高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも!
第62話です。
今回は徹くんの過去を描いた回想シーンがメインです。
では早速どうぞ。


第62話 逆説

 

 

 

「……あれは、中学3年の時の話だ」

 

 

 ────────────────────

 

 

『ほらほらお兄ちゃん! そろそろ出かける時間だよ?』

 

 

『えっ? ……うわっ、もうこんな時間!? あぁでも、今ドラマがいい所じゃないか! どうしたものかね〜、うーん……』

 

 

 

 ……今の俺からは、こんな発言をすることは想像できないだろう。

 

 これはある日の朝のことだ。いつも通り中学校へ登校するために家を出る時間が迫っていたのだが、俺はテレビで放送している朝のドラマの展開に夢中だった。

 

 

 

 そう、昔の俺はこんな風にとても呑気で楽観的な態度だった。こんな感じで危機感を覚えることなんて滅多にない、兄なのにも関わらず全然頼りにならない奴だった。

 

 

『確かにそれは分かるけどね〜……あー、私も気になってきちゃった! じゃあこのシーン終わったらすぐ出るよ?』

 

『ん、了解だ!』

 

 

 今と比べればテンションは全然高めだし、お前本当に兄か? ……ってくらい無邪気だった。

 

 

 なんならそれに加えて、何か特技がある訳でもなかった。趣味ならアニメ鑑賞や音楽を聴くことなど、今の俺に通じるものがそこそこあったが。

 

 でも強いていうなら、特技は勉強くらいだ。昔からそこそこ学業の成績は良かったからな。でも、だからといって勉強が好きなわけでもなかった。

 

 

『よし、大事なシーンは終わったから……行くよ!』

 

 

『はいよ〜……あっ、すまん。トイレ行ってもいいか?』

 

『えぇ……』

 

 

 

 こんな風に、どうしようもなく能天気な俺であったが、そんな俺に転機が訪れる。

 

 

 

 

 

 中学では、そこそこクラスメイトと良い関係を保っていた俺であったが、一人だけとても仲良くしていた子がいた。

 

 

 その子は趣味で曲を作っていて、度々その曲作りについて話を聞いていたのだ。

 

 そんな中ある日、彼女から曲作りの手伝いを頼まれたのだ。

 

 

 最初は曲作りなんてできるのだろうかと疑問に思ったのだが、元々音楽には並々ならぬ関心を持っていた俺は、その疑問を切り捨ててその子の頼みを承諾した。

 

 

 それがきっかけで、俺の曲作りの才能が開花した。

 

 

 実際俺にはそこそこの作曲スキルが潜在していたようで、その時の手伝いに終わらず、週に3回ぐらいの頻度で彼女と共に曲作りの作業をしながら、スキルを習得していった。

 

 

 そしてついには自力で曲を作るようにまでなった。出来上がった曲をその子に聴いてもらうと、とても感動してくれて……あの時はとても喜んで舞い上がっていたもんだ。

 

 そこから俺の曲作りに対する自信は鰻登りし、いずれは自分の曲をみんなに披露したいと思うようになった。

 

 

 

 

 

 そんな時、それを叶える絶大なチャンスが到来した。

 

 

 それは、中学校の文化祭だ。

 

 

 毎年そこで、文化祭の定番であるのど自慢が行われるのだが、こののど自慢はただののど自慢ではない。

 

 なんと対象となるのは既存の曲だけでなく、オリジナル曲もだったのだ。つまり、作曲に自信がある学生が作った曲でもOKということである。

 

 

 そこで俺は、オリジナル曲を作るグループの中に参加した。そして、その中にあの子も入っていた。

 

 

 彼女を筆頭に曲を作ることになるのかと思っていたが……なんと今回は、彼女が()()というのだ。

 

 

 それに驚いたものの、彼女は作曲するだけでなく、歌も得意であると聞いていたので納得できた。

 

 

 

 

 するとそれをチャンスだと捉えたのか、俺は作曲作業を統率するリーダーに立候補したのだ。

 

 ……あの時俺はなぜあのような大胆な行動をとれたのか未だに分からない。

 

 

 

 

 しかしその瞬間、周りから(どよ)めきが起こったのだ。何故彼女ではないのか、と。

 

 

 

 実際、周りの評価では彼女の作曲能力はずば抜けて高く、去年の文化祭でも作曲をしたという実績があるため、俺に対する不信感が見てとれた。

 

 

 すると、そんな騒めきの中彼女が立ち上がった。

 

 静粛にするよう鶴の一声を掛けた後、『私の曲は彼を中心として作って欲しい』との趣旨で俺を推薦したのだ。

 

 

 結局、彼女が歌う曲であるので誰の文句なしに決まった。

 

 

 

 そこからの俺は、猪突猛進という言葉が相応しいほどの勢いだっただろう。俺は作曲に参加しているみんなに十分な配慮をせず、ひたすら作曲に突き進んだ。

 

 

『みんな! コンセプトはこんな感じでいいよね!?』

 

 

 

 ……と言って、沈黙が返ってきたので即座に決定していった。周りの反応をもっと慎重に聞こうとしなかったのだ。

 

 

 十分に話し合った相手は、作詞をする人だけだっただろうか。

 

 

 それを除けば、我が思うがままに作業が進んでいった。

 

 

 

 

 ……それが、自分自身の首を絞める原因になるというのに。

 

 

 

 

 

 気がつけば、文化祭当日となった。

 

 あの子に楽曲を提供して準備完了。リハーサルも滞りなく完了し、あとは本番でその曲を流され、歌われる様子を見届けるだけだ。

 

 

 

『さあ、どんどん行きましょう! 次は、多数の仲間を率いてオリジナル曲で勝負に挑む、この方です!!』

 

 

 会場内に、司会の熱いイントロダクションが響く。それと同時に、大きな歓声が沸いた。会場の端で見ていたが、この盛り上がりは凄かった。

 

 

 

 文化祭ステージに彼女が立つと、歓声が収まり、観客達はいつ曲が流れるだろうかワクワクするように見守る。

 

 

 そして俺も、自信を持って作曲した曲が披露されることを固唾を飲んで待った。

 

 

 

 

 ……しかし、いつまで経ってもその曲が始まる気配がなかった。

 

 

 気がつけば、観客達の期待による静まりは戸惑いによる響めきになっていた。

 

 

 俺は焦って音響室へ戻った。すると、機材トラブルなのか、曲が再生できなくなっていたのだ。

 

 リハーサルには出来ていたのにな……

 

 でも、咄嗟の判断で機材を再起動したことで、なんとか曲を流すことが出来た。そして、彼女も最後まで歌い切ることが出来た。

 

 だから、なんとかのど自慢優勝までいけるだろう……そう思っていた。

 

 

 

 

 しかし……結果は残酷で、予選敗退。決勝にすら進むことは叶わなかった。

 

 俺はその結果を受け入れることが出来なかった。あれだけ自信があったのに……何故だ、と。

 

 

 

 

 文化祭終了後、俺たち作曲チームは歌った彼女を含めてミーティングを開いた。

 

 

 そのミーティングは……まるでお葬式かのように暗い雰囲気で、その場にいたみんなが下を向いていた。

 

 

 そんな雰囲気の中、作曲のリーダーである俺は自分の席を立ち、終わりの挨拶をした。

 

 

『今日はみんなお疲れ様。いい結果は出なかったけど、みんなと一緒に曲を作れて良かったと思うよ。今日までありがとう』

 

 

 

 ……無難な文言だったとその時は思っていたが、それが地雷を踏み抜くことになった。

 

 

 一人の仲間が勢いよく立ち上がり、俺を指差して罵ったのだ。

 

 

 それに乗じて、もう一人同じように俺に対する文句などを並べて批判した。

 

 

 

 それらに乗じなかったメンバー達も、冷ややかな視線をこちらに向けているように感じた。

 

 

 

 

 

 その時の俺は……まるで地獄にいるかと思った。そしてその文句一言一句が、俺の自信を消失させていった。

 

 

 

 それだけではない。ふと視線を変えると、あの子が泣いていたのだ。その姿を見ただけで俺は……心のキズが深く抉られた。

 

 

 

 

 

 そして、やっと俺はこの今までの行動を省みたのだ。それは取り返しのないくらい、遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自信消失かつ自責の念に追われた俺は、家に帰って自室のベッドに潜り込んだ。

 

 

 

 なぜメンバー達の意見をちゃんと聞かずに進めていったのか……彼女が歌うことを前提にせず、ただの自己満足で曲を作っていたんじゃないか……と猛省した。

 

 

 

 

 楽観的な俺がここまでマイナスな感情に支配されることは初めてだった。

 

 

 

 

『お兄ちゃ〜ん、入るよ〜?』

 

 

 

 

 そんな苦しみに苛まれている中、いつもの明るくて底抜けの笑顔で俺を救ってくれた人がいた。

 

 

 

 

『今日の文化祭ののど自慢、観に行ったよ! 少しトラブルがあったけど、お兄ちゃんが作った曲、凄かったよ!! 思わずときめいちゃった! 結果的には優勝できなかったけど、私はお兄ちゃんが作った曲が優勝だよ!!』

 

 

 

 

 この時俺は思った。

 

 

 侑を悲しませたくない。

 

 

 侑を笑顔にさせるためには、もっと兄である俺がしっかりしなければならない。

 

 

 

 こんな太陽のように輝いて照らしてくれる妹に相応しい兄でいなければ……と。

 

 

 

 

 もし俺がこのまま誰にも励まされずにいたら、今の俺は居ないだろう。

 

 

 

 

 そこから俺は……楽観的で呑気なオレを()()()

 

 

 客観的に、かつ冷静な俺になるために考え方を変えた。

 

 

 散々だったリーダーシップも、戒めとして最高のリーダーになるよう努力した。

 

 

 さまざまな価値観を得るために、色々な本を手当たり次第読んだ。

 

 

 

 また、様々なスキルも身につけた。料理などの家事も、お母さんに志願して日々特訓を続けた。あれまで家事なんて縁がなかった俺が、よくここまで得意になったなと思うものだ。

 

 

 

 

 

 

 今の俺になったのは、全ては侑のためだ。只管(ひたすら)に自分に()した結果だ。ははっ、俺の名前らしいことをしてるだろう?

 

 

 

 

 

 ……しかしそれと引き換えに、本当の意味で誰かに頼る手段を自分から消去していたのだった。

 

 

 

 そしてそれが、今こうして侑を悲しませるという結果に至っている。

 

 

 ……本末転倒、逆説(パラドックス)だ。

 

 

 




月は恒星になりたかった。

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