仮面ライダーツルギ EPISODE X   作:大ちゃんネオ

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Xー18 少年

 昼時、舞園明日香の執事である糸谷玄貴は主人である明日香の昼食を運んでいる最中であった。

 山菜の汁物に蒸かした芋という質素なもの。ここで食べられるものと言えばこんなもの。

 かつてお出ししていたものと比べることも出来ない。

 そんなことは関係ない、今は自分の仕事をするだけと頭を切り替える……だが、その切り替えは無意味なものと化した。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!!」 

「ッ!? お嬢様!!!」

 

 響いた明日香の悲鳴。

 昼食は台に置いて玄貴は駆け出した。

 明日香の部屋は廊下をまっすぐ進んだ先、すぐに辿り着き、扉を開けるとそこには……。

 

「あ、貴方は……」

 

 気絶させられたのか、意識のない明日香を抱き起こしていたのは全身包帯の男。

 窓から侵入したのか、開け放たれた窓からは風が吹き込んでおり、包帯の端が風に靡いていた。

 

「お嬢様に一体なにをした!?」

「……」

 

 玄貴が凄み、詰め寄ると包帯の男は明日香を床に寝かせると窓から逃走。

 包帯男を追うよりもまず自身の主人である明日香の安全が大切だと玄貴は追跡しなかった。

 

「お嬢様! お嬢様!」

「おい! 今の悲鳴はなんだ!」

「なにがあった!?」

 

 里に残っていた鰐淵モアと鞍馬隆治が駆けつけた。

 すぐになにが起こったのかを玄貴は二人に説明し、包帯の男の捜索が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠れ里というのはどこも似たようなものであるが、先日崩壊した私の里のことを思い出すと懐かしく、悲しかった。

 廃材で建てた長屋が建ち並ぶ里の中心を抜けると畑があり、畑の向こうに小屋がある。あそこがここでの学校だと円居さんが教えてくれた。

 

「教師やってた人がいてさ、面倒見てくれてるんだよ」

「へぇ。こっちの里にはそういう方はいなかったので有志の方が教えていました」

「ま、意外といるようでいないもんだよな。教師とかさ。あと、そもそも子供ってのがな」

 

 渋い顔をした水氣さんの言葉の意味はすぐに分かった。

 子供が少ない。

 それは少子化が叫ばれていた旧世界の話ではない。

 闘争主導者が現れ、モンスターが跋扈し、力に溺れた人間達による闘争が始まった時、一番被害を受けたのは老人や子供、障害を持つ人達であった。

 戦うことも、逃げることも出来ない人々はモンスターにとって狙いやすい獲物であり、闘争主導者側のライダー達からすれば暴力の捌け口として最適な存在。

 いわゆる、社会的弱者と呼ばれる人達はこの弱肉強食の世界においても弱者であった。

 

「さて、時間的には……そろそろ授業終わりってとこかな。授業は午前中だけなんだよ……あ、出てきた。おーい、滾迸(こんぺい)~」

 

 小屋からぞろぞろと子供達が出てくる。

 子供達の集団の中から円居さんの声に反応した一人の少年がこちらに向かって走ってくる。

 

「よっ、元気してる?」

「なに円居の姉ちゃん? この人達は?」

 

 円居さんは親しげに滾迸(こんぺい)という少年に話しかけた。

 この子が、ツルギと一緒にいたという……。

 

「このお姉ちゃん達、ツルギを探してるの」

「え……燐兄ちゃんを知ってるの!?」

 

 燐兄ちゃん……。

 咲洲さんはツルギのことを燐と呼んでいたので、この子がツルギと一緒にいた可能性は非常に高い。

 

「ええ、燐のことを知っている。だから、あなたが知っているツルギのことを教えて?」

 

 咲洲さんが滾迸君に目線を合わせてそう問い掛けた。

 滾迸君は俯く。

 なにか、話したくなさそうな様子。しかし、顔を上げた滾迸君の目には確かな光が宿っていた。

 

「とりあえずさ、時間も時間だしお昼でも食べながらにしましょ。ささ、私のお店にどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 円居さんのお店……お店と言っても小屋で、お金を取っているわけではないという。代わりに野菜だとか物を貰ってそれを調理してもてなすという。

 炊き出しのおにぎりを貰って、食べ終わり。

 お腹いっぱいになったところで滾迸君の話が始まった。

 

「おれが燐兄ちゃんと会ったのは前に住んでた里が鉛の兵隊に襲われた時だったんだ。父ちゃんも母ちゃんも殺されて……」

 

 ────炎の中、家族だったものを必死にかき集めていた。

 その行為に意味があると信じて、これらを集めればなんとかなると、そう思って。

 

「ガキがまだいたか」

 

 里を襲い、友達を殺し、家族を殺したライダーが闇の中から現れて、目の前に立っていた。

 

「う……うあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 変身した。

 殺そうと思った。

 だけど、手も足も出なかった。

 

「子供だろうとあたしは容赦しない。恨むなら隠れ里なんかにいたことを恨むんだね」

 

 そいつはおれを殺す気だった。

 おれも死んだと思った。

 けど、ここで死ねるならそれでもいいなんて思った。

 だけど、そんな時に燐兄ちゃんと出会った。

 

 ライダーの刃を、剣が弾いた。

 呆気に取られたライダーの隙を、ボロボロのローブで全身を覆った生身の人間が蹴り飛ばし、怯ませるとすぐにおれを抱えてその人は走り出した。

 そこから記憶は曖昧で、目が覚めたら朝になっていて、おれはその人の背で眠っていた。

 

「あ、起きた?」

 

 とても、優しい声だった。

 

「君、名前は?」

「池田屋、滾迸」

「こんぺい君かぁ。珍しい名前だね」

「兄ちゃんは?」

「え?」

「兄ちゃんの名前」

「ああ、ごめんごめん。名乗り忘れてた。僕は御剣燐。ご覧の通り風来坊さ。……なんちゃって」

 

 燐兄ちゃんは風来坊と言ったとおり、どこかの里に住み着くのではなく旅を続けていた。どこに向かっているかは分からなかったけれど、とにかく歩き続けていた。 

 燐兄ちゃんはものすごく強かった。

 ライダーの相手なら剣さえあれば生身で圧倒するほどで。

 おれは鉛の兵隊に復讐したくて、燐兄ちゃんに稽古をつけてもらった。

 稽古と言っても多分、燐兄ちゃんにはそんなつもりなかったと思う。

 おれの気を晴らさせるための運動に付き合ってもらってたって感じだと思う。

 その時はそんなことに気付きもしなくて、強くなった気でいていつでも鉛の兵隊に復讐してやる気でいたんだ。

 

 けど、燐兄ちゃんは出来る限り戦いを避けようとしていた。

 おれが鉛の兵隊なんかやっつけようと言っても駄目だって言って。

 だけどある時、おれは我慢出来なくなって燐兄ちゃんに黙って、森を進軍中の鉛の兵隊に攻撃したんだ。

 一人で全員殺してやるって。

 みんなの仇を取るって。

 でも一人じゃなんにも出来なくて、今度こそ殺されると思った。

 

「────変身」

 

 また、燐兄ちゃんに助けてもらった。 

 変身した燐兄ちゃんは白い騎士だった。

 変身した燐兄ちゃんを見た鉛の兵隊はみんな「ツルギだ!」って言ってた。

 ツルギの噂はおれも聞いてたから名前は知ってたけど、まさか実在するなんて思ってなかったから驚いた。

 おれが驚いている間に燐兄ちゃんは数の差なんてものともしなくて鉛の兵隊を一瞬で全滅させたんだ。

 燐兄ちゃんはあいつらを殺しはしなかったけど鉛の兵隊の奴等は自分の契約モンスターとか森に潜むモンスターに食われて……。

 その隙に、燐兄ちゃんはまたおれを連れて走ってその場を後にした。

 その時の燐兄ちゃんの顔は今でも覚えてる。

 すっごい苦しそうで、辛そうで、鉛の兵隊も助けてあげたかったみたいだった。

 

「滾迸君。復讐なんて考えちゃ駄目だ」

「なんでだよ! あいつらは父ちゃんと母ちゃんを殺したんだぞ! 友達だって! みんな、みんな!!!」

「君が鉛の兵隊を殺せば、それは鉛の兵隊と同じことをしたことになる。君のお父さんとお母さんはきっとそんなことを望んではいないよ。だから、復讐なんて考えちゃ駄目だよ」

 

 いつも優しい顔をしていた燐兄ちゃんだったけど、その時はすごい真面目な顔で、もう復讐なんてしないことって約束したんだ。

 そのあとすぐ、この里に立ち寄って、おれを置いて燐兄ちゃんだけどこかに行っちゃって……。

 

 

 

 

 

 

「それが、半年前の話ね」

「うん。あれ以来燐兄ちゃんの噂も聞かないし、どこでなにしてるかも分からない……。燐兄ちゃん……どこ行っちゃったんだよ……」

 

 寂しそうに呟く滾迸君の気持ちは容易に想像がついた。

 家族や友達を亡くしたこの子にとって、御剣燐という存在は正しく兄のような存在で心の支えだった。

 それが滾迸君だけ置いて旅に出るなんて、どうしてだろうか……。

 

「よかった……燐は、生きていた……」

 

 咲洲さんは静かにそう呟いていた。

 その目は潤んで、今にも泣きそうでいた。

 

「ま、その半年のうちに野垂れ死んでるかもしれないけどな」

「燐兄ちゃんは死んでなんかない!」

 

 片月さんの言葉に滾迸君が強く反論する。

 

「片月さん! 滾迸君の前でそんなこと言わないでください!」

「そうよ片月。私の前でも禁句よ」

「チッ……分かったよ。悪かった。にしても、これで次にやることは決まったな」

「次に、やることですか?」

「ああ、御剣を探すぞ。悔しいが、あいつは最強のライダーだ。共闘出来れば、心強い」

 

 確かに、滾迸君の話を聞く限りツルギはとても強いようだ。仲間になってくれたら心強いだろう。

 

「けど、探すなんて……。手掛かりだってないですし……」

「……ねえ、滾迸君。燐がなんで旅をしてるのか本当になにも言ってなかったの? なにか、気になることとか言ってなかった?」

 

 咲洲さんが手掛かりがないか滾迸君に問い掛ける。

 御剣燐という人物が何故、旅をしていたのか。どこに向かっていたのか。その手掛かりさえ分かれば居場所を絞り込めるかもしれない。

 

「うーん……そう言われても……。聞いてもいつもはぐらかされてたし……」

「はぐらかされてたの?」

「うん。なんで旅してるの?とか。聞いても答えてくれなかった」

「聞いても答えないってことは、隠してるってことだな。相当用心深いぜ、ツルギは」

 

 ずっと黙っていた水氣さんが久しぶりに口を開いて、グラスに注がれた茶色い液体を飲んで……。

 

「水氣さん昼間からお酒は良くないと思います」

「安心したまえ奈々ちゃん。これは麦茶だ。昼間から飲むなんてそこの女ぐらいさ」

「なに、喧嘩売ってんの?」

「うっせー。そもそもお前今朝から飲んでたろ。そろそろやめろ。身体に悪いぞ」

「まあまあお二人とも喧嘩しないでくださいよ……」

 

 仲裁に入ったが、気になることを水氣さんが言った。

 

「え? あの、今朝からって……」

「ああ、そいつ今朝から酒入ってる」

「ウソでしょ……」

 

 まったくそんな気配はしなかった。

 まさか、飲んでいたなんて……。

 

「まあまあ私のことはいいから続きよ続き。なんとかしてそのツルギちゃんの手掛かり見つけないとでしょ?」

 

 それは、そうなんですが……。

 まあ、酔っ払ってるわけでもなさそうだからいいのかな……。

 

「まったく呑気って言葉が似合う奴だぜ……」

 

 水氣さんがそう溢した瞬間、轟音と共に地面が揺れた。

 

「な、なに!?」

「どうやら、呑気にしてられないようだぜ」

「片月」

「ああ、分かってる。いくぞ」

 

 私以外のみんなはもう戦闘態勢に入っていた。

 今度は、ここが戦場になってしまうの……?

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