高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも!
第65話です。
では早速どうぞ!


第65話 混沌

 

 

「かすみさん、そこ少し布団が重なってますよ! 雑にやってはいけません!」

 

「えぇ!? もうせつ菜先輩厳しすぎますぅ〜」

 

「おや、手が止まってるよ〜? ほらほら、手を動かす動かす〜」

 

「彼方先輩まで!? うぇ〜ん、この仕打ちは何なんですかぁ〜!!」

 

 

 せつ菜ちゃんの指導のもと、かすみちゃんが泣く泣く部屋に布団を敷く作業をする。一見すると、非常にワチャワチャしていて、微笑ましいワンシーンかもしれない。

 

 

 しかし、かすみちゃんにとってはそんな楽しいことではないだろう……何故なら、かすみちゃんが計画したドッキリがせつ菜ちゃんにバレたからな。

 

 

 あれから、かすみちゃん率いる一年生達がこの部屋の電気を消し、懐中電灯を顔の下から照らしてそこにいたメンバー達を驚かせようとしていたのだが、そこで待っていたのはなんと不気味な化粧をした果林ちゃん、エマちゃん、彼方ちゃんだったのだ。

 

 あんな化粧……絶対途中で悪ふざけが働いた結果なんだろうと簡単に想像がつくな。

 

 これを目の当たりにした一年生の子達は、怖さのあまり叫びながらその場から逃げて行った。

 

 

 それで侑を探して連れ帰ってきた歩夢ちゃん、せつ菜ちゃんに泣きつく形となったが、そこからせつ菜ちゃんによる説教が続いた後今に至るわけなんだが……

 

 

 まあ要は悪ふざけの罰として、今一年生と三年生は布団を敷く仕事を課されているって訳だ。

 

 

 

 ……ん? 俺も悪ふざけに加担したんじゃないかって? 

 

 いやいや、俺がやったのは部屋の玄関入ってすぐのところで怖いBGMを流しただけだからな。直接関わってないというか、せつ菜ちゃんにバレてないからお咎めなしって形になってる。愛ちゃんも部屋の電気を消す役割をしていたが、何も言われてなかったし。

 

 そんな訳で、今は着々と部屋に布団が敷き詰められて行ってるのだが……

 

 

 

 俺の布団をここには敷くことは出来ない。前にも言ったが、みんなと寝るのは色々とマズいから別の所で寝ようと決めているのだ。

 

 

 という訳で、自分で用意しよっと……

 

 

 ここからはミッションだ。誰にもバレないように押し入れから布団を取り出し、部屋から玄関へと繋がる通路のところに布団を敷けばよし。バレると色々と面倒だからな。

 

 

「よいしょっと……」

 

 

 無事何事なく布団を取り出せたので、あとはあそこに行けばほぼミッションクリア……

 

 

「どちらへ行くんですか? 布団を持って……」

 

 

 ギクッ……!?

 

 

 マズい、せつ菜ちゃんに気づかれてしまった。これで俺の意図がバレないように誤魔化さなきゃ……

 

 

「えっ? い、いやぁ布団にホコリがあるかなって思ってさ。叩いて来ようかなって……」

 

 

 普通に違和感ないような言い訳が出来たが……

 

 

「あー確かに……それだったらあたしも気になるから、一緒に行ってもいい?」

 

 

 くっ、愛ちゃんまでそう来られるとは思わなかった……

 

 このタイミングでついて来られちゃマズいんだ……俺が布団を玄関前に敷く所を見られてしまってはいけない。

 

 

「えっと、それは……」

 

 

「? どうしてそんなに歯切れが悪いのですか?」

 

 

 俺は、逆境に立たされた。

 

 もうダメなのか? いや、考えるんだ。なんとかしてすり抜ける方法が……!

 

 

「もしかしてお兄ちゃん、あそこで寝ようとしてない?」

 

「っ!?」

 

 

 侑……!? 何故そこまで分かるんだ!?

 

 

「えぇ!? 何を考えてるんですか!」

 

「ダメだよてっつー! ここで寝なきゃ!」

 

「やっぱりそうだったかー……」

 

 

 いや妹、恐るべし。俺のことなんでも知ってるのか? まあ確かに俺達は兄妹だが……

 

 

 ……ってそんなこと考えてる暇はないぞ!!

 

 

「待て待て! お前ら、男が睡眠タイムを共にするということに危機感やら嫌悪感はないのか!?」

 

 

 この子達は全くそういうことに無頓着なのだろうか……? 俺が夜な夜な何かしてきてもおかしくない状況なんだぞ? もちろん、俺にそのようなことをする気は微生物レベルですら存在しないが。

 

 

「あたしたちは全然OKだよ! ねっ、せっつー!」

 

 

「はい! 徹さんのことを信じてるので! もしかして逆に、徹さんは私達と一夜を共にするのは嫌ですか……?」

 

 

 なるほどね……せつ菜ちゃんと愛ちゃんは信じてくれてるんだな。侑と歩夢ちゃんも……文句なさそうだ。

 

 じゃあ、いいのか……? 

 

 

「い、嫌じゃないのはそうなんだけどな……そうだ!」

 

 

 いや、まだだ! まだ、意見を聞けていないメンバーがいる……!

 

 

 布団敷きをしているメンバー達に視線を変え、彼女達に声を掛ける。

 

 

「なあみんな! 突然だけど、今日俺がここで寝るのが嫌だって人、挙手!」

 

 

 そうそう、こういうのは全会一致でなければ駄目なんだよ。

 

 誰か一人くらい……

 

 

 

 ……いなかった。

 

 

「誰もいない、か……」

 

「皆さん、徹さんと共に寝ることに抵抗はないみたいですね。じゃあ、そこが空いてますので、そこに布団を敷いてください!」

 

 

「……了解」

 

 

 まあ彼女達のことだし、こうなると分かっていたような気もしたが……

 

 

 ……今日は寝れないだろうなぁ。

 

 

 そう思いながら、部屋の隅っこの方に布団を敷いた。

 

 

 

 

「せつ菜ちゃ〜ん! 全部敷けたよ〜」

 

「エマさん、ありがとうございます!」

 

 

 どうやら全員分の布団が敷かれたようで、作業していたみんなも戻ってきていた。

 

 

 後はみんなの寝るポジションを選んで、やっと寝れる。

 

 

「みんな、お疲れ様。じゃあ、みんなどこに寝るか決めて……」

 

 

 と思いきや……

 

 

「はーい! かすみん、徹先輩の隣がいいですぅ〜!」

 

「おぉ? じゃあ、愛さんはその反対側に寝るね!」

 

「ちょっと! 愛先輩が来てしまったら徹先輩を独占できないじゃないですか!!」

 

 

 ……なんか、かすみちゃんと愛ちゃんが俺の隣で寝るのを巡って論争が始まったのだが!? しかも独占ってなんだよ! そんなことを気にしてたらこの部屋に全員収まらないぞ!? 

 

 

「ちょっとお二人とも! 徹先輩が困ってるではありませんか! ……徹先輩、今夜は私とお話しませんか?」

 

「あぁ!? そんなまともなこと言いながら抜け駆けはいけないぞー、しずく!」

 

「ふふ〜、じゃあしずくちゃんと話し終わったら彼方ちゃんの番ね〜? 徹くんの反対隣に寝るから〜」

 

「あっ、私も徹くんとお話ししたい! 私は前の方に寝るね!」

 

「エマちゃん!? 流石にそうなると彼方ちゃんの話す時間が無くなっちゃって困るんだけど〜!?」

 

「ぐぬぬぬ……ライバルが多い……」

 

 

 ……この状況を一言で言い表そう。

 

 

 混沌(カオス)だ。

 

 

 目まぐるしくメンバーがどんどん論争に混ざっていき、論争は更にヒートアップしていく。

 

 

 おいおい君たち、明日ハードな練習が待ってるんだぞ……? こんなどうでもいいことで体力消耗してどうするんだ。

 

 

「いや、どうしてこうなったんだよ……困ったもんだ。なぁ、歩夢ちゃん」

 

 

 呆れるあまり、近くでその様子を傍観してた歩夢ちゃんに声を掛ける。

 

 

 しかし返答がなく、どうしたのかと思い彼女の方を向くと、どうやら上の空のようだった。

 

 

「歩夢ちゃん?」

 

「……えっ? あっ、そうですね! あははは……」

 

 

 何だろう。考え事なのだろうか?

 

 

「皆さん! いい加減もう寝なきゃいけな……!」

 

「もう! こうなったら……ご本人に決めてもらおうじゃないですか!!」

 

 

 せつ菜ちゃんがみんなを諌めようとする最中、かすみちゃんはそう宣言した。それと同時に、言い争ってたメンバー達の目が一瞬で俺の方へ向いた。

 

 俺が決める……だと?

 

 

「徹先輩! 徹先輩は誰と一緒に寝たいですか? もちろん、かすみんだって答えてくれると信じてますけどぉ〜」

 

 

 えぇ……?

 

 なんか前にもこういうことあったよな、この究極の選択。いや、もう勘弁してくれよ……

 

 

 あぁ、もうなんか眠くて何も考えられない。みんなの期待に応えようとするよりも、睡眠欲が勝ってしまいそうだ……こればかりは、仕方ないよな?

 

 

「っ……御免!!」

 

 

 そうして、俺は勢いよく適当な布団へ向かい、横たわった。

 

 

「俺はここで寝るな? という訳でおやすみなさーい……」

 

 

 そんな訳で、みんなの論争をスッパリと切る形で寝ることとなった。

 

 まあ何とも態とらしい演技だったな。ごめんな……明日のみんなのためにもやったことなんだ、許してくれ。

 

 この後誰かが声をかけることもなく、部屋が消灯した。ちなみに、この間にどんなやりとりがなされていたかは、俺の知る由もないことである。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 部屋が消灯してからしばらくした頃だろうか……

 

 俺は再び目を開いた。

 

 何故か──簡単な理由だ。

 

 

 

 寝れないんだよ!!

 

 

 みんなに寝て欲しくて俺は寝たフリをしただけであって、意識は今までずっとあった。目は瞑っていても、全く疲れが取れていないのだ。

 

 ここに横たわる前は睡眠欲が莫大にあったのに、いざ寝てみるとあら不思議。全然寝れないんだよなぁ……

 

 

 まあ、周りで寝ているのは全員歳の近い女の子。理性はしっかり強固なものにしてきたとはいえ、意識はしてしまうので熟睡することは不可能に等しい。

 

 

 仕方ない。一旦寝る努力は放棄しよう。

 

 

 

 そういえば、みんなは流石に……寝たよな。

 

 

 周りは音沙汰もない。ただ、微かに誰かの寝息が聞こえる程度だ。

 

 

 一応両隣の様子を確認してみるか。

 

 

 そう思い、仰向けになってる状態で左右を見回した。

 

 

 まず右の方を見ると……そこには、気持ちよさそうに眠る璃奈ちゃんがいた。

 

 結局、璃奈ちゃんが隣に寝ることになったのか。一体どうやってしてそうなったのか分からないが、まあ良いだろう。ぐっすり寝ることが出来てそうで何よりだ。

 

 

 そして左の方を向くと……

 

 

「あっ……」

 

 

 そっちに寝ていたのは侑で、なんと起きていた。

 

 さらに、ちょうどそっちを向いた瞬間に彼女と目が合ったのだ。

 

 

「お兄ちゃん、やっぱりまだ起きてたんだね」

 

「あぁ……侑も寝れないのか?」

 

「うん、ちょっとね……」

 

 

 侑には寝たフリをしてたのバレてたか。流石、妹には敵わないわ……

 

 

 しかし、侑も寝れないか。俺と同じく、緊張で寝れない感じなのかな? それとも……

 

 

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

「なんだ、侑?」

 

 

「そっちに……行ってもいい?」

 

 

 侑の予期せぬお願いに少しドキッとした。

 

 でも、俺は何気なくそのお願いに応える。

 

 

「いいよ。おいで」

 

「ありがとう。じゃあ、お邪魔しまーす……」

 

 

 侑は、自分の布団からスルスルと抜け出し、這って俺の布団へと入ってくる。

 

 

 ツインテールを解いている侑の顔が、俺の目の前まで来ていた。

 

 

「えへへ、こうやって一緒に寝るのも久々だね」

 

「確かにな。なんだか俺も懐かしい気持ちになってるよ」

 

「うん……」

 

 

 お互い小さい頃は、こうやって二人で寝ることも多かったなぁ……確か、二人でずっと横になって話してたら朝になってたなんてこともあったっけか? どうしてそうなったかまでは定かに覚えてないが、懐かしいな。

 

 ……しかし、こうやって自ら俺に甘えに来るってことは、やっぱり何かに悩んでいるのだろうな……よし、こういう時は腹を割って話せるし、悩みを聞くのも今がチャンスだ。

 

 

「……で、侑は一体何に悩んでるんだ?」

 

「えっ?」

 

「いや、こんなに甘えてくる侑も珍しいなって思ったからさ。そうだな、もし悩んでるなら、少しお兄ちゃんに話してみてくれ」

 

 

 そうやって、少しフランクに侑へと声を掛ける。

 

 

「……ふふっ、ありがとう。でも、少し考え事してただけなんだ」

 

「考え事?」

 

 

 考え事だったか……でも、どんな考え事かが気になる。

 

 

「うん。さっきね、学校の音楽室に行ってきてピアノを弾いてきたんだ」

 

「あー……やっぱりそうだったんだな。あれか、あの曲を練習してたんだね?」

 

「そうだよ。それで、真剣に弾いてたら……本人がやってきちゃって」

 

 本人……もしかして……

 

「えっ、マ……!? ……せつ菜ちゃんに見られちゃったのか」

 

「ふふっ、急に生徒会長みたいな口調で『音楽室の使用許可は取ったんですか?』って言われたからびっくりしちゃったよ」

 

「ハハッ、なるほどな……」

 

 

 危ない危ない。思わず大声を出すところだった……

 

 それに確か、前にも侑があの曲を弾いてるのを彼女は見てるんだよな。その時に比べたら大分上手くなっただろうし、多分驚いただろう。

 

 

「それで、少しせつ菜ちゃんと話してたんだけど、その時にこう言われたんだ。『もし侑さんに夢が出来たなら、今度は私に応援させてください!』って」

 

「おー……」

 

 

 つまり、侑にはまだ夢がないってことになるか……まあ、スクールアイドルに携わる前は、お互い只管暇を持て余してた感じだもんな。何か興味を惹くもの……それこそ、彼女がたまに言う『ときめき』を感じるものがなかったんだよね。

 

 

「それで私、改めて考えたんだ。私の夢ってなんだろう、って……そしたら、いつまで考えても出てこなくてね」

 

 

 若干、侑の表情からは焦りが垣間見えた気がした。

 

 

「もう高校二年生だし、そろそろやりたいこと考えなきゃダメなのかな……って思って、ずっと考えてたんだ」

 

「うーん……なるほどなぁ」

 

 

 ()()高校二年生……俺にとっては、()()高校二年生なんだけどな。

 

 

 ここは一つ、侑を落ち着かせるためにアドバイスをしようか……

 

 

「……なんだろう。俺としては、二年生なんてまだそれで焦る時期じゃないと思うな」

 

「……そう、かな?」

 

 

 自信なさげにそう訊く侑。

 

 

「あぁ。だからそうすぐに答えを出す必要は無いと思う。俺だって、まだ『これだ!』っていう夢がある訳でもないしな」

 

 

 俺もまだまだ『本当の夢』というものを模索しているんだ。俺に関しては、少し段階が遅いような気がするけどな。

 

 

「そっか……じゃあ、ゆっくり考えて良いのかな……?」

 

「うん。今は……それこそ、侑がやってるピアノとかもそうだけど、やりたいことをやっていれば良いと思う。もっと気長に……楽観的に考えても良いんじゃないかな?」

 

 

 楽観的……あの時俺が捨てようとしたものだが、今になって思えば、この考え方も時には必要だと思える。

 

 

「……分かった。お兄ちゃんに話してよかった……ありがとう」

 

 

「どういたしまして。そう言ってもらえると嬉しいぞ」

 

 

 そう言って、侑の頭を撫でる。

 

 

「なんか眠くなってきちゃった……ふわぁ……」

 

 

 気づけば長い間会話していて、俺にも眠気が襲った。

 

 

「あはは。俺も眠くなってきたや……このまま寝ちゃおうか」

 

「だね……じゃあ、おやすみ。お兄ちゃん」

 

「あぁ、ゆっくりお休み。侑」

 

 

 侑は、掛け布団の中に潜り込み、俺の胸の中で可愛らしい寝息を立てながら眠った。

 

 

 

 

 

 夢……か。

 

 

 俺も、『本当の夢』を見つけていこうかな。

 

 夢を見つける可能性を拡げるには……作曲活動復活……も視野に入れるべきか? そうしたら、同好会のみんなの曲を作れたり……いやいや、流石にそれはないな。俺がそんな役を任せられるほど、良い曲を作れそうにないし。

 

 

 

 でも……それも克服したら、その先に『本当の夢』が見つかるのかな。

 

 

 

 ……まあ、今考えても仕方ない。寝よう。

 

 

 考えることをスッパリやめ、俺は掛け布団を侑の肩辺りまで下ろしてから眠りに落ちた。

 

 




夢はどこから……始まる?


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