高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも!
第66話です!
では早速どうぞ!


第66話 新しい朝が来た

 

 

 

「……んん」

 

 

 知らない天井だ。

 

 

 

 ……そりゃそうだ。俺は今合宿に来ているのだからな。

 

 

 

 部屋の電気がなくてもその全貌が分かるくらい外が明るくなってきたその頃合いに、俺は目を覚ました。この感じだと……まだ6時になる前ぐらいだろうか。夏なのもあってこの時間から日が昇ってきている。

 

 昨日は全然寝ることができなくて翌朝が心配であったが、侑と話したおかげか安心して寝ることが出来た。

 

 

 そうだ。侑はまだ俺の横で寝てるのか……? 

 

 仰向けになりながら左の方を向くと、そこには誰もいないようだった。いないってことは……途中で自分の布団に戻ったのかな? 

 

 

 まあ今思えば侑と俺が同じ布団で寝ているのは、例え兄妹であれど周りから騒がれることだよな……むしろそれで良かった。

 

 

 少し早いけど、今から二度寝して寝坊するのはよろしくない。なんなら、この時間からちょっと走りに行こうかな。みんなが頑張っているというのだから、俺も動かなきゃ。

 

 

 そう思い起きあがろうとする……が。

 

 

 ……起き上がれない。というか……右手が動かない。

 

 なんなら、右腕に柔らかな感触を得たのだが……

 

 

 

 ……まさか。

 

 

 

 戦慄する中、右の方に視線を向けると……

 

 

 

「……んぅ……」

 

 

 俺の目と鼻の先で安らかに眠る、青いウルフカットの少女の顔があった。

 

 

 

 ───よし、一旦目を(つぶ)ろう。これは夢だ。夢から醒めるんだ……

 

 

 自分の胸に必死で言い聞かせながら目を瞑り、また見開いた。

 

 

 

 よし、これで醒めた。彼女はいないよな……? 

 

 

「すぅ……」

 

 

 しかし、期待は虚しく未だに彼女はそこにいた。

 

 

 つまり、果林ちゃんが横で俺の腕を抱きかかえて寝ていたのは事実だ────

 

 

 

 

 ……果林ちゃん!? 君、なんでここにいるんだよ!? 

 

 

 待て、落ち着け。こういう時こそ落ち着かなければ……状況を分析しよう。

 

 

 まず、何故このようなことになったか。これには二つの可能性が考えられる。

 

 

 一つは俺が果林ちゃんの布団に間違えて入ってしまったということ。

 

 これに関してはあり得ないと断言できる。

 

 俺の左隣に侑が寝ていることが何よりもの証拠だ。俺が夜中侑と会話するまで一度も布団を出ていない。故にその可能性は却下される。

 

 

 じゃあもう一つの可能性……果林ちゃんが間違えて俺の布団に入ってきてしまったということだ。

 

 

 この可能性が濃厚だろう。果林ちゃんには申し訳ないが、これしか原因が考えられない。

 

 彼女の空いた布団はどこにあるはず……と思ったが、彼女に片腕を固定されているので起き上がることが出来ず、確認しようがない。

 

 

 でも、そうだとすれば俺としてはかなり衝撃的なことだ。

 

 

 確かに彼女はクールビューティーで、みんなが憧れるお姉さん的な存在ではある一方、パンダが大好きでかつ方向音痴という意外な一面があるということは知っていたが……寝相が相当悪いのかもしれない。

 

 

 

 いや、それにしてもさ……

 

 

 なんで俺の腕を抱えて寝てるんだよ! 隣に寝ているだけで衝撃的だってのに……! 

 

 

「……ダメよ……このパンダちゃんは私のなの……」

 

 

 ん……? ……ほう、なるほど。この寝言からして、普段はパンダのぬいぐるみを抱えて寝てるのだろうか。これはまた、なんとも可愛らしいものだ……

 

 

 

 ……って、俺はさっきから冷静すぎだろ!! これだともはや現実逃避しているじゃないか! さっさとこの状態から抜け出さなければ、俺の立場が危ういんだぞ……! 

 

 

 ……ここは、大変気持ちよさそうに寝ているところで申し訳ないが、俺の腕をパンダのぬいぐるみ代わりにするのはやめてもらおう。そして、ささっとその場から去る……! 

 

 

 そうやって俺は彼女のホールディングから脱出しようとしたが……

 

 

「んっ……」

 

「っ……!?」

 

 

 俺が腕を動かしたことによって、彼女の豊満なソレが俺の腕に……あぁ、冷静に解説することじゃねぇ! 俺は変態なのか!? 俺は変態じゃないんだよぉ!! 

 

 

 いや果林ちゃんよ……そんな色っぽい声を出さないでくれ。俺が一生懸命固めた理性にとてつもない衝撃が襲ったじゃないか。

 

 

 どうしよう……俺の腕は果林ちゃんの両腕によってガッチリホールドされてるし。

 

 

「……むにゃむにゃ」

 

 

 ……こうなったら、起きてしまう可能性を覚悟して彼女の束縛を緩めて脱出するしかない。

 

 

 起きてしまったら……その時はその時だ! 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

「ふう……全く、朝から心臓に悪かったなぁ……」

 

 

 部屋の外へ出て、廊下にある共用の洗面所へ向かおうとしている。

 

 俺は無事に部屋から脱出することに成功し、さらに着替えを回収することも出来た。これで俺は外へ走りに行くことが可能になる。

 

 

 いやぁ、こんなに朝から心臓がバクバクしたのは人生で初めてだ。こんなギャルゲーでしか有り得ないような現象が俺の身に起きるとは予想もしなかった。

 

 まあ、これで取り敢えず一件落着だ。洗面所に着いたし、顔を洗おう。

 

 

 そうやって顔を洗った後、洗面所を出ようとした瞬間……

 

 

「……あっ」

 

 

 俺はとんでもない事実に気づいてしまった。

 

 

 

 今果林ちゃんが寝ているのは、俺の布団だ。つまり、朝みんなが起きた瞬間、俺が寝ていたであろうところに彼女がいたら……

 

 

「どうしよう……絶対疑われるじゃないか」

 

 

 ……前言撤回、全然落着していない。このまま戻ってなんとかしようにも、リスクが高いので出来ない。

 

 

 

 

 ……あぁ、俺は後で追及されるだろうな。例え果林ちゃんが勝手に俺の布団に入ったと言っても信じてもらえないだろうし……裁きを受けざるを得ないだろう……

 

 

 絶望に浸りながら俺は洗面所の外に出て歩き始めようとすると……

 

 

「あっ、徹くんだ! おはよ〜」

 

「っ……!? ってあぁ、エマちゃんか……おはよう」

 

 

 人気のなかったこの空間で、いきなり後ろから誰かの声が聞こえたので思わずびっくりしてしまった。しかし、その正体はエマちゃんだった。

 

 

「徹くんって朝早いんだね〜。いつもこんなに早いの?」

 

「う、うん。朝練の時はいつもこれぐらいに起きて、お弁当作ったり勉強したりしてるね」

 

 

 エマちゃんがここにいるってことは……俺の布団の上の実態を見た可能性があるってことだよな……

 

 そんな恐怖感からか、挙動不審になりながら彼女の問いに答える。

 

 

「そうなんだ〜! ふふっ、なんだか親近感持っちゃうよ〜」

 

 

 それに対して、エマちゃんは楽しそうな様子だ。

 

 

 ……なんだろう、彼女と話しているとそんな恐怖感が自然と薄れていくのは不思議だな。これだから、みんなエマちゃんとすぐに打ち解けていったんだろう。

 

 

「そういえば、朝徹くんのところに果林ちゃんいたよね?」

 

「えっ!? な、なんのことやら……」

 

 

 うわっ、やっぱりエマちゃんに見られてたか……! こうなったら、全力で土下座をして許してもらうしか……

 

 

「あっ、大丈夫だよ! 別に徹くんが何かしたとか思ってないし……果林ちゃん、朝に弱くてね〜。間違えて徹くんのお布団に入っちゃったのかな〜って」

 

 

 ……今までの心配は杞憂だっただろうか。意外な反応が返ってきた。

 

 

「そ、そうなのか……果林ちゃんが寝相悪いのって意外だな」

 

「ふふっ、実はそうなんだよ。果林ちゃんったら私が起こさないと寝坊しちゃうし、寝言も可愛いんだよね〜」

 

 

 そういえば、エマちゃんと果林ちゃんは虹ヶ咲の寮に住んでるんだよな。そうなると、果林ちゃんが彼女に起こしてもらうようにお願いしてるのか、それとも彼女の親切心で起こしてもらってるのか……

 

 まあどちらにせよ、エマちゃんはとても世話焼きなことは分かる。なんなら、俺以上に世話焼きだろう。

 

 

「あっ、あと果林ちゃんは元の寝ていたところに運んでおいたから、みんなのことは気にしないでね!」

 

 

 なんと……!? 

 

 

 ありがたさこの上ない。今俺には、彼女が救いの女神のように見える。

 

 

「マジか……! ありがとう……この恩は絶対に返す」

 

「いえいえ〜! ……あっ、でも一つだけお願いしても良いかな?」

 

 

 お願いか……? エマちゃんからとは珍しいな。

 

 

「おう、なんだ? 聞ける範囲なら応えるぞ」

 

 

 まあ、エマちゃんがそんなとんでもないお願いをするとは思わないが一応『聞ける範囲』と保険を付けておいた。

 

 

 ただ、この後告げられるエマちゃんのお願いに、俺は衝撃を受けることになる……

 

 

 

「その、今日は隣で……寝ても、いいかな?」

 

「……What!?」

 

 

 と、隣で……寝るだって!? 

 

 

 い、いや待てよ……落ち着け。さっきの果林ちゃんの件があって俺の思考はおかしくなっている……普通に考えるんだ普通に……

 

 

「? どうしたの?」

 

 

「な、なんでもない……」

 

 

 彼女の言う『隣で寝る』というのは、昨日エマちゃん含めた複数の子達が争ってた、どこの布団で寝るかってことと繋がってるんだよな。つまり、布団を分けて隣で寝るってことだよな……? いや、絶対そうだ。同じ布団だなんて想像した俺はどうかしている。

 

 

「昨日は徹くんを困らせちゃったから……ダメかな……?」

 

 

 なるほど……いつもだとこの場合『理性が……!』とか躊躇してしまうが、助けてくれた上に、滅多にお願い事をしないエマちゃんが相手だ。ここは断るという選択肢がないだろう。

 

 

「……うん、分かった。エマちゃんが良ければ俺は構わないよ」

 

 

「……! ありがとう徹くん!」

 

 

 エマちゃんの表情がパァっと明るくなり、とても嬉しそうにしていた。

 

 

 

 さて……今夜は寝れるかな? 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「果林ちゃん、よく眠れた?」

 

「えっ? ……そうね、そこそこ眠れた気がするわ」

 

「良かった〜!」

 

 

 あの後エマちゃんとランニングをして汗をかいた後、部屋に戻るとほとんどの子達が起きていた……かすみちゃんは少し寝ぼけ気味だったが。

 

 

 そこから調理室で朝御飯を作り、今それをみんなで食べているところだ。

 

 

「なんだかエマさんがいつも以上にウキウキしてるような……?」

 

 

「何があったんだろう……? 璃奈ちゃんボード『?』」

 

 

 エマちゃんがいつも以上に笑顔を絶やさない様子を見て、しずくちゃんと璃奈ちゃんが不思議そうに見つめている。

 

 

 まあ、十中八九あれのことだろうか。

 

 

 そんなに嬉しいものかな……? 話題が面白くない俺と話すよりもみんなと話した方が楽しいだろうに……

 

 

「おっ、どうしたてっつー? もしかして、エマっちのエ()ーションが気になっちゃった?」

 

 

 どうやらしばらくの間エマちゃんの様子を見ていたようで、隣にいた愛ちゃんが揶揄い気味に駄洒落も交えて話しかけてきた。

 

 

「ふふっ……また面白いね。40点だ」

 

「ありゃ、50点満点?」

 

「いや、100点満点」

 

「低っ!? もーてっつー酷いよ〜!」

 

「あっはは、ごめんって〜」

 

 

 ふふっ。俺は案外駄洒落にはこだわりがあったりするから、採点は厳しめだぞ? なんてな。

 

 

「もー、じゃあてっつーから100点もらえるまで駄洒落放出するからね!!」

 

「ちょっ、それは笑いが止まらなくて碌に食べれないからやめろ!?」

 

 こんな会話もあって楽しい朝を過ごしたのであった。

 

 

 

 




今回はここまで!

また朝から波乱が続いてますね……とにかく、徹くんが羨まけしからんとだけ言っておきます←
アニガサキ2期が終わってしまいましたね……こちらの小説も早く2期に突入したい気持ちで一杯です。
ではまた次回!
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