では早速どうぞ!
毎度どうも、高咲徹だ。
無事ボランティアへの参加を確実としたその翌日、合宿以来初の同好会の集まりにやってきた。
今は夏休み期間中。学校の授業はないため、朝練を終えた後は制服に着替え、すぐに部室へ直行している。
本来ならば、侑が企画したスクールアイドルフェスティバルの企画書が生徒会に承認され、そのイベントに向けて練習や準備に精を出すはずであった……のだが。
「……話は侑から大方聞いてたが、ダメだったんだなぁ……」
「そうなんですよぉ、色々文句を言われて突き返されましたぁ……」
みんなの表情は決して朗らかではなく、みんなが囲う部室のテーブルの上には、承認されたことを示す判子が押されていない申請書が置いてあった。
昨日俺が家に帰った後、予め侑から事の粗筋を聞いており、要は申請書に不備があったので承認されなかったということだ。
「生徒会長のせつ菜ちゃんがいるから、大丈夫かなぁと思ってたけどね〜」
「うぅ……すみません、私のチェックが足りていませんでした……」
不思議そうに部室の机に座りながら呟く彼方ちゃんに対して、肩をがっくりと落としているせつ菜ちゃん。
チェックが足りていなかった……ということは、主に侑が申請書を作成して、それをせつ菜ちゃんが最後にチェックをしたということだろうか。まあ彼女は生徒会長としての仕事もあるので、なかなか手が空かなかったのだろうということは容易に想像が出来る。
まあどちらにせよ、今誰かを責めても何もならない。今は失敗で落ち込むよりも、先の成功に向けて動くようにみんなに声を掛けていく必要があるんだ。
「まあまあ、生徒会長だってそんな時もあるから仕方ないさ。スクールアイドルフェスティバル開催への道が途絶えた訳じゃないし、また書き直せばいいってことだろ、侑?」
「あっ……うん。私も、申請書に書くべきことを分かっていなかったから反省してる。だから、生徒会のみんなに言われたことを参考にして、今度こそちゃんとした申請書を書くよ!」
侑の表情には、みんなを引っ張ろうとする頼もしさが滲み出ていた。
「うむ、その調子だ! ほら、侑はやる気みたいだからまた手伝ってくれよ、せつ菜ちゃん。俺も今度こそ申請書作りに参加するから」
「そ、そうですね……分かりました!」
せつ菜ちゃんも落ち込んでいる場合ではないことに気づいたのか、いつも通りのハキハキとした声でそう返事した。
「それで、申請書に足りないことの一つに『ライブをする場所が記載されていない』という話でしたよね?」
「そうだよ。あとは参加する学校とかも決めなきゃ」
「いやほんと、そこ大事なところだよな……」
本来そういう申請書には、いつ、どこで、誰が、何を、どうやって、なぜ、といった要素を盛り込むことは必須なのだ。そうしないと、そのイベントのビジョンが相手に伝わらないからな。
昨日侑と二人でそれについてちょっとした反省会を開いたのだが、そこでそれを伝えると納得してくれたので、今度同じ間違いは繰り返さないだろう。
ちなみに、スクールアイドルフェスティバルをなぜ開くのかについては相手の気持ちを掴むような書き方がされていたことは特に良かったので、そこは褒めたぜ。
「そうなると、早めに会場探しをするべきね」
「会場探し……どんな会場があるんだろう……」
「そういうのって実際に行かないと雰囲気分かんないよね〜……じゃあ、明日とかみんなで行かない?」
「お〜! それ良いと思うよ、愛ちゃん!」
なるほど、璃奈ちゃんの疑問点は愛ちゃんが言う通り、実際に視察すればいいんだな。百聞は一見にしかず、論より証拠だな。
明日に行くとなれば……今のうちにどこを見るか決める必要がありそうだな。部室にパソコンがあるから、みんなで調べて決めれば手っ取り早いか。
「よし、そうなれば今から行く場所を考えるか? 部室にパソコンあるから、それ使ってみんなで候補を挙げていこうぜ」
「良いですねぇ、徹先輩! かすみんの可愛さが引き立つ、最高のステージを探しに行きましょう!」
「おう! せつ菜ちゃんもそれで良いよな?」
「えぇ、良いと思います!」
かすみちゃんを始め、みんなが俺の提案に乗ってくれた。
……なんか、こうやって自分の意見にみんなが賛同してくれるのって嬉しいよな。
「じゃあパソコンの操作は……言い出しっぺのてっつーに頼もうか!」
「ん、了解! よーし……ほら、歩夢ちゃんも何か希望があったら言ってくれよな?」
「あっ、うん……そうしますね」
愛ちゃんからパソコンの操作を任じられ、意気揚々としてパソコンのある場所へと向かう最中、歩夢ちゃんへと声を掛けた。彼女は、微笑みながら返事をしてくれた。
……少し笑顔がぎこちなかった気がしなくもない。ただ、今の俺にそれを気にする余裕が存在していなかった。
それから、ステージ探しは順調に進んだ。予想通りみんなの気になる場所がバラバラで、結果かなり広範囲でステージを巡ることになってしまったが、みんなは移動距離なんて何のそれといったところだった。
「これである程度まとまりましたね。じゃあ申し訳ないですが、私は生徒会の仕事があるので、この辺りで失礼します!」
「生徒会の仕事頑張ってね〜」
ある程度明日の行動が決まったタイミングで、せつ菜ちゃんは生徒会の仕事へ戻るようだ。
……って、そうだ。一応このことはせつ菜ちゃんの耳に入れておこう。
「あっ、せつ菜ちゃん。少し言っておくことがあったんだ」
「ん? 何でしょうか、徹さん?」
後ろから声を掛けると、彼女は振り返って首を傾げた。
「暫くしたらそっちに伺うな。今回は手伝いではないんだけど、少し生徒会のみんなに伝えておきたいことがあるから」
「あっ、そうですか……分かりました、お待ちしてますね」
「あぁ、よろしく頼む」
よし、せつ菜ちゃんもとい菜々ちゃんが生徒会室に行って少ししてから俺もそっちへ向かうとしよう。もし一緒に行ってしまっては、後々彼女の正体がバラされる火種になりかねないからな。
そんな訳で、同好会の昼休憩中に生徒会室へ向かう事にした。
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「生徒会室……最近来てなかったな」
俺の目線の先には、生徒会室と書かれたプレートがあった。
最近スクールアイドル同好会の活動に時間を費やすことが多くなり、生徒会室に訪れる機会はほぼ無くなっていた。
最後に行ったのは……期末テスト前? いや、俺はその時風邪を拗らせてて、行こうと思ってたのに行けなかったんだよな。
まあ、今は部屋に入るとするか。
生徒会室の扉を軽くノックすると、凛とした聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「どうぞ」
「失礼します……おっす、菜々ちゃん。休憩中か?」
扉を開けると、いつも通りの位置に菜々ちゃんは生徒会長らしく座っていた。
普段の生徒会室はもう少し張り詰めた雰囲気なのだが、今は少しリラックスした感じなので、こっちも昼休憩中なのだろう。
「どうも、徹さん。えぇ、そうですよ」
やっぱりな。というか、菜々ちゃんは昼飯食べたのだろうか? 他の子達は……あっ、左側の部屋で昼食タイムってところかな?
そう思っていると、その部屋から一人がやってきた。
「あっ……元生徒会長、こんにちは。お久しぶりですね」
「よう、副会長。久しぶりだな……ってか、元生徒会長って呼び方はちょっと堅苦しすぎないか? 普通に名前で呼んでくれると嬉しいぞ」
「そうですか……? では私のことも親しみを込めて名前で呼んでください、高咲先輩」
「そっか……じゃあ俺も君のことは若月って呼ぶな?」
そう、わざわざ昼食タイム中にここへ来てくれたのは、今の生徒会の副会長である、
彼女は俺のことを敬ってくれているのか、『元生徒会長』という風に呼んでくれていた。
しかし、その呼び方は少々堅苦しさがあるからなぁ……それに、俺はもう生徒会長ではない単なる一般高校生だ。現生徒会長ならまだしも、普通に名前で気軽に呼んで欲しいと思うものだ。
「あっ、高咲さん! お疲れ様です!」
「お疲れ様です! 今日は手伝いに来てくださったのですか?」
若月と会話をしていると、さらに隣の部屋から二人の女の子がこちらにやってきた。
エメラルドグリーンの髪を両サイドに三つ編みとしているところ、眼鏡をかけているところまで瓜二つの二人だ。
「おっ、左月ちゃんに右月ちゃん。そっちこそ、お疲れ様。いや、申し訳ないんだけどそこまで暇がなくてさ。今日はみんなに伝えたいことがあってさ」
この二人はどうやら双子らしく、見た目だけでは瞬時に判断できないほどそっくりなのだ。ただ見極め方を挙げるならば、前髪が向かって左側に流れているのが左月ちゃん、右側に流れているのが右月ちゃんという見分け方だろう。あとは声とか性格も判別の材料になるな。
そしてこの二人は高校3年生、俺と同い年である。ただ、二人とも身長が他の生徒会メンバーと比べて低い上に常に敬語を話すのがデフォルトだというので、たまに後輩と話しているように覚えることがある。
……ていうか、この生徒会のメンバー全員上司だろうが部下だろうが敬語で接してるから、学年の上下関係が見えないのが特殊だよな……俺も彼女達と親しくなってなかったら、空気を読んで敬語で話してただろう。
「伝えたいこと……といいますと?」
俺が二人に話したことについて、副会長の若月が訊いてきた。
「いや、この間スクールアイドル同好会の連中が申請書を出しに来ただろ? その時しっかり直すべきところも指摘してくれたみたいで助かったからお礼を言いたくてな……ありがとな」
そう、俺がこの生徒会室に来たのはこの感謝を伝えたかったからだ。
申請書と指摘された部分を照合すると、全く指摘漏れがなく、俺が追加で指摘するような所が存在しなかった。
間接的な生徒会長のミスを部下達によってカバー出来るのだから、今の生徒会は優秀なんだなぁ……って感心したのさ。
「なるほど……いえいえ、私たちはただやるべきことをしたまでですよ。しかし、なぜそれを先輩が……?」
「もしかしなくても、スクールアイドル同好会と何か関係が……?」
……あっ、そうか。俺がスクールアイドル同好会に入っていることを3人には伝えてなかったな。若月と右月ちゃんが疑問を感じるのも無理はない。このことにせつ菜ちゃんは関係ないし、言ってもいいか。
「んー関係があるというか、そもそも所属してるんだ」
「そうだったのですか!? 意外です……」
左月ちゃんが目を大きく見開いてそう驚く。まあ、みんなからしたら俺はスクールアイドルとかそういうのに縁がない元生徒会長というイメージなのだろうから、それが普通の反応だな。
「まさか会長だけではなく、先輩までスクールアイドルに通じているとは……スクールアイドルってそんなにすごいのでしょうか……?」
ん? 菜々ちゃんがスクールアイドルに通じている……いや、これは菜々ちゃん=せつ菜ちゃんがバレたという訳ではないだろう。ただ菜々ちゃんがスクールアイドルに詳しいことが明らかになっただけだ。
一瞬ドキッとしたが、平静を取り戻して彼女に声を掛ける。
「おっ、もしかして若月、スクールアイドルに少し興味を持ってるか?」
「は、はい。あの申請書に目を通してから、スクールアイドルがどのようなものなのか気になってしまいまして……」
なるほど……確かにあの申請書、スクールアイドルに興味を抱くような内容ではあったよな。若月も、もしかするとスクールアイドルを好きになってくれるかもしれないのか。そしたら、菜々ちゃんもこういう場で自分の趣味を話しやすくなるかもしれない……
「なるほどね……それなら、動画でスクールアイドルのライブ映像を見てみたらどうだ? 例えば、うちの同好会のライブ映像とか。菜々ちゃんだって、そんな風に知識を得た感じだろ?」
「えっ!? ……そ、そうですね。動画検索は知識を得る上では効率的なツールだと思います」
菜々ちゃんを少し動揺させちゃうようなフリだったが、生徒会長である彼女の例を示すことで説得性は上がるからな。
「なるほど……ならば、機会を見つけて見てみようと思います」
おっ、前向きに考えてくれてるようだ。これで同好会の知名度が少し上がってくれるかもしれないね。
……ん、随分喋り込んじゃったな。邪魔だろうから、俺はここでこの場を去るとするか。
「おう……俺はそろそろ行くな? 仕事で忙しいだろうに、少し余計な話をしてしまったな、すまん」
「あっ、いえ……むしろ少し息抜きになりましたので助かりました」
「今度また手伝いに来てください! 高咲さんがいると仕事も早く終わりますし、楽しいので!」
「ちょっと、忙しいんだからそんなお願いしちゃダメでしょ! ……高咲さん、また会った時にはお話ししましょう!」
ふむ、若月にとって俺と話すのが息抜きになったなら良かった。
左月ちゃん、俺もまた生徒会の仕事を手伝いたい気持ちで一杯なのさ……まあただ右月ちゃんの言う通り、忙しいのは事実だから難しいんだよなぁ……でもいずれ、余裕ができたら行くことを考えよう。
「ははっ、それは時間と余裕があれば行こうと思ってるよ。あとそうだ、今度また書き直した申請書を提出しに行くからよろしくな。今度こそ文句なしの申請書を持って来るから」
俺は3人に自分の意向を伝え、さらに菜々ちゃん達へまた申請書を承認してもらうためにまた来ることを伝えた。
「えぇ、お待ちしてますよ」
それに対して、菜々ちゃんは微笑みを浮かべ、冷静な声色でそう返答してくれた。
「うむ。じゃあ失礼するよ」
そんな感じで俺は生徒会室を後にし、午後の練習が始まる同好会の部室へ戻った。
今回はここまで!
この話で明かされたように、原作でも登場する生徒会副会長について、この度名前をつけました! 若月綾音ちゃんということで、個人的にしっくりくる名前になったかと思います!
そして左月ちゃんと右月ちゃんに関して、原作では名前が明かされなかったのですが、見た目がほぼ同じだったのでこの物語ではそう名付けることにしました! この3人は今後度々出てくると思うので、よろしくお願いします!
後書きが長くなってしまうので、ではまた次回!
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