こんにちは、ラウラ。   作:ラムダ

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1-1話 任務初日

(──パイロット。)

 

「……ん」

 

ㅤ自分を呼ぶ音に、球体を撫でていた手が止まる。

ㅤ落ち着きのあるそれは、よく聞きなれたものだ。

ㅤ機械的だが、不快に感じさせない音。

ㅤ合成されたものでありながら、心地よい声音。

ㅤ体を揺らすと、バスの座席がギシッと軋む。

ㅤ声の主は短い吐息を返事と認識したらしく、ラウラの手元でカチカチと瞬きをした。

 

(──間もなく目的地に到着します。準備を。)

 

「わかった」

 

ㅤ口をキュッと真一文字に結び、ラウラは膝の上に乗せている球体──オルムを抱え直した。

「ふぅ…」とため息混じりに声がもれる。

ㅤ人肌の温もりというものなのだろうか。精密機器の塊であるオルムは、排熱の関係でほんのり温かい。

ㅤそんな心地よい熱を感じながら、ラウラは自分の下ろし立ての制服に視線を向ける。

ㅤシミひとつない真っ白なそれは、IS学園の冬服だ。

 

「……なあオルム」

 

(──何でしょう。パイロット。)

 

「どこか、おかしなところはないか?」

 

ㅤあるはずもないのに、そんなことを訊いてしまう。

ㅤIS学園の白い制服は、生徒側の自由なカスタマイズが許されている。

ㅤそこで黒ウサギ隊の隊員──主に副隊長のクラリッサが先導し、学園に入学するラウラの為に制服をデザイン、改造してくれたのだが。

ㅤブレザーもズボンも、そしてブーツも…どれも小柄なラウラにぴったりだ。

ㅤしかし普段は軍服を着用しているからか、ほとんど真っ白な学生服には違和感があった。

ㅤ暫く間を置き、オルムからピピッと電子音が発せられる。

 

(──……スキャン完了。問題は見当たりません。)

 

ㅤけれど当たり前のように。

ㅤ腕の中のオルムが、カチカチと瞬きをする。

 

(──特殊なデザンインが人の目を引く可能性はありますが、任務に差し支えない範囲でしょう。)

 

ㅤ冷静なオルムの分析は正しい。

ㅤ実際のところ、ラウラは他の乗客から注目を集めていた。良くも悪くも。

ㅤガチガチに改造された制服、銀髪に眼帯。おまけに喋る球体という組み合わせは、嫌でも目につくようだ。

ㅤしかしラウラが気にしているのは、他人との違いだとか、決してそういうことではなかった。

 

「そ、そうか。お前がそう言うなら…そうなんだろうな……」

 

ㅤだからこそ、だろうか。

ㅤオルムに対しつい含みのある物言いをしてしまう。

 

『次はIS学園前──。』

 

ㅤバスのアナウスが、次の停車場所を告げる。

ㅤ窓の外を見ると、遠目に海の上に浮かぶ“学園島”が見えた。

ㅤいよいよか…。

ㅤそう考えると、オルムを抱く腕に自然と力がこもる。

ㅤ今日はIS学園の入学式。自分たちが向こう三年間、生徒として活動することになる場所、その始まりの日。

ㅤただそれだけなら、ラウラも長期任務として早々に気持ちを切り替えることができたのだろうが。

 

(──何か問題を感じますか?)

 

「いや…別にそういうわけじゃない。気にするな」

 

(──…。了解。)

 

ㅤ事実、制服に問題はない。

ㅤ自分たちを見てひそひそと耳打ちをするほかの乗客のことも、ラウラは視線が鬱陶しいと感じることはあっても、ほとんど気にしていない。

ㅤしかしIS学園にはラウラが教官と呼び敬愛している織斑千冬がいる上、今年は弟が入学する予定だという。

ㅤ弟の一夏は今回ラウラたちがIS学園に向かうきっかけとなった人物であり、表向きにはラウラの護衛対象ということになっている。

ㅤ千冬との関係上、一夏に対し思うことがなくもないラウラだったが、任務なら仕方がないと自分を無理やり納得させた。半身のオルムが理性的な影響も多少はあった。

 

(──パイロット。任務開始予定時刻まで、あと僅かです。準備を。)

 

「わかってる。わかってるさ……」

 

(──さすがです。パイロット。)

 

ㅤ口では強気に言ったものの。

ㅤやはり千冬と一夏の存在は大きい。不安や緊張とまではいかないまでも、今の自分はわかりやすいほどに平静さを欠いているのだろう。

ㅤ当然ながら、そんな心の揺らぎに自分の半身たるオルムが気付かないはずがない。

ㅤしかしオルムはラウラと同じく不器用だ。

ㅤ必要な荷物は既に寮の部屋に運び込まれ、僅かな手荷物も全て預けてしまっているバスの車内でわざわざ準備をしろと二度も言ったのは、あくまでオルムなりの気遣いなのだろう。

 

「むぅ…」

 

ㅤただそうだと知っていても、なんだか急かされているようでいい気がしないのが人間というもの。

ㅤラウラの左手が所在なさげに動いたかと思うと、オルムを撫ではじめる。

ㅤ大多数の一般的な少女が仔猫を撫でることを好むように、ラウラもまたオルムを撫でるのが好きだった。

ㅤ撫でている最中はほとんど無心だが、オルムの滑らかで触り心地のよいボディがお気に入りであることに違いはない。

 

「んぅ…」

 

ㅤ撫でられることについて、ボディに感覚機能の備わっていないオルムがどう感じているのかはわからない。

ㅤオルムなりに好ましいと感じているのか、それともパートナーのラウラが望むことだからと、甘んじて受け入れているのか……。

 

(──……。)

 

ㅤさせるがまま、されるがまま。

ㅤオルムは何も言わず、ラウラのさせたいようにする。

ㅤけれど時折する瞬きの音だけが、やたらとラウラの耳に響いた。




スパゲット

感想ありがとうございました。
次回は多分、普通にオルム視点になるでしょう。
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