第78話です。
では早速どうぞ。
皆さんどうも。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会でマネージャーを務める、高咲徹だ。
先日、校内に設置されたかすみんBOXを回収して中身を確認したのだが……そこにはなんと大量の意見書が溢れていたんだ。
それらを読んでいくと、具体的なライブについての希望から、同好会に対する熱意が綴られたいわゆるファンレターのようなものまで……俺たちが想定していた量を優に超えたメッセージが届いていた。
一体何故こんなに反響があるのか全く心当たりがなかった俺達だったが、どうやら璃奈ちゃんがクラスメイトにスクールアイドルフェスティバルについて話してくれて、その子達が情報を拡散してくれたらしい。実際、SNSにはスクールアイドルフェスティバルが開催されることが外部にまで伝わっていて、『楽しみ!』『凄い盛り上がりそう!』といった評判が広まっていることも確認できた。
これは璃奈ちゃんのファインプレーだ。俺も誰かに話そうかと思ったが、まだ開催が確定してないが故に軽率に話すべきではないとして出来なかった。それでも彼女は、スクールアイドルフェスティバルが開催されることを確信した上で、行動したのだ。それだけ積極的に行動できて……ホント、成長してるな。
そして、この意見書が集まったのを鑑みた侑は、一つある提案をした。
それは……みんなの希望するステージ全部を使ってフェスティバルを開催しようというものだった。
俺は実現性が薄いだろうと頭の中で除外していた案だったが、『スクールアイドル同好会に協力したい!』という声も多くあったのなら、みんなの力を借りることが出来る。ならば、この案も実現できるとみんなは確信していた。
───そのような経緯で、俺達はついに生徒会へ申請書を提出する時がやってきた。
「お願いします!」
両手で丁寧に渡された申請書を、生徒会副会長の若月が慎重に読み進めていく。
「……全体的には悪くないですね。必要事項も今回はほとんどクリアしています」
「「……!」」
よし……どうやら
「……ただ、開催場所については何も記載がありません」
ここまでは想定通り。ここからが勝負だ……侑、頼んだぞ。
「それについてですが! ……このスクールアイドルフェスティバルは、開催場所を一つに絞りません。全部でやります!」
「全部……? それはどういうことですか?」
予想だにしない言葉に若月は首を傾げる。
「お兄ちゃん、お願い」
「了解」
声を潜ませてそう俺に伝える。それを受け、俺はバッグからA4サイズの紙を取り出し、生徒会室のテーブルに広げた。
「申請書に書き切れないほどの数なので書けなかったのですが、私達同好会でリストアップしたこれらの候補地全てで開催しようと画策しているところです。例えばこの会場では────」
テーブルが半分以上埋まるほどの大きさのため、俺が分かりやすいように場所を指差しながら説明する。
これには同好会のみんなが候補として挙げたライブ会場全てを載せている。申請書には会場の記入欄が大体三行分くらいしかなかった。だからここに十個以上あるライブ会場の候補を書き記すには、箇条書きは愚か、詰めて書いたって足りない。会場欄を空白にせざるを得なかったのだ。
まあそもそも、こんなに広い範囲である一つの部活がイベントを行うなんて前代未聞だろう。
「こんなに……確かに、コストの面では実現不可能ではありません。しかし、スクールアイドル同好会のためにそれだけの経費を与えるのは、他の部や同好会から反発を受けることも考えられますので……」
若月達は興味津々でその書面を見るが……まあ、そこは引っかかるよな。
「そのことなら心配ありません! これを見てください!!」
すると、ここでかすみちゃんが意気揚々と意見書が山盛りされたかすみんBOXをドスンと音を立ててテーブルに置いた。
「これは……?」
「みんなの声が聞きたくて、みんなに意見を聞いてみたんです! そしたら、こんなに集まったんです!」
「こんなに……それは、凄いですね」
この光景には、普段冷静な生徒会の子達も驚きを隠せないようだ。そんな中、侑は彼女達への説得を続ける。
「はい! それに、私達に協力的な部や同好会もいるんです! だから……いけると思います!」
「なるほど……」
実際にBOXの中に入った意見書を取り出し、中身を読みながら頷く生徒会の子達。一方、生徒会長の菜々ちゃんは落ち着いた様子で会長席に座って見守っている。まあ、実は落ち着いてるように見えて内心そわそわしてたりするかもしれない。
そう考えていると、生徒会書記の左月と右月がほぼ同時に眼鏡の端をクイっと触り、それぞれこう呟いた。
「……これなら、申し分もありませんね」
「そうですね。承認するには十分な内容です」
おっ、これは……
「……生徒会長、私からも何も言うことはありません。如何でしょうか?」
「「……!!」」
副会長も了承してくれれば、あとは菜々ちゃんが判子を押してくれれば……
「……とても素晴らしい案だと思います。この申請書、承認します」
「「ありがとうございます!!」」
生徒会室に承認の判子がドスンと響くのと同時に、侑とかすみちゃんは喜びを分かち合った。
……ふう、これでやっと第一段階達成だな。これからが正念場だ。
「よし……ありがとな、みんな」
「あっ、いえいえ……それにしても、先輩に敬語で接されるとは思ってもなくてびっくりしました」
……あっ、気づかれたか。でも、若月達が俺の敬語を聞くのは初めてだったな。
「あぁ……まあ、今回は俺がお願いする立場だからな。礼儀を持つべきだろうと思って敬語で話したが……変だったか?」
何だろうな、俺が年上だからといってこの場で菜々ちゃん達にタメ口を使うのは違うだろうと思うのさ。まあ、年下の子にも敬語を使うというのは意外かもしれないな。
「そんなことはないです! ただ、ちょっと新鮮だったと言いますか……」
「あー、なるほどな」
少し目を逸らしながら眼鏡のブリッジに手を当てながらそう答える若月。
……流石に先輩から敬語を使われるのはむず痒かっただろうか。
「……そういえば、前に先輩がおすすめしてたスクールアイドル同好会の動画、一通り見てみました」
すると、若月は少し柔らかな笑顔でそう話してきた。
「おっ、マジか! どうだったか?」
純粋に感想が気になったので聞いてみると……
「それが……私、スクールアイドルにハマってしまって……」
……おぉ、まさかハマるまでいっちゃったか。これは嬉しいことを聞いたな。
「えっ、副会長もスクールアイドルを好きになっちゃったの!? うんうん、その気持ち分かるよ〜! それで、誰が推しとかあるの!?」
すると、いつの間にか俺達の会話を聞いていた侑が若月の隣に座り、距離をグイグイと詰めながらそう訊いていた。
おいおい、興奮する気持ちも分かるが、若月も恥ずかしそうに目を逸らしてるじゃないか───と思っていると……
「──優木、せつ菜ちゃん……」
「……ほほう」
侑への返答として答えたその名前……
「……!?」
実は本人がここにいるんだよなぁ……今は中川菜々、なんだが。
……菜々ちゃん、驚きや嬉しさなど色々感情が湧き上がってるかもしれないが、ここは何とか抑えてくれ……
「せつ菜ちゃんか〜! いいね、私も好きだよ!」
「……でも! 私はまだ好きになったばかりで、『好き』っていうのは烏滸がましいというか……!」
……ふふっ。もうそう思えてる時点で、若月は熱狂的なファンになる第一歩を踏んでるじゃないか。
「いやいや、そんなことはないと思うな。きっとせつ菜ちゃんもそれ聞いたら喜ぶぞ?」
「先輩……そうですかね」
「そ、そうです! せつ菜さんだって、貴方に応援されることを望んでいるはずですから!」
えちょっ、菜々ちゃん!? そこで口挟んだら誤解……というかバレるリスクが高くなるぞ!?
まあ確かにこんな熱意を持っているのを聞いてしまったらそうなっちゃうのも無理はないが……!
「会長……もしかして……!」
……あぁ、マズい。彼女は賢くて鋭いだろうから、バレてしまうのも間違いなしか……
「会長も、せつ菜ちゃんのファンなんですか!?」
「……えっ?」
……いやそう来たか。というか、若月ってそんなテンション高くなるんだな。
まあこんな訳で、若月と菜々ちゃんは同じせつ菜ちゃん推しの仲間として仲良くなったようだ。あと、左月ちゃんと右月ちゃんも少しスクールアイドルに興味があるようだから、二人にも同好会のMVをおすすめしてきた感じだ。
これから、夢のスクールアイドルフェスティバル開催への道が始まる。そんな時だった。
────────────────────
「……よし、今日も色々調べるとするか」
丁度太陽が沈み、外は真っ暗で夜が更けた時間帯だ。
俺は自室にあるパソコンの前に座り、パソコンを起動している。
最近、この時間帯はピアノに触れる時間にしているが、今日は少し趣向を変えてみようと思う。
俺の目指す目標の一つに、世に曲を出せるほどの作曲が出来るようになることがある。しかし、作曲をするにはメロディのインスピレーションが欠かせない。
つまり、作曲活動を復活するためにも、色んな曲を聞いてメロディーの引き出しを増やす必要があるのだ。
俺は元々、J-POP系とクラシックの曲しか触れてこなかった。そこで今日は、海外で生まれた楽曲、所謂洋楽について調べて聴いてみようと思う。きっと洋楽にしかないメロディラインや展開があるに違いない。
……よし、パソコンの起動が終わったから調べてみよう。
「洋楽のトレンドって今どうなってるんだ……? おっ、出た。この曲は……」
手っ取り早く洋楽で一番流行っている曲を調べてみたが……この曲、テレビで話題になってて見たことがある曲だ。聞き流してたからどんな感じだったかは全然覚えてないが……よし、聞いてみよう。
そうして動画サイトに曲名を打ち込み、一度通しでその曲を聴いてみる。
「……おぉ、オシャレでスタイリッシュな曲だ」
聴いてみると、やはりJ-POPとは違う、落ち着いたメロディラインでありながら、心にグッと何かが来るような曲だった。なかなか新鮮な気分だが、なかなか好きかもしれない。
こういう時は誰が作曲したかを見るのが俺の中のセオリーだ。
曲の概要欄に──あった、Taylorさんという作曲家さんだ。この人が作ってる曲を調べるために、色々情報が載っているサイトを調べてみた。
すると、なかなか面白い情報を見つけた。
「ほう……家族揃って音楽家か」
どうやら世の中では『Taylor家』として有名らしい。彼のお爺さんは指揮者で、よく見れば昔見たクラシックの曲の動画で指揮者をやっていた人だった。そして奥さんはオペラ歌手、長女は彼と同じく作曲家らしい。
凄い……まさに音楽一家って感じだ。
しかも、次女が作曲家デビュー間近だという話も載っていた。
しかし俺はある事に気づいた。Taylorさんの奥さんの歳、長女の歳を考えれば、その次女が成人しているほどの歳になっているとは思えないのだ。つまり───
「……まだ未成年じゃないか!?」
おっと、声のボリュームを下げなければ……
そしてなんなら、俺より年下の可能性が濃厚だ。予想が正しければ、俺が作曲を始めた年、中3くらいだろうか。
まあ、そんななんの根拠もない予想がジャストで当たるはずがないが……
「俺と同じタイミングくらいで世界的な作曲家デビューか……途轍もない天才なんだろうな」
元々の環境が大きく異なるが、彼女に世界に楽曲を届けられるほどの才能があることは間違いないだろう。
俺に、作曲する才能は───
いや、あると信じて進むしかないじゃないか。そうやって進んでいった先に何か素晴らしいことが待っている、そうに違いない……
こんな思考をしてしまうのも、最近の疲れが溜まってるからだろうか? ならば、今日は早めに休むべきかな。
最近は毎日が楽しい。勿論考えることは沢山あって疲れるが、その疲れは必ずしもネガティブなものではない。作曲だって、日に日にスキルを得ている実感がある。そんな充実感を持てるのはいいことだろう。
「……さて、研究を進めるか」
「お兄ちゃん! 今大丈夫?」
作業に戻ろうとすると、部屋のドアからノックの音が聞こえたと同時に、侑が顔を出した。ただ、侑だけでなく……
「おう、いいぞ……って、歩夢ちゃん? ここに来るのは久々だな」
「こ、こんばんは。今日は、侑ちゃんから話があると聞いて来ました……」
なんと、歩夢ちゃんもいたのだ。ここに来るのはいつ以来だろうか。隣同士だからよくうちには遊びに来ていたが、俺の部屋に来るのはとても久々だ。
「実はそのことなんだけど、お兄ちゃんにも聞いて欲しいんだ」
「ほう……随分畏まっているが、どうしたんだ?」
一体話とは何だろうか……?
「うん……あっでもその前に、一旦ピアノ借りていい?」
俺のピアノ……? あっ、もしかしてついに歩夢ちゃんにピアノの腕を見せようとしてるのか? なら───
「お、おう。いい……」
そう言いかけた瞬間だった。
「───ねぇ。もしかしてそれって、ピアノを弾き始めたったこと?」
「「……えっ?」」
歩夢ちゃんから聞いたこともない怒っているかのような声に、場の空気が一気冷えた。
────そこからのことは、俺には何が起こっているのか分からなかった。ただ分かったことは、歩夢ちゃんが『感情』を見せた事だ。そして……
「どうしてっ……」
俺のベッドに顔を埋め、自分を責めるようなことを言っていた歩夢ちゃんの姿の残像が、俺の目に焼き付いた。
──────スクールアイドルフェスティバルの開催に向けて、
灯台下暗し
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