夏の日差しは幸いなことに木葉が遮ってくれていた。
それでも肌に纏わりつく湿った暑さは嫌で仕方がないが。
「三上、今どの辺だ?」
「ええっと、今ちょうどこの辺りですね」
地図で今いる地点を指差し片月さんに教える。
昨日から歩き続け、明日の午前中には件のライダーがいるという隠れ里に到着予定。
モンスターの襲撃もなく、鉛の兵隊達にも気付かれず順調にここまで進んでこれたのは幸運と言って他ならない。
更に歩を進め、日が暮れたので夜を明かす。
旧国道沿いの廃れた民家をお借りして一泊。明かりをつけては鉛の兵隊に見つかってしまうかもしれないということで明かりはない。
暗くなったら寝て、日が昇ると共に起床する。なんとも自然的なサイクルでの生活である。
そうして夕飯を食べてから寝たのだが、目が覚めてしまった。それもまだまだ暗い時間に。
どうにも目が冴えて眠れそうになく、寝袋の中で寝返りを打ち続けるのにも飽きたので外に出た。
そして、感動した。
星空。
果てのない闇を照らす無数の光達。
これまでも空を見上げるなんてことはしてきたはずなのに、今日はやけに綺麗に見える。
「気象条件、標高、星空を見るにはうってつけってわけね」
「ひゃあ!?」
一人の世界に浸っていたので、いきなり話しかけられて驚いた。
かなり、とても、驚いた。
「そんなに驚く必要、あるかしら」
「い、いえ! その、ごめんなさい……」
「謝らなくていいわ、気にしてないから」
咲洲さんは私の隣に並んで同じように星空を見上げる。
目付きのせいで普段から人を睨んでるかのような彼女であるが、星空のおかげか今は穏やかな表情を浮かべている。
二人で星空を眺める。
静寂の夜を楽しんでいた。
「ねえ、貴女」
私よりも沈黙が好きそうな咲洲さんが静寂を破った。
「なんですか?」
「なんで、来たの」
心にチクリとその言葉が刺さった。
何故、この人達と同行してるのか。それは、この道中でも考えていたことだった。
「なんで、でしょうか……。頼まれたからじゃ、駄目ですか?」
頼まれなければこうして行くことにはならなかったのでそれもまた一つの事実である。
だが、それだけかというと……。
「貴女みたいな人を知ってるわ」
「え……」
「彼もずっと、理由を求めていた。何故戦うのかって、なんで戦えるのかって、悩んでいた」
星空を眺める、遠い目が映しているのは本当に星空なのだろうか。いや、きっといまの彼女の瞳には、その彼が……。
「えっと、その、彼は……彼氏さんですか!?」
思わず、聞いてしまった。
だって、仕方ない。そこまで思う男の人なんてつまりそういうことではないのか。
「……元、いや、違う。なんていうか、その……」
「……元彼さんのことをそんな……」
「ちょっと待ちなさい誤解があるわ。別れたわけじゃなくて別れさせられたというかなかったことにされたというか……」
「ええ!? それこそ本当にどういうことですか!? あれですか家柄の違いのせいとかですか!?」
「ちょっ……貴女キャラ変わってない!?」
こうして夜は更けていく。
咲洲さんを問い詰めたがその答えは要領を得ないものでまた改めて問いただす必要がありそうだ。
「……あの二人はなにやってんだか」
ガールズトークのせいで目が覚めた瀬那はその会話内容のせいで身体が痒くなり、背中を掻いた。
翌朝、歩き出して二時間。
もうじき里に辿り着くという頃合い、鬱蒼とした茂みの中からモンスターが現れた。数は……たくさん!
数日前に街で遭遇したのと同じゴキブリ人間モンスターの群れが一斉に襲いかかる。咲洲さんが青い弓? 剣? どちらも兼ねた弓で迫りくるモンスターを斬り伏せ退路を開く。片月さんはレイピアと拳で押し退ける。
完全な不意討ちに変身する隙も与えてもらえない。
なんとか変身さえ出来れば……!
「数が多いんだよ!」
「とにかく、一点突破するしかないわ」
確かにそれしか方法はない。だが容易いことではない。この数のモンスターを振り切ってかわすなんて……。
「三上ッ!」
「えっ────」
咲洲さんが私を呼ぶのと同時に私も気付いた。私に飛びかかってくるモンスター。
避けられない。
なんとか身を守ろうと無意識に屈むがそれは無意味な行動。私はもう、ここで……。
最後に聴いたのは何かが空を斬る音。
そして、モンスターが苦痛にうめく声。
「そのまま屈んでろッ!」
男の人の声が響く。
言われたとおり屈んだままでいると何か、円盤のようなものがモンスター達に命中している。
モンスターに着弾した円盤はモンスターの皮膚を抉るように回転を続ける。火花の勢いが強まり、そしてモンスターは爆散する。
モンスター達の勢力が弱まる。
その隙をついて咲洲さんと片月さんは変身し近くのモンスター達を次々と撃破していく。
そこに、二人のライダーが参戦する。
「しゃあッ! 行くぜ千鶴!」
紺色のスーツに所々に銀色の装甲が貼り付いているライダー。両手に鉤爪のような武器を装備している。さっき私に屈んでろと言ったのは彼のようだ。
荒々しい戦い方でモンスター達を蹂躙していく。
「ああ。……ッ!」
もう一人のライダーは白銀のライダー。
黒いスーツの上に白銀の鎧を纏い、赤い複眼が木々の間から差し込んでくる太陽光を反射しルビーのように煌めいていた。
もう一人のライダーに比べると、鋭い切先を連想させるような戦い方。
逆手にナイフを構え、モンスターの群れを駆け抜けていく。モンスターとのすれ違い様にモンスターの頭部をバターを切るかのように斬り落とした。
「三上、貴女も変身しなさい! でないと死ぬわよ!」
「は、はい!」
変身し、モンスター達に立ち向かう。
殴って、蹴って……。このモンスター達は弱い。変身してしまえば、怖くはない!
五人のライダー達がモンスターの大軍を圧倒する。
形勢は逆転し、勝ち目のないモンスター達は敗走していった。
「はあ……はあ……」
なんとか、生き残った……。
変身を解除するのと同時に地面に座りこむ。
生きた心地がしなかった。
「よお、大丈夫か?」
紺色のライダーが私に手を差し出す。
少し戸惑いながらありがとうございますとその手を取って立ち上がった。
そして、改めてお礼を言うと紺色のライダーも変身を解除した。
私より10歳は歳上に見える男性。
人懐っこい笑顔を浮かべ、名乗ってくれた。
「俺は水氣京助。近くの里のライダーだ。ライダーとしては仮面ライダーブラッディって名乗ってる。よろしくな!」
近くの里の……。
それじゃあ、この人達が目的の……!
「そんであっちが六堂千鶴。仮面ライダー刃鶴だ」
水氣さんがあいつあいつと教えてくれる。
白銀のライダーも変身を解除する。仮面の下の顔は、美男であった。女性も羨む白い肌、艶のある黒髪、切れ長の目は何人もの女性を落としていそうである。
「惚れたか?」
「い、いえ!」
「そうか。ちなみにもう妻子持ちだからやめとけよ~」
念のためと忠告される。
あれだけの顔の良さならそりゃ結婚もしてるだろうと納得だ。
「その身なりからすると里が襲われて逃げ延びてきたのか? 受け入れなら出来るぞ。尋問の後にな」
六堂さん……はいきなり恐ろしいことを言った。
尋問とはつまり色々と聞かれるということで……。
「堂々としなさい。大丈夫、真実だけ話せばいい。別に探られて痛い腹は持ち合わせてないでしょう?」
不安が顔に出ていたのか、咲洲さんが励ましてくれた。
そうだ、ただ私達が来た理由を話せばいい。
だって私達は彼等の敵ではないからだ。彼等に敵意はなく害を与えるようなつもりは一切ない。
むしろ仲間になるために私達は来たのだから。
頑張って堂々とした態度を作り、二人についていく。
何が待つか分からない不安を無理矢理押し込めて歩く。大丈夫、ここまで来たならきっと大丈夫だと自分に言い聞かせながら。