高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

73 / 122
どうも!
第60話です。
今回から原作第10話の内容に入っていきます。
ではどうぞ。


原作1期編 〜標を定めて羽ばたく〜
第60話 対峙


 

 

 

「も〜お兄ちゃん、安静にしててよ?」

 

 

「うむ……分かってる」

 

 

 俺の額に冷えたタオルをのせながら、我が妹の侑はむすっとした顔でそう言う。

 

 果林ちゃんが躍動したDiver Fesは無事に幕を閉じ、虹ヶ咲の評判がこれからうなぎのぼりになるであろう時のことだった。

 

 

 朝目が覚めた俺は、なんとも気持ち悪い寒気を覚えたのだ。ここ3年くらいは一切体調を崩したことがない俺は、その出来事を俄かに信じることが出来なかった。夢の中にでもいるのではないかと思った。

 

 そんな俺は、その寒気をものともせずにベッドから抜け出そうとした。

 

 その時、部屋のドアが開く音がしたのだ。入ってきたのは、俺より早く起きていたであろう侑だった。いつも通り明るい笑顔を見せてくれた侑だったが、俺の顔を見た瞬間、顔色を一変させた。俺の顔が赤かったようなのである。

 

 

 どうやら、俺は本当に風邪を引いてしまったようだ。体温を測ると、平熱を遥かに超える温度を体温計が示した。そんな訳で、今日は登校日であるが休みをとり、こうやって暖を充分とっているわけだが……

 

 

 はぁ……こうやってベッドに横たわってじっとしていなきゃいけない、この状況が実にもどかしい。

 

 家事に加えて、数日後には期末テストが待ち受けている。勉強もしなきゃいけないのだ。

 

 それに、同好会も夏の合宿をやるって話が挙がってるみたいだしな。

 

 

 でもそれは……俺は行くべきではないな。同好会唯一の男だし。

 

 

 ……まあともかく、俺はやるべきことが積み重なっているのだ。

 

 

 ただ、ここで動いたところで俺の身体が悲鳴を上げるのは明らかだ。ここで闇雲に動こうとしたところで何もできないことも明白である。

 

 

 そんなことを考えていると、側で作業を終えた侑が俺に話しかけてきた。

 

 

「ホント、お兄ちゃんがライブであんなに盛り上がってたの、久々に観たよ?」

 

 

「あぁ……気づいてたんだな」

 

 

 ライブが終わった直後は興奮を鎮めていたつもりだったのだが、どうやら全く意味を成していなかったようだ。

 

 

「そりゃ、横で見てたしね〜。それに終わった後もお兄ちゃん、いつもとは明らかに違う感じだったよ?」

 

 

「えっ?」

 

 

 侑の意外な言葉に、俺は思わず驚きの声を漏らした。一体どういうことなのか、侑から発される言葉に傾聴する。

 

 

「なんていうんだろう……どことなくスッキリしたというか……とにかく、楽しそうな表情してたよ!」

 

 

「そうなんだな……いや、そんなことをするつもりは無かったんだけどね……」

 

 こんな風邪を引いて寝込むまでに力を出し切る気は更々なかった。全く、こんな歳で何子供っぽいことしちゃってるんだっての……

 

 

 

「ふふっ。それこそ、まるで小さい時……の……」

 

 

 

「……侑?」

 

 

 すると、侑の喋りが止まった。何かを思い出したのか、いつもの笑顔から途端に辛い表情に変わり、視線は下を向いていた。

 

 一体どうしたのか……ともう一度声をかけようと思った瞬間、侑は何か意を決したかのように真剣な眼差しを向けて話を切り出してきた。

 

 

 

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

「……どうした、侑」

 

 

 俺は、彼女のなかなか見せない表情に戸惑いを覚えながらも、悟られないように隠しながら彼女に言葉を返す。

 

 そして、俺はこれから侑が発する言葉に、思わず目を見開くことになる……

 

 

 

「お兄ちゃんは()()()、一体何があったの……?」

 

 

「……!?」

 

 

 『あの時のこと』……彼女が言うそれは間違いなく……()()()、だろう。

 

 

 覚えてたんだ……てっきり侑はそのことを忘れていたかと思っていた。ずっと触れられずに俺の記憶の中に残っていくだろうと思っていた……

 

 

 

 しかし、俺が返す言葉はただ一つ。

 

 

「……言っただろ? 大丈夫だって。気にするなってさ」

 

 

「そうだけど……でも、あの時からお兄ちゃんの雰囲気が変わったと思ってた」

 

 

 俺はあの時も『大丈夫』という言葉を口にして、侑に悟られないようにしていた。しかし、今回はそういかないようだ。

 

 

 侑の真剣な眼差しは、鋭い矢の如く俺を射止めていた。

 

 

「果林さんのライブの時のお兄ちゃんを見て、あの時からずっとお兄ちゃんが羽目外すところ、見たことなかった……って気づいたんだ」

 

 

 そして、侑はベッドで横たわっている俺の右手を握り、こう問い掛ける。

 

 

 

「ねぇ、教えてくれないかな……()()()何があったのか……」

 

 

 侑の目が潤み、今にも泣き出しそうな状態だった。

 

 ……なんだよ、これじゃ()()()()じゃないか。

 

 

 俺はここで腹を括るしかないのだろうか……いや、それしかないんだ。

 

 

 そう自分の心に十分言い聞かせて、俺は閉ざしていた口を開いた。

 

 

「……あの時、俺は……んっ!? ゲホッ、ゲホッ!」

 

 

「大丈夫!? ……ごめん、あまり喋らせるべきじゃなかったね……」

 

 

 風邪を拗らせている喉が限界を迎え、発すべき言葉の邪魔をする。侑は、申し訳なさそうにそう言いながら俺の背中を叩いてくれるが……

 

「……すまん、今は言えない。心の準備をする時間をくれないか?」

 

「……分かった」

 

 

 一度行動に踏み切ったその勇気も、抵抗のしようもない運命の前に挫けた。

 

 

 

 

 再び過去と対峙して、このザマである。俺はなんて臆病者で、愚かだろうか……

 

 

 

 

 傷心しながらも、侑が去った俺の部屋で静寂さの中、目を瞑った。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「ふぅ、なんとかやり切ったわ……」

 

 

 数日後、風邪からなんとか立ち直った直後なのにもかかわらず、期末試験を受けきった。答案の返却がなされ、なんとかそこそこの成績を収めることに成功した。

 

 

 侑との出来事があってからしばらくメンタルがやられていたが、風邪から回復したことで少しマシになっただろうか。少なくとも、上っ面は平常でいられるくらいにはな。

 

 

 ただ、病み上がりなのでテストが終わって疲れが来たようなので、少し中庭のベンチに来て休んでいる。そう、ここにはあくまで休息のために来ただけだ。

 

 

「あっ、てっちゃん! テストお疲れ〜。隣良い?」

 

「おっ、瑞翔(なおと)……お疲れ。あぁ、良いよ」

 

 

 誰かに声を掛けられたと思い、その方を見ると瑞翔の姿があった。彼が俺の隣に座ると、いつも通りの様子で話しかけてきた。

 

 

「にしても驚きだね。まさかてっちゃんが期末テスト直前で風邪をひくなんて」

 

 

「まあな……ちょっと羽目外しちゃって」

 

 

 やっぱり瑞翔もそう思うんだな……まあ、風邪引いちゃお兄ちゃんとして何もしてあげられないからな。体調管理はずっと心掛けてきた。

 

 

「あぁ、スクールアイドルのライブだっけ? まあ、思わずはしゃいじゃう気持ちも分からなくないね。どう見ても楽しそうだもん」

 

 

 瑞翔はお手上げのポーズをしてそう言う。

 

 やっぱりライブではしゃいじゃうのは仕方のないことなのだろうか……? 分からないな……

 

 ……そうだ。瑞翔もテンション高い割にはそこまではしゃぐ様子は一度も見たことがない。彼を誘ってどうなるか見てみるか。

 

 

「瑞翔もライブには来ないのか? 一緒に行くのも俺はアリだと思うが」

 

 

「あー……嬉しいけど、僕人混みが苦手なんだよ。ごめんねー」

 

 

 マジか……この苦笑具合を見る限り、相当人混みが苦手そうだ。そんな人を無理に誘うことはないな。諦めよう……

 

 そうやって考えていると、瑞翔の様子が一変した。

 

 

「ところでさ……てっちゃん、何かあった?」

 

 

 瑞翔は声音を低くし、彼の普段おっとりとした性格からは想像できないくらいの真面目な態度で俺に問いかけてきたのだ。

 

「えっ……? どういうこと?」

 

 

 まさか……瑞翔にも悟られた? 俺はちゃんといつも通りの態度で接してたつもりなんだが……

 

 俺は、動揺しながらも彼にそう訊いた。

 

 

「なんだろう、思い詰めてそうな顔をしてたから。もし僕でよければ相談に乗るよ? こう見えて僕、人生相談とか受けてたりするし」

 

 

 やっぱりか……フランクで気軽に相談を促そうとしてくれるのは、こちらとしては気が楽……だが……

 

 

「……大丈夫、大したことじゃないから」

 

 

 俺はまた、『大丈夫』と言う言葉を使う。

 

 

「そう? でもさ、大したことじゃなくても誰かに話した方が気持ちは楽になると思うよ? ほらほら、僕が聞いてあげるからさっさと吐いちゃいなよ〜」

 

 

 すると、瑞翔は若干煽るような口調で俺の肩を叩きながらそう言ってきた。

 

 ……流石に相談を断るのも面倒くさくなってきたわ……そんな訳で。

 

 

「あー分かったから! 話すって……!」

 

「よしきた!」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 ここは、その日の放課後の同好会の部室前。風邪から立ち直ってから初めての活動だ。

 

 

 俺には一つ迷いがあった。

 

 久々に部室に来た俺は、どうやって彼女達に声をかければいいのか……だ。

 

 『久しぶり〜!』なのか、『迷惑かけてすまん』なのか……

 

 いや、後者は流石に唐突すぎるかね。考えすぎるのも良くないので、無難に行こう。

 

 そう決めた俺は、部室のドアを開けた。

 

 

「……よっす、久しぶr……」

 

 

「あぁ!? 徹先輩〜!!」 

 

「うおっ!?」

 

 病み上がりの俺にとって無難な挨拶の言葉をしようしたのも束の間、誰かが俺に突撃をしたきた……というよりかは、身体をホールドしてきたの方が妥当か。

 

 

「身体大丈夫ですか!? 生きてますよね!?」

 

「ちょっ、落ち着け! 死んでたら今ここに来れてないから!!」

 

 

 かすみちゃんは、只ならぬ血相でそう問い詰める。

 

 ただの風邪だというのに……

 

 

「もうかすみさん。先輩が困ってますよ? ……徹先輩、無事に戻ってきてくれて何よりです!」

 

 

「徹くんに何かあったらどうしよう〜ってみんな心配してたんだよ?」

 

 

 しずくちゃん、彼方ちゃんが側まで近寄ってきてそう言った。思ってた以上に心配されてたようだ。

 

 

「ホント、まさかてっつーが体調崩すなんて思ってもなかったからね!」

 

「おかえりなさい。徹さん」

 

「このタイミングで戻ってきてくれて何よりだよ〜! これで、徹くんも合宿に行くことが出来るね!」

 

 愛ちゃん、璃奈ちゃん、エマちゃんの順にそう言って……えっ? 今エマちゃん、何て言ったか……?

 

「えっ、ちょっと待て……エマちゃん、俺も合宿に行くって言ったよな?」

 

 念のためにエマちゃんが言ったことに対する確認を取る。

 

「えっ? うん、そうだよ。ねっ、せつ菜ちゃん!」

 

 

「はい! 何か不都合はありましたか、徹さん?」

 

 

 マジかよ……つまりあれか、俺はみんなとは違う部屋で一夜を過ごすということなのか……? いやいや、そんな二部屋も取れる部費がある訳でもないから……いやいやマズいだろうが……

 

 ……待てよ? もしメンバーが確定していなければ、今から俺がそこから抜ければ良いんだよな?

 

 

「いや不都合というか……なあ、これって決定事項なのか……?」

 

 これには俺も焦りを隠せず、声を上ずらせながらそう訊いた。

 

 

 返ってきた答えは……

 

 

「そうです! 徹さんが居ない間にみんなで決めてしまったのですが……もしかしてダメ、でしたか……?」

 

 マジかよ……! しかもな、『ダメですか?』って聞かれて『ダメ』なんて言えないわ!! どうしよう……腹を括るしかないのか!?

 

「先輩……私たちと一緒に来てくれますよね……?」

 

 

 あぁ、せつ菜ちゃんに留まらずしずくちゃんまで!? それに他のメンバー達も切実そうな眼差しを向けてくるし……

 

 こうなった以上、俺に残る選択肢は一つしかない。

 

「……ダメ、ではない……」

 

 俺は男だ。強力な理性をシールドとして固めて、合宿に挑もう。

 

 

 

 

 

 そして、俺の過去を……()()()のことを、侑に……みんなに話すんだ。

 

 

 

 




今回はここまで!
話にあった通り、これからこの物語の重大なターニングポイントを迎えます。果たして高咲兄の過去とは……!?
(ちなみに、原作2期7話のおかげでEmotionをリピートしてます笑)
次回をお楽しみに!
評価・感想・お気に入り登録・読了報告よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。