを話すと長くなってしまうので、菜々ちゃんに声を掛けられる直前に考えていたことを正直に話した。すると、彼女は俺を見たままその場で固まった。

 

 

「……」

 

「ん? どうかしたか?」

 

「あっ、いいえ。徹さんがそこまで考えてくださってて、少しびっくりしただけです」

 

 

 動きが止まっていた訳を訊くと、どうやら俺が考えていた内容に驚いていたからだそうだ。確かに、俺も()()()の教えがなかったらそこら辺のことをあまりまともに考えてなかったかもしれないな。

 

 

「あっ、そういうことか……まあこれは昔教えられたことなんだけどな──人が作った曲をアレンジする時は、作った人がどんな意図でその曲を作ったのかを考えてアレンジしなさい、ってな」

 

 

 あの子の言葉を反芻したら、俺が中三だった頃の思い出が蘇ってきた。あの頃はがむしゃらにマイパソコンに入ってた作曲ソフトをいじったり、あの子にアドバイスを貰ったりしてたよな。

 

 

「なるほど……なら、それを教えてくださった人は、人の価値観を理解しようとする優しい人なんですね」

 

「あぁ、そうだな。とても優しくてな……俺の尊敬する人だよ」

 

 

 あの子は天然で、少し抜けてるところもあったりするんだが、音楽のことになるととても真剣で、揺るがない自分の価値観を持っていた。俺のこともなんの遠慮なしに指摘してくれて、俺の音楽スキルを伸ばしてくれたのは彼女だ。でも、普段の生活ではまるで仏様のように優しくて、俺と仲良くしてくれた。

 

 ……あぁ、そう昔を思い出すとなんにも考えてなかった無知の俺まで思い出されてムカついてしまう。特にあの子を思い出すと必ず文化祭のあの時の苦い思い出がな……

 

 でも、またあの子に会えたりは───いや、しないか。むしろ、会わす顔がないもんな……

 

 

「徹さん……?」

 

 

 随分の間黙ってしまっていたようなのか、気がつけば菜々ちゃんが心配そうにこちらの様子を窺っていた。マズい、屋上から見える綺麗な海を眺めながら物思いに更けていたせいで菜々ちゃんを置いてけぼりにしてしまった……

 

 

「あっ、すまん。昔を思い出しただけだ。それで話に戻るが、今日中には作曲に取り掛かって、近いうちにはみんなに聴かせることが出来そうなんだ」

 

「そうですか! なら、私は期待して待っていますね」

 

「おう……あっ、でもみんなの前にまずはせつ菜ちゃんに聴いてほしいな」

 

「私ですか?」

 

「そうだ。まずは作曲した本人のチェックが入って然るべきだしな。まあ、それに……」

 

「それに……?」

 

「……いや、何でもない。気にするな」

 

 

 最初にせつ菜ちゃんに聴いて欲しい理由はもう一つあるのだが、俺はそれを彼女に言わないことにした。

 

 

「えっ!? そ、そこまで言われると気になります! 教えてください!」

 

「ちょっ、だから何でもないと……って、口調口調!」

 

 

 すると、菜々ちゃんは急に大きな声でそう俺に問い詰めてきた。普段の菜々ちゃんの口調とは大分違い、彼女の中の秘めるせつ菜ちゃんが漏出していたので指摘した。

 

 

「……! し、失礼しました。つい取り乱してしまいまして……」

 

「ふふっ、生徒会長も意外と慌てることがあるんだな、なんてな」

 

「もう、徹さんっ!」

 

「ごめんごめん、許してくれ……」

 

 

 思わず揶揄うと、菜々ちゃんは頬を膨らませて抗議をしてきた。まあ、実際はせつ菜ちゃんが俺の曲風を一番理解してくれてそうだと思ったというのが第二の理由なんだがな。なんとなく黙っておこうかなと思っただけだ。

 

 

「あっ、そういえば最近何か変わったことはあったか? ほら、面白い申請書とか」

 

「生徒会の話ですか? 特に面白い申請書といったことはありませんでしたが……あっ、そういえば再来週くらいから新たに留学生がやってくるという話を伺いました」

 

 

 最近の生徒会であった面白い話を聞こうと思っていたのだが、予想以上に興味深い話が彼女の口から飛び出した。

 

 

「留学生? ほう……それ、時期的に遅くないか?」

 

「ですよね。しかも、二人来られるようです」

 

「おぉ……しかも再来週といったら、学校説明会がある週だよな。そのタイミングで留学生か」

 

 

 生徒会の話は普段から彼女と話す事はあるのだが、留学生という話題はなかなか出てこない。大体留学生は4月の初めか9月の初めにやって来るのが定例なのだが、今はもう9月の半ばだ。流石に海外の高校も新学期が始まって、今から留学してくるなんてことは滅多にないのだが……一体この時期にどのような人が入ってくるのか気になるな。

 

 そう思っていると……

 

 

「にゃーん」

 

「ん?」

 

 

 背後で猫っぽい鳴き声が聞こえ、もしやと思い後ろを見ると、そこには俺達がよく見知った真っ白な毛色の猫であるはんぺんがお座りしていた。

 

 

「おぉ、はんぺんじゃないか! ほら、こっちに来い」

 

「にゃん!」

 

 

 俺がしゃがみ手招きをすると、はんぺんは元気良く駆けてきて俺の腕に収まった。

 

 

「よっと……よっすはんぺん、良い子にしてたか?」

 

「にゃーん」

 

「そうかそうか、それは良い事だな〜」

 

 

 ははっ、やっぱり猫は可愛いし癒されるよな〜。特にはんぺんは結構人懐っこくて、どうやら校内でも人気のマスコットになってるなんて噂も聞くほどだからな。それも璃奈ちゃんや愛ちゃんを始めとした生徒のみんなが優しく接してくれてるおかげかもな。

 

 

「ふふっ、徹さんは猫が好きなんですね」

 

 

 俺がはんぺんと戯れていると、横で菜々ちゃんが微笑みながらそう訊いてきた。

 

「ん? あぁ、まあな。元から猫とか可愛い動物は好きだ。正直、スクールアイドルフェスティバルではんぺんと一緒に行動することが出来てとても楽しかったよ。なっ、はんぺん?」

 

「にゃ!」

 

「おっ、良い返事だな〜」

 

 

 可愛い動物というと、猫だとか犬、リスやハムスターなどが挙げられるが、俺としてはその中だとやっぱり猫が一番好きかもな。たまに猫の動画がSNSで流れてきたりすると、ついしばらく眺めてしまうんだよな。確か、最近は猫が立って嬉しそうにピョンピョン飛んでる動画があったな。あれみたいにはんぺんが急に立って飛び出したらどうなるだろうか……いや、絶対可愛いに違いないな。

 

 まあそんな話は置いておくとして……俺がはんぺんを撫でたりしていると、隣から妙な視線を感じた。

 

 

「ん? どうした、俺の顔に何か付いてるか?」

 

「っ……! いえ、その……可愛いなと思ってしまいまして……」

 

「可愛い……あぁ、はんぺんのことか! どうだ、菜々ちゃんもはんぺんを抱っこしてみるか?」

 

「えっ!? いやその、そうではなくて……」

 

「そんな遠慮しなくて大丈夫だ! ほら、はんぺんも菜々ちゃんに抱っこして欲しいって言ってるぞ?」

 

「にゃーん」

 

 

 俺がはんぺんの右手を挙手するように持ち上げると、はんぺんはそれに呼応するかのように鳴いた。

 

 

「はぁ……まあ、ではお願いします」

 

「あぁ」

 

 

 少しため息交じりだったような気がしなくもないが、菜々ちゃんが両手を広げたのを見てから、俺は彼女にはんぺんを渡した。

 

 

「はんぺんさん、今日もお散歩役員の活動お疲れ様です」

 

「にゃん!」

 

「……! ふふっ、元気そうで何よりです」

 

 

 はんぺんが可愛らしく返事に、今日一番の微笑みを見せる菜々ちゃん。やっぱり、猫は人を笑顔にするんだな。

 

 

「どうだ? とても人懐っこいだろ?」

 

「はい、とても大人しいですね。私が抱っこをしたら、逃げ出すかと思っていました」

 

「ははっ、相手が菜々ちゃんだったら逃げたりしないと思うがな」

 

「ふふっ、それってどう言う意味ですか」

 

「そのまんまの意味さ」

 

 

 まあ、もしかしたら菜々ちゃんがせつ菜ちゃんモードに切り替わると、もしかすると彼女の熱さのあまりに驚いて逃げちゃうかもしれないけどな。

 

 

「そういえば徹さん……昼食は摂りましたか?」

 

「えっ? 昼食……あっ」

 

 

 そうだ……俺は四限の授業を終えてすぐにここに来てて、昼食を後回しにしていたんだった。しっかり忘れていたな……

 

 

「ダメですよ、徹さん。例え考える時間が必要だとしても、昼食の時間はしっかり確保しないと」

 

「うっ……そうだな。この後購買に行ってくることにするよ」

 

「是非そうしてください。では、私ははんぺんさんと見回りに戻りますので」

 

「おう、じゃあ後でな」

 

「はい、また後で」

 

 

 お互い手を振りあった後、菜々ちゃんははんぺんを抱いて校内の見回りに戻っていった。

 

 彼女がはんぺんと一緒に行動するなんて初めて見たな……もしかして、結構はんぺんのこと気に入ったのかもな。

 

 

「さて、購買に行くか」

 

 

 こうして俺は、購買で買う昼飯を考えながらも屋上を後にするのだった。そしてその数日後、俺はMVのBGMを完成させた。学校説明会の日にちは刻一刻と迫っていた。

 

 

 





 今回はここまで!

 運命の学校説明会もすぐそこですね。そろそろあの二人も……

「ボクの出番はまだ? I can’t wait any more.(もう待てないよ)」

 いや貴方まで!? もう少し待ってて!

 まあ、そんな感じです。ではまた次回!

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