あけましておめでとうございます。
2025年もよろしくお願いします。
「んん……眠いな」
はぁ……流石に眠い。
ダメだ、眠いしか言っていないし考えていない。おかげで学校の中庭にある自販機に並ぶペットボトルが全部レモンティーに見えるぜ……あっ、これは流石に嘘だ。レモンティーラブな
まあ、そんな訳でどうも。高咲徹だ。
今まで学校説明会にPVを放映するために準備を進めてきたが、それは順調に進み、ついに当日まで漕ぎ着けた。長かったようであっという間だったな。
……まあただ、PVの方は少しだけ完成に難航している。
いや、一週間前には完成形が出来上がってたんだ。ただ、PV作成を手掛けていたしずくちゃんと璃奈ちゃんが細かい修正を試みたいと申し出てきたのだ。その時は俺も侑も、二人の一切妥協しない姿勢に感銘を受けて、快諾した。そして、俺たち兄妹が二人を手伝う形で修正作業が始まった。
ただ、いざ作業と話し合いを始めてみると、あれも違うこれも違うといった感じで四苦八苦することになったのだ。それは、前日の夜にしずくちゃんと璃奈ちゃん、俺で夜遅くまで意見を出し合うほど切羽詰まっていたのだ。
まあ徹夜ではないのだが、日付を超えるかぐらいまで頭をフル回転にしていたせいで、今こんなに眠気を感じている訳だ。
それで今日も朝から三人部室で作業をしていたのだが、二人に飲み物を差し入れしようと思い、今は部室を抜けてここに来ている訳だ。二人とも集中したいだろうし、少しでも糖分を摂りたいだろう。もちろん、アイドルの健康管理を意識した品選びをしてな。
さて……二人分に加えて自分のも買えたし、部室に戻るとするか。
「しかし、今年も学校説明会は沢山人が来てくれてるな……男子の比率も少し増えてくれたかな?」
自販機を後にしてふと周りを見渡すと、様々な制服を身に纏った学生達がパンフレットを持ちながらワイワイとしていた。おそらく、虹ヶ咲に入学志望の中学生だろう。
俺は去年まで生徒会の一員として学校説明会の運営に携わってきたが、毎回気になっていたのが参加者の男女比率だ。虹ヶ咲は共学ではあるが、圧倒的に女子の比率が高い。だからこそ、一男子として男子の比率が上がることを密かに期待しているのだが……まあ、来年の新入生とは入れ違いで100%
そんなことを考えながら中庭を進んでいると、見覚えのある影が見えて足を止めた。
「おっ、はんぺんだ。ちゃんと仕事をしてるかな……って、あの子は」
はんぺんが向かった先には、ベンチに座った一人の女の子がいた。しかし、その子は今まで一度も見かけたことがない。
後ろ姿だから顔がよく見えないが、髪色から察するに留学生だろうか。それもつい最近やってきた子だろう。そんな子が、擦り寄ってきたはんぺんを優しく撫でている。撫でられているはんぺんも気持ち良さそうな表情だ。
そんな様子を少し眺めていると、はんぺんと目が合った。すると、はんぺんが俺の元へ歩いてきたのだ。
「おぉはんぺん、調子はどうだ?」
「にゃん♪」
「そうかそうか、楽しそうで何よりだ」
その場でしゃがみ込んではんぺんに挨拶すると、愛らしい鳴き声で返事をしてくれた。あぁ天使……眠気も少し覚めるといったものだ。
そんな癒しを感じながら、ふと視線を前方に向けると……
「「あっ」」
さっきはんぺんと戯れていた留学生らしき子と目があった。今初めてお顔が見えたのだが、シルバー色の目で、右目を前髪で隠していて少しボーイッシュさを感じるような見た目だった。さらに、胸のリボンの色からして俺と同学年の三年生のようだ。
せっかく目があったしなんだか縁を感じるので、はんぺんを連れて彼女の前まで向かった。
「はんぺんと遊んでくれてたのか?」
「……別に、その辺に居たから少し遊んであげただけ」
少し……いや、かなりぶっきらぼうにそう言った。怪訝な表情で、目も合わせてくれないから、もしかして警戒されてるか?
そんなことが気になりながらも、彼女に続けて話しかける。
「ははっ、そうだったか。おかげではんぺんも楽しめたみたいだぞ? ほら、お礼の挨拶だ」
「にゃ〜」
「ふふっ……」
はんぺんを持ち上げて顔が見えるようにすると、彼女の表情が少し綻んだ。
「……! そ、それより! ボクに何か用があるわけ?」
しかしそれも一瞬のことで、己の油断を隠すように必死にそう問いかけてきた。
……もしかして、根は良い子だったりするのかな?
「あっ、特に用がある訳じゃないんだが……ただ、見知らぬ顔だったから声を掛けようか考えてたところだったんだ」
「そう……」
まずい、せっかく心を開きかけてくれたのに会話が途切れてしまう。何か話題は……そうだ、まずは自己紹介だ!
「少し名乗るのが遅れたな。俺は高咲徹。おそらく君と同学年の3年生だ。よろしくな」
「……よろしく」
相変わらず淡白な回答しか返ってこないが、俺はここで諦めない。元生徒会長の話題の引き出しを見せてやる。
「ところで、君は留学生みたいだが、どこから来たんだ?」
「……ステイツだけど、それが何?」
おぉ……答えてくれないかもしれなかったが、少し語気がキツめながらも普通に答えてくれた。もしかしたら、彼女自身について質問を続けたら警戒が解けていくか?
「ステイツ……あぁ、もしかして
「……New York City」
Wow……これが本場の英語か。
「おぉ、ニューヨークか! ニューヨークはとても都会なイメージがあるが、実際もそんな感じか?」
そうやって彼女が進んで答えてくれそうな質問を問いかけると……
「ただの都会じゃないよ。ステイツの流行の最先端が集まるBigなCityさ」
「ほう、なるほどなぁ……つまり君も流行の最先端を行っているということか?」
「
「そうか……俺も行ってみたいな」
思っていた以上に早く警戒心が解けていき、自慢げに自身の故郷について語ってくれるようになった。
流行の最先端か……日本でいう、渋谷とか原宿あたりみたいな感じだろうか? 海外にはまだ一度も行ったことがないから、一度は行ってみたいよな……
そんなことを考えながらも、今度は彼女が手に持っているカップに入ったそうめんについて話そうとした瞬間、ポケットに入ったスマホが震えた。
「ん、侑からだ……」
侑からメッセージが届いていたのだが、俺はその内容を見て────
「……はぁ!?」
「What!?」
思わず大きな声を上げてしまい、隣に座っていた彼女をびっくりさせてしまった。
しかし、ここにはもう居られない事態になった。
「すまん! 急用ができたから、行くな! はんぺんもじゃあな!」
「あっ、ちょっと!」
俺は振り向きもせず、その場から駆けた。
しかしその時、俺の尻ポケットからあるものが無くなっていることに気付かなかった。
────────────────────
「居た……! 歩夢ちゃん!」
「あっ、てっちゃん!」
様々な部や同好会のブースが並ぶところに、スクールアイドル同好会のブースが設置されており、そこに来るよう侑に指示され駆けつけた俺は、真っ先に歩夢ちゃんを見つけ、駆け寄った。
「はぁ……歩夢ちゃん、大丈夫か!? 侑から襲われたって聞いたんだが、どこか怪我はないか!?」
「襲われ……!? だ、大丈夫だよ! ただ、抱きつかれただけだから」
「抱きつかれた……もしかしてそれって、男じゃないよな!? もしそうなら、俺がそいつを見つけて丁重にしばいて────」
「落ち着いててっちゃん! 相手は女の子だよ! それにその子は……」
「ランジュのことを呼んだかしら?」
声がした方を向くと、そこには見慣れない子が立っていた。
「もしかして、君が歩夢ちゃんに抱きついたという……?」
「えぇ、その通りよ。アタシ歩夢のこと大好きだから、会えたのが嬉しくてついハグをしてしまったわ!」
見たところ、さっきの子と同じく虹ヶ咲の制服を着ているし、この子からはあまり悪意を感じない。なんなら、歩夢ちゃんのファンらしい。
「……侑?」
「あはは……あまりに衝撃的だったから、ね?」
苦笑いしながら頭を掻く我が妹。
まあここで説明すると、先程届いたメッセージは侑からのもので『歩夢が襲われた!』といった内容だった。この一文で落ち着ける人がどれだけいるだろうか? 俺は一目散に現場もとい同好会のブースへと駆けつけ、歩夢ちゃん本人に確認したところ、実際は襲われたなんていう大層なことはなく、ただ歩夢ちゃんの熱烈なファンから抱きつかれたということだった。男なら話は別だが、なんなら歳の近い女の子だしな。
侑の言う衝撃的……飛びついてハグしたとかか? だとしたら『襲われた』って表現してもしょうがないか、うん。
……いや、全くしょうがなくもなくもなくもないのだが?
「徹ったら、相変わらず心配症ねぇ」
「ふふっ、でもてっちゃんがあんなに慌てるなんて、新鮮だなぁ〜」
「確かに〜。あんなに心配されてる歩夢ちゃんが羨ましいぜ〜」
同好会のブースの前で一騒ぎを起こしていた俺を眺めて見物していたのであろうブース内の三年生三人組。
……あれ? 今もしかして、変に注目を集めちゃってる感じ? ヤバい、超恥ずかしいんだが!? なにやってんだ俺ェ!!
……ま、まあ取り敢えず落ち着いて周りを見よう。
この場にいるのは、しずくちゃんと璃奈ちゃん、あとせつ菜ちゃんを除いた同好会の面子と、さっき歩夢ちゃんに抱きついたという女の子と……ん、三船もいるじゃないか!? あっ、それはおそらく学校説明会実行委員としてここにいる感じか。それでこんなに集まってるということは────
「あー……もしかして、これから何か話すところだったか?」
「そだね、ちょうどそこにいる彼女の話を聞こうってことになって!」
「それで徹先輩が来れるというので、来るまでちょっぴり待っていたところなんです!」
あー、そういうことか……
「なるほど……待たせて悪かった。じゃあえっと────」
「すみません。彼女のことについて、まずは私の方からご説明させてもらっても宜しいですか?」
「おう……頼む、三船」
俺が二の句を継げないでいると、三船が助け舟を出すように話を切り出してくれた。
「では……彼女は来週から虹ヶ咲学園にやってくる香港からの留学生で、スクールアイドルになるためにここにやってきたそうです」
「留学生?」
「スクールアイドルになりたくて、香港から……!?」
「私と一緒だ〜!」
「
香港からの留学生であるという彼女は、中国語を交えて自身の名前を名乗った。
なんと……今日だけで二人の新規留学生に会っているのだが、今日は運が良いのか? いや、さっきのことを考えるとないか。
しかし、こんな偶然があるのだろうか?
「一つ質問だが、留学生って鐘さん一人だけか?」
「いえ、もう一人いると聞いていますが……それも、ランジュと一緒に来たんですよね?」
「あの子は別にスクールアイドルに興味がある訳じゃないから、学校のどこかにはいるはずよ」
ほう……やはり鐘さんと中庭で会ったあの子に関係性があったか。まあ確かに、スクールアイドルには興味がなさそうな感じではあったかな。
「そうですか……それでしたらすみませんが、私は持ち場の方に戻らなければいけないので、あとは本人に訊いてください」
「謝謝、助かったわ。持つべきものは幼馴染ね」
すると、三船はタイムリミッドが来たようで、鐘さんに感謝の言葉を伝えられた後、委員の仕事に戻っていった。
去り際で俺の前を通り過ぎる時、俺が手を合わせて感謝の意を仕草で表すと、三船は少し微笑みながら一礼を返してくれた。
去り際に鐘さんが『幼馴染』と言っていたが、三船が前にも言っていた幼馴染って、もしかして彼女のことなのだろうか? 確か香港に居るって言っていたし、ほぼ同一人物で間違いないか。
しかし、結構俺が想像してたイメージと違って驚いているのだが……まあ、性格が異なるタイプの幼馴染二人なのだろうな。
その後、今度は同好会のメンバーから鐘さんに質問をしていく流れとなった。
「スクールアイドルで有名な学校はいっぱいあるのに、どうして虹ヶ咲に?」
「スクールアイドルフェスティバルの動画を見たからよ! すっごくときめいたわ!」
「「「っ……!」」」
かすみちゃんの問いに対して目を輝かせながら鐘さんが答えた。驚いた……フェスを見てくれていたんだな。
「それぞれが自分のやりたいことを表現していて、輝いていて……アタシもあのステージに立ってみたいって思った。高校生の今しか出来ないから……だから、ここに来たの!」
フェスの感想を自ずから語ってくれる鐘さんのその姿から、彼女が本当に同好会を好きになってくれて、自身もスクールアイドルになりたいという気持ちが伝わってくる。
いやぁ、ついに同好会がスクールアイドルを目指すきっかけ作りをする側になれたんだなぁ……非常に感慨深いものだ。
「すっごく嬉しいよ!! ようこそ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ!」
「この後、次のフェスの告示映像を流すんだ! 観にくる?」
「本当? 観る観る〜!」
この感じだと、鐘さんも同好会に入る流れになるだろうか? だとしたら、同好会は十二人に増えるな……流石に今年はこれ以上増えない気がするが、人数が増えたのを機にマネージャーのサポート体系の見直しも考えるのもアリかもしれないな。
「沢山集まってもらえるように、チラシを配らないとね〜」
彼方ちゃんが意気込むように声を掛けた。
そういえば、そこら辺も確認しないといけないな。
「そのチラシ配りのことだが、準備はちゃんとできた感じか?」
「うん! 愛さんがバッチリ枚数分の印刷を終えたよ!」
「おぉ、流石愛ちゃん。やるなぁ」
チラシ配りを含めた宣伝関係に俺はほぼ関わってないのだが、おそらく愛ちゃんを含めたみんなが率先して準備してくれたのだろう。なら、
「まーねー……あぁそうだ、せっつーは生徒会の方に行ってるからこっちに来れないんだよね?」
「あぁ、そうだよ。あっちもあっちで色々あるからなぁ……」
「徹くん、せつ菜ちゃんのところに行って手伝ってくれば〜?」
「いや流石に無理だって、今や部外者だし」
せつ菜ちゃん、もとい菜々ちゃんは生徒会長として学校説明会の運営で忙しくしている。
如何なる学校行事の運営において、生徒会長は運営本部の責任者だ。責任者の判断でそのイベントの行方が左右される、言ってしまえば一切の油断を許さない仕事だ。まあそう考えると、そこから抜け出して同好会に顔を出す余裕は全くないだろう。
……あれ、もしかして今度は
「そっちの方はどうかしら? PV、完成したの?」
ぐっ……やっぱりそういう流れだよなぁ……
まだ出来ないなんて言ったら不安がられちゃうだろうが……でも、正直に話すしかない。
「あー……実は、まだ編集が終わってなくてな……」
「えぇ!? じゃあまだしず子とりな子は……」
「あぁ、まだ部室でパソコンと向き合ってる。俺もついさっきまで二人の様子を見ていたんだが、飲み物を差し入れようとして抜けて……ここに呼び出されたって感じだ」
「じゃあ、徹先輩は早く戻ってあげてください! あと、かすみんも行きます!」
……! そうか、俺はこんなところで道草を食っている場合ではない。早く部室に戻ってこの飲み物を差し入れなければならないし色々と……とにかく、ここでゆっくりしている暇はない。
「あっ、待って! 私も行く────」
「侑先輩はダメです! 三人が揃ったら、またこのシーンがが気になる〜ってなるに決まってます!!」
「そ、そうかな〜……」
「侑……すまん、俺もそう思う」
「お兄ちゃんまで!?」
そうだ……今思い返せば侑としずくちゃん合わさることで、修正しても気にならないくらいの細かい部分に執着するというループができてしまっていて、それがここまで完成を伸ばしてしまったと思う。この過程は、期限がまだ先の時なら全然良いし、そのおかげで究極の作品が完成するものだ。しかしここまでくるとそれはむしろ悪手で、どこをまず直すべきか優先順位をつけて、優先順位の高いことから取り組んでいく必要がある。
そんなことをしずくちゃんと璃奈ちゃんにも話したのだが、やはり二人ともこだわりが強いものだから、結局ここまで伸びちゃったんだよなぁ……まあ、その気持ちは痛いほど分かる。俺だって曲作りは一切の妥協なしでやりたいし、今回も完成形になった後少しいじっちゃったからなぁ……正直、二人のことをあまり咎められない立場ではある。
「かすみんに任せてください!! ほら徹先輩、行きますよ!」
「わ、分かった。じゃあみんな、また後で! 鐘さんは告知映像、楽しみにしててな!」
かすみちゃんの後を追うように俺は同好会のブースから駆け出した。もう少し鐘さんと話したかったところだが、同好会のみんなと楽しんでくれたら良いな。
「先輩、先輩もなるべく二人を急かしてくださいねっ! じゃないと間に合わないどころか、一生終わりませんから!!」
「あぁ……分かってる」
さて……俺も少しは心を鬼にしなければならないようだ。
やっぱりランジュって最近流行ってる某アイドルコンテンツのキャラに似てるよなぁ……
次回もお楽しみに!
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