「そういうわけでしょっちゅう握手会やらなにやら俺は行ってたのよファンだからな。そしたらまあ顔覚えられるし結構お話してくれるようになったんだけどある時どうしても外せない用事があってライブ行けなくて。そんで次のライブの時にいつものように握手会行ったらその子がさ、どうして前回は来てくれなかったんですか?って。笑顔で聞かれたんだけどもう目が笑ってないの恐ろしいのなんの。ホラーはいける口だけどあれはガチホラーだったね」
水氣さんがずっとお話している。
咲洲さんと片月さんは別室で私は水氣さんと二人きり。尋問するなんて言われていたけど二人は大丈夫なのかな……。
「まあそう心配すんな。別に怪しくなければなんもねえよ。事実、君は敵ではないと判断されたわけだから俺なんかの話を聞かされてるわけだしぃ? あの二人もさくっと話聞いたら解放されるって」
「それならいいんですけど……。あの、それにしてもどうして尋問なんてやってるんですか?」
私達の里ではこんなことしていなかった。
来るものは敵意のある者以外は拒まずというスタンスでいたのに……。
「前にさ、里に来たやつが中で暴れて被害が出たことがあったんだよ。鉛の兵隊じゃなかったのが幸いしてここがばれることはなかったが……。そういうわけで、この里は外部から来る奴に警戒心が高い」
「そうだったんですね……」
「ああ。そんで、元刑事のあいつが尋問担当ってわけ」
あいつというとさっき水氣さんと一緒にいたあのイケメンさん……?
元刑事というのはなんというか意外だ。
「ええと、千鶴さん、でしたっけ? てっきり元モデルさんとかなのかと……」
「あー。あいつ顔もスタイルも良いからな、学生時代はそのモテっぷりを見せつけられて鬱になりそうだったぜ」
頬杖をついて恨めしいとぐちぐち言い始めるが本気ではないのが伝わってきた。学生時代からと言っているので少なくとも二人は10年近くの付き合いなのだろう。
「仲良しなんですね」
「まあ、ガキの頃からの付き合いだしな」
「そうなんですね……。羨ましいです。私はあの混乱で友達とは離れ離れになってしまいましたから……」
「そっか……。ま、どっかで生きてるだろうさ。そのうち会えるよ」
私を励ますように言ってくれた。
少し照れくさかったのか、顔を逸らして金色にメッシュをかけたところをいじっている。
なんだか、近所のお兄さんという感じで親しみやすいのが水氣さん。そう印象付けるとノックのあとに少々露出度高めの女の人が入室してきた。
「ちょっと京助~。なに未成年侍らせてるのよ~」
「おい美紅、その言い方やめろ」
「そう見えたからそう言っただけよ。ところで、ここにはこの子だけ? 若い女の子が三人って聞いたけど」
「ほかの二人は千鶴が現在お相手中だ」
「あらやだ、妻と子供がいるのに」
「そういう意味じゃねえって! 事情聴取中って意味だ!」
ペースは完全女性のもので水氣さんは乗せられてしまっている。なんというか、見た目通りの人でそういう話題も遠慮なく話せてしまうようだ。
「ねぇねぇキミ、お名前は?」
「あ、えっと、三上奈々、です」
「奈々ちゃんね、よろしく。私は
来ると聞かれても私はまだ未成年なのでバーとかそういったところには……。
「未成年に酒飲ます気か」
「いいじゃない。もう法律なんてもの存在しないんだし」
確かに法律はもう機能していないので私が飲酒したところで美紅さんが罰せられることはないけれど、やはり躊躇われる。これまでの人生の九割は法律に従い、法律は守るものと教育されてきたからだ。もう無意味な教育が私を縛る。
「ふふ、いい子なのね。私達と違って」
「おい、俺を巻き込むな。俺はちゃんと学校行ってたぞ!」
「ちゃんと学校行ってたわりには私より成績低かったじゃない。ねえ、寝坊助のピー助ちゃん?」
「うぐっ。ち、千鶴はちゃんと学校行ってお前よりも成績良かったぞ! あとそのあだ名で呼ぶんじゃねえ!」
ピー助ちゃん?
あだ名?
……ふふ、かわいい。
「こいつねぇ、昔から何かあるとすぐピーピーピーピー喚くからピー助なの。可愛いでしょ?」
「はい! 可愛いです!」
「可愛い言うな!」
もうこれで完全に理解した。
京助さんはいじられキャラだ。
「おい、なにを騒いでいる。外まで響いてるぞ」
尋問を終えた六堂さんと咲洲さん、片月さんが入室してきた。咲洲さんはいつもと変わらぬポーカーフェイスだけど片月さんはイラついている様子。尋問で何かあったのだろうか?
「美紅、お前もいたのか」
「なによ、いちゃ悪い?」
「いや」
なにやら六堂さんと円居さんの間に妙な空気が流れている気がする。というより、円居さんのものだろう。この空気は。どこか不機嫌というか、六堂さんのことを拒絶しているかのような。
しかし拒絶というほど強いものではないような、とにかく言葉では説明し難いものだ。
「あいつ、千鶴が結婚してからああなんだよ」
水氣さんが小声で教えてくれた。
これだけで大体察することが出来た。
つまり円居さんは六堂さんのこと……。
「ちょっとピー助。奈々ちゃんになぁに言ったのかしら?」
「な、なんでもありません~! お前の爛れた男の経歴を話しただけですぅ~」
「はぁ!? 爛れてなんかないしそもそも私恋愛とかしたことないし結婚するつもりもないしぃ! こんのピー助の分際でぇ!」
「おうなんだやるかぁ!!!」
……こうして、二人の取っ組み合いが始まった。
六堂さんはため息をつくだけで止めることはせず、二人が疲れ果てるのをただ待つのだった……。