第85話です。
では早速どうぞ!
「んん……違う、こうじゃないんだ」
音楽──それは、様々な音が連なって出来るメロディーを楽しむことから生まれた概念だ。音は、音程から質感など、バラエティに富んでおり、その組み合わせも含めれば、無限のパターンの音楽を生む可能性を秘めている。
ただ無限とはいえど、それは人にとって興味を惹くようなものである必要がある。そして、人を惹きつけるような音の組み合わせを見つけ出すのが、作曲家に要求される能力だろう。
人を惹きつけるかどうかを判断する方法として一概にお手本といったものはないかもしれない。ただ、自分が納得出来るかどうか……それが必要条件なのではないかと考えている。
しかし俺は、今目の前で作っている曲で、それが出来ていない──
……あっ、どうも。高咲徹だ。
夏の暑さがますます激しさを増してきた平日の昼前、俺は学食で作曲作業を行っている。
今までこの時間帯は、同好会のメンバーがいる時は練習を見て、それぞれのライブの打ち合わせに出ている時は部室で作曲などの作業をしていた。
しかし、侑のための曲を作る作業を始めてから、それが捗らないことが最近増えてきた。いくら編曲を行っても納得できるようなものが出来ない……それで煮詰まっていたのだ。
先日、メロディーだけちゃんと作って良さげな音色を仮付けしたやつをみんなに聞かせたと思うのだが、結局誰が歌うかどうかは決まらなかった。まあ、まだ完成してないからそこら辺をまだ決めなくて良かったのかもしれないが……
ただ、その時のみんなの反応はとても良くて、色々意見を聞かせてくれたお陰で、前よりかは良いものが出来ているんだ。でも……何だろうな、あともう少しなんだよな。
何かが足りなくて、全体的に納得がいかない……いや、足りないのかどうなのかも曖昧だ。俺をそうさせているのが何なのか、検討もつかない。
そこで俺は、作業環境を変えれば何か新しいインスピレーションが生まれるのではないかと思い至り、部室を除いて校内で作業できそうなスペースの一つである学食で作業してみることにした。
それから少し作業に集中してみたのだが……生憎、未だに進捗が芳しくない。それどころか、作業する手が止まる回数が増えてきたのだ。これでは逆効果……
……どうしてだよぉぉぉぉぉ!!!
……おっと、某有名な俳優さんの迫真的なセリフが出てしまったな。どうやら俺の頭のネジまでイカれてきているか。ダメだダメだ、情報処理科のあの合宿に比べたら全然楽じゃないか……落ち着け俺。
「……ん? なんか人が増えてる……もう昼か」
そんな余計なことを考えたせいか、ふと周りを見ると、学食の席がそこそこ埋まっていた。
さっきまでは人気がなく静まっていたのに……外の日が昇っていることから、もう昼真っ最中なんだな。
そろそろ昼食を取るべきか……いや、もうちょっと作業を続けるか……? 腹はまだペコペコというまでは減ってないのだが……
そんなことで一人頭を悩ましていると……
「高咲さん!」
前の方で俺の名前を呼ぶ誰かの声が聞こえた。一体誰だろうかと思い、そちらの方に視線を向けると……
「……あっ、三船じゃないか! これから昼食なんだな?」
「はい、今日は一日中夏期講習があるので」
とても真面目で、優等生な佇まいを見せる三船栞子が、お盆に昼食のメニューを乗せて運びながら声を掛けてくれたのだ。
校内で彼女と会うのは、ボランティア関係で知り合ってから今日が初めてだ。まさか、このタイミングで会えるとはな……
「……あっ、お邪魔してすみません。作業、頑張ってくださいね」
すると、俺のテーブルに置いてあるパソコンを見て気を遣ったのか、その場から立ち去ろうとする。
「あぁ待て、それは気にしなくて良いんだ! ……そうだ、もし三船が良ければで良いんだが、少し話し相手になってくれないか?」
「えっ? その、私は全然問題ありませんが……では、お邪魔します……」
少し困惑した様子で、昼食が乗っているお盆をテーブルに置き、向かい側の席にゆっくりと座った。
「わざわざありがとな。実は俺、作業中とは言っても少し詰まってな……」
「あっ……それは大変ですね。私で良ければ、いくらでも話し相手になりますよ?」
柔らかい微笑みでそう言ってくれる三船。こんなに優しくて気遣いが出来る、しっかりとした後輩がいるんだな……
正直、俺がこうやって話し相手を求めていることに自分が驚いているんだ。多分、彼女と話せば何か思いつくかもしれないと、心のどこかで思ったのかもしれない。
「そう言ってくれると助かるぞ……まあそれに、久しぶりに三船と会えたから、少し話したいというのもあったしな」
「……!? そ、そうですか……」
「……?」
三船は、急に頬を少し赤く染めて俯いた。
一体どうしたのだろうか……? もしかして、彼女が嫌がるようなことを言ってしまっただろうか……
そう思い当たっていると、三船は小さく咳払いをしてから、俺の手元を見て話しかけてきた。
「えっと……あっ! それで、高咲さんは、何の作業をしてらっしゃるのですか?」
「えっ? ……あぁ、大した作業じゃないんだけど……こんな感じ」
作曲ソフトが映ったパソコンの画面を三船に見せると……
「これは……もしかして、音楽を作ってるのですか?」
「うむ、そんなところだ」
この画面だけでそれが分かるとは……流石、そういう知見が深いんだろうな。それとも、三船も作曲をしたことが……いや、その可能性は低いか。菜々ちゃんと出会った経験則から言うが、きっと三船も厳しい親の元で育ってきたのかもしれないから、そんなことをする時間もなかっただろうしな。
「生徒会長だっただけでなく、音楽も作られていたなんて……凄いですね!」
「いやいや、そんなことないさ。それに、生徒会長時代に音楽作りはほぼしてなかったに等しいからな」
むしろ、俺が生徒会長をすることが出来たのは作曲を止めたからだろう。どっちも両立できる俺なんて、そもそも想像が出来やしない。
「そうなんですか……ということは、生徒会長を退任して再び始められたのですね」
「あぁ……まあ、そんな感じだな」
「……?」
……まあ、色々あったんだが、この場には俺の過去は話題として出す事はないな。
それにしても、まさか作曲のことを同好会以外の人に話すとはな……ってそうだ、この話は一応口止めしとかないと……
「あっ、お願いなんだが、この事は他の人には秘密にしてくれないか? 特に、俺の妹には……」
「えっ? ……それはどういうことでしょうか?」
そうだよな……こればかりは、ちゃんと事情を説明しないといけないな。
そうして、俺は三船に事の顛末を語ることにした。
「三船は、ここの部活にスクールアイドル同好会っていうのがあるのは知ってるか?」
「……! ……はい、一応存じてます」
ん? 少し目を大きく見開いたような気がしたが……いや、気のせいかもしれない。
「おぉ、知ってたか……実はな、そこのマネージャーをやってるんだ。妹と一緒にな」
「そうだったのですか!? ……ということは、その音楽はスクールアイドルの……?」
おぉ……流石、頭脳明晰で察しがいいじゃないか。
「ご名答。これはその同好会のみんなに歌ってもらいたくて作曲してる曲だ。それでな……これは、妹にサプライズで披露する予定なのさ」
「サプライズ……なるほど、だから妹さんに秘密にしたかったのですね。妹さん、喜ぶといいですね」
「あぁ。それに、俺の曲を期待してくれてる歩夢ちゃんのためにな……」
「歩夢、さん……?」
あっヤバい、つい名前で呼んでしまった……しかも、ここまで話そうとは思ってなかったのだが……仕方ない、話すか。
「……あっ、すまん。歩夢ちゃんっていう子は、俺と妹の幼馴染なんだ。彼女もスクールアイドル同好会のメンバーの一人で、このサプライズを提案して、俺に作曲を任せてくれた子だ」
まあ、誰が作曲するかって時に俺に視線を向けてきたのは歩夢ちゃんとせつ菜ちゃんだったから、正確には歩夢ちゃんとせつ菜ちゃんだ。それに、他のみんなだって俺が作った曲を聴いた後には喜んで俺が作曲することを認めてくれたからな……
ただ、
「なるほど、幼馴染ですか……ふふっ」
「ん、どうしたんだ?」
三船が笑みを浮かべているのが気になり、俺をそう問いかけた。
「あっ、いえ! 実は私も幼馴染がいまして……親近感が湧いて、思わず笑ってしまいました」
「へぇ、三船にも幼馴染がいるんだな。今もよく遊んだりしてるのか?」
「いえ……彼女は今香港にいるんです。なので、今はたまに連絡するくらいですね」
「なるほどな……」
三船の幼馴染か……きっと上品で、とても礼儀正しい『お嬢様』という言葉が似合うような人なんだろうな……
しかし、香港に住んでいる幼馴染か……歩夢ちゃんが海外に引っ越したってなったら、どうなのだろうか……もしかすると、心配になって俺まで一緒に引っ越しちゃいそうだな。侑も話せば一緒に来てくれそうだし。
「すみません、話が脱線してしまいましたね……高咲さんの妹さんのために曲をサプライズで披露する、ですか……妹さんは良い人なんですね」
「良い人?」
「はい。そういう
確かに、侑はみんなに好かれているよな。それも、侑がみんなのために色々なことをしてきたからなんだよな……
「なるほど……そうだな。俺の妹は───良い奴だよ」
───侑が同好会の存在を初めて知ったのは、せつ菜ちゃんのライブからだった。そこから、バラバラになってしまった同好会をどうにかしようと俺は必死になって……でも、自分だけじゃせつ菜ちゃんにはどう説得するか分からなくて……そんな時に、侑が立ち上がってくれた。
『ラブライブみたいな最高なステージに出なくて良いんだよ……! スクールアイドルがいて、ファンがいる。それでいいかなって!』
侑の熱い説得のおかげで、せつ菜ちゃんは同好会に戻ってきた。それから、新たな仲間まで増えて……今じゃ十一人の大所帯だ。
夏の合宿では、侑がスクールアイドルフェスティバルという大きなイベントを提案もした。そこから、侑はそのイベントのために……同好会のスクールアイドルのために様々なことをこなしているんだ。そして、今度は音楽を学ぼうとして、転科という道を選ぼうとしている……それも、同好会のみんなのために曲を作りたいから───
侑は、スクールアイドルが大好きだ。そして、スクールアイドルのみんながその熱意に背中を押されている。だから、あの子達は、自分がそう背中を押されたように、侑の背中を押したいんだろうな。
新しいステージへと踏み出そうとしている人が、勇気と希望を感じられるような……
……あっ、何だかいいメロディーが浮かんだ気がするぞ……!
「高咲さん……?」
「……あっ、すまん。少し曲のインスピレーションが浮かんだんだ」
「そうなんですか? それは良かったです!」
マズい、三船を差し置いて一人で思い出に浸ってしまった……でも、俺のことのように喜んでくれて……ホント、優しいな。
「あぁ、だから食べるのに集中して良いぞ。本当にありがとうな」
「いえいえ! サプライズ、成功すると良いですね」
「あぁ、そうだな」
そうして三船は昼食を食べた後、午後の夏期講習のためにその場から去り、俺は暫くパソコンに向かって集中して作業をしていた。
「……よし、思いついたアレンジの大方は出来上がったぞ」
どれくらい時間が経っただろうか。そんなことも把握出来ないほど、俺はずっと作業をしていたが、ある程度良い段階まで曲を作ることが出来た。
三船と話したおかげで、同好会の過去を改めて振り返ることが出来て、より良いインスピレーションを得られた。いやぁ、話し相手になってくれた三船に感謝しなければな。
「さて、良い時間だし部室へ───」
「てっつー、確保ー!!」
「うぉあ!?!?」
すると、後ろから肩をドンと叩かれた。
「愛ちゃん……!? それに……」
「彼方ちゃんもいるよ〜。徹くんゲットだぜ〜」
後ろを見ると、悪戯げに笑う愛ちゃんがいた。そして、横から彼方ちゃんが俺の右手を握り、ポ◯モンを捕まえた時のようなセリフを言った。
俺はポケ◯ンじゃないんだが……いやそれより……
「みんな!? 一体何故……?」
「いつもだったら部室にいる先輩がいなかったので、こっちから探しにきましたぁ!」
「歩夢さんの言う通り、学食にいましたね……流石歩夢さん!」
「もう、何で私まで来させられてるのよ……」
「何言ってるの果林〜! 果林が言い出しっぺじゃん!」
「あれは……ただの呟きよ!」
得意げに敬礼するかすみちゃんに、なんだが目をキラキラさせてるせつ菜ちゃん……ていうか、歩夢ちゃんから聞いたんだな。歩夢ちゃんよ、何故そこまで分かるのだ? エスパーなのかい?
それに果林ちゃんまで……そうか、もう午後の練習が迫っていたんだな。
「そうだったか……すまんな、少し空気を変えたくてな」
「空気〜? ……あぁ、曲作りをしてたんだね〜。もしかして、それで悩んでたからここに来たの?」
「えっ、先輩困ってるんですか!? それならかすみんに話してみてください! かすみんがなんとかしますから!!」
「ちょっ、少し落ち着けって……悩んでたのは事実だけど、もう大丈夫だ」
「本当〜? ……でも、その感じだと大丈夫そうだね〜」
その感じ……? 今の俺って、顔で大丈夫だって分かるのか?
「うんうん、何だか楽しそうだしね! この
「ぶっ、くくくっ……! 待て待て、それはズルいぞ……! あっははは……!」
そのダジャレ……日本語と英語を掛け合わせてるという、かなりの難易度の技を使ってきやがるとは……高ポイントだ。九十点くらいつけちゃいそうだ。
「もう、愛さん……早く徹さんを部室に連れて行かなきゃいけないんですよ?」
「アッハハ、ごめんごめん! ほらてっつー、早く行かないとゆうゆが部室に来ちゃうよ?」
「……はっ、それはいけない!! よしみんな、早く部室に戻るぞ! 今日も練習だ!」
「「「はーい!!」」」
そんなこんなで、午後は同好会のみんなと来たるスクールアイドルフェスティバルに向けて、練習をしたのであった。
今回はここまで!
次回を終えて本編第13話の内容に入る予定です。
ではまた次回!
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