第82話です!
では早速どうぞ。
「では、一旦まずステージの飾り付けをしてみましょう!」
「おっけー!」
「おう、了解」
お台場の海沿いに位置するとある公園。俺と侑は、今日子ちゃんを始めとした歩夢ちゃんをサポートする3人のメンバーとともに、これからついにライブステージを試しにセッティングしてみるところだ。
数日前、歩夢ちゃんをサポートしてくれている今日子ちゃん達からステージ作りに関する相談を受けた……いや、そういうよりかは歩夢ちゃんの元気がないことを気にした彼女達が俺達に協力を求めた、と言った方が正しい。
ただ、その元気がない原因が俺達であるという……今日子ちゃん達を心配させたのも俺達の責任だから、凄く複雑な心境ながら引き受けたんだよな……
でもだからこそ、俺達は歩夢ちゃんを笑顔にさせるため、精一杯ステージ作りの構想に集中してここまで来れた。あとは形にするのみ……!
……よし、気合いを入れたところで、花を飾っていく作業を始めよう。
「それにしても、みんなお花のチョイス良いね! 選ぶのにどれくらい時間かけた?」
「えっと……一時間半くらいですかね! ずっと花屋さんで選んでました!」
花壇を置いていきながら侑は今日子ちゃんにそう訊くと、自信満々にそう答えた。
一時間半……花屋さんにそんなにいる機会なんてなかなかないだろうな。
「そうなんですよ〜……今日子ちゃんったら、花言葉とか調べたりしてずっとその場を離れなくて……花屋の店主さんに心配されてたんですよ」
「おぉ……流石、歩夢ちゃんのファンだな」
「当たり前です!! 歩夢ちゃんは私達にとって女神……希望と勇気を与えてくれる存在なんですから!」
希望と勇気……良いな、その言葉。
この子達も、同好会のみんなから良い影響を受けているんだな。自分自身が何かした訳でもないが、なんだか嬉しいな。
「もう今日子ちゃん落ち着いて……そういえば、お二方の花もとっても良かったですよ!」
「あぁ、これね〜……この花、とっても歩夢みたいだなぁって……」
侑が指差したその花は、鮮やかなピンク色をしたガーベラだった。
侑と一緒に花屋さんに行った時、彼女も悩みに悩んだ挙句、このガーベラを選んでいた。彼女が言うに、歩夢ちゃんのイメージカラーと合っている上に、花言葉も良いらしい。
ガーベラの花言葉……正直俺は未だに知らない。花言葉自体まだあまり学んでないからな……
「確かに……色もそうですし、凄く健気ですね……!」
「だな……そういえば花言葉も考えて決めたって言ってたが、何だったんだっけか?」
一度訊いて教えてもらえなかったものの、口が滑って言ってくれる可能性を見込んでもう一度訊いてみる。
「もー、だからあの時言ったでしょ〜? 歩夢に明かすまでヒミツだって!」
「ははっ、そうか……流れで話してくれるかと思ったがねぇ……」
「ふふっ、私はそう甘くないんだからね!」
侑の口は思った以上に固かった……
こうなったら自分で調べてしまえば良い……かもしれないが、ヒミツにされている花言葉を調べることは良くないとどこかで聞いたことがあるのでやめている。
「それより、お兄ちゃんの花も良い感じだったよね! 見せて見せて!」
すると、今度は俺が選んだ花についての話題にすり替えた。
「おう……これだ」
そうして俺が指差した先には─────
「
明るい黄色の蒲公英があった。
やっぱり、眩しく照らす太陽に伸びるように咲く蒲公英は良いな。
「ちなみに、この花にした理由はあるんですか?」
「あぁ、これはな……って、そうなると少し話が長くなるかもしれないが、いいか?」
俺の問いに、四人は縦に首を振る。
俺が歩夢ちゃんのステージに使う花としてこの花を選んだ理由は、俺がまだ幼い歳の時の出来事が関係している。
「ありがとう。俺達が小学校低学年の頃の話になるんだが、侑が熱で寝込んでいる時に、歩夢ちゃんと二人で侑のためにお花を積みに行った時なんだが……」
「あ、その時か〜! 懐かしいなぁ……」
侑も思い出したようで、しみじみと懐かしんでいるようだ。そう考えるた、あれからもう十年経とうとしてるのか……時はあっという間に流れるな。
「だな。それで、俺達が野原を歩いてた時に、俺は不注意で危うく足元の花を踏み潰しそうになったんだ。でも、歩夢ちゃんが声を掛けてくれたお陰で、間一髪踏み潰すことを逃れたんだ」
「もー、お兄ちゃんはおっちょこちょいなんだから〜」
「おいこらそこ、茶々を入れない」
オイオイ、人が真面目に話しているのに弄ってきやがるぞ……まあ、実際あの頃の俺はおっちょこちょいで頼りなかったもんだから間違ってはいない。
「……その花が、蒲公英だったんだ。歩夢ちゃんはその蒲公英を笑顔で眺めててたのが印象的でな……それが決め手だ」
「なるほど! 歩夢ちゃんと徹先輩にとって思い出の花ってことですね!」
思い出……ははっ、その通りだな。俺にとっても思い出す度に情けなくなるほど、良い思い出とは言えないが、歩夢ちゃんと過ごす日々の一部であり────大切な思い出だ。
「まあな。でももちろん、花言葉も考慮したぞ? 歩夢ちゃんらしい花言葉だ」
「蒲公英の花言葉……あぁ、なるほどね」
「……侑は分かるんだな」
……やっぱり、世の中の女性は花言葉に通じているのだろうか? 女性の中では、花言葉は常識なのだろうか?
俺には分からない世界だなぁ……
「それは、ね? ふふっ、お兄ちゃんこそガーベラの花言葉を知らないなんてねぇ〜」
「……侑、手が止まってるぞ。ほら、このままだと日が暮れるぞ?」
「はいは〜い」
全く、最近兄である俺を弄ることが多くなってる気がするが……まあ、そんな侑も侑だな。
────────────────────
「……これで、完成ですね」
今日子ちゃんが、完成したステージを見てしみじみととそう呟いた。
あれから数時間が経ち、気がつけば夕焼けとなる時刻になっていた。
「だな。あとは歩夢ちゃんをここに連れて来ればいいのか」
完成したステージを本人に見てもらう為、練習が終わっているであろう歩夢ちゃんに連絡して、こちらから迎えに行くと言った手順を踏むべきなのだが……
「……どっちがメッセ送る?」
「……侑、やるか?」
「うー……お兄ちゃんこそ、やらないの?」
「え、俺は……うーん……」
お互い譲り合いの応酬になってしまい、一向に話が進まなくなってしまっている。
「もう、お二人とも顔が強張ってますよ。私達以上に緊張してるじゃないですか」
「「だ、だって……」」
歩夢ちゃんと仲直りするための第一歩に過ぎないことをしようとしてる訳だが……その一歩が俺達にとっては大きな一歩で、慎重になり過ぎちゃってるんだよな……
このままではどうしようもない……と思ったその時だった────
「……ん? 皆さん、あの姿って……!?」
今日子ちゃんが驚いた様子で見つめる先を見ると、そこには一生懸命こちらに走ってくる歩夢ちゃんが遠くに見えた。どうしてここに……?
確かに、歩夢ちゃんにはそれぞれどこで作業をしているかを話しておいてはいた。だから、俺達がここにいると思って来てくれたのだろうか?
だったら……
「……侑、お前の方が歩夢ちゃんとは付き合いが長いんだ。まず先に話して来い」
「……! ……うん」
侑の肩に手を置いて語りかけると、彼女は覚悟が滲んだ逞しい表情で頷いた。
「はぁ、はぁ……」
「歩夢!」
全力で疾走してきた歩夢ちゃんを、侑が側に寄ってきて出迎える。
「侑ちゃん……あのね、私……!」
「出来たよ、歩夢のステージ!」
歩夢ちゃんは何か言いたげなようだったが、侑がそう伝えて彼女をステージの目の前まで誘導する。
「うわぁ……!」
ステージの目の前まで来た瞬間、歩夢ちゃんは感嘆の声を上げ、夢中でステージを眺めている。
歩夢ちゃんのためにみんなで作った、フラワーロード───今日子ちゃんを始めとした歩夢ちゃんをこよなく愛する三人の後輩、侑と俺が想いを込めて作り上げたライブステージだ。
「実は、3人から相談を受けてたんだ」
「歩夢ちゃん、最近元気なさそうでしたから……みんなで一つ一つ、気持ちを込めて作りました!」
「歩夢のイメージにぴったりだしね! ……花言葉もあるんだよ」
そう言うと、侑は今日子ちゃん達の方を見る。歩夢ちゃんもそれに合わせて彼女達を見る。
そこには、一人一人黄色いガーベラを両手で優しく握っている三人がいた。
「黄色いガーベラの花言葉は────『愛』……私達の、気持ちです!」
「こんな、私のために……」
少し申し訳なさそうに俯く歩夢ちゃん。
「……『こんな』じゃないよ?」
侑がそう問いかけたのを皮切りに、今日子ちゃん達が歩夢ちゃんに想いを伝えていく。
「可愛くて、純粋で───」
「いつも頑張っていて───」
「私達は、そんな歩夢ちゃんが大好きなんです!」
三人が伝え切ると、歩夢ちゃんは幸せそうな笑顔を見せた。
「侑先輩と、徹先輩が作った花もあるんですよ!」
「えっ……?」
驚きの声を上げる歩夢ちゃん。侑は彼女の前へと踏み出し、後ろに隠していた花が、歩夢ちゃんの目の前に顔を出した。
「うわぁ……!」
鮮やかなピンク色で咲き誇るガーベラに、歩夢ちゃんは目を釘付けにされたようだ。
「綺麗……! 花言葉は───」
「……『変わらぬ想い』だよ」
「……!!」
歩夢ちゃんは目を見開いた。
「それだけは、変わらないってこと」
変わらぬ想い……二人の友情は幼稚園からずっと続いていて、高校二年生になって色々環境が変わり自分自身も変わった今でも、侑が歩夢ちゃんを想う気持ちは変わらないということだろう。
目に涙を溜めて幸せそうに微笑む歩夢ちゃんが、今度は俺の方を向いた。
「徹さんは……」
侑が一歩下がり、俺がその前に出た。そして、後ろに隠し持っていた花を彼女の前に表した。
「……これだよ」
「……! これって……」
思い当たりのあるような反応をした歩夢ちゃん。やっぱり……覚えててくれたか。
「そうだぞ。花言葉は──『真心の愛』だ」
「……っ!」
歩夢ちゃんは、俺が惨めでも、頼りなくても……俺に優しく接してくれて、支えてくれた。
その優しさは、何の偽りもない『真心』から来ているのだろうと気づいたのだ。昔からずっと───そうだった。
だから、歩夢ちゃんが『真心の愛』を与えてくれるように、俺も歩夢ちゃんに『真心の愛』を与えたい……歩夢ちゃんが困った時には側で支えられる、頼りになる人になりたい、と……
「───歩夢ちゃん。これからも、俺と仲良くしてくれるか?」
「……うん! っ……!」
「「うわっ!(うおっ!?) ……あ、歩夢(ちゃん)……?」」
えっ、歩夢ちゃん……今俺と侑の二人を一緒に抱き締めてくれているのか!?
横を覗くと、彼女の目元から涙が溢れていた。
あの時の涙とは違う───彼女の表情は、笑顔だった。
「「「あーっ! ずるい〜!!」」」
後ろから今日子ちゃん達三人組が混ぜろと言わんばかりに寄ってくる。
すると、歩夢ちゃんは全員を抱きしめるように手を広げ────
「……みんな、大好き!!」
嬉しさを発露したのだった。
────────────────────
「……もう、家に着いちゃったね」
「だな……」
「そうだね……」
俺達が作ったステージを、無事に歩夢ちゃんに喜んでもらえ、夜が更けた今、家の前の大きな階段の前にいる。
階段の足元を照らす光が重なり、その暖かい光が俺達を歓迎するかのように照らす。
普段ならこのままこの階段を上って家に帰るのだが……
「……歩夢。私、フェスティバル当日はやることいっぱいだから、歩夢のステージ、見られないと思うんだ……」
立ち止まり、少し寂しそうにそう話す侑。
歩夢ちゃんの思いを知っているから、大切な幼馴染のステージを見ることが叶わないことが少し悲しいのだろう。
「そっか……でも、侑ちゃんは他の場所で頑張ってるんだよね?」
「……! うん。バラバラだけど……想いは一つ」
歩夢ちゃんから放たれる逞しげな言葉に、俺達は驚いた。
どのようなきっかけがあったかは分からないが、歩夢ちゃんからそんな言葉を聞けるとは思わなかったなぁ……もし誰かが彼女を勇気づけてくれたのなら、その人に感謝しないといけないな。
「……私ね、音楽をやってみたいんだ。2学期になったら、音楽科に転科したいと思ってる」
「そうなんだ……」
そうか、音楽科に転科……えっ、転科!?
それは重大なカミングアウトだな……まあお互い悩みも晴れたし、そのことも後で話し合うとするか。
「私は……みんなの為に歌うよ」
「みんなのために……か」
歩夢ちゃんも……明確な目標を見つけたんだな。侑も歩夢ちゃんも凄いな。
……でも、俺も大きな目標を持ってるぞ。
「俺は……より多くの人の心を動かせるような曲を作るよ」
俺がそう二人に話すと、二人は優しく微笑んでくれた。
……俺は高咲家の長男。この三人の中では一番年上だ。
年上は年下の面倒を見て、年下の子達にとってのお手本であり続けるべきだ。誰にも醜い姿は見せてはいけない……そう思っていた。
でも、俺は途中で気付いた。例え情けなくて、悲しみに支配されている時があったとしても……それは仕方ないことであって、その時は仲間に頼って良いのだと。
それを、侑と歩夢ちゃんが教えてくれた。小さい頃から俺と沢山遊んで、その度沢山助けられたこの二人から───
「……ただ、こうして堂々としてられるのは、俺を励ましてくれた侑と……期待してくれた歩夢ちゃんのおかけだ。二人とも───今までありがとうな」
俺は、支えてくれる二人に感謝の意を伝えた。
「……! 私だって、こうして夢を見つけることが出来たのは、お兄ちゃんと歩夢のおかげだよ……二人とも、今までありがとう」
侑……ありがとうな。
「私も────スクールアイドルになるきっかけをくれた侑ちゃん……そして、いつでも優しく接してくれて、私に勇気をくれた徹さんに感謝してる……今まで、ありがとう」
歩夢ちゃん……勇気をくれたなんて、そんな大したことは出来てないと思うが……ありがとう。
すると、歩夢ちゃんは階段を駆け上がり、中ほどの踊り場に立った。
そして、俺達が贈ったピンクのガーベラと黄色い蒲公英を、彼女のお団子ヘアの側につけた。
そこから彼女は、歌って踊って─────その姿は、二人がスクールアイドルの道へと進む決意をしたあの時に重なった。
でも、あれから歩夢ちゃんは大きな成長を遂げた。その力強さと勇気が、今の歌と踊りから感じられた。
これからは、三人と共に支え合って────共に成長して行くよ。
友情は、順境と逆境を経験して、如何なる時も衰えない堅固なものになっていく。
次回で12話の内容が終わるかと思われます。ではまた次回!
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