私たちの学級の課題である警備。学級の皆で、相手の狙いを予想したところ、目的はわからないが、【
聖廟に向かうための唯一の階段を張り込み、不審な者たちが入り込むのを確認。出入り口は一つだけのようで、そこを私たちが追いかける形で逃げ出すのを阻止する。
皆んな少し緊張しているようで、地下に続く階段を降りる時の乾いた足音だけが響く。
「うっ…うぷっ……」
その静かな中に、突如誰かの嗚咽が混じる。まだ何も始まってもいないと言うのに、体調を突如崩してしまったのだろうか。足を止め、後ろを振り返る。その嗚咽の主は…私の妹だった。
「ハル、大丈夫?」
「うっ……はぁ、はぁ…だ、だいじょぶ」
顔を顰めながら苦しそうにそう言うが、誰の目から見ても大丈夫では無い様子だ。ハルには引き返して貰った方が良いだろうか。
しばらく考え込む。
「うーん……、誰かハルを連れて上に戻って欲しい」
本当は私が隣にいてあげたいのだが、教師という立場がある。下に賊がいるというのに、生徒だけにそれの対処を任せるのはいけないだろう。
「あ、あの…あたし、引き受けます」
名乗り出たのは、学級内で一二を争うほどの内気な生徒、ベルナデッタだ。
辺りからは、ベルナデッタが自分から進んで行動を起こした事に動揺が広がる。
「うん、よろしく。ベルナデッタ」
「ふふ、責任重大よ」
「は、はい!頑張ります!」
ベルナデッタの肩に身を預けるハル。ベルナデッタは背中をさすりながらゆっくり階段を上がっていく。
しかし、ハルがあそこまで体調を崩すのは初めてだ。さらに、何の前触れもなくあそこまでとは。ハルは大丈夫だろうか。
「大丈夫よ、先生。ベルちゃんはやる時はやる子よ」
何も言っていないのに、不安を見透かされたのか、ドロテアに励まされる。彼女は他人の心情を察することが上手だ。
「……わかっている」
階段を降りきり、聖廟に着く。
「さあ、行きましょう先生」
今は、この場にいないハルの事を考える時では無い。生徒を死なせないように、この正面の敵を倒す。それに集中しよう。
「皆んな、行くよ」
地下深くでの戦いが今始まる。
「はぁ、はぁ、あぁぅぅ…うぷっ…」
「あ、あう…す、凄い熱…」
なんとかハルスちゃんを部屋に連れて行ったが、苦しそうにしているし、熱もある。こ、こういう時どうすれば良いんだっけ……。看病なんてした事がないから、どうしよう…
「ハルスちゃん!ちょっと待っててね!」
ハルスちゃんを部屋に置いて、私は人を探す。今は儀式の真っ最中で、他学級の生徒も警備にあたっている。
小走りで警備場所へと向かう。周りから白い目で見られるが、それは問題ではない。
髭を生やした片眼鏡のおじさん。この人も…教師だったか。
「そ、その!マヌエラ先生、どこにいますか!」
「む、君は…黒鷲の生徒だったか。マヌエラ君か。彼女はあちらだよ」
「あ、ありがとうございます!」
また、マヌエラ先生のところに向かって走り出す。
「ゼェ…はぁ…ゼェ…マ、マヌエラ、はぁ……先生」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、どうしたの?」
マヌエラ先生の元に辿り着いた時には、私の息も絶え絶えであった。でも急がないと…
「そ、その!ハルスちゃんが!」
「……!怪我でもしたのかしら?」
一気に真面目な顔つきになる先生。保険医というだけあって、やはり頼りになる。
「その、すごい熱で、体調悪そうで、気持ち悪そうで、えっと」
「わかったわ。どこにいるの?」
「ハルスちゃんの部屋です!」
マヌエラ先生は急いで走って行った。これでとりあえずは一安心だろうか。かといって私も何かしたかったので、歩き、上がった息を取り戻しながら向かう。
「あ、あの…大丈夫、ですか」
「ええ、安静にしてれば問題無いと思うけど…。あとは濡れタオルで適度に汗を拭いてあげれば良いと思うわ」
「は、はい。ありがとうございます」
そう言ってマヌエラ先生は先程までの場所に戻っていった。今はハルスちゃん1人にかまっていられる状況では無いからだろう。
ハルスちゃんが寝ている隣で座っている私。苦しそうにしているため、何かしてあげたい。……そうだ。タオル、濡らしてこよう。
「ハルスちゃん、ちょっと待っててね」
寝ているため、この声は聞こえないだろうが一応言っておいた。
自分の部屋からタオルを持ち出す。水を求めて、水道へ行く。
なんで私は自分からハルスちゃんの看病を立候補したのだろう。いや、別に後悔している訳ではない。ただ、自分で自分がわからないのだ。聖廟内で戦いたくないから、進んでそれを受け入れた……のは少し違う気がした。頭があまり回らない。
じゃぶじゃぶと、水でタオルを揉む。手で感じるひんやりとした水の温度が、私の頭の熱も冷やしていく。
私は……恩を返したいのだろう。事情がどうであれ、私に話しかけてくれて、命までも助けてもらった。
恩を売るつもりでは無いが、私ができるささやかなお返しとして、私は引き受けた…のだろう。きっとそうだ。
「う…ん、うみゅぅ……お姉、ちゃ…」
熱にうかされるハルスちゃんに、冷たいタオルを頭に乗せる。いつの間にか目を開けている。その目線は私に向いているが、とてもボーっとしている様子だ。意識は朦朧としている様子だ。
「え、えーっと…大丈夫、すぐ良くなるよ」
この声が届いているかはわからないが、励ましの言葉を送る。
「……お姉、ちゃん」
そう呟いて、私の手を弱々しく握る。どうやら、私を先生と勘違いしているようだ。頭を優しく撫でてあげると、また寝てしまった。
かわいいなぁ。私に妹がいたらこんな感じなのだろうか。
そうだ。汗、拭いてあげなくちゃ。流石に体全体を拭くのは、起こしてしまいそうで申し訳無いので、起きてからにしよう。それまで、首筋とか、袖を捲って腕とかを拭くとしよう。
「んん…うん……すぅ……」
首筋に冷たいタオルを当てると、気持ちいいのだろうか。今までの苦しそうにな声では無かった。
「えっと、袖を捲ってっと。……え?」
この時私が見た物は、私の胸の内に閉まっておく。
水道なんてあるんかなぁ。この世界