「………あ、いた」
箒の尻に醤油を括りつけた魔理沙と博麗神社を飛び立ってから四半時程。霊夢はすぐに見つかった。
彼女にしては珍しく何故か徒歩で移動していて、遠目から見ても分かるほど気を落としてトボトボと三ツ葉に覆われた河川敷脇の小道を歩いていた。
探している途中で少しすれ違う様な形で見つけたため、背後から追うように近づいてゆく。
まだこちらに気付いていない霊夢まであと俥一台分程、地から男一人分のところまで下りて行き、魔理沙が話しかけようとした途端。ピタリ、と霊夢がその歩を止めた。
こちらに気付いたのか。と思い、自分達もはたと止まる。が、霊夢は以前止まったままだ。
はて、と二人同時に顔を見合わせ、小首を傾げる。
すると今度は突然俯いてぷるぷると震え始めた。怪訝な顔をする私達。
その後暫く「ぐぬぬ…」と唸って霊夢だがバッと擬音の付きそうな勢いで顔を清々しい春空へ向ける。
私達二人も何かあるのかと習って見上げてみる。と、
魔理沙への八つ当たりを騒々しくぶち撒けた。
「魔理沙なんて変なキノコ食べてお腹壊しちゃえばいいのよぉーーーー!!!!バカぁーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
途端、左隣から重圧と怒りのオーラヲ纏った(様に見える)魔理沙が霊夢に話しかける。
またか、コイツは霊夢が絡む事になると途端に感情的になる。悪い癖だ。
「_____ほぅ、誰が腹を壊せばいいって?」
ギギギ…と油の切れたブリキ人形の様に首を回し霊夢が振り返る。
「あ、あらご機嫌よう。魔理沙さん……」
引き攣った笑みを浮かべ、若干声の震えている霊夢。口調がおかしい。
「そうだな。今日は良い天気だ」
逆に怖いくらいの笑みを浮かべ、少し声に怒りを隠し切れていない魔理沙。霊夢の言葉にちょっとズレた答えをする。
「め、珍しいわね、こんな所で逢うなんて…」
「そうだな、珍しいな。ひょっとしたら茸に詳しい誰かさんが茸で腹を壊すなんて事も珍しいかもな」
「うっ……」
どこか機械的な声で放たれた魔理沙の皮肉に対し言葉につまる霊夢。いつもの彼女ならば「五月蝿いわね」と躊躇なく、遠慮なく、礼儀なく魔理沙から醤油の一升瓶をぶんどっていただろう。
だが何故彼女はそうしないのか。
されは、魔理沙の箒の後ろの方に醤油がぶら下がっているからだ。位置的に、ぶんどるのは難しい。かと言って無理矢理取ろうとすれば魔理沙を越えなければならない。その間に魔理沙は避けてしまうだろう。
霊夢と魔理沙において、純粋なスピード勝負では魔理沙に軍配が上がる。
つまり、力ずくで奪うことは不可能。故に動かない。
「そう言や霊夢、お前醤油余ってるんだが要らないか?」
「へ?醤油?欲しいけど……」
「ふーん…そうか、欲しいのか……いや別に譲ってやってもいいんだけどな」
「何よ…ならさっさとよこしなさいよ」
「いやー……人の悪口を大声で叫ぶ奴にタダで醤油を譲るのはちょっと憚られるぜ…」
「な……!?そ、それはちょっとケチ過ぎるんじゃない!?」
「土下座して謝るならあげてやってもいいんだぜ?」
「土下座までする様なことじゃないでしょ!?」
「しないならあげないんだぜ」
「はぁ!?アンタねぇ…」
「────はぁ…」
友人二人が下らない言い争いを始めてしまったので私は少し離れて後ろを向き、三ツ葉の原に座り小さな川のせせらぎを眺めることにした。
二人の喧騒が背後から聞こえる気がするがそんなもの知らない聞こえない。
私にはもうあの二人の面倒は見切れません。
ゆっくりと静かに流れる人一人分程の幅の小さな川は、ちょうど真上を過ぎたばかりの太陽に照らされながらキラキラと輝き、岸の草陰は小魚の住処となり、透き通る水は見ているだけで涼しげ。せせらぎは心を癒し、緩やかな流れは一人の青年を運んできた。
「ヒトガナガレテル!!」
私はバッと立ち上がりそう叫んだ