本編第44話です!
では早速どうぞ!
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「凄い……」
彼方ちゃんの全力の走りっぷりに驚きを隠せない遥ちゃん。
東雲学院のスクールアイドルであり、彼方ちゃんの妹である近江遥ちゃんを見学者として、俺たち虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会はいつも通り練習に励んでいる。
……一名だけはいつも以上にやる気満々だけどな。
自分にとって最愛の妹に良いところを見せたいからだろうか、今までの練習では見たことのない、アドレナリン全開MAX! という言葉が相応しい感じで練習をこなしている。
「彼方先輩、今日は一味違いますねぇ……」
「そうね……妹が見てるからかしら……? 」
一緒に練習するメンバーたちも予想外の出来事に拍子抜けになりながらも走っていった。
「あの、お姉ちゃんって実際はいつもどんな感じなんですか? 徹先輩、侑先輩」
「んー……まあ普段はサボってる、なんてことはないしやるべきことはキチンとやってるよ。な? 侑」
「うん。休憩中は寝てたりするけど、なんだかんだで練習はちゃんとしてるね」
「え、休憩中は寝てるんですか!? 」
遥ちゃんは目を大きく見開いた。彼女にとって、彼方ちゃんが同好会の活動中に寝ていることが驚きのようだ。
「えっ? ……そうだね、よくエマさんとかお兄ちゃんに膝枕してもらたりしてるかな」
「そ、そうなんですか……姉がいつも迷惑かけてすみません、徹先輩」
「いいっていいって、同好会のみんなをサポートするのが俺の役目だしな」
別に苦でもないしな。
「うーん……」
すると、遥ちゃんが俯いて考え込んでしまった。
……少し遥ちゃんに俺が気になることを訊いてみるか。
「……なあ遥ちゃん、普段家にいる時の彼方ちゃんってどんな感じなのか? 」
「あっ、それ私も気になる! 」
侑もそのことについては気になるようだ。
「家にいる時のお姉ちゃんですか? そうですね……とても頼りになって、家の家事とか何でもやってくれるんですよね」
「へぇ……遥ちゃんもやってみたいって思ったことはあるのか? 」
「はい、それはもう……何回か『私も一緒に手伝うよ!』って言ったんですけど、『遥ちゃんはゆっくりしてていいよ〜』っていつも言われちゃうんですよね……」
ふむ……なるほど。実際俺も兄だし、侑のことを大切に思ってなるべく彼女に手間をかけたくないと思うからな。多分彼方ちゃんも同じことを考えているんじゃないかと思うが……
「遥ちゃんはえらいな〜……私もお兄ちゃんにいつも家事とかほとんどしてもらってるけど、正直手伝おうと思ったことがなくて……あはは……」
侑は頭を掻きながら苦笑いをした。
……正直言って、遥ちゃんが彼方ちゃんに言ったようなことを侑に言われたとしても、彼方ちゃんと同じようなことを言い返しちゃう気がするんだよな。
俺にとって、侑のために何かすることはもう自分への褒美みたいなもの。自分が進んで家事やらやってる訳ってことだ。
お兄ちゃんとかお姉ちゃんはそんなもんなんじゃないかって思うけども。
「あはは……でも、侑先輩の言うことも分かります! 私も少し前までは同じ感じでしたから。でもスクールアイドルになってから、自分のことは自分でしたいって思うようになったんです」
「なるほどな〜……どうだ、侑もスクールアイドルになってみるか?」
「えっ!? いやいや、その冗談は辞めてよ〜! 私そんなに可愛くないし! 」
「いいと思いますよ! 私から見ても、侑先輩はとっても可愛いと思います!! 」
「遥ちゃんまで!? ……もー! 私はみんなを応援する立場にいるのっ! 」
「ふふっ……分かった分かった」
その言葉を聞いた俺は、ちょっと残念なようで、嬉しくもあるような複雑な気持ちになった。うちの可愛い妹の侑をそんな大衆の目の前に出す訳にはいかないし。可愛いすぎてみんな倒れるかもしれん。
こんなアホなことを考えながらも、練習の時間は過ぎていった。
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「「「「ようこそ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ!!」」」」
時は経ち、練習が終了した後になった。
結局あの後ランニングの他にバランスボールを使った背筋トレーニングなどを行った。
その時も彼方ちゃんは変わらず気力MAXな様子で、特に背筋のトレーニングは彼女が苦手としていて、普段はすぐに力尽きてパタリとなってしまうのだが、今回はかなり粘っていた。
その時、粘っていたが結局耐えられず、バランスボールに乗っていた足がボールの回転によって落ち、その回転の勢いでボールが近くにいたかすみちゃんの顔にクリティカルヒットした。かわいそうだったので涙目の彼女については俺が手当てをしたら、すぐに元気になってくれた。その時余りの切り替えの速さにびっくりしたけれども……
そんかこんなあってから今は遥ちゃんを改めて歓迎するパーティが行われている。
「凄い……! ありがとうございます!! 」
「遥ちゃんが来ることになったの結構急だったからクッキーしか焼けなかったけど……」
「エマちゃんが作るクッキー美味しいんだよ〜? さあさあ、召し上がれ〜」
今回のパーティに用意した食べ物は、それぞれ料理が得意な同好会のメンバー達によって作られたのだ。
「うん! ……あっ、これってコッペパンですか? 」
彼方ちゃんの言葉に頷いた遥ちゃんが最初に目に留まった食べ物は、美味しそうな具材が挟まったコッペパンだった。
「ふっふっふ……かすみんが作ったとっておきのコッペパンです! 」
「うわぁ……! かすみさんが作ったんですね! はむっ……ん〜! おいひい〜! 」
かすみちゃんが作ったコッペパンを食べる遥ちゃん。とっても美味しかったようだ。
「……あれ? このクラッカーに色んな食材がのっているこれは……」
……あっ、それは……
「それはね! お兄ちゃんが作ったものだよ! 」
「えっ、そうなんですか!? ……もぐもぐ……!? とても美味しいです! チーズのコクにアーモンドの香ばしさが絶妙で……皆さんも食べてみてください!! 」
そう、俺もささやかながらパーティに相応しいものを作って来ていたのだ。侑が持っててくれてたから作ったことを忘れかけてたわ……
「どれどれ……ん〜、美味しいです! 絶妙な味つけですね! 」
「このスモークサーモンがのってるクラッカー、好き。璃奈ちゃんボード、『ほっぺた落ちる〜』♪」
「流石てっつー! クラッカーに漬物をのせるなんてセンスあるね!」
しずくちゃん、璃奈ちゃん、愛ちゃんの順に感想を伝えてくれる。
なんかここまでベタ褒めされると照れるな……
「おぉ、そうか。作った甲斐があったよ、ありがとうな」
俺はそう言って手元にあった紙コップに入った水を飲んだ。
「……!? そ、それは……! 」
……ん? 今歩夢ちゃんの声がした気がするのだが……気のせいかな。
(私が飲んでたコップなのに……)
もちろん、歩夢ちゃんがこんなことを考えていることを俺は知らない。
「……」
「うわっ!? ……彼方さん!?」
「お姉ちゃん!?」
すると、向かい側にいた彼方ちゃんが突然倒れた。
「うーん……大丈夫、寝てるだけみたい。徹くん、私が膝枕しとくね」
「ん、分かった」
……良かった。急だったから少しびっくりしたわ。エマちゃんが彼方ちゃんの膝枕をしてくれるみたいだから、ありがたくもう少し食べ物を堪能するとするかね……
「やっぱり、お姉ちゃんが寝ていることは本当だったんですね……」
「やっぱり?」
遥ちゃんが呟いた言葉に果林ちゃんが反応した。
「あっ、さっき侑先輩と徹先輩に教えてもらったんです」
「なるほど……そうね、特に最近なんかはよく寝てるかしら?」
「そうですね……よく保健室で寝ているという話も耳にします」
「……」
メンバー達の言葉に遥ちゃんの表情はみるみる内に曇っていく。
……この問題は何とかしなきゃいけないと思う。しかしそう簡単に解決できる問題でもない。一体どうしたものか……
「……分かりました。私、スクールアイドルを辞めます」
「「「「「……えぇっ!?!?」」」」」
同好会の部室に衝撃が走った。
妹が姉のために我が身を犠牲にしようとしている。
今回はここまで!
シリアスな展開が来てますね…近江姉妹を早く仲直りさせて最強姉妹にしたいものです…
ではまた次回!
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