オフロードバイクを駆って山道を進む。
もう日が高くなっているが、夏の日差しは生い茂る木々によって遮られていた。それでも、暑さばかりはどうしようもないが……。これでも、日向よりはマシだと言い聞かせ我慢する。
それに、もう少しで里に着く。
そうすれば水浴びが出来るから汗や汚れを落とすことが出来る。
そんなことを考えながら走っていたら、もう里の目の前だった。特に異常もなさそうで一安心。
門番の人にしっかり顔を見せて門をくぐると平和な日常がそこにはあった。数日前にモンスターに襲撃されたので少々ピリピリとした雰囲気が漂っていたがそれもなくなっている。
通りでは子供達が駆け回り、炊き出しが始まっている。もうお昼だ。
……一瞬、お腹が鳴ったが今はご飯より先に今日の成果報告である。
里で一番大きな建物、役場の前にバイクを止めて大きなバッグを背負いモアさんと一緒に入っていく。
「おお帰ったか! 今日はどだった?」
この里の運営に携わる田所さんというおじいさんがうちわを扇ぎながら近付いてきた。
「今日は大漁ですよ。ほとんど漁られていないドラッグストアがあったので医薬品とか保存食とか……」
モアさんと一緒にバッグに詰められた今日の成果達を並べていく。
今日は本当に大成功と言っていいだろう。
「薬が手に入ったのはえがった。木野先生がそろそろ薬や包帯が無くなってきたと言ってたから喜ぶべ」
「それは良かったです」
ニコっと微笑んでそう返すモアさんに一瞬見惚れる。
もし男の人と付き合うならモアさんみたいな人当たりのいい人がいいな……。
「よし、じゃあ奈々ちゃんは今日は帰ってゆっくり休んで。……奈々ちゃん?」
「わぁ!? いえ、なんでもないです! お疲れ様でした……」
もう、顔から火が出そうだ。
こんなところは見せられないので顔を俯きがちにして役場を後にした。
「奈々ちゃん、どしたんだべ?」
「もしかしたらモンスターと戦闘になったのでそれで……」
「んだか……」
大通りを歩いて、まずは炊き出しの列に並ぶことにする。大通りと言ってもそんなに広いわけでもないけど。里の中で一番大きな通りだから大通り。そう呼ばれているだけである。
隠れ里というのは、この狂った世界になった後、戦いを嫌い、
その数ある隠れ里の中でも、ここが一番大きい里であるとされる。
かつて、鉱山として栄えたここは鉱山で働く労働者とその家族が暮らしていたためひとつの町だったのである。そのため、廃墟となった当時の施設をなんとか改築して皆で暮らしている。
「奈々ちゃんおかえり。どうだった?」
「ただいま木村さん。今日はいっぱい物資ゲットしました!」
「あら本当! じゃあ頑張った奈々ちゃんにはおにぎり一個サービスね」
にこやかに三個目のおにぎりを手渡してくる木村さん。私は遠慮したが押しきられて受け取ってしまった。
「ありがとうございます! いっぱい食べます!」
「うんうん。若いんだから!」
平和な談笑。
世界は変わってしまったけれど、こうした日常は確かに存在する。
人と人の繋がりが希薄になっていたかつての世界よりも、そういうところはマシなのかもしれない。そう思い込まないと、ここでの生活なんてものはやっていられなくて……。
「あ、あとこれね。あのミイラさんの分」
そう言って更に二つ、おにぎりを手渡される。
これまたお礼を言って、私は再び家路についた。
ミイラさんというのは、一ヶ月前に私が山の中で倒れているところを見つけた全身を包帯でぐるぐる巻きにしていた男。
周囲の人からは怖がられたり、怪しまれたりしているが、話してみると意外と優しい人物のようで歳も近そうだった。
怪我をしているようだったので里の診療所に運び込んだがベッドがないと言われ、更に包帯を巻いてる割には他の患者より大したことないとか言われて行くあてのない彼は私のところで暮らすようになったのだ。
一体なんたってあんな包帯を巻くようなことになったのか訊ねてもはぐらかされるだけで、基本、彼に関することを聞くと答えになってない答えが帰ってくるので最近は特に彼自身への質問を聞くことはしなくなった。
さて、私が寝食を行う場所である我が家であるがかつて鉱山で働いていた人向けの寮の一部屋である。しかし、包帯男がいる分、仕切りを立てた関係で私の領土は部屋の半分ということになっている。
まあ、別に物を置く所が無くて困るほど物持ちではないので構わないが。
「ただいま。今日も大人しくしてた?」
「おかえりなさい。大人しくしてたよ」
カーテンの向こうから聞こえてきた声はいつものミイラさんの声。
カーテンで仕切られているのでもしかしたらミイラさんではない別の誰かが入り込んでいるのかもしれないなんてことをよく妄想もとい想像する。
おにぎり置いとくからと伝えて、私側の領地にあるちゃぶ台の上におにぎりを載せると、仕切りとなっている布と布の隙間からボロボロの包帯に巻かれた腕が現れる。
どこか、どこかと手でおにぎりを探す様はさながらホラー。夜中に見たら、悲鳴を上げていたかもしれない。
それにしても、なんというかじれったい。
というかこのものぐさっぷり。
恐らく、ベッドから身体を起こさないで探しているのだろう。
声をかけてからならこちら側に来るのは構わないとしているのに、ミイラさんはこっち側に来たことはなかった。
「ほら、ここ」
ミイラさんの手におにぎりを握らせると、さっきまでの緩慢な動きはどこへ行ったのか。一瞬で手があちら側へ引っ込んだ。
勢いよく咀嚼する音が聞こえる。
そんなに、お腹が空いていたのか。
「ねえ、おにぎり一個多くもらったんだけど、食べる?」
「食べる」
全く、日がな一日ずっと部屋にいる奴のくせに食欲は一丁前なんだから……。
「ほら、これ」
追加のおにぎりを手渡すと再び豪快な咀嚼音。
まったく……。
「食っちゃ寝してると太るよ? 動けるなら何か手伝うとかすれば? そうすれば里の皆も君のこと変に思わないだろうし」
親切心からそう言った。
すると奴はなんと言っただろうか。
「……君より動いてる」
その一言にカチンと来た。
こいつ……!
「私の方が働いて動いてるっての!!!」
怒りから部屋を飛び出し、大通りをぶらぶら歩く。
まったくミイラめ……。
しかし怒りは周囲の景色が宥めてくれた。
子供達が駆け回り、あちこちからは楽しそうな話声が聞こえてくる。
こんな生活でも、楽しさというものはある。
今の里は平和そのもの。
だが、それらを全て壊す声が響いた。
「敵襲ッ!!!」
周辺の警備をしていた男性の声が響く。
里全体に緊張が走った。