今回は第50話です
では早速どうぞ!
『主役降ろされたみたいだよ』
本当だったら驚愕した上で放心状態になるのだが、そうする暇もなく帰りのホームルームが始まった。そこで俺は僅かに振り絞れる冷静さを保ってホームルームに集中し、なんとか教室から出ることが出来た。
しかし、そのおかげで頭の中は全く整理出来ていない。ここで少し考えをまとめる必要がある。
そう思って俺は学校の中庭に移動して、芝生の上に座り脳内思考に集中する。
今考えてみると、昨日の活動の時からしずくちゃんの様子がおかしかったことは思い出せた。みんなが彼女の記事を見て目を輝かせている中、焦ったかのような表情を見せていたのだ。あれが自分が主役から降りてしまったにも関わらず、みんなが一方的に盛り上がっていることに対する焦りだったのだと考えると、色々と合点がいく。
ではもしそうだとして、何故彼女は主役から降ろされてしまったのだろうか? しかも一旦決定していたにも関わらずだ。このタイミングで急遽降ろされるなんてことは、よっぽど重大なことがない限りあり得ないのではと思う。
……いや、こんな風に考えても今回の場合は俺の予想が全く当てにならないか。演劇についてほぼ知識がないからな。
演劇についても俺の知識に入れとけば良かったわ……なんで
……あぁ、ここでウダウダ考えていても仕方ない。何かしらアクションを起こそう。
そうだな、しずくちゃんは多分今心に傷を負っているはず。ならば、その傷を癒す必要があるだろう。それが俺の役目なのかもしれない。
そう思い立った俺は、しずくちゃんの側に寄り添うべく立ち上がり、歩き出そうとした。
その時、俺はふと早急にやるべきことを更に一つ思い出した。
「……あっ、そうだ。スマホの電源入れとくか」
実は俺のスマホは朝学校に入る前から放課後になるまでの間、電源を切っているのだ。授業と授業の間の休み時間、スマホをいじる生徒がまあちょくちょく見受けられるが、休み時間は授業の予習や復習に使う時間だ。本来ならあまりよろしくないことである。もっとも、授業中は論外だ。
ただ虹ヶ咲は自由な校風だし、そこら辺のお咎めはあまり厳しくないんだけどね。これはあくまで俺の考え方でしかない。
……おっし、スマホの起動が完了した。何かメッセージは来てないかな……ん? グループに何か来てるな。
グループというのは、スクールアイドル同好会のメンバーによって構成されているL◯NEのグループチャットのことだ。
『かすみちゃん: 今日は練習休みまーす! ごめんなさい☆』
『璃奈ちゃん: 上に同じく』
そこには、かすみちゃんと璃奈ちゃんの二人が今日の同好会の練習を休むという連絡が入っていた。
えっ、二人が休む? これは意外だ。
そうなると、今日同好会の練習を休むのは一年生組ということになる……しずくちゃんが演劇の練習に専念するために休むというのは知っていたけれども。こんなに偶然なことがあるだろうか。
……なんか妙だから、かすみちゃんに個別のチャットで休む理由聞いてみよう。
そう思い、俺はグループの画面からかすみちゃんの個別チャットの画面に切り替える。
そしてそこで、『今日練習休むみたいだけど、何か用事?』と打って送信ボタンを押して送信する。
数十秒くらい待つと、俺が送ったメッセージの横に既読という文字が現れ、かすみちゃんがメッセージを送り返してくれた。
『はい! 実はちょっとしず子とりな子とお出かけしようと思いまして』
えっ、しずくちゃんと……? 彼女は演劇の練習でとても忙しいという話になっているはずだが……
……そうか。どうにせよ二人とお出かけするならば、もしかするとしずくちゃんにとっては気分転換になるかもしれない。
ならば、しずくちゃんの側に寄り添うのはその二人で十分ってことになるか……よし、同い年の二人に任せてみよう。
そう考えていると、持っていた俺のスマホが震え、かすみちゃんから新しいメッセージが届いていた。
『あ、徹先輩も一緒に来ませんか!? きっとしず子が喜びますし! あと、このことは他の同好会の方々には内密に……特にせつ菜先輩には!』
いやまさか、俺を誘ってくるとは……とても嬉しいけど、俺は新たにやるべきことが見つかったから、断る他ないな。
そうしてかすみちゃんにお断りの返事をした上、同好会のグループチャットに、部室へ行くのが遅れる趣旨のメッセージを送った。
メッセージのやり取りを終えた俺は、スマホをズボンのポケットにしまい、ある方向へ向かって歩き出した。
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やってきたのは、バスケ部やバレー部など、多くの部活・同好会が使う体育館。
体育館は校内の施設の中でも一番天井が高く、とても広い空間を持つ。そこでさまざまなイベント、スポーツやらが行われる。誰もが一度はお世話になるであろう場所だ。
今俺の目の前では、演劇部が舞台で練習をしている。そう、俺はしずくちゃんが所属する演劇部に用があってここに来た。
ついさっき体育館に入ったら、たまたま演劇部で俺と同じクラスの男の子が立っているのを見つけたので声を掛けた。俺がここに来た訳を話すと、休憩時間になるまで待っててと言われた。なので、今は彼の隣で遠くに見える演劇部の練習風景を観察している。
多分今度の合同演劇で披露する劇の練習をしているのだろう。しかし、俺みたいな素人が見ても数多くの部分でセリフ同士の脈絡が合っていなかった。俺は、このようになっているのは主役がここにいないからだろうということに思い至った。やはり、瑞翔が言っていたことは正しかった。
本来ならばここにしずくちゃんが主役として練習に参加しているはず。でも、何かしらの理由で主役を降ろされた。俺はその理由を知らなければならない。それを知った上で彼女と接するべきだと思っているから、ここに来た。
練習が休憩に入ると、そのクラスメイトの子は俺が話し合いたい人を呼びに行ってくれた。しばらく待つと彼は戻ってきて、その隣には一見して大人びた女性が立っていた。その人は俺がいることに気づくと、こちらを向いて声を掛けてきた。
「お待たせ。私が演劇部の部長だよ」
ほう、この人が……
そう、俺が話し合いたい相手というのは演劇部の部長さんのことだ。
大体の部は、部長をリーダーとして色々と物事が進んでいく。だから今回のしずくちゃんが主役を降りた事実や訳についても、この人は間違いなく知っているであろうと思ったのだ。
「あ、すみません。俺は情報処理学科3年の高咲徹という者なんですけれども、少し部長さんに訊きたいことがありまして……」
……なんだろう、同じ3年生とは思えないほどの大人びた雰囲気を持っているんだよな。見た目は肩に掛かるか掛からないかくらいの黒色のショートカットで、黒色の目をしている。なんだか果林ちゃんに似てるかもしれない。
「高咲……あぁ、元生徒会長さんか。集会の時に顔見てたから、覚えてるよ」
「おぉ、そうでしたか……」
……なんだかこう言われるのも慣れちまったな。生徒会長だった当時はこういう知名度とか気にしたことがなかった。いやぁ、人に覚えてもらえてるって嬉しいもんだな。
「……おや、同じ学年だしタメ口でいいよ? その方が私も話しやすいし」
すると、俺の言葉遣いを察したのか気を遣ってくれた。
「あ、あぁ! そうだね、じゃあそうさせてもらうよ」
……ははっ、このやりとりにデジャヴを感じちゃうな。
どうやら俺には、落ち着いてて大人びている人に年上年下関係なく敬語で接する癖があるようだ。
「うん、よろしく。それで、訊きたいことっていうのは何?」
それに対して部長さんは至って冷静なので、こちらも気を引き締めて彼女に用件を話す。
「えっとな……しずくちゃんのことについてなんだけども」
「ん? 君、しずくと知り合いなの?」
部長さんは俺としずくちゃんがどのような関係なのかを訊いてきた。
「まあ知り合いというか……部長さんは彼女がスクールアイドル同好会にも所属してるのは知ってるよね?」
「あぁ、もちろん」
「実は俺がそのスクールアイドル同好会のマネージャーをやっててな。それで関わりがあるってところなんだ」
「あぁ……なるほどね。理解した」
部長さんは疑問が解け、腑に落ちたようだ。
すると、彼女は少し警戒するように俺を睨みながら続けて話した。
「……それで、しずくについてってことは今度の合同演劇の主役降板のことだよね? それに対する抗議とか批判を言いに来たんだったら帰ってもらうよ」
彼女が急にキツい態度をとって来たから少し動揺してしまったが……察するに、前に役決めに対して抗議やらイチャモンをつけてきた輩がいたからなのかもしれない。そりゃそういう人を相手にするのは嫌だし、こう突き放すように接してしまうのも無理はない。
俺への誤解を晴らすために、冷静になってから口を開いた。
「いや違う違う。俺はそんな事を言いにきた訳ではないんだ。俺が訊きたいのは……その理由なんだよ」
「理由? ……それを聞いてどうするの?」
「さっきも言ったけど、俺はスクールアイドル同好会のマネージャー。つまり、しずくちゃんのマネージャーでもある。彼女、周りに隠しているんだけど、時々辛そうな顔をしてたんだ」
部長さんに俺の意図をちゃんと理解してもらうために、丁寧に言葉を紡いでいく。
「その時俺はどう彼女に寄り添うべきかって考えたんだ。その理由を聞いたら、解決するために一緒に悩む。そうやって行き詰まってるしずくちゃんの力になりたい……そう思ったんだ」
俺は、しずくちゃんが主役を降りた件について今まで考えてきたことを全て部長さんに明かした。
「そっか……分かった。しずくを主役から降ろした理由、話すよ」
すると、部長さんは一呼吸を置いてからその理由について話し始めた。
「しずくを主役から降ろした理由は、役に合ってないなと思ったからだ」
「役に合ってない……? それは一体どういうことなのか?」
「今回の物語の主役は、歌手なんだ。その役は物語上、最終的にはありのままの自分を曝け出すことになるんだ」
「ありのままを……曝け出す……」
「そう。その『ありのままを曝け出す』ことが、しずくには出来ていないと感じた。私も主役を今更降ろすことには酷く躊躇したよ……でも、物語を忠実に現すためには妥協できなかったんだ」
「なるほど……つまり、しずくちゃんは自分を隠しているってことか?」
「そういうことになるね」
確かに、校内新聞のインタビューの様子を見てたから知っているが、彼女は『理想の女性像になりきるんです』と言っていた。
そうか。自分を曝け出す、か……俺にも難しいことかもしれないな。
「……そうか、あの時しずくが喜んでたのは彼のことだったのか」
俺は考え込んでいたせいか、彼女から発された独り言を聞き取ることができなかった。
「……ん、すまん。今何か言った?」
「ううん、こっちの話だ。それより、訊いてくれてありがとう。しずくのこと、よろしく頼むよ」
部長さんは、温かな笑みで俺にそう言った。
「あっ、うん。分かった」
「じゃあ、休憩時間終わるから戻るね」
そうして部長さんは俺に背を向けてその場を去る……と思いきや何歩か歩くと再びこちらを振り返り、声を掛けてきた。
「あっ! あともしよければうちの演劇部に来るのはどう? うちは男の子が少なくてね。考えといてくれ」
「えっ……?」
何故だか知らないが、演劇部に勧誘された。まあこの学校自体が男子少なめだから当然のことなんだけど……いやいやそういうことじゃないだよ!?
……んん、気を取り直そう。しずくちゃんは自分を曝け出せていないということだよな……また俺には解決できなさそうな問題だ……
最後に不意打ちを喰らいながらもしずくちゃんが主役を降ろされた理由を聞き、すっきりするどころか悩み込んでしまう俺こと高咲徹であった。
今回はここまで!
演劇部の部長は少ししか登場してないので、自分のイメージで書きました。
次回かその次でしずくちゃんの問題は解決すると思います!
ではまた!
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