お待たせしてしまい、大変申し訳ないです!
本編第45話です!
ではどうぞ!
「……はぁ」
こんなに深い溜息を俺は聞いたことがない。
午前中の授業を終え、用意した弁当を持って今は中庭に来て食べている。それも一人ではなく、同好会のみんなとだ。
みんなでお昼を共にすることはそこまで珍しくはないが、その時は大抵部室で済ませることがほとんどだった。
ではなぜ今日はわざわざ中庭に来て食べているかというと、今深い溜息をついた張本人、彼方ちゃんのためだ。彼女がなかなか元気が出ないため、少しでも気分転換になればと外に出ているわけだ。
───ただ、外に出てもあまり効果はあったとは言えない感じである。
まあ、こればっかりは仕方ないよな。遥ちゃんのあの発言を聞いちゃったら……
そう、遥ちゃんがスクールアイドルを辞めるということについてだ。
彼女がこう言った理由としては、間違いなく彼方ちゃんが無理をしているように見えた……いや、実際にも無理しているのに気づいたからだろう。
お姉ちゃんである彼方ちゃんが無理せずにスクールアイドルを続けて欲しいという願いから、自分が犠牲になろうとしたということだ。
彼方ちゃんが溜息を吐いてからしばらく間が空いた後、隣に座っていた侑が彼女に話しかけた。
「彼方さん、あの後家で遥さんと何か話したんですか?」
「うん……それがね、話そうとしたんだけど『その話題はもう終わりにしよ?』って言われて、何も言えなくなっちゃって……」
彼方ちゃんが話しているその姿は意気消沈としていて、とても思い詰めているようにも見えた。
弁当を持っている彼女の手は、だんだん力が入って、震えている様子からもその心情が伺える。
「遥ちゃん、せっかくスクールアイドル始めたのに心配かけちゃって……遥ちゃんがスクールアイドルを辞めるくらいなら……いっそ彼方ちゃんが……」
「それはダメ!」
すると、侑が彼方ちゃんの言葉を聞いて声を大にしてそう言った。そして、その様子を侑の隣で見ていた歩夢ちゃんが止めに入ろうとする構えを見せた。侑が見せたその剣幕は、歩夢ちゃんを挟んで隣に座っていた俺も少し驚いた。
場の空気が少し張り詰めた空気になった時、後ろで彼方ちゃんを呼びかける声が聞こえた。
「……彼方ちゃん」
その声の主はエマちゃんだった。彼女は、彼方ちゃんの側まで来て、隣に座った。そして、優しく問いかけた。
「それは、本当に彼方ちゃんがやりたいこと?」
「……ううん、違う。スクールアイドル同好会は、私にとって大事で、失いたくない場所だよ」
エマちゃんの問いかけに、確固たる意志を持っている様子でそう答えた。
「でも、遥ちゃんの幸せも守りたいの。これって、ワガママかな……?」
すると、また今にも消えてしまいそうな声でそう言った。
……ワガママ、か……
どうなんだろうか。この彼方ちゃんの問いに関しては、俺はもしかすると否定するのが難しいかもしれない。俺も彼方ちゃんと同じく妹を持っている境遇でありながら、そのようなことを一度も考えたことがなかった。
彼方ちゃんの言葉を聞いてる間、ずっと考えていた。俺も侑には幸せになってほしいと強く思っているのは勿論のことだ。だから、侑にはいろんなことをしてあげたい、そう常々思っている。それが兄として為すべきことだ。
ただ、俺は今まで無理をしてまで何かやりたいことをやろうとしたことがない。もし俺がそういう状況になった時、俺自身がどうするかも想像がつかないのだ。
……分からない。とうとう俺まで悩み始めているかもしれない。俺は同好会を支える身として何か助言をしなければいけないのに……
「そうかしら。それってワガママって言うんじゃなくて、自分に正直って言うんじゃない?」
俺が只々頭の中で迷走していると、果林ちゃんの言葉が俺の頭の中の思考を止め、他の同好会のメンバーの発言に注視させた。
そして、それに続いてエマが話しかける。
「うん、自分に嘘をついているよりずっと良いと思うよ」
……そうか、確かにそうだよな。
そういや、果林ちゃんもスクールアイドルに興味があるという自分の気持ちに嘘をついてたんだもんな。それを乗り越えた彼女だからこそ、言える言葉なんだな。
「きっと遥ちゃんも、彼方さんの幸せを守りたいんだと思います!」
「似たもの姉妹だと思う」
すると、歩夢ちゃん、璃奈ちゃんの順に、彼方ちゃんに話しかけた。
「似たもの姉妹……?」
璃奈ちゃんの言葉に彼方ちゃんは疑問を浮かべる。
その疑問に、今度は愛ちゃんが応える。
「だって、二人とも言っていることが一緒だよ?」
「そうですね、お二人とも自分一人で問題を解決しようとしています」
愛ちゃんの言葉に、せつ菜ちゃんもとい菜々ちゃんが頷いた。
……なるほど、確かに似たもの同士であることは俺も気づいていた。二人の主張が同じであることもその通りだ。
「でも、遥ちゃんは彼方ちゃんが守ってあげないと……!」
──そう、彼方ちゃんの言うことが俺の気持ちを代弁している。そんな義務感を持っているのだ。そう思うのも無理はない。
「……彼方さん」
すると、侑がそう言い、彼方ちゃんに向き合った。
「遥ちゃんはもう、守ってもらうだけの人じゃないと思う。だって、そうじゃなきゃお姉さんを助けたいって、あんなに真剣にならないと思うよ」
真剣な眼差しで侑が説得する。
……そうか。確かに遥ちゃんはスクールアイドルになってから自立しようと思うようになったって言ってたよな……なんなら、もう自立するほどの力をつけているんだな。
いずれみんな大人になって、別々になって暮らしていくし、そう考えると高校生くらいになって自分のやりたいことが見つかったのなら
、それは自立するタイミングなんだろうな。
「……私は、まだやりたいことが無いし、未だにお兄ちゃんに甘えてばかりだし……昨日みんなが練習している間に遥ちゃんの話を聞いたら、私ってまだ未熟だなって思ったんだ」
「侑……」
侑の言葉に、思わず俺は声を出してしまった。
そうか……そんな真剣に考えていたんだな。
「……だから、遥ちゃんはしっかりしてて、彼方さんが心配する必要はないと思うんだ!」
「……そうだね。遥ちゃんの行動を思い出して、なんか分かった気がするよ───遥ちゃんに伝えなきゃ!」
すると、彼方ちゃんは立ち上がってそう叫んだ。彼女の顔は決意の満ちた表情だった。
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お昼はあっという間に過ぎ、そして午後の授業も気がついたら終わって放課後。
今日の活動で、彼方ちゃんが遥ちゃんは向けてライブをすることになった。今度、お台場の大型ショッピングモールで、東雲学院スクールアイドル部がライブをするので、その時に彼方ちゃんもライブをする方針で固まった。そうすれば確実に遥ちゃんの目に入るからだ。
そのためにも、遥ちゃんに気づかれずに東雲学院のスクールアイドル部の方々に許可を取らなければならない。これは、今後の俺と侑の仕事だ。
そんな活動も終わり、今は俺と侑、歩夢ちゃんの3人で家に帰ろうとしている。
「彼方さん、遥ちゃんに想いを伝えられると良いですね、徹さん」
「そうだな。そのためにも俺たちがちゃんとやるべきことやって、彼方ちゃんをサポートしなきゃいけないな。なっ、侑」
「うん! ……あっ、そうだ」
すると、前を歩いていた侑が振り返って俺と向き合った。
「今日の夕飯さ、私が作るよ!」
「……えっ!?」
侑の唐突な言葉に、俺は不意をつかれた。
「……もしかして侑ちゃん、遥ちゃんの影響受けてるでしょ?」
「あはは、バレた?」
歩夢ちゃんの問いかけに、侑は頭を掻いて照れ笑いをする。
……なるほど。侑も一人立ちしようとしてるんだな……
少々悲しいけれども、仕方のないことか。兄としても、妹を育てる義務もあるし。
「分かった。にしても侑、何か一人で作れる料理のレパートリーはあるか?」
「えっと……目玉焼き……とか?」
俺が料理のレパートリーについて聞いてみると、そんな返答が返ってきた。目玉焼きしかないんかい……まあ、そのくらいだろうなと思ってたけれども。
「……よし、今日は侑も夕飯作りに手伝ってもらうぞ。流石にいきなり一人で作るのはハードルが高いからな」
「分かった!」
「ふふっ……徹さん、私も夕飯作り手伝っていいですか?」
「おっ、歩夢ちゃんも来るか。これは頼もしい助っ人だ! 侑、料理や手芸とかは歩夢ちゃんから教わるといいぞ」
「確かに! よろしくお願いします、歩夢先生!」
「もう、先生はやめてよ〜」
「「「あはははは!」」」
このようにして、俺たち3人は仲良く家に帰っていき、夕飯も共にしたのであった。
今回はここまで!
この後は彼方ちゃんのライブまでの出来事、そして第7話にちなんだオリジナル回を書こうと思っています!お楽しみに!(これらもなるべく早く更新するよう尽力します)
ではまた次回!評価・感想・お気に入り登録・読了報告よろしくお願いします!