太陽の導きーTHE SUN OF GOD DRAGONー   作:ヴォ-...

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一回短編で書いたけど色々ミスがあったので修正も兼ねて再投稿。
不定期に連載していく予定です。


ラーの降臨

 

 

 

視界が暗い。

真昼間の太陽は頂点を極めて、雲ひとつない青空が広がっているというのに———オレの視界は暗いまま。

雲とは別の……霧?靄?とにかく黒い膜のような何かが辺りを包み込んで、光を遮っている。

高笑いが響く。視線の先、10メートル程前方で1人の男が笑っている。

傍には意識を失って倒れた決闘者(デュエリスト)の姿。

 

闇のゲーム(・・・・・)というものがある。

それは遥か昔に作られたという、千年アイテムを持つ闇の住人。彼らの持つ力は心の闇を暴き出し、その罪を裁く。

元は罪人を裁き魔物を封じる力も、現代となっては何の意味も持たない。

善なるものが使えば光を与え、悪しきものが扱えば簡単に人の命を奪える。だがどちらにしても———リスクは相応だ。

あくまでこの儀式は平等で公正なルールに則った遊戯(ゲーム)だ。

負ければ代償は自らが払わねばならない。

このゲームに常に勝ち続け、力を示し続けられる人間がいるとするなら———それはきっと遊戯の王と呼ばれることだろう。

 

千年アイテム、そしてデュエルモンスターズの歴史に残る最強の3枚、神のカードは名も無きファラオと共に冥界に消えた。

———だが、闇のゲームは今もこうして行われている。人に紛れ、闇に紛れ、光を食い荒らし、力を求める餓鬼(グール)共が。

 

「上機嫌そうじゃないか。こっちはお前さんの逃げ足があんまりにも早いもんで———随分苦労させられたってのによ」

 

今日もまたその被害者が1人。

闇のゲームによって奪われた魂がどこに行くのかは知らないが……少なくとも、奪った張本人を打ち倒して、効力を取り除けば元に戻ることがわかっている。

だからオレはこうしてこいつらを追う。

奪われた魂は数知れないほどに増えている。時間はあまりない。

こんなオカルト話を信じないテレビ局やメディアの方々は原因不明の難病と報道しているが———少なくとも現代医学ではどうすることもできないのは間違いない。

 

「なんだぁ?テメーは。趣味の悪い包帯をグルグル巻きやがって。全身大火傷でもしたか?」

「そんなとこさ。で、どうする?あんたはカードとヒトの魂を集めてる。ならオレのことも襲うのかな?」

 

男の背丈はオレより少し低いぐらいだが———表情は獰猛だ。

牙のような犬歯を剥き出しにして笑い、戦利品であろうカード群を懐に放り込んだ。

ここ最近、デュエリストが数人原因不明の難病(・・・・・・・)で搬送されている。まず間違いなくこいつの仕業と言っていいだろう。

 

「あたぼうよ!餌が連続で来てくれんなら、こんな楽なことはねえ。わざわざ路地裏に連れ込んでデュエルすんのも飽きてきたところでなぁ!」

「話が早くて助かるな!」

 

デュエルディスクをセット。

互いのデッキをカット&シャッフル……は、最近オートになったんだった。

 

「決闘の礼儀だ。名を名乗りな」

「フン、聞いて意味があるのか知らんが……シャディスだ!せいぜい覚えて冥府に堕ちろ!」

「思ったより育ちのいい奴だ。オレは……シン。太陽の輝きで、貴様の闇を照らし出す!」

 

「「デュエル!!」」

 

シンLP8000

シャディス LP8000

 

闇が一層深くなる。

世界と完全に隔離され、オレ達は一切干渉できないされない。

シャディスの掲げた手の中には黄金の金属片。

あれが闇の力の源なのだろう。元はおそらく呪術か何かに使われていた貴金属……千年アイテムも黄金で作られた煌びやかな装飾品だったと聞く。

黄金は高貴な身分や富の他に———呪術や神秘を授ける魔力をも秘めているのだ。

 

そしてシャディスと名乗ったあの男。

明らかに正気を失っている。

ここ数日何も食べずにデュエリストを追っていたのか、頬はこけ、髪はボサボサ。デュエルで受けた擦り傷や切り傷は放置されて化膿している。

さっさと決着をつけちまった方が良さそうだ。

 

「さぁ、闇のゲームの始まりだぜ!……ってトコかな」

「貴様が何者かは知らんが、手加減するつもりはない!闇のゲームの始まりだぜ。さあ、構えな!!」

 

互いにデッキからカードを5枚ドロー。

闇の中でもカードだけはよく見える。

ゲームが成立しなくなるような要素は徹底的に排除される———ただし、発生するダメージによる痛みは例外だが。

 

「オレからいかせてもらおう!オレはカードカー・Dを召喚!カードを3枚伏せ、効果を発動!ターンを終了し、カードを2枚ドローする!」

 

シン

LP:8000

手札:3

モンスター:0

魔法・罠:セット×3

 

ターンがシャディスに渡る。

表情を見るに……なかなか良い手札を引き当てているらしい。

どんなカードを使うのか知らないが、対抗する布陣は整えてある。

 

「随分と消極的だなぁ?俺のターン、ドロー!俺は手札抹殺を発動!互いに全ての手札を墓地に置き、その数だけドローできる。俺は手札の5枚を捨て———5枚ドロー!」

「……オレは3枚捨て、3枚ドローする」

 

良い手札を即座に捨てる?それは考えにくい。

となると、墓地に送ることに意味がある……もしくは、捨てることそのものに目的がある。

 

「気づいたらしいな!俺は手札から捨てた5枚のカード、【暗黒界】モンスターの効果発動!」

「やはり———っ!」

 

一瞬のうちに、フィールドの景色が一変した。

オレのリバースカード、そのうち2枚は無惨にも叩き割られ———逆にシャディスのフィールドには悪魔の姿をしたモンスターたちが立ち並んだ。

 

暗黒界の尖兵ページ 闇 ☆4 悪魔族

ATK1600

 

暗黒界の武神ゴルド 闇 ☆5 悪魔族

ATK2300

 

暗黒界の軍神シルバ 闇 ☆5 悪魔族

ATK2300

 

「暗黒界に済むモンスター達は統一された一つの特性を持つ!それは……」

「手札から捨てられた時に効果を発動する……だろ?」

「そうさ!今手札から捨てた5枚———そのうちの3体は墓地から特殊召喚される効果を持つ!そして暗黒界の龍神グラファはフィールドのカード1枚を破壊する。こいつを2枚捨てた!」

 

だからカードが破壊され、フィールドにモンスター達が展開されたというわけだ。

暗黒界、手間はかかるが上手く回せば凄まじい爆発力を発揮する、厄介なデッキだ。

この時点でオレのライフは大きく削られてしまう攻撃力が揃い———ついでに奴はまだ通常召喚を残している。たった1枚の魔法カードでだ。

やはり侮れる相手ではなかった。

 

「リバースカード、運命の発掘が墓地に送られたことでカードをドローさせてもらうぜ」

「グラファにはもう一つ効果がある……それはフィールドの暗黒界を手札に戻し、墓地から特殊召喚する効果だ!ゴルドとページを戻し———甦れ!暗黒を統べし龍神、グラファ!!」

 

暗黒界の龍神グラファ 闇 ☆8 悪魔族

ATK2700

 

攻撃力2700。こいつが3体並んでしまえば8000のライフも簡単に吹き飛んでしまう。

そして当然、この暗黒界デッキはこのモンスターの特殊召喚に特化した構成が為されている筈で———つまるところ、ピンチだ。

 

「デュエルモンスターズで最強のモンスターは?と言われれば大抵、答えは決まってんだよなぁ。神のカード?青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)?ブラック・マジシャン?どれも違うぜ。この暗黒界の龍神グラファこそ、デュエリストの頂点に立つに相応しい能力を持っている!」

「……随分とそいつに愛着があるようだな」

「フン、せいぜい俺のバトルフェイズが来るのを怯えながら待ってろ!俺のメインフェイズはまだ終わりじゃねえ。カードを1枚伏せ、俺は手札から墓穴の道連れを発動!互いは互いの手札を確認し、1枚カードを選んで捨てさせる。その後、カードを1枚ドローする!さあ、俺のカードを選びな!つっても貴様を待ち受けているのは絶望だけだがな!」

 

そう言ってシャディスがカードを見せると———モンスター達がソリッドビジョンを通して実体化した。

先程戻したページ、ゴルドに加えて暗黒界の術師スノウ、暗黒界の龍神グラファ(既に手札に揃えていた)、そしてチューナーモンスター魔轟神獣ケルベラル。

どれを選んだところで効果が発動してオレは更なる苦境に立たされることとなる。だが選ばざるを得ない。

カードで言えば苦渋の選択と言ったところ、か……。

 

「……オレは魔轟神獣ケルベラルを選択する」

 

スノウを捨てさせれば、新たなカードを手札に加えられて展開に加速がかかる。かと言ってグラファを選べばなけなしのリバースカードまで破壊される。……となればシンクロ召喚に繋げられることになろうとも、選択肢はこれしかない。

 

「そうかよ。じゃあ貴様の手札を見せろ……フン、ガーディアン・スライムに聖刻龍ートフェニドラゴン、ジュラゲドに……死者蘇生、ねえ?ならその死者蘇生を捨てな!万が一にも使われちゃあ厄介なんでなぁ!」

「チッ、臆病な野郎だぜ。互いにカードを1枚ドロー……ん」

「延命のカードは見つかったかよ?俺は墓地に捨てられたケルベラルの効果発動!こいつを特殊召喚するぜ!」

 

魔轟神獣ケルベラル 光 ☆2 獣族 チューナー

ATK1000

 

「今引いた闇の誘惑を発動!ゴルドを除外し、手札を入れ替えるぜ!フフン、チューナーがいるならやることは一つだよなぁ?俺はレベル5のシルバにレベル2のケルベラルをチューニング!」

 

☆5+☆2=☆7

 

「シンクロ召喚!レベル7!驀進装甲ライノセイバー!」

 

驀進装甲ライノセイバー 炎 ☆7 機械族 シンクロ

ATK2400

 

「こいつはターンに1度、手札を捨てることで1枚につき700ポイント攻撃を上げる!俺が捨てるのは魔轟神マルコシア!攻撃力は700上がる!更にマルコシアが捨てられたことで、デッキから魔轟神界の(きざはし)を手札に加えるぜ!」

 

驀進装甲ライノセイバー

ATK2400→3100

 

「魔轟神界の階!こいつは発動時、デッキから魔轟神を墓地に送る。俺が送るのは魔轟神レイヴンだ!そしてもう一つの効果発動!手札のページとスノウを捨て、墓地のレイヴンを手札に加える!当然、捨てられた暗黒界の効果も発動する!」

 

暗黒界の尖兵ページ 闇 ☆4 悪魔族

ATK1600

 

「スノウの効果により、俺はデッキから暗黒界の狩人ブラウを手札に加える!そしてグラファ2体でオーバーレイネットワークを構築し———X(エクシーズ)召喚を行うぜ!」

 

☆8×☆8=★8

 

グラファの身体が溶け落ちて光の塊と化し……頭上に現れた異次元の渦にな飲み込まれていく。

異なる世界によって力を重ね、変化したモンスターが姿を現す。

 

「ランク8、No.22不乱健!」

 

No.22 不乱健 闇 ★8 アンデット族

ATK4500

 

「まだまだいくぜ!魔轟神レイヴンを召喚、効果発動!手札を2枚捨て、攻撃力とレベルを上げる!捨てたブラウとグラファの効果も発動!1枚ドローし、残った小賢しいリバースカードも粉砕してやる!」

 

魔轟神レイヴン 光 ☆2→4 悪魔族

ATK1300→1900

 

最後のリバースも破壊され、オレのフィールドは完全な更地と化した。

怒涛の展開、怒涛の効果発動に待ったをかけるカードの1枚の無いのだから仕方ないだろうが、些か歯痒い気持ちにさせられる。

……何より、奴のターンはまだ終了していない。

 

「レベル4のページにレベル4になったレイヴンをチューニング!再びシンクロ召喚!レベル8、迅雷の暴君グローザー!」

 

迅雷の暴君グローザー 闇 ☆8 悪魔族 シンクロ

ATK2800

 

3100+4500+2800……ライフ8000を削り切ってお釣りが来るほどの攻撃力を持つモンスター達が立ち並んだ。

だがそこまで焦る気持ちはない。

いくらピンチでも、このオレにとっては大した問題ではないのだから。

 

「……なんだ?その余裕の表情はよぉ。フィールドはガラ空き、俺のフィールドにはこれだけのモンスターが並んでる。……気に食わねえなぁ?」

「どうせ遅かれ早かれ決着はつく。焦る必要も、ビビる必要もオレには無いのさ。結末がどちらの勝利だとしても……な」

 

シャディスは歯噛みした。

あんまりにも余裕ぶっこいているオレの態度に苛立ったらしい。

確かに、オレも最強の布陣を完成させていざバトルフェイズ!……って時に余裕の態度を取られていたら苛立ちの感情も芽生えるものかも知れない。

……けど今のデュエルには関係ない。

例え勝とうが負けようが、オレは動じない。それだけの理由が今このデュエルには懸かっているのだから。

 

「動揺はミスを誘うぜ?お前程のデュエリストが……知らん筈あるまい」

「……フンッ!後悔しても遅いんだぜ。この闇のゲームは魂を喰らう暗闇だ。ダメージを受ければ受けるほどお前の身体は削られ———0になった時完全に闇に飲み込まれる!魂ごとな。恐ろしいよなぁ。デュエルに負けただけで魂を喰われるなんてのは」

 

今まで何人ものデュエリストを喰らってきた奴が言うと説得力が違う。

何人も……側で倒れているデュエリストも、きっと恐怖に駆られて泣き叫びながら魂を肉体ごと闇に食われたのだろう。

だが———それは決して死ではない。

この闇さえ祓ってしまえば、闇に操られたシャディスを討ち倒しさえすれば、取り戻せる命なのだ。

 

失われた命は決して戻らないが———取り戻せる命であるならば、オレが救ってやる!

 

「かかってこいよ。どんなモンスターを並べようが———オレは負けない!」

「これを食らってまだそんな口が聞けるなら聞いてやるよ!バトル!グローザー!プレイヤーへダイレクトアタックだ!」

 

機械仕掛けのような鎧兜で全身を覆った悪魔が地を蹴った。

暴君の左手に構えられた杖が閃くと———雷撃が降り注いだ。

放たれた雷がオレの身体もろとも地面を穿ち、破片を撒き散らす。包帯が焼け焦げ、右腕の包帯はほとんど燃え尽きてしまっていた。

 

シン LP8000→5200

 

最後の一撃は特に強烈で、身体が弾き飛ばされた。

軽いゴムボールを叩いたように吹き飛んだオレは闇に包まれた空間の境界で止まった。

凄まじい衝撃。

 

常人ならたった100のダメージでも耐え難い苦痛。

それを2800も受ければ到底ただでは済まない……だが、オレにはもう痛みを感じるべき痛覚も———むしろ、攻撃を受け闇に喰われる身体すら今は存在していない。

だから立ち上がれる。何も感じないのだから、いくらでもデュエルは続けられる。

 

闇に住む悪霊たちが喰らいついてくるのがわかる。

だが喰らうものすら残っていないことに気がつくと———いずれ興味を無くして去っていく。

 

「……どうなってんだ?そりゃあ」

「そういや言ってなかったな。オレは……ゾンビなんだ」

「……ハッ!ゾンビだかミイラだか知らねえが———もう一度地獄に叩き返してやりゃあいいんだろ!?ライノセイバー、攻撃……なんだそいつは!?」

 

重い足取りで元の位置に戻ったオレを、守るように立ち塞がるものがいた。

エジプト神話に現れる【アヌビス】の姿を模した不定形———スライム。

 

「ガーディアン・スライムは、オレがダメージを受けた時特殊召喚される。これ以上ダメージを受けるのは……痛くなくてもまずいんでな」

 

ガーディアン・スライム 水 ☆10 水族

DEF 0

 

「チッ、不乱健!蹴散らせ!」

「ターンに1度、ガーディアン・スライムの守備力はダメージ計算時のみ攻撃モンスターの攻撃力分だけアップする。破壊は無効だぜ」

 

不定形の身体が姿を変え……色までは再現できていないが、大男と同じ姿を取った。全く同じ体格で、全く同じように拳を構え、不乱健を迎え撃つ。

 

ガーディアン・スライム

DEF0→4500

 

不乱健の拳が襲いかかるが相手は自分自身と同義、全く同じ力で防御され、攻撃は失敗に終わった。

一時的な防御能力に過ぎないが———その役目はきちんと果たしてくれた。

 

「……ライノセイバーで攻撃!そいつを破壊する!」

「……」

 

剣の角を持つ重戦車から砲撃が放たれ、元の非力なスライムに戻ったモンスターは無慈悲にも弾け飛んだ。

しかし、このモンスターの役割は最大限果たされた。オレの持つ最強のカード、その降臨の為に。

 

「ガーディアン・スライムが墓地に送られた時、効果発動。オレはデッキから太陽神(・・・)合一を手札に加えるぜ」

「チッ……!俺はこれでターンを終える!」

 

シャディス

LP:8000

手札:1枚

モンスター:驀進装甲ライノセイバー 迅雷の暴君グローザー No.22不乱健

魔法・罠:セット×1

フィールド:魔轟神界の階

 

驀進装甲ライノセイバー

ATK3100→2400

 

「何とか生き残れたな。さて、オレのターンだ」

「……!?」

 

奴の布陣は中々に強固だ。

負けるつもりはないが……突破には少しばかり賭けが必要になるかもしれない。

カードを引こうととして———シャディスが口を開いた。

 

「貴様……マジに何者だ?闇のゲームは絶対だ。この空間にいる限り、肉体は闇に喰われる筈だろう!?」

「オレには喰われる肉体なんか残っちゃいないからな。ライフが0になれば最後に残った魂を喰われるかもしれんが……ま、幸運なことに今のところそんな事にはなっちゃいない」

 

グローザーの攻撃で敗れた右腕の包帯を取って見せる。

中には何もない。包帯の中は空洞だ。

事の経緯は覚えていないがオレは恐らく一度死んでいる。

肉体は滅び、骸は土に帰り、魂は冥界に導かれ、転生の時を待つ———その筈だった。

 

覚えているのは凄まじい光。

誰もが知る、太陽の輝きだった。太陽は黄金の光でオレの魂を覆い———言った。

闇に蝕まれる世界を救えと。そう言った。

 

そして気がつけばこうなっていた。

全身は包帯まみれで、黒いマントで何とかその様を隠している。

包帯を取れば何もない。

身体を動かしている感覚はあるのに実際には何も無い。奇妙なことに。

食べ物は当然いらないし呼吸もしていない。物には触れられるのに触覚は無い。風が吹いていることはわかっても身体はそれを感知しない。

 

存在している(生きている)のに存在していない(死んでいる)

そんな不思議な状態で現世を彷徨う亡霊(ゾンビ)がオレだ。

包帯を完全に取り払って、自己と世界の境界を失くした時———オレはどうなるのか。想像するだけでも恐ろしい。

 

「な、何だそりゃあ……!?お前、マジに人間じゃあないのか……!?」

「ゾンビさ。ミイラってのはな、古代エジプトで信仰されていた来世や生まれ変わりの思想によって作られた死者の保存だ。来世での復活、2度目の誕生。オレはそうじゃない。死んで同じ魂を持ってここに留まっているだけの死者(ゾンビ)だ」

 

闇のゲームに唯一耐性を持つオレなら、闇のデュエリスト達を相手にしても死を恐れずに戦える。

何しろもう死んでいるのだから、恐怖も何も無い。

ただの偶然で、まだここに存在することを許されているだけの死者なのだから。

 

「オレには使命がある……お前ら闇のデュエリスト共を全員倒し、闇を祓う!その為に、オレは今ここにいる!……だから、今ここでお前を倒す!ドロー!!」

 

勢いよくカードを引き抜く。

ここから逆転を狙うには……一瞬で思考を巡らせ、手札を切る。

 

「オレは星呼びの天儀台を発動!トフェニドラゴンをデッキに戻し、2枚ドロー!カードを1枚セット!そしてオレが発動するのは……永続魔法、千年の啓示!」

 

公開した情報は早々にリセットし、新たなカードを引き込む。

新たに加えたカードは……最高だった。

これなら勝負は一瞬でつく。

例え奴のモンスター達やリバースカードが妨害して来ようと……()の前には無意味だ!

 

「千年の啓示は、手札から幻神獣族(・・・・)を墓地に送り、墓地から死者蘇生を手札に戻すカード!」

「……待てよ———幻神獣だと?太陽神合一(・・・・・)?死者蘇生———いや、そんなハズがない!」

 

今墓地に送った1枚に、シャディスは思い当たる節があるらしい。

知っていて当然とも言える。むしろ決闘者で知らない者はいないとまだ言える程強大な存在なのだから。

 

伝説の決闘者、マリク・イシュタールがかつて所有し、最終的にはバトルシティ決勝にて対峙した武藤遊戯の手に渡った最強の神のカード。

全ての神の最上位に立つ能力を持ち、マリク・イシュタールはその力を存分に扱って城之内克也を破り、武藤遊戯をも何度も追い詰めたという。

 

「オレが墓地に送るカードはラーの翼神竜。そして発動せよ、死者蘇生!このラーは本来特殊召喚を行えないが……千年の啓示を墓地に送る事で、ラーは復活する!蘇れ!ラーの翼神竜よ!」

 

 

 

———光が降り注ぐ。

墓地(セメタリー)より帰還した黄金のハヤブサがフィールドに降り立った。

太陽の船に乗り天空を駆ける太陽神。

ハヤブサの頭を持つ全知全能の存在。

 

昇る朝陽は生と始まり。

沈む夕陽は死と終わり。

永遠に繰り返す死と再生、永遠に繰り返す夜明けと黄昏。

永遠に繰り返される生命の営み。

 

太陽神ラー。

三幻神の一角にして最大最強の神が今ここに降臨した。

 

全てを照らし出す太陽の光が、闇を討ち払う。

世界から遮断された暗黒は吹き飛ばされ———世界は陽光に包まれた。

白い光の空間の中でオレ達は対峙していた。

片や3体のモンスター、片や太陽神を従えて。

 

ラーの翼神竜 神 ☆10 幻神獣族

ATK 0

 

「これが……神……!?」

 

シャディスは感極まったように呟いた。

ラーの光はあらゆる闇を切り払う。

かつて使われたような禍々しい力ではなく、ラー本来、太陽としての権能。

闇のゲームの空間すらも消しとばし、自らの力で覆った異界を創り出す。

 

———だがラーのカードは本来の力とは程遠い。

本来、1枚のカードでオレのデッキにあるカード数枚分の効果を持つラーの力は、大半がオレの存在の維持に費やされている。

死んだはずのオレを現世に留める程の力だ、その分制限がかかるのは仕方がないと言える。

むしろ、死人を現世に維持しながら神としての能力を扱えるのは最高神たるラーの底知れぬ力を感じさせる。

 

「ラーがフィールドにいる時、このカードは伏せたターンでも発動が可能!永続罠、太陽神合一!」

 

シンLP5200→100

 

ラーの翼神竜

ATK0→5100

 

「太陽神合一はオレのライフを生贄に捧げる事で、その分神を強化する!起動せよ、ラーの翼神竜!」

 

バトルフェイズに入った途端、オレの身体に火が付いた。

比喩でも何でもない。

ラーに捧げた(ライフ)が燃焼しているのだ。

ラーの首の後ろにある、日輪を模した器官から火炎が立ち上る。

 

神たるラーの攻撃、それは万物を平等に焼き尽くす太陽の炎熱である。

オレの魂が放つ火炎もまたラーの身体に吸収されていき———ハヤブサの嘴に刻一刻と蓄積(チャージ)されていく。

攻撃力5100———身体の殆どを奪われる甚大なダメージだが、問題はない。

闇のゲームは最早力を発揮していない。

ダメージを受けても、通常のデュエルと同じく怪我を負う事はない。

そして、これがダメ押しだ。

 

「バトルだ……!驀進装甲ライノセイバーへ、ラーの攻撃!」

 

溜めに溜められた火炎の力が今解き放たれる。

あらゆる生物、物、魂すらも焼き尽くしてあまりある神の一撃、防ぎ切れる道理はない!

 

「くッ!リバース発動!罠カード、因果切断!手札を捨てて神を除外する!消えろ、ラーの翼神竜!」

 

最後の抵抗か。

だがそれも無意味。

本来は通用しない筈のその罠も、今は通じてしまうのだが……それでも、オレにはダメ押しの一手が握られている!

 

「速攻魔法、ゴッド・ブレイズ・キャノン!ラーはこのターン効果を受けず、攻撃が終了した時お前のモンスター全てを墓地に送る!」

「な、何!?」

「ラーの攻撃———」

 

 

「【ゴッド・ブレイズ・キャノン】!!」

 

爆焔が放たれる。

ライノセイバーどころかフィールドそのものに炸裂した業火球は全てのモンスターを焼き尽くし、シャディスのカードを根こそぎ消し去った。

 

シャディスLP8000→4000

 

ジュラゲド 闇 ☆4 悪魔族

ATK1600

 

ラーの翼神竜

ATK5100→6100

 

シンLP100→1100

 

「バトルステップ時、ジュラゲドを特殊召喚し、その効果を発動した。オレはライフを回復し、ラーの攻撃力を上げたぜ……って言っても、聞こえちゃあいないか」

 

ラーの攻撃の威力は凄まじく……未だに燃え盛るフィールドがそれを物語っている。

しばらくして火と煙は多少晴れたが、それでも残る炎熱がラーの一撃の凄まじさを感じさせた。

 

「オレは太陽神合一のもう一つの効果を発動する!ラーをリリースし、その攻撃力分、オレのライフを回復する!墓地に戻れ、ラー!」

 

シンLP1100→7700

 

ラーの放った炎の残滓が、包帯の約半分が燃えてなくなったオレの体に宿っていく。どこからか現れた新しい包帯がオレの身体に巻き付き、普段の状態に戻してくれた。

全快に近いライフを取り戻したが、それは本当の狙いではない。

このデュエルを終わらせるための、最後の一手だ。

シャディスはしばらくの間放心していたが……それでもフィールドからラーが消えたのを見ると、調子を取り戻したようだった。

 

「チッ!神の召喚に少しビビリはしたが……消えちまった今になっちゃ怖くも何ともねえな!お前の手札はゼロ、もうこれ以上何もできないだろ!ちと泥試合にはなりそうだが俺は構わないぜ!」

 

全く調子のいい奴だと少しだけ呆れる。

確かにシャディスのデッキ構築やプレイングやカードに対する愛着は伝わったきたが……やはり闇に操られているためか、本来の実力とは程遠いように感じられる。

このデュエルを終わらせたら、本来のシャディスとデュエルしてみるのもいいかも知れない。

 

「勘違いするなよ。手札が無くなったから何もできない?冗談じゃあないぜ!オレは墓地の不死鳥の効果を発動する!」

 

一度は収まった火炎が再び噴き出した。

オレの魂も呼応して、包帯の下で燃え盛っているのを感じる。

そう、ラーの最大にして最強の特徴がこれだ。

例え倒されたり、墓地に送られたりしたとしても何度でも蘇り、敵を焼き尽くすまで戦い続ける。

 

「ラーは生と死、移ろいゆく生命、永遠に巡る生命の輪廻を司る!ラーよ、地より蘇生し天を舞え!炎を纏いし不死鳥となりて!」

 

熱風が吹き荒れる。

焔の亀裂が入った大地が揺れる。

炎熱が光の世界を埋め尽くし、フィールドに再びハヤブサが降臨する。

 

オレの身体から噴き出した火焔がハヤブサの形を作っていき、やがて炎の不死鳥と化したラーが姿を現す。

ラーの持つ特殊能力、その一つ———

 

ラーの翼神竜ー不死鳥 神 ☆10 幻神獣族

ATK4000

 

「な、何———!?」

 

「ラーが墓地に送られた時、墓地にある不死鳥は特殊召喚される。お前の使った手札抹殺によって、既に布石は打たれていたのさ」

 

太陽が飛翔する。

火で形作られた不死鳥が天をどこまでもどこまでも舞い上がっていき———太陽そのものの輝きを持って地表を照らし出した。

光に埋め尽くされ、視界が白く染まる。

無いはずの目も眩む閃光がゆっくりゆっくりと落下していき———ついに炸裂する。

 

ラーは死を超越して墓地より飛翔した。

日が沈めば月が上がり月が上がれば日は沈む。

ならば次に沈むのは生者である———。

 

「ラーの最終攻撃」

 

 

 

「【不死鳥(ゴッドフェニックス)】」

 

 

 

シャディスLP4000→0

 

 

WIN:シン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルが終わり、辺りの景色は元に戻った。

3ターンだけの短いデュエルだったので時間はそう経っていない。太陽の傾き具合にもそう大きい違いはなく、気持ちいい青空が広がっている。

閉鎖的な路地裏では少し窮屈だが……。

 

デュエルが終わった途端、シャディスは意識を失って倒れた。

ラーの力で闇が取り払われたのだろう。

 

「さて、奪われた魂はこれで戻ったはずだが……念の為2人とも病院か……」

 

闇の力から解放されたシャディスの顔は憑き物が落ちたように生気を取り戻している———が、度重なる負傷と不摂生でかなり衰弱している。

それでも問題なく動けていたのは闇のゲームの力———この、シャディスの懐から転がり出た金色の破片の影響だ。

 

悪意を増幅し、闇の力を与える邪悪な力。

だがこれだけが原因では無い。

 

この邪悪な力をシャディスや、今まで倒してきて闇のデュエリストに授けてきた黒幕がいるはずなのだ。

倒したデュエリスト達は闇のゲームの記憶殆ど記憶を失っているので聞くことはできないが、それでも復帰した連中には話を聞いた。……役には立たなかったが、それでも繰り返していれば何かわかるかも知れない。

それが唯一裏にいる何者かに迫る手段なのだから……。

 

「……うっ、ぐ……!?」

「……起きたか」

 

シャディスが呻きながら目を覚ました。

先程までの病的な顔色や獰猛な表情はもう無い。

よくよく見てみれば18〜20程度の青年だ。普段はもっと爽やかで清々しいな決闘者なのかも知れない。

 

「オレはシン、デュエリストだ。お前は……」

「———いや、覚えてる。お前が俺を助けてくれたんだろ。今まで何をやってたのかも……全部な」

 

意外な返答にオレは無い目を見開いた。

こんな事は初めてだ。

こうやって手下を倒し続けていればいつかは辿り着けると思ってはいたが……初めて黒幕に一歩近づけるのかもしれない。

いや……。

 

「いや、まずは手当だ。そこに転がってる奴も、お前も取り敢えず病院に行く。歩けるなら、自分で頼む。話はその後に聞かせてもらうぜ」

「ああ、これ以上迷惑かけられねえからな……」

 

オレの手を取ったシャディスは土埃を払いながら立ち上がった。

少しふらついてはいるが、病院はそう遠くない。そろそろ常連になってきてしまったが……背に腹は変えられん。

シャディスに負けて倒れたいたデュエリストを背負うと、オレとシャディスは病院に向けて歩き出した。

 

 






ラーデッキは思ったより回らないし暗黒界は思ったより回りまくる
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