第1話 不思議な夢
───なぜだろうか。今俺は、とてもフワフワした感覚に襲われている。
意識が朦朧としていて、視界もぼんやりとしているのだが……見渡す限り人、人、人……そしてその人達は何の邪気を感じさせない笑顔で、ある一方向に眼差しを向けているようだ。
……ここは何かのライブ会場だろうか?
どうしてこのような状況下に置かれているかは理解できないが、俺が一体どこにいるかは理解が出来た。ライブとはいっても、具体的にどこのグループがライブやってるだとか、細かいことは分からないのだが……
ただただ、俺はその空間に圧倒されていた。
割れんばかりの歓声と微かに聞こえる音楽が、俺の聴覚をこれでもかと刺激している。
言葉にできない……こんな気持ちになるのは初めてかもしれない。
「〜〜〜!!!!」
「……!?」
そう考えていると、突如周りの歓声の大きさが一気に上がった。
前のステージらしき場所を見ると、舞台らしき物の上に何人かの人が立っていた。遠いのでちゃんと数えられないが、10人以上はいるか?
───何だろう、このドキドキは……
俺は、この湧き上がる『何か』を言語化出来ずにいた。
しかし、驚くことはこれだけではない。
ふと少し視線を手前に向けると……
「……侑?」
そこには良く知っている人がいた。
俺の視線に気づいたのか、こちらに振り向いて微笑んだ。
俺はその笑顔を見て、緊張感で強張っていた顔が弛む。
……あぁ、そうか。これが彼女がよく言う、『ときめき』という感覚なのだろうか……
俺はその『ときめき』に身を任せながら、目を閉じた。
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「……はっ!?」
知らない天井だ……なんてな。
寝て起きたら転生してました! ……なんてことはよくアニメやラノベのようなフィクションではよくある展開だ。しかし現実ではそんなことはあり得ず、目を覚ますとよく見慣れた俺の部屋の天井がそこにあった。
……だが、そのフィクションのようなあり得ないことを経験したかのような感覚が、今俺の身体を襲っている。
「……なんか不思議な夢をみたな」
どうやら俺は寝ている最中夢を見ていたようだが、その内容は全くと言っていいほど覚えていない。ただ、いつもとは明らかに異なる寝起きではないかと思う。不思議と悪夢を見た後の恐怖感は感じないから、恐らくそれとは違うのだろう。
ただ……
「……変な感じ」
ボソッとそう呟いたその時───
「お兄ちゃーん、朝だよー!」
奥から足音が聞こえたかと思うと、部屋のドアがバタンと豪快に開き、一人の女の子が入ってきて俺のいるベッドへダイブしてきた。
ははっ、我が妹か。今日も朝から元気だなぁ……
なんかさっきまで非日常を感じていたような気がするが─────まあ、いつも通りの日常だな。
「……だな。おはよ、侑」
「おはよ、お兄ちゃん!」
彼女は満面の笑顔でそう答えた。
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『さて続きまして、エンタメのコーナーです……』
エンタメねぇ……最近面白そうなネタがないから、興味ないなぁ。ニュースとかなら有益な情報が手に入るから見るが、エンタメはもうほとんど見ないだろうなぁ……
そんなことを考えながら、俺はテレビが流れる食卓で妹と一緒に朝食を食べている。
……あ、そういえば自己紹介するのを忘れてたな。
俺の名前は
ちなみに、俺の名前を聞いて「ん?」って思ったかもしれない。この漢字の名前といえば、普通は別の読み方をするはずなのに珍しいな、と。
そう思うのも無理はない。実際、周りからよく「とおる」って読み間違えられる。それで正しい読み方を教えると、『あっ、そっちなんだ!?』と驚かれるまでがテンプレだ。毎回間違われて嫌なんじゃないかと聞かれたこともあったが、俺として最早慣れたもので、特に何も感じない。
そして両親は共働きで、どちらも単身赴任している。そんなもので、今は俺と妹で二人暮らしをしている。
……敢えて念を押して言っておくが、妹だからな? 男女が二人っきりだからといって、変な想像はするなよ?
「そういえば、今日お兄ちゃん起きるの早かったよね。いつもは私が先なのに!」
感心してそうに話し掛けてくるのは、俺の妹の
黒髪で、毛先が緑色にグラデーション掛かっているという珍しい特徴を持っている。まあ、かく言う俺も毛先が若干緑っぽくなっているだが、俺の方が色が薄く、若干黄緑に近い色をしているというちょっとした違いがある。
通っている学校は同じく虹ヶ咲学園だが学科は違い、彼女は普通科だ。残念だけども、仕方ない。俺の通う学科はちょっとばかり専門的だからな。
「あぁ、ちょっと変な夢見てな。少し早く起きちまった」
「へぇ……どんな夢だった? もしかして、ときめいちゃうような夢!?」
すると、侑は目をキラキラさせながらテーブルの向かい側から立ち上がって俺の顔の目の前まで迫ってきた。
「ちょっと、近い近い!」
自分の妹とはいえ、そんなに顔を近づけられると流石に動揺してしまう。
……正直言って、可愛いし。
「えぇ〜いいじゃん、兄妹なんだし〜」
本人は全く気にしてないようだ。全く、このような距離感を他の人にやってたりしてないか心配だぜ……
「……それで、どんな夢だった?」
話題を戻すように、侑は俺に夢の内容について訊いてくる。
「それが全く覚えてないんだよなー……」
「えー……なんだ、つまんないの〜」
不満げな表情で嘆く侑。そんなこと言われてもなぁ……
「仕方ねぇじゃん、覚えてないものは覚えてないんだからさ」
しかしほんと、何を見たんだろうな? 起きた瞬間変に興奮した感じはあったんだけども……
「……まぁ、そういう私も実は変な夢見たんだよね〜」
「ん? そうなのか……もしかしてそんな侑も覚えてなかったり?」
「うん。なんかいい感じだったのは覚えてるんだけどね」
まさか侑までそんな夢を見てるとはな……
まあ、誰だって夢は見る時は見るし、内容が一致してるかは分からないからそこまで珍しいことでもないか。
そんな風に考えながらふと壁に掛かっている時計を見てみると、外へ出る時間が迫っていた。
「……ん、そろそろ時間だな。早く食って準備するぞ」
「うん! ……着替えてる時、部屋覗かないでね?」
「……!? ゲホッゲホッ! 食べ物食ってる間にそんなこと言うな!? てか覗かねぇから!」
「あはは! ごめんごめん!」
危うく口の中のモノを出しそうになったが何とか耐えた。
もう、毎回唐突すぎるんだって……しかも急ぐためにハイペースで食べ始めたその矢先だ。タイミング悪過ぎるんだっての……まあ、大惨事にならなくて良かったんだが。
この後は特に何もなく学校へ行く準備をし、侑と共にある友達との待ち合わせ場所に向かった。
今回はここら辺で!
ちなみに読んでて気付かれたかと思いますが、この小説は時系列的にアニガサキ(アニメ虹ヶ咲)より前から始まります!
ただ、あくまでもメインはアニガサキなので、過去の話はサラッと行こうかと思います!(話数的に)
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