少し遅くなりましたが、第48話です。
今回から原作第8話の内容に突入します。
ではどうぞ!
「はーい、じゃあ撮りますのでカメラに目線をくださーい!」
「歩夢ー、可愛いYO!」
……いや侑よ、たまに出るDJが言うような『YO』っていうの少しツボるからやめてくれ。
あっ、よっす。高咲徹だ。
今俺の目の前で何が行われているかというと、新聞部によるインタビューと写真撮影を、スクールアイドル9人が受けているところである。
我ら虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の名声は、度々行っているライブのおかげか随分上がっているようだ。璃奈ちゃんがアトラクション施設でライブをしたのを皮切りに、彼方ちゃんが大型ショッピングモールで東雲学院のライブにゲストとして登場するといった活躍を見せた。
まだライブの回数は全然多くはないが、間違いなく周りの知名度は上がっているのだろうと考えられる。
まあそんな訳で俺の目の前では、歩夢ちゃんが新聞部の子にカメラを向けられている。彼女は序盤、緊張からか顔が強張っており、なかなか納得出来そうな写真を撮れないであろう様子でいた。
そんな時、侑が歩夢ちゃんにエールを送ると、彼女の表情は柔らかくて非常に愛らしくなり、今は順調にさまざまなポーズをとりながら撮影を進めている。
ここから分かることは……そう、侑と歩夢ちゃんは仲が良いということだな。侑の言葉一つで歩夢ちゃんの緊張を解せる、それが証拠だ。
そういや、最近また二人と過ごす時間が減ってきた気がするなぁ。侑は俺の妹であり、同好会で同じマネージャーだから、彼女と一緒にいる時間は多い。しかし、歩夢ちゃんに関してはそもそも話す機会がかなり減っているんだよな……今度二人で料理を作り合って一緒に食べるなんてことに誘ってみようか。
……歩夢ちゃんは相変わらず可愛いなぁ。
撮影に向き合っている彼女を見てふとそう思った。
いや、これは誰でも分かることだ。なんなら小さい頃からそうだ。凄いだろ?
……何を考えているのだろうか俺は。再び集中していくぞ。
余計なことを考えるのをやめた俺は、歩夢ちゃんに続いて果林ちゃん、愛ちゃんの写真撮影を見守った。
本当はこの後も写真撮影は続くのだが、この時同じ同好会の部室でインタビューがそろそろ始まるというので、写真撮影の方は侑に任せて俺はインタビューの様子を窺いに行くことにした。
俺がその現場に移動した時には、しずくちゃんがインタビューを受けていた。
彼女はインタビュアーと真摯に向き合い、訊かれた質問に礼儀正しく答えていた。
その姿はまるで本物の女優さんのようにも感じられた。
……そう、女優だ。しずくちゃんはこの同好会の他に演劇部を兼部しており、歌とダンスに欠かせない表現力はそこで磨き上げられている。彼女の魅力は色々あるが、一つだけ挙げるとするならばその『表現力』だろう。
彼女のステージはまだ見たことがない。しかしダンスの練習を見ていても、彼女の動作一つ一つに何かしらの意味を持たせているかのように感じ取れるのだ。ホント、早くしずくちゃんのライブが見たいものだ。
……あっ、そういえば今度藤黄学園との合同演劇の方で主役を任されたというのを聞いたな。それに今目の前で行われているインタビューを聞く限り、しずくちゃんは歌手の役で歌とダンスを交えた劇になるようだ。
もしかすると、そこで彼女の初ステージを観ることが叶うかもしれないな……絶対に観に行くぞ。
そんなことを考えていると、インタビュアーが席を立った。
「……はい、ではこれでインタビューを終わりますね。ありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
インタビュアーのお礼の言葉に応えてしずくちゃんも立ち上がり、深々とお辞儀をして礼を述べた。
どうやらインタビューが終わったようだな。しずくちゃんは写真撮影も終わったし、この後の練習のためにもここは小休憩を取らせよう。
そう考えた俺は彼女に近づき、声を掛けた。
「お疲れ様。はいこれ、飲んでおいてな」
「あっ徹先輩、いつもわざわざありがとうございます!」
事前に用意しておいた飲み物を渡すと、しずくちゃんは優しく微笑んでそう言った。
「良いって。インタビューで喋ると喉乾きそうだなって思ったからさ。実際はどうかな?」
「確かに今回は
「やっぱりそうか。良かった」
俺が予想した通りだったようだ。余計なお節介にならないかと少し心配したのだが、杞憂であった。
「……あれ、今
俺はしずくちゃんの言葉の中に少し気になる部分があったので、一呼吸おいてから訊いてみた。
「あ、はい。新たな劇で大きな役を貰ったときには、新聞部の方が取材に来られるので」
「へぇ……凄いな。演劇って結構注目されてるんだな」
「ふふっ、そうだと嬉しいですね」
しずくちゃんは、口元に手を当てて上品に微笑んだ。
演劇ねぇ……
「そういえば徹先輩はその……演劇を観られたことはおあり……でしょうか……?」
すると、今度はしずくちゃんが、俺の顔色を窺うかのように話を振ってきた。俺はそんな彼女の様子が少し心配になるが、その問いに答える。
「うーん、見たことがない訳ではない。小学校とか中学校で演劇の鑑賞教室があったからそこで観たんだけど、自分から観に行ったことはないんだよね」
「そ、そうですか……」
しずくちゃんは俺の返答に少し残念そうな表情でそう言った。俺はそれを見てさらに話を紡ぐ。
「……でも気になってはいるんだよね。演劇の鑑賞教室でも大体周りの人は観劇の途中で寝たりしてるけど、俺は一度も寝たことがないしな」
「本当ですか!?」
するとしずくちゃんは表情を変え、目をキラキラさせて俺に迫ってきた。
「ちょっ、シーッ! 新聞部が色々やってるから静かに」
「あっ……す、すいません……」
しずくちゃんを諌めると、彼女は周りにお辞儀して謝った。
……ハハッ、こんなことが前にもあったな。
そう思い、俺はせつ菜ちゃんがいる方向を一瞥した。
俺が生徒会長になったばかりで、菜々ちゃんが部下だった時のことだ。あんな真面目でサブカルチャーなんて全然興味ないだろうという印象があった彼女が、実はバリバリのアニメ好きだったなんて思わなかったもんだ。
過去を思い返しながらも、俺はしずくちゃんに向き直った。
「それでだ。演劇を観るとその物語に対して夢中になっちゃうのさ。だから、演劇を観ること自体はどちらかといったら好きなんだ」
俺は演劇が嫌いではない。ただ、自分で観に行こうとするきっかけがないだけだ。いざ劇場に行って観てみるとすぐに見入ってしまう。物語の展開だとか、登場人物の心情を想像したりすると楽しくなるものだ。
「そういうことでしたか。その気持ち分かりますよ、徹先輩!」
声量は先程と比べて控えめにはなったものの、しずくちゃんは興奮を隠し切れていないようだ。
これは同志を見つけた時の喜びってやつだな。ただ、俺はまだ演劇のことについてはペーぺーだし、話についていけるかも分からないけどね。
「……あっ。でしたら今度私が主役を演じる劇を観に来てくれませんか!?」
すると、しずくちゃんはふと思い付いたのか、そう提案してきた。
「あぁ、藤黄学園合同のやつか。もちろん、それは元々から観に行くつもりだったぞ」
「ほ、本当ですか!? 嬉しいです!」
……しずくちゃんの笑顔が眩しいんじゃ……そして段々抑えていた声量が勢いを取り戻しつつあるぞ。お陰でこちらは彼女の笑顔で癒されるのと声量に対する心配という複雑な心境に置かれてるのだが……どうにかしてくれ。
そんな状態から、ある人が声を掛けてくれたことによって解放された。
「なーに仲良く二人で話してるんだい!」
「ん? お、愛ちゃん。お疲れ」
「愛先輩!? ど、どうも……」
愛ちゃんは俺としずくちゃんの間に入って、肩を組んできた。
いや、愛ちゃんは愛ちゃんで距離が毎回近いんだよなぁ……
「うん! しずくもお疲れ〜。てっつー、しずくと仲良く話すのも良いけど、あっちもう始まってるよ?」
「えっ? ……あっ」
愛ちゃんが指した方向を見ると、歩夢ちゃんに対するインタビューが始まろうとしていた。
……あぶねぇ。マネージャーとしての仕事を放棄するところだった……
「すまん、愛ちゃん! 教えてくれてありがとう!」
「どーいたしまして! 愛さんのインタビューもしっかり見るんだぞ〜?」
そう言って愛ちゃんは肩組みを解いてその場を離れていった。
「あぁ、ちゃんと見るよ……という訳だから、また今度にしようか。しずくちゃん」
「あっ、はい……すみません、話し込んだあまりに……」
「ううん、いいよ。俺が気づかなかっただけだし、とても楽しかったよ。じゃあまた」
「……! はい!」
笑顔でしずくちゃんは、練習のために同好会の部室の外へ行った。
……しかし、しずくちゃんがあんなに興奮するのは初めて見たな。普段はとても大人びていて、お淑やかだからそんなイメージを持っていたけど……案外無邪気なのかもしれないな。
そう思いながら、俺はインタビューの見守りに戻った。
今回はここまで!
しずくちゃんと徹くんの絡みを描いてみました
ここからしずくちゃんは壁にぶつかることになりますね
その時徹くんはどうするのか!お楽しみに!
ではまた次回!
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