第84話です!
では早速どうぞ!
「打ち合わせで忙しいのにごめんね、てっちゃん」
「ううん、大丈夫だぞ」
少し申し訳なさを滲ませながらそう言う歩夢ちゃん。
そんなに気を遣うことはないんだぞ。俺は歩夢ちゃんのお願いとあらば、どんな時どんな場所でも駆けつけるのだからな!
あっ、どうも。行動力オバケの高咲徹だ。
……いや、行動力オバケというのは愛ちゃんみたいな人のことをいうか。流石に愛ちゃんほど行動力はないなぁ……
まあそんなことはドブに捨てておいて、歩夢ちゃんが言った打ち合わせについて話そうか。
最近スクールアイドルフェスティバルの運営について、生徒会との打ち合わせがあり、俺は同好会側の代表者として出席をしている。
そこでは、ボランティアの人数配分や、各ライブにおける機材の予算についてなどを話し合っている。これらは生徒会だけでなく、このイベントを企画した団体である同好会の者が共有すべき内容である。
ちなみにそれらの話の中で、生徒会長である菜々ちゃんが当日運営に入ることが出来ないことが明らかになっている。そして、その補欠として俺がどうやら入ることになりそうだ。
まあ、彼女はスクールアイドルの優木せつ菜ちゃんであり、彼女がライブに全力を注いでいるその日に生徒会の仕事は出来ないだろう。これは仕方ないことだ。
ちなみに、俺が菜々ちゃんの代わりの役目をする訳ではなく、副会長の若月がする。つまり俺は、ただ補欠の役員といった立ち位置になる。流石に生徒会長の代わりが補欠だったら不味いしな。元生徒会長とはいえ……
……おっと、話が長くなっちまったな。そんな感じで打ち合わせに参加して昼休憩になっていたのだが、そこで歩夢ちゃんからメッセージを貰い、今こうして待ち合わせて同好会の部室に向かっている。
「なぁ、話があるって聞いたんだが、一体何なんだ?」
「ふふっ、それは部室に行ってから話すよ」
ふむ……今は秘密っていったところか。そうやって振る舞われると逆にその内容が気になってしまうのだが……
……もしや、ドッキリって可能性じゃないよな? 歩夢ちゃんに限ってそれはないと思うが、こういうのは裏がある可能性もあるし……
……お笑い芸人って、こういう時気付いてても予想してなかったかのようなリアクションをするんだよな? だったら、歩夢ちゃんには何も訊かずにわざとドッキリに嵌ってみるか……いや、俺はお笑い芸人じゃなくて学生だし、まだドッキリなのかも分からんが。
「……もしかして、ドッキリ仕掛けられてるとか思ってる?」
「……!? な、何故分かる……?」
「ふふっ、顔見てたら分かっちゃった。大丈夫、ちゃんと話したいことがあるだけだから!」
マジか……表情でバレるとは思わなかったな。
しかし、話したいことって一体何なんだ……?
「それに、同好会に呼んだのはてっちゃんだけじゃないよ?」
「えっ、そうなのか? じゃあ、本当にドッキリじゃないんだな……」
「もう! そうじゃないって言ってるでしょ〜?」
「ははっ、ごめんごめん」
頬を膨らませて抗議する歩夢ちゃん。
しかし、同好会の部室に集まるってことは、俺以外に呼ばれたメンバーは同好会の子達ってことか。全員なのか一部のメンバーか……気になるな。
「……ふふっ」
「ん、どうした歩夢ちゃん? 何だか嬉しそうだな」
歩夢ちゃんが微笑む様子に、俺は理由を問う。
「なんだか、こうやっててっちゃんと話せるのが嬉しくて……」
「そうか……俺もだ。凄い懐かしい気持ちになるな」
「てっちゃん……そうだね」
確かに、歩夢ちゃんに表情を読まれることも、俺が冗談を言って頬を膨らませて抗議してくるのも、こうやって関係を取り戻す前は無かったよな。やっぱり、彼女とこうして気兼ねなく話すことが出来るのが嬉しいな。
そんなことを考えてると、歩夢ちゃんから違う話題が振られた。
「そういえば、作曲の練習の調子はどうかな?」
「うーん、まあまあかな。一応ちゃんとした長さの曲を一曲作れたぜ」
「そうなの!? 凄いね!」
「いや、まだまだだ。出来もまだ満足出来ないしな」
「でも凄いよ! 曲が作れるだけで凄いんだから!」
「ま、まあそうかもしれないが……」
何だろうな、俺が謙遜してると歩夢ちゃんはそれを止めるまで只管褒めてくるから、その度にむっちゃ恥ずかしくなるんだよな……でも、これも彼女の優しさなんだろうな。
「……ん、部室に着いたな。入るぞ?」
「うん!」
楽しく会話していると、気がつけば同好会の部室まで辿り着いていた。
慣れ親しんだ部室の扉を開けると──
「あっ、歩夢ちゃん! おはこんばんにちは〜!」
「ちょっとエマ、それは違う挨拶よ……あら、徹もいるじゃない。久しぶり」
元気に挨拶をしてくれるエマちゃんと、横で冷静にツッコミながらもこちらに話しかけてくれる果林ちゃんがいた。
……エマちゃん、その挨拶は動画を専門とする人限定の挨拶だぞ……どこかでその挨拶を聞いて使いたくなったのかな? その気持ちは分かるぞ、俺もたまに巫山戯て使いたくなっちゃうしな。何だか楽しそうだし、俺からは突っ込まないでおこう。
「果林ちゃんにエマちゃん! 二人とも歩夢ちゃんに呼ばれたのか?」
「うん! もしかして、徹くんもそうなの?」
「ああ、そうだ。メッセージで来てくれって言われたのさ」
やっぱり歩夢ちゃんに呼ばれてたんだな……しかし、呼ばれたのはこの二人だけなのだろうか?
「なるほどね……それで、歩夢の話って何かしら?」
「あっ、えっと……果林さんとエマさん、
「……!?」
待て、今さん付けしたよな!? この前渾名で呼んでくれるって話だったはずだが……
そう思い、歩夢ちゃんの方は視線を向けると──
「……! っ……!!」
歩夢ちゃんは顔を赤くして首をブンブン横に振っていた。
お互い言葉を発していないので、俺達が何をしているのか周りからは理解されないと思うが……
俺は再度、彼女の反応からここで渾名で呼ばない理由を考えた。
そして、彼女は俺以外に誰かがいる時には、俺のことを渾名で呼ぶのが恥ずかしいのではないかという結論に至った。
俺は、了承を示すために指でOKマークを作った。すると、歩夢ちゃんは手を合わせる仕草を見せた。
すると、それを見ていた果林ちゃんが話し掛けてきた。
「あら、アイコンタクトなんてとっちゃって……二人とも、
「あっ……!」
「えっ!? ……もしかして果林ちゃん、知ってたのか……?」
やべぇ、思わず大声を出してしまった……
果林ちゃんの口振りからして、明らかに俺達が仲違いをしていたことを知っている感じだったよな……一体何故……?
「まあね。でも、歩夢と徹の様子がおかしいって話をして来たのはエマよ」
「徹くん、なんだか元気なさそうだったから……歩夢ちゃんも暗い顔してたから、二人に何かあったのかなって思ったんだ」
「そうだったのか……」
確かに、俺とエマちゃんは一度部室で会ったことがある。その時に、俺の様子を心配されたことも覚えている。
そうか……そこまで心配させてしまっていたんだな……
「それで、エマから昔徹と歩夢がタメで話す仲だったことも聞いたから、私も少し気になったのよ。歩夢なんて、幼馴染にしては少しよそよそしさがあったし。だから、私と二人で歩夢と話をしたのよ」
つまり、二人は歩夢ちゃんのために働きかけてくれたってことか……
ん?
俺は、その単語に聞き覚えがあった。
「じゃあ、もしかして
「あら、彼と会っていたのね。そう、私達のことよ」
「うん! 私達が昼学食で食べてながらその話をしてたら、瑞翔くんが話しかけてきて一緒に考えてくれたんだ〜!」
「二人とも……」
そうか……あいつが言っていた二人って、果林ちゃんとエマちゃんだったのか……
そこまで心配させて、色々してくれたんだ。ちゃんと謝らなければならないな──
「……心配を掛けて、本当にすまん!! そして、歩夢ちゃんのために色々してくれて……ありがとう」
「……! ふふっ、どういたしまして。歩夢には言ったけど、今度は悩んだら私達に頼りなさいね?」
「そうだよ! どんな時でも、相談に乗るからね!」
「……! ……ありがとうな。果林ちゃん、エマちゃん」
ホントに、優しい二人だ。
エマちゃんは言わずもがな優しいが、果林ちゃんはたまに人に冷たく当たることもありつつ、なんだかんだで仲間想いの優しい子なんだよな。
俺も、みんなの為に何かしてあげられたらな……
そんなことを思いながらも、来ていない残りのメンバーを待っていた。
────────────────────
数分経った後、部室内には同好会のメンバー達が集まっていた。
えっと、人数を数えるか……って───
「これで全員揃ったね。それじゃあ……」
「いや待て歩夢ちゃん、まだ侑が来てないじゃないか?」
この事実は、今部室にいる人数を数えなくともすぐに分かった。
「徹先輩の言う通りですね……侑さん、途中で何かあったのでしょうか……?」
「そ、それは大変! かすみん、侑先輩の様子を見に行って来ますぅ〜!!」
「かすみちゃん落ち着いて。今日はたまたま遅いだけかもしれない」
「でもぉ〜……!」
しずくちゃんの心配する言動に、かすみちゃんは取り乱して部室の外へ行こうとするが、それを璃奈ちゃんが止める。
侑が来てないことは、同好会の子達からすればなかなかない事態なので慌ててるのも無理がないだろう。
「……あの、みんな! 実は今日、この場に侑ちゃんは呼んでないんだ」
「あれ、そうだったんだ……なんでなの、歩夢?」
なるほど、そもそも呼んでなかったか……しかし、愛ちゃんの言う通り、何故侑だけをここに集めないのかは気になる。自然に考えるなら、侑に秘密の何かをみんなに伝えたいからだろうが……
「実は……その侑ちゃんについて、話したいことがあるの」
「侑さんのこと……ですか?」
せつ菜ちゃんは首を傾げている。
……歩夢ちゃん、まさか───
「うん……侑ちゃん、普通科から音楽科に転科するみたいなんだ」
「「「「えっ!?」」」」
俺と歩夢ちゃん以外の部室にいるメンバー全員が驚きの声を上げた。
やっぱり、そのことだったか……
「それって、転科試験を受けて音楽科に途中から編入するっていうことですか!?」
「うん、多分……徹さん、そうだよね?」
「あぁ、せつ菜ちゃん言う通りだ」
やっぱり転科ってワードを聞くと、只ならぬことだという認識を受けるよな……
「それって、中々大変なことだよね〜? 彼方ちゃん、もしライフデザイン学科から他の科に移るってなったら、授業ついていけそうにないよ〜」
「侑さん、一体何があったんだろう……璃奈ちゃんボード『はてな』」
そう、彼方ちゃんの言う通り、転科という行動は、自分が学んでいない分野を既に学んでいる人達の中に入ってゼロから追い直さなければならない、所謂修羅の道を歩むことになるということだ。転科は、よっぽどの動機がない限りしないものだ。
……しかし、侑にはそれらしい動機がしっかりあるんだ。
「……侑は、みんなの為に曲を作りたいからって話してくれたぞ」
「かすみん達の……ために?」
「あぁ、この前二人で話し合った時に言ってたんだ。ちゃんとした音楽の知識や技術を身につけて、みんなの曲を作りたいってな」
あいつは転科をして、過酷な試練を超える必要があるかもしれない。それは、もしかすると俺だけではどうしようもないようなことなのかもしれない。
あいつのあんな意志の強い表情を見たら、ただ見守ってるだけじゃいられない。
「あいつは今、初めて見つけた目標のために、本気で音楽と向き合おうとしている。だから、俺からみんなにお願いしたい──そんな侑を……応援してやってはくれないか?」
「……! 勿論です!! 侑さんが初めて見つけた夢です! 私も、出来る限り侑さんの力になります!」
「侑先輩が普通科から居なくなっちゃうのは、少し寂しいですが……かすみんも、侑先輩のこと応援します!」
「愛さんも〜!! そうだ、みんなで『ゆうゆ応援団』を結成してみない!?」
「良いですね! 前に応援団の団員を演じる機会がありましたし、その演技が活かせられれば……!」
すると、各々が侑のためにどうするかを口にした。
「あの! それで皆さんに提案が……!」
歩夢ちゃんは、まだ何かみんなに話したいことがあるみたいだが、周りは盛り上がって話を聞いていない。
「こらこら。盛り上がるのも良いけど、歩夢が何か言いたいことがあるみたいよ?」
冷静な果林ちゃんが諭すと、みんなは再び歩夢ちゃんを注視し始めた。
「果林さん、ありがとうございます……それで、皆さんに提案なんですが──」
すると、歩夢ちゃんは一息吐いた後、こう続けた。
「侑ちゃんのような人を、後押しするような曲を作りませんか!」
「曲……か?」
「うん! 侑ちゃんには内緒にしておいて、それをスクールアイドルフェスティバルで披露したい!」
……侑をここに呼ばなかったのは、そういうことだったか。つまり、サプライズで曲を披露するってことか。ははっ、粋なことをするな。
「なるほど……ただ、誰に曲作りを頼めば……」
せつ菜ちゃんは、誰が作曲をするかを懸念しているようだ。確かにそこは疑問だな……
そんなことを考えていると、何故か俺の方に複数の視線を感じた。
ふと見ると、歩夢ちゃんとせつ菜ちゃんが俺をジーッと見つめていた。
───おい、もしかしなくても……
「……えっ、お、俺か!?」
この視線の意味……それは、侑を後押しする曲を作らないかと俺に問いかけているということの他になかった。
確かに、俺は侑の兄だ。そんな縁深い人が彼女を後押しするような曲を作れるのではと思うのは自然なことかもしれない。
でも俺は────────
「徹さん」
すると、せつ菜ちゃんが俺の側に来て、純粋な眼差しでこう続けた。
「先日渡してくださったアレンジ、聞かせてもらいました。ずっと感想を言うタイミングがありませんでしたが、言わせてください───とても最高でした!!」
最高……せつ菜ちゃんからその言葉を聞けるとは思わず、俺は目を大きく見開いた。
「そんな……せつ菜ちゃんはお世辞が上手いな」
「お世辞なんかじゃありません!! どれも違った趣向で……でも、どれも聴いてて心地良いアレンジでした! それで、その時思ったんです。徹さんが作った曲を歌ってみたいと……そしたら、私ももっと良いパフォーマンスが出来ると思うんです!」
「せつ菜ちゃん……でも俺は……」
こんなに具体的な感想を貰ったのは初めてだ……そんなに凄かったのか?
俺は知っている。アニメやラノベのことを語るせつ菜ちゃんは、その言葉に何の偽りもなくて、その作品の良い所を沢山語ってくれる──今のせつ菜ちゃんが、それだった。
でも俺は……すぐに曲を作るかどうかに対して、返答することが出来ない。あの時の記憶が脳裏に過って、それが俺の喉まで出掛かっている答えを留めてさせている。
はぁ……俺はいつもこうだ。過去を引き摺るばかりじゃ、前に進めないというのに……
「……徹さん」
すると、歩夢ちゃんが俺の目の前にやってきて、優しい眼差しで語りかけてきた。
「作曲出来るように頑張ってるのを、私は知ってるよ。それに、徹さんは一人じゃないからね。私だっているし、それに……みんなだって!」
歩夢ちゃん……
なんだろう、歩夢ちゃんにそう言われると、何だか心が軽くなる。とても安心できて、前に進めるような気がしてきた。
俺は、同好会のみんなが歌う曲を作曲するという覚悟を固められずにいた。
でも、今なら───
「……みんな、もし俺が何かおかしい方向に向かおうとしてたら、止めてくれるか?」
「「「「もちろん(です)(よ)!!」」」」
……これでみんなに恩返しできるかは分からない。でも、恩返ししたい……!
「……分かった。曲、作ってみるよ」
「……! やったぁ!! 徹先輩、曲が出来たら一番最初はかすみんに聴かせてくださいね!!」
「ちょっと、まだかすみさんの曲だって決まった訳ではないでしょ?」
かすみちゃんがまるで自分のように喜んでくれる。他のみんなも、とてもニコニコしてくれている。
……そういや、まだ誰が歌うとか決まってないよな。そこら辺も考えて作るべきだな。
───あっ、そういえば……昨日完成させた、あの曲はどうなんだ?
まだメロディーを完成させて、どんな音色にするかはまだ定まっておらず、適当に決めたような状態だが……あれを候補にするのは、アリかもしれない。
「……それなんだが、その候補になるような曲を作ってるんだ」
「そうなんですか!? 聴きたいですぅ!!」
「おー! なら、これからてっつーの作った曲の鑑賞会だー!」
「楽しみだな〜、徹くんが作った曲!」
「おい、まだみんなに聴かせるなんて一言も……」
……いや、こう日和ってちゃダメだな。
作った曲は俺のスマホに入ってるから、それでみんなに聴かせるか……
「ねぇてっちゃん、その曲ってもしかして……」
すると、横から歩夢ちゃんがスマホを覗き込んでそう訊いてきた。
「そう、それだよ。この曲はな、侑が弾いてくれたあのメロディーから連想して作ったんだ」
「そうだったんだ……ふふっ、実は私もあれを聴いてみんなに話そうと思ったんだよ?」
「そうなのか!?」
「ふふっ、そうだよ」
……ははっ、思うことは同じだったってところか。
侑の弾いたあのメロディー……あれから、この曲は生まれた。だから、まだ自力で作った曲とは言えないが───
「……まあ、この曲がちゃんとした曲かは分からないけど、歩夢ちゃんに聴いてほしいな」
「……! うん、聴きたい!!」
こうして、みんなで俺が作った曲を鑑賞した。それから、みんなから十人十色の感想を聞くことが出来た。どの感想も、俺にとってとてもタメになって……とても充実した時間を過ごせた。
今回はここまで!
色々明らかになった一話でしたが、いかがだったでしょうか?
スクールアイドルフェスティバルももうすぐです!
ではまた次回!
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