高咲兄妹とスクールアイドルの輝き   作:Ym.S

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どうも!
第75話です!
では早速、スターティン!


第75話 先輩と後輩

 

 

「ふう……なんとか初日の講習を乗り切ったか」

 

 

 はぁ、一休み……あっ、どうも。高咲徹だ。

 

 教壇の上で淡々と問題の解説をする先生の声に耳を傾けながら、自分が書いた答案用紙に丸つけとメモを書いていると、授業終了のチャイムが鳴り、先生も終わりの合図とともに教室を去っていった。

 

 

 夏休みもまだ序盤。俺たち3年生は、受験対策のための講習を受けていて、今日はその初日だ。

 

 色々過去問を解いていく内容なのだが、まあ様々なレベルの問題が存在してなかなか面白い。解かなかった問題もあるから、そこら辺復習して習得しなければ……

 

 

 ───てか、それも大事だが今の俺はもっと気にすべきことがあるな。この後色々やらなきゃいけないことがあるのだから……

 

 

「うぃっす、お疲れ様! 長かったね〜」

 

 

 一人考え事をしていると、後ろからいつもの調子で親友の瑞翔(なおと)が俺の肩を叩きながら声を掛けてきた。

 

 

「あぁ、そうだな……」

 

 

 しかし、俺はこの後のことを気にするあまり、彼に空返事をしてしまっていた。

 

 

「……ちょっとちょっと、僕の話聞いてる?」

 

「……ん? あぁ、ごめん。少し考え事をしてた」

 

 

 目の前でフィンガースナップ、いわゆる指パッチンをやられてやっと俺は我に返った。

 

 ……ダメだ。別に昨日徹夜した訳でもないし、今日は調子も悪くないのに……あまり考え込まないようにしなきゃ。

 

 すると、瑞翔は心配そうに様子を窺った。

 

 

「大丈夫〜? 夏休み前も悩んでたし……って、()()は解決したんだもんね?」

 

 

 瑞翔の言う()()というのは、俺がずっと一人で抱えていた過去の話だろう。

 

 

「あぁ、お陰様でな……瑞翔、あの時は本当にありがとう。今度ちゃんとお礼を返すよ」

 

 

 前にも言ったが、今俺がこうしていられるのは瑞翔のおかげだ。それがなければ、せつ菜ちゃんに自分がアレンジした曲を渡そうともしないし、家のキーボードに触れることもなかったのだ。

 

 

「いやぁそんな、あれはただ自論を述べただけだよ。でも、それがてっちゃんの役に立ってくれたのなら良かった」

 

 

 瑞翔は少し照れながらも、安心したような表情を浮かべていた。

 

 

「でもお礼が今度ってね……今日じゃダメなのかなぁ?」

 

 

 すると、悪戯げにニヤニヤしながらそう訊いてきた。

 

 ……本当は今日にでも何かしてあげたいのたが、今日は無理なんだよなぁ……

 

「えっと、それは……すまん」

 

「アッハハ、なんて冗談冗談! もしかして、今日は忙しい感じだったり?」

 

 

 いや冗談かい。無駄に焦ってしまったじゃないか……

 

 だが、そこで俺が今日忙しいことを推察できるのは、流石だな。

 

 

「あぁ、実はな……東雲と藤黄の人達とちょっと会う約束をしてるんだ」

 

 

 そう、この後近くのファミレスで同好会のメンバーと共に、東雲学院、藤黄学園のスクールアイドルのリーダー達との面会があるのだ。そこで侑が提案したあのスクールアイドルフェスティバルについて話して、参加するかどうかを聞く予定だ。

 

 

「東雲に藤黄……どっちも女子校じゃん!? えっ、何それむっちゃ気になるなぁ……」

 

「いや、気になるところそこかい……」

 

 

 相変わらず瑞翔は女の子が絡む話になると妙に突っかかってくるんだよなぁ……

 

「それに、確かどっちもスクールアイドルで有名だよね……もしかしてそれ関係?」

 

「まあそんなところ。この後やるイベントについて話すのさ」

 

 

 そうか……スクールアイドルをよく知っていない彼でも、東雲と藤黄にスクールアイドルがいることは認知してるんだな。

 

 俺達も今後活動し続ければ、この虹ヶ咲にスクールアイドルがいるってことも認知されるようになるのかね。

 

 

「ふーん、なるほどねー……てっちゃん大分忙しい感じなんだ? あんまり根をつめないようにしてよ。また体調崩したら僕が困るんだからね?」

 

 

 瑞翔はそう俺に釘を刺した。

 

 そこら辺は俺も気をつけなければならないな。作曲を克服しようとするのだって、スクールアイドルフェスティバルを最高の祭典にするのだって、俺にとっては初めての試みだ。

 

 初めての試みには何かしらミスが伴うに違いない。それで身体を壊すのは何としても避けたい、その想いは俺も持っている。

 

 しかし、瑞翔がそんないつも通りの表情で心配とか口にするなんて……な。

 

 

「あぁ、それは承知してるさ……てか、瑞翔の場合は現代文と古典を教えるやつが居なくなるからってだけだろ?」

 

「あっ、バレた?」

 

「はぁ……お前ってやつは……」

 

 

 やっぱりかよ……瑞翔ってマジで心配してる時は声色が明らかに変わるんだよ。この間がそうだったからな。

 

 

「すみませーん! 高咲徹くんは居ますか!?」

 

 

 すると、教室の外からハキハキとした声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

 この声はまさか……と思いその先を見ると、予想通り妹の侑だった。あと、隣には歩夢ちゃんもいた。

 

 俺は席を立ち、 彼女達の元へ向かう。

 

 

「はいはーい……何か用か、侑?」

 

「あっ、お兄ちゃん! 瑞翔先輩っている?」

 

「瑞翔、か……?」

 

 

 まさか侑の口から彼の名前が出てくるとは、想定もしていなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「瑞翔。紹介するが、この2人が俺の妹と幼馴染だ」

 

「はい、2年の高咲侑といいます!」

 

「同じく、2年の上原歩夢です……よろしくお願いします!」

 

 

 場所を中庭に移して、俺と侑、歩夢ちゃん、そして瑞翔が共にベンチに座っている。

 

 ハキハキとした口調の侑と、少し緊張気味の歩夢ちゃんが自己紹介をしてくれた。

 

 それで、瑞翔の返答がすぐに来るはずなのだが……

 

 

「……」

 

 

 瑞翔はなぜか口をポカンと開いて黙ったままだ。

 

 

「……ん? おい瑞翔、2人が自己紹介してるんだから、ちゃんと返事しなきゃ……」

 

「……ちょっとこっち来て」

 

 

 何か言わんのかとばかりに声を掛けると、瑞翔は俺の手を引っ張って近くの校舎まで俺を侑達から遠ざけるように移動させた。

 

 彼の表情は、何故か穏やかなものではなかった。

 

 

「おいおい、どうしたんだ。そんな険しい顔して……?」

 

 

 俺がそう問いかけると、瑞翔は少し一呼吸置いてから、控えめの声量で話し始めた。

 

 

「……なあてっちゃん。てっちゃんは、こんなに可愛い子達が妹と幼馴染なの?」

 

「……えっ?」

 

 

 彼の予想だにしない返答に、戸惑いを隠せない俺。

 

 いや、確かにあの2人が可愛いことはもちろんその通りだし、普遍的な真理であるのは周知のことだが……そんな真剣な顔をして言うことか!?

 

 

「いやはや、てっちゃんの妹だから多分顔が良いんだろうなぁとは思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったよ!? 何、どっちも美形の兄妹って訳なの!?」

 

「いやちょっ、落ち着けって……?」

 

 

 瑞翔ってこんなにテンション上がることあったっけ……? 女の子の話になると少しテンション上がるのは分かってたが……これが瑞翔の本気ってやつか……?

 

 

「……それに極めつけはもう一人のあの子さ。幼馴染の……上原ちゃん、だよね?」

 

「あ、あぁ……そうだが」

 

 

 上原ちゃん、な……瑞翔は後輩を苗字にちゃん付けしていてな、なかなか珍しいタイプだなと思うところではある。

 

 

「だよね……率直に聞きたいんだけど」

 

 

 おいおい、今度は何を言うつもりだ……?

 

 

 

 

「……馴れ初めはどんな感じだったの!?」

 

「……はい?」

 

 

 な、馴れ初め……? つまり、俺と歩夢ちゃんが仲良くなったきっかけとか、そういうことか?

 

 

「なんでそんな事を聞くのか?」

 

「いやいや、あんなお淑やかで綺麗な女の子と知り合いだっていうんだから、気になるに決まってるでしょ!!」

 

「えぇ……」

 

 

 これにはもう困惑するしかない。もちろん、お淑やかなのはその通りだ。全力で肯定するが……

 

 

「……てか、二人を置いてけぼりにしてるんだぞ。いい加減戻ってくれ」

 

 

 侑達が瑞翔に用事があることを忘れてはならないし、これ以上この状態でいられるとなんだか不味い気がするしな……

 

 

「あぁ、確かに……それはいけないね。でも後でまたてっちゃんには一対一で問い詰めるから、覚えといてよ?」

 

 

 覚えておきません。

 

 

「おまたせ〜! 二人ともごめんね、置いてけぼりにしちゃって」

 

 

 改めて、ベンチに座る侑達のところへ戻った。

 

 

「あ、いえいえ! 何かお兄ちゃんと話し合ってたんですか?」

 

「うん、まあそんなところだよ。それで、お礼っていうのはなんのことかな?」

 

 

 瑞翔がそう問いかける。すると、なぜ彼のもとに来たのかについて侑が説明し始めた。

 

 

「あの……私達、スクールアイドル同好会の活動で合宿に行ったんですが、実はその時にお兄ちゃんが辛い過去を明かしてくれて……その時、きっかけをくれたのが瑞翔先輩だって、お兄ちゃんが話してくれたんです。だから、瑞翔先輩に感謝を伝えたくて……妹である私でも知らなかったことを知るきっかけを下さって、ありがとうございました!」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 

 侑と歩夢ちゃんはベンチを立ち、瑞翔に向かって一礼する。

 

 2人とも……そういうことだったんだな。

 

 

「……そっか。僕は全然大したことやってないけど、上手くいってくれたようで僕も安心してるよ」

 

 

 瑞翔は、今までののほほんとした様子からは少し変わって暖かくて優しい表情になっていた。

 

「そんな! 瑞翔先輩がお兄ちゃんの友達でいてくれてよかったと思ってますよ! あと、それで私、何か先輩に出来ることないかなと考えまして……!」

 

「あぁ、それは大丈夫だよ。何か物が欲しくてやった訳じゃないからね」

 

「えっ? でも……」

 

 

 驚きと困惑の表情を浮かべる侑。

 

 それに構わず、瑞翔は話を続ける。

 

 

「ほら、こういうのって言葉で伝えられることが一番心に届くからさ。その言葉を聞けただけでも僕は嬉しいし、これ以上は望まないよ? それに……」

 

 

 すると、瑞翔は侑の隣に座り、胸に拳を当てた。

 

「後輩に何かしてもらうなんて、君達の先輩だっていう僕の威厳が損なわれちゃうからね! んー、そうだなぁ……君達の姿を拝むことができたし、それが代わりじゃダメかな?」

 

「もう、何ですかそれは……そこまでおっしゃるのなら……ありがとうございます」

 

 

 瑞翔の妙な説得に、笑みを浮かべる侑。

 

 

 ……なんだろう、本来なら瑞翔に心から感謝すべきなのに、こんなにモヤモヤするのは……

 

 

「……? 徹さん、どうしたの?」

 

「……ん、なんでもない」

 

 

 歩夢ちゃんにも心配されちまった。表情にも出てたか。

 

 まさか俺が瑞翔に……嫉妬? いやいや、嫉妬なんかはしないわ。

 

 

「よし、これで一件落着! ……あっ、今日は同好会が忙しいんだっけ。大変だね〜」

 

「あっ、よくご存知ですね……って、あっ!」

 

 

 瑞翔と侑が会話してると、急に侑が大きな声を出した。

 

 

「どうしたんだ、侑?」

 

「……ごめんなさい先輩、また今度色々お話ししましょう!」

 

 

 すると、侑は一言そう述べてから、普通科の校舎の方へ走りだした。

 

 

「どうした、何か困ってたら手伝うぞ!?」

 

「大丈夫ー! お兄ちゃんは気にしないでー!!」

 

 

 走る侑に届くように大声で訊くと、侑は叫び気味にそう返答した。

 

 この後は侑もあの面会に参加するからその事とか……いや、それとも授業関係でやるべきことがあるのか……

 

 

「あっ……行っちゃったね。わざわざ僕のところまで来てくれたお礼を言いたかったし、もう少し話したかったけれども……」

 

 

 瑞翔は少し残念がっている様子だ。ただそれも束の間、今度は歩夢ちゃんの方を向いて声を掛けた。

 

 

「上原ちゃんも、わざわざ来てくれてありがとう。またどこかでゆっくり話せるといいね」

 

「あっ、いえいえ! じゃあ、私はこれで失礼します……」

 

 

 こうして歩夢ちゃんはその場を去ろうとするが、一度振り返り、瑞翔に一言声を掛けた。

 

 

「あと最後にその……徹さんを、よろしくお願いします……!」

 

「……? ……うん、心得たよ」

 

 

 俺……? 

 

 一瞬疑問符が浮かんだが、単純に瑞翔が俺の友達だから、だろうか。あまり深い意味はないのかもしれない。

 

 

「あの子達、本当にいい子だね」

 

「……あぁ。あの二人ほど、年が近い子で信頼を置ける子はいないと思う」

 

 

 ホント、今じゃ友達も増えたが、あの2人はやっぱり特別なんだよな。

 

 

「そうなんだ……ねぇてっちゃん、一つ気になったんだけど、いいかな?」

 

 

 気になったこと……何だろうか? もしや、またさっきみたいなくだらないことじゃないよな?

 

 そう思いながら彼に頷き返した。

 

 

「上原ちゃんのことなんだけど……てっちゃんのこと『さん』付けで呼んでたよね? あれは昔からなの?」

 

 

 ……なるほど、そういうことか。

 

 

「あー……いや、昔はお互いタメ口だった。歩夢ちゃんも、瑞翔と同じく『てっちゃん』って読んでくれてたんだ」

 

 

 そういや、急に俺のことをさん付けした時はとても驚いたよな……侑もかなり驚いてたし……あれからもう3年以上経ってるのか。

 

 

「ほー、そうなんだ……どうしてかは聞いたことはないの?」

 

「うーん……『どうしてか』っていうのは聞いたことがないかもしれない。歩夢ちゃん、思春期だったりとか色々あるのかなって思ってたから……」

 

 

 まあ、高校生になる日もそう遠くない、そんな時期の話だったからな。他に理由があるかといったら……何だろうか……

 

 

「うーん、なるほどね……僕の気のせいかもね」

 

「……?」

 

 

 今、瑞翔が何か言って───

 

 

 

 

「あっ、そういえばさ……さっき言ったこと、忘れてないよね?」

 

「えっ? ……あっ」

 

 

 ……ヤバい、侑と歩夢ちゃんの関係について問いただされる前に撤退しなければ。

 

 

「お、おっとこれは、もう俺も準備して移動しなきゃいけない時間ダナー……じゃあ、また明日な。バイバーイ!!」

 

「あっ、ちょっと! 逃げるなー!!」

 

 

 俺は、情報処理学科の校舎へ突っ走った。荷物を持って、侑とせつ菜ちゃんと合流しなければ……

 

 だが、この時瑞翔が呟いたことについて少しでも考えなかったことが、俺の過ちであった。

 

 

 




今回はここまで!
久々に徹くんの親友・瑞翔くんが登場しました!
合宿前の時以来ですね。彼は今後、同好会に関わってくるかもしれません……
ではまた次回!
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