ベレスに妹入れてみた   作:ひーらぎ@1341

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戦闘描写はむずい


9話

「ちっ、皆んな!離れすぎるんじゃないよ!」

 

 戦いの空気が辺りに広がる。深い霧に包まれた街道で、戦いが始まろうとしている。

 こうなったのも、どこぞの領主が教会に対して兵を挙げたようで、その鎮圧が私たちの学級の課題だそうだ。以前の盗賊の討伐といい、私たちの学級の課題はどうして、こう…危険なものが転がり込んでくるのだろう。一応皆が言うには、例年とは違う異例の課題らしい。

 

 霧により、味方の位置の把握すら容易では無い。だがそれは相手からも同じこと。兵力的に勝るこちらが負ける事はないだろう。こちらは如何に犠牲を減らせるか、それが重要だ。

 

 この様な環境での戦いも、傭兵団の時に何度も経験してきた。出来るだけ集団で動く。それがジェラルトに教えられた霧中での戦い方だ。

 

「ねぇ、ベレ……ス?」

 

 隣を歩いていたベレスへと声を送ったが、反応は無い。

 

 ………それもそのはず。いつの間にか、隣からベレスが消えていた。それだけじゃない。同じ学級の生徒すら、辺りには見つからない。

 

「……やば」

 

 まさか、学級の中でも実戦の経験がそこそこ豊富な私が、この様な失敗をしてしまうなんて。

 しかし、ここで慌ててはいけない。戦場で大事なのは落ち着く事。ここで大声なんて出そうものなら、敵すらも誘き寄せてしまうだろう。耳を澄まし、周囲の音を聞く。

 足音は…一つ。近くの林から誰かが来ている。その足音の主は…

 

「うおおおおお!領主様は死なせねぇぞぉ!」

 

 敵だ。

 

「遅い」

 

 槍を構えて、全体重を乗せてこちらに特攻してきたが、直線的でわかりやすい。当たる事を前提とした攻撃なので、躱してしまえば、体勢を大きく崩す。そこに反撃すれば良い。

 

「……?」

 

 倒した相手は、防具はとても貧相な物で、革の急拵えで作られた防具だ。無いよりはマシ、と言ったレベルの。

 いくら小領主といえど、自身の兵士の防具ぐらい所持していると思ったのだが。それによく見たら、武器は槍なんて大層な物では無く、ただの農具だ。

 

「お、おい、おめぇ!よくも!」

 

 聞き慣れない声が聞こえる。私が倒した奴の様子を見に来たのだろう。私に襲いかかってきたので、返り討ちにする。

 

「ぐ…ぁぁ………ロナート様。おらたちの……分まで……」

 

「…やっぱり、弱い」

 

 この兵士も武装は貧相で、動きに関しても、とても訓練を受けているとは思えない。

 

「……変なの」

 

 敵の練度に疑問を抱えつつも、とりあえず合流を試みる。

 ふと、遠くの方から断末魔が聞こえた。そのすぐ後に、霧がスーッと晴れていった。この濃霧は相手方の魔法によるものであった様だ。

 皆んなの姿が見えたため、そこに向かって駆け出してゆく。あちらも私に気がついた様だ。

 

「ハル!どこに行ってたの!?」

 

 合流した矢先、ベレスに問い詰められる。

 

「あぅ…ごめん。逸れちゃって…」

 

「先生、今は戦闘に集中しましょう。ハルスも孤立しないように」

 

「……ハル、私の側から離れないで」

 

 2人揃ってエーデルガルトに諭される。正直この程度の相手に負ける気はしないが、油断しない様にしようと、自分を戒める。

 

 そうして、ふと前線に目を送ると、1人の女の人が、赤く歪な剣を振るう。珍しく重装備をした兵士がいたが、それすらも1人で斬り払う。あの人には流石に勝てそうに無い。味方でよかった。

 

「さすが雷霆(らいてい)のカトリーヌ殿。彼女だけでこの戦場は制圧できてもおかしくはありませんな」

 

「ら、らいてい…?」

 

「あら、姉妹揃って知らないのかしら。かつて女神から力を授かったという10人の英雄……その子孫に伝わる武具よ」

 

「な、なるほど…?」

 

 よくわからないが、まぁ特別で凄いって事だろう。

 

「ちっ!数が多いねぇ…!」

 

 あの人は強いが、多勢に無勢、と言った状況だ。

 

「さぁ、行きましょう。先生」

 

 エーデルガルトさんが敵に向かって走り出し、それに釣られて私たちも共に前へ出る。

 

「お前もあの女狐に誑かされておるのか…わしが真実を教えてやるしか無い!」

 

「真実………女狐?」

 

「大司教レアは民を欺き、主を冒涜する背信の徒だ!大義は…主の加護は我らにある!」

 

「そう…」

 

 この戦い。多分この人が相手方の指揮官なのだろう。この人を倒せば、この戦いは終わる。

 

「大義とか主の加護とか、よくわかんないし」

 

 ベレスがそれを望むのなら。

 

「悪いけど、ここで死んでもらうよ」

 

 

 


 

 

 

 

「クソッ…なんだよ…こんな戦い…」

 

「罪なき民に命を賭けさせるなど…ロナート卿は貴族に相応しくは無い男だったな」

 

 

 戦いが終わり、勝って終わったにも関わらず、皆が意気消沈している。特に、貴族階級の生徒達はこの戦いに納得がいっていない様だ。下を向き、歯を食いしばり、怒りを抑えている。

 

 その中で一人、何知らぬ顔で岩に腰掛ける生徒を見つけた。

 ハルス、この学級の教師の血縁。そして、姉妹揃って実力は確かだ。彼女は貴族では無いが、平民階級の者もこの戦いに思う所はあるだろう。だが彼女の表情に曇りは見えない。

 

「ハルス、少し良いかしら」

 

「う、うん。良いけど」

 

「相手に民兵が混じっていたこともあって、皆動揺しているようね。ロナート卿の真意がどうであれ、彼らは自身の信じる正義の為に戦った。それを単なる犠牲とするのは、おかしいと私は思うわ」

 

「民兵…そう。だから…か」

 

 まだ、私よりも2回りも小さい子に難しい話をしただろうか。しかし、民兵であった事実を聞いても、特に反応は見せない。

 

「あなたは…何か思う所は無いのかしら」

 

「……何に?」

 

「……民兵が戦場に出ていたという事に、よ」

 

「別に、敵なんだからどうでも良いでしょ」

 

 敵の事情に関しては興味がない、ということだろう。仕方が無い事態だとはいえ、フェルディナントの様に、良い意味で高い意識を持つ貴族は特に、数こそ少ないが平民階級の生徒も心を痛めている。

 だというのに、彼女は1人平然としている。

 

「ベレスの敵なんだから、私の敵。それだけ」

 

 そうか。ハルスには自分の意思がない。姉がやるから自分もやる。そんな単純な思考なのだ。幼い頃からの心の拠り所であった姉。それに寄りかかりながら…いや、依存して生きてきたのだ。

 

 未だ幼いとはいえ、倫理観が少し欠如している。姉こそが彼女の中の絶対的な正義なのだ。先生が何を犯そうが彼女はそれに付いていくだろう。先生もそれに気づいていない。

 

 今はハルスについては問題は無い。だが、私はハルスを気に入っている…のだろう。その生い立ちにも少し興味がある。私がいつか、自身の道を突き進む際に、先生と…ハルスを相手にすることになるだろう。

 あの姉妹も動乱の世の中に巻き込まれることになる…

 

 将来の事に不安を抱える私。すでに覚悟は決めた筈であったが…まだ、私は甘かった様だ。

 

 

 

 




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