第64話です
では早速チェケラ!
「はいよ、これで最後の皿だ」
「おっけー。ありがとね、お兄ちゃん」
「おうよ」
飯を食べ終わった後のこと。楽しい時間もあっという間で、俺は侑と歩夢ちゃんとともにお皿洗いをしていた。
汚れていた皿の山はあっという間に綺麗で純白な皿に様変わりしていき、気がつけば最後の皿を手に取っており、今洗い終えたところだ。
……しかし今になって思えば、皿洗いも慣れたもんだな。3年前なんて、むしろ皿洗いを面倒事だと思っていたというのに。
皿洗いは、やり始めたら案外楽しいもんなんだよね。そんな風に実感する、今日この頃の高咲徹である。
「なんか、こういうのって懐かしいね」
二人に混ざって皿拭きの手伝いをしていると、侑がふとそう呟いた。
「そうだね〜……中学生の頃、3人でキャンプに行ったよね」
「あー……確か、一緒にカレーを作ったっけ?」
「もう、それは校外学習の時でしょ? その時徹さんいなかったじゃん」
「あはは……そうでした〜」
あー、懐かしいなぁ……中二の頃だっけか。
それにしても、歩夢ちゃんはよく覚えてるよな。幼稚園の頃の話もたまにしてたし……
「あっ、でもお兄ちゃんが料理に手間取ってたのは思い出したよ! 確か、歩夢がつきっきりで指導してたよね」
「……えっ、何故それを!?」
待ってくれよ、あれは俺の黒歴史中の黒歴史……
料理に全く興味の無かった時のことで、包丁で一本のにんじんを普通に切るだけで二分足らずくらい時間がかかった……あの時を何故覚えてるんだ!?
「うーん分からないけど、何故かそれだけ強く印象付いてるんだよね〜」
えぇ……やめてくれ、そんなこと覚えられてたら他の人に言ってしまう可能性があるじゃないか……
「そんなことに限って覚えてるのかよ……なんだ、ちょっと今からその記憶を消し去ってやろうか?」
「ちょっと、物騒なことはやめてよ〜。ていうか、例えお兄ちゃんに忘れろと言われても忘れられないし!」
「うわぁ……俺にとっちゃ黒歴史なのに……」
焦りすぎて、なんかよく分からんジョークを言い放った俺だが……今思えば、こんなこと言うのもとても久々だったかもしれない。
「ふふっ、でも徹さんのアシスタントをするの、とても楽しかったですよ?」
そんな黒歴史を掘り返され頭を抱えていると、歩夢ちゃんはにっこりと微笑んでそう話しかけてきた。
「えっ……そうなのか? 同じ失敗繰り返すし、歩夢ちゃんに迷惑かけてたし、流石に嫌じゃなかった?」
「ううん、嫌とかじゃないですよ? 一緒に話しながら作ってて嬉しいというか、飽きないというか……とにかく、嫌だったとかではなかったですよ!」
「そうか……俺も、歩夢ちゃんと一緒に作業が出来たのはとても楽しかったし、いい思い出だよ」
「っ……! もう、ずるいよ……」
歩夢ちゃんは目を逸らし、彼女の頬はピンク色に染まっていた。
あの頃、歩夢ちゃんにはお世話になったもんだよ。全然頼りなかった俺を、嫌がりもせずに仲良くしてくれたんだから……
まあ、勿論今でも仲良くしてるつもりだけども。今度は、俺が歩夢ちゃんから頼られたいって訳さ。
「じーっ……」
すると、侑がこちらをジト目で凝視してきた。
「な、何だよ」
「別に〜? ……でも、そう考えると私達って、いつでも一緒だったよね」
「確かに……私達、これからもずっと一緒にいるかもね」
ずっと一緒……か。
「ハハッ。二人は幼稚園からここまでずっと同じクラスだったんだもんな……ここまで来ると、俺もそんな気がするな」
「だよね〜」
侑は相槌を打つと、いたずらっ子のような表情で歩夢ちゃんにこう言った。
「兄妹共々、よろしくお願いしますぞ? 歩夢おばあさん?」
「もう、侑ちゃんったら〜」
また凄い先の話だなぁ……でも、こうやって嬉しそうに笑う二人を見ると、微笑ましいもんだ。
「んー、そうなるとお兄ちゃんは……おじいちゃん? いや何か違う……」
「俺? 確かに……侑おばあさんか……違和感ありまくりだな」
今度は俺に話を振ってきたか……なんか他の呼び方が思いつかないから、年取ってもお互い今の呼び方してることくらいしか想像できないな。
まあ、そもそもその頃どうなってるかって全く分からないけどね。
「あぁっ!? 今私のこと、おばあさんって言ったよね!? ダメだよお兄ちゃん、まだ幼気な女の子におばあさんとか言っちゃ!」
「えっ!? いやいや、歩夢ちゃんに言った侑も大概だろ!? というか、自分で幼気なとかいうのもどうかと思うが!?」
「「あははは!」」
……こんな盛大にツッコんだのは久々な気がする。まあ、こうやってくだらない話で談笑するのも……ただ楽しくていいかもな。
こうやって、過去の話に花を咲かせながら皿拭きを進めていくのであった。
────────────────────
「戻りましたー」
「お〜、おかえりなさーい」
皿拭きを終えて宿部屋に戻ってくると、その場にいた彼方ちゃんが返答してくれた。
そう、ここが宿部屋。今宵、同好会のみんなが部屋に布団を敷き詰めて寝る事になるわけだ。
しかし前々から言ってるが、俺はこの中に混ざるつもりはない。
つまり、その時俺はこの後玄関付近で寝ることになるのだ。
どうしてみんなと一緒のスペースで寝ないのかだって? そんなことしてしまったら碌に寝れやしないからだぞ……分かってくれ。
「侑ちゃんどこにいったんだろう……」
そんな未来に戦慄していると、歩夢ちゃんは、侑がいないことに気づく。彼女はスマホで侑に電話を掛けようとするが……
「ありゃ、置きっぱなしじゃないか……」
侑のスマホは彼女の荷物の上に置いてあった。これでは行方が知れない。
「かすみさん達も姿が見えませんね。明日の練習に向けて、休まなければならないというのに……徹さんは、侑さんから何か聞いてないですか?」
「うーん……俺は『ちょっと行きたいとこがある!』って聞いてはいるんだけど、どこに行ったかは分からないな」
でも……大体どこに行ったかは察しがつくんだよな。でも、本人はまだそのことをみんなに明かさないでおこうかなと言ってたので、このことは口に出さないでおこう。というかどちらにせよ、本当にそこに行ったか確信はないし。
ていうか、一年生組がどこに行ったのかも気になる。もう外は真っ暗だっていうのにな……
「私、侑ちゃんを探しに行ってくる!」
「私も行きます! 二人で分かれて探しましょう」
歩夢ちゃんとせつ菜ちゃんが彼女を探しに行くようだ。二人とも……うちの妹を頼んだ。
「おっ、いってらっしゃーい」
そう声を掛けると、二人は振り返ってにっこりと笑顔を返してくれた。
……さて、俺はどうしようかな。
そう思って周りを見てみると、愛ちゃんが身体を伸ばして柔軟運動をしていた。
「ほう、こんな時もストレッチを欠かせないとは……流石愛ちゃん、真面目だね」
「まあね〜。明日は思いっきり特訓したいし! ……おっ?」
すると、どこかでスマホの音がした。愛ちゃんが反応したから、多分彼女のスマホからなのだろう。
「どうしたんだ?」
柔軟運動をやめ、スマホを手に取る愛ちゃんにそう訊いた。
「かすみんからだ! えーっと内容はっと……んー、なんかここに来て欲しいみたい。ほらこれ」
かすみちゃん……? この場にはいない、という彼女か。それで来てほしい場所というのは……
彼女のスマホを覗き込むと……
「そんなところ……? 一体何のつもりだ……」
彼女が要求する来てほしい場所というのは、校内のある棟であった。
なぜ校内……怪しいぞ。かすみちゃんのことだし、これは何か企んでる可能性は否めないな。
「ねぇてっつー。あたし良いこと思いついたんだけどさー、ちょっと耳貸して?」
すると、愛ちゃんは口元に手を添えて耳打ちをしようとしていた。
「ん、なんだなんだ……」
俺も彼女の策を聞こうと、彼女の口元に耳を近づけた。
「……マジか」
────────────────────
「じゃあてっつー、ここで宜しくね!」
「おう。アクションするタイミングは、彼女らが部屋に帰ろうとした時だよな?」
「そうそう! もしなかなか話が進まなかったら、途中でやってもいいよ。特に内容は気にし
「ぷっ……了解。行ってこい」
「うん!」
さてさて、場所は移って虹ヶ咲学園内のある建物の中。
俺と愛ちゃんは、かすみちゃんの言う通りにここへやってきた。
……ていうか、俺は呼ばれてないんだったな。まあ、彼女にとって俺は『招かれざる客』的な立場だろうか。
そんな俺は、かすみちゃんが隠れているであろう場所より少し離れたところで隠れている。
そこで俺が何をするかというと……端的に言えば、『逆ドッキリ』だ。
愛ちゃんが彼女のドッキリに引っかかり、上手くいって油断をしていたところに俺がドッキリを仕返すという計画である。
……そろそろ、愛ちゃんがかすみちゃんと遭遇する頃合いかな。
さて、どうなることやら……
「「「うわぁぁぁぁ!?」」」
おや……? 何か人が多くないか? 隠れているからどういう状況になってるか分からないが、三人くらいの驚く声が聞こえたあとにドスンと何かが倒れる音が聞こえた。
この感じ……もしかするとかすみちゃん、ドッキリが失敗してしまったか?
「ぷっ……何やってるの君達……!」
「わ、笑わないでくださいよ〜!」
愛ちゃんがクスクス笑っている中、かすみちゃんの焦る口調で抗議する声が聞こえる。
「実は、愛さんを驚かせようってかすみちゃんに言われて、一緒にここで待機してた。璃奈ちゃんボード『むん!』」
「へぇ、そうだったんだ! ていうかしずく、それ自分でメイクしたの? 凄いね!!」
「そうなんです! よくお芝居関係でメイクをしてたので!」
あぁ、しずくちゃんと璃奈ちゃんもここにいたのか。しかし、そんな誘いに乗っかるとは……二人とも、意外と悪戯心があるのかな?
えっ、しずくちゃんのメイク……? お芝居関係のメイクって、どういう感じなのだろうか。いずれにしても、全く事情が分からない。
「もぉ、褒めてもらおうとした訳じゃないんですっ! ……それより愛先輩〜、このままでは帰しませんよぉ?」
「な、何だって〜!?」
「ふふん、愛先輩には今から部屋にいる人達を驚かすのを手伝ってもらいます……」
「なるほどね〜。仕方ないなぁ」
愛ちゃんの少し態とらしい演技に、俺は少し笑いそうになった。
「ふふふ……では、早速部屋に戻りましょう〜!」
おっ、そろそろ出番だな。どうしようか……
あれか、足音とか鳴らしたら意外と怖いかもしれないな。必要以上に怖がらせるのも悪いし、少しビビらせる程度にしとこう。
そうやって、俺は微かに足で地面をタップしていく。
「ひぇっ!? あ、足音……?」
「誰か来たのかな……?」
「でも、人影なんてどこにも見当たらないよ……?」
かすみちゃん、しずくちゃんが少し怖がっている模様。そこまで驚くほどホラー要素はない気がするんだが……
「……ぷっ……」
「愛さん、どうしたの?」
「えっ? な、なんでもないよ〜」
おい、愛ちゃんよ……璃奈ちゃんにバレそうになってるじゃないか。よし、バレる前に一気に駆け足ぐらいの足音に上げていくか……!
「ひゃぁ!? も、もう! 何なんですか〜!」
「まさか……透明人間とか幽霊!?」
「幽霊に足はついてないっ!!」
かすみちゃんとしずくちゃんが予想を遥かに上回って怖がっているようだ。
……なんか申し訳なくなってきたから表に出るか。
「わぁ!? 急に人が出てきたぁ!! もう嫌ですぅ……!」
「……ってあれ? 徹先輩じゃないですか?」
かすみちゃんが更に驚く中、しずくちゃんは冷静になり、近づいてきた正体が俺であると見破った。
「バレた? すまんな〜驚かせちゃって……ってうわっ!?」
みんなの様子が分かるくらいに近づいた瞬間……ゾンビがいると思って思わずその場に尻餅ついてしまった。
もう一度よく見ると、それはゾンビっぽいメイクをしたしずくちゃんだった。
「あぁびっくりした……よく見たらしずくちゃんだった……」
「ふふっ。驚きましたか? これでおあいこです!」
「クソ〜、やられたなぁ……」
愛ちゃんの凄いメイクって、そういうことだったんだと痛感する。
『逆の逆ドッキリ』になってしまったな。
「もう、徹先輩がそんなことするなんて思いませんでした! 酷いですぅ……」
すると、かすみちゃんが俺の胸元をポカポカ殴りながら抗議してきた。
「あぁ、悪かったって……そのコスプレ、八重歯が可愛らしくて似合ってるじゃないか」
「……! そ、そうですか? えへへ〜、かすみんやっぱりなんでも似合っちゃいますねぇ〜」
どうやら、機嫌を取り戻してくれたようだ。しかし、あまり女の子を撫でるのも宜しくないだろうかね……
「そういえば、驚いてない愛先輩は……」
「やっぱり、愛さんが仕掛けたんだね」
「りなりーは気づいてた? てっつー、実はあそこにスタンバっててくれてさ」
やっぱり璃奈ちゃん気付いてたのか……璃奈ちゃんにはドッキリ仕掛けても無意味そうだ。
「そうそう。だからさっきの会話を最初から聞いていたのさ……そういえば、これから部屋に戻るんだっけか?」
「……はっ、部屋に戻って先輩達を驚かすんだった! 徹先輩、今回の事は水に流しますが、もちろん手伝ってくれますよね?」
「ふふっ、良いよ。やってやろうじゃないか」
こうしてノリノリっぽいかのように返したが……まあ、嫌な結末しか見えないよな。ワンチャンせつ菜ちゃんの説教に巻き込まれそうなので、俺は少し関与する程度にしとこう。
そう思って、部屋に戻る俺であった。
今回はここまで!
結構長くなりましたが……合宿回は書いてて楽しいですね笑
次回は、ついにあの時が来ます……
お楽しみに!
評価・感想・お気に入り登録・読了報告よろしくお願いします!